63話 一新
明海三十九年 8月2日 高須賀海軍基地 湾港
およそ二週間前に出された異動の辞令。
『現第一〇三航空群、第三一五攻撃大隊、通称『瑞守隊』の者を航空母艦煙龍の配属とし、第一九三航空群及び第三〇一攻撃大隊を設立し、其の配属とする。尚、機体は全て星影への搭乗とする。発着機構に最新装備を用いるため、操縦手は先んじて艦の発着訓練を完了すること』
新型推進機構を搭載する攻撃機星影と偵察機暉雲を初めて空母の上で実用配備する。
新型推進機構である「燃焼推進器」、略称として「ネ式」、成語の論文から見られる同一機構について示されているとされている「(ターボ)ジェットエンジン」など、様々な呼び方で呼ばれているこの機構は既存の発動機とは異なるものだ。
既存のものでは出来なかった高出力化が可能となっているとのこと。
辞令に於いては発着艦の訓練を命令していたが、俺は応龍での試験で行っていたので大丈夫かと思っていた。
しかし、実際搭載される機構の訓練をすると、それなりに違う感じがしたので、辞令で訓練の命令もなされていた理由が分かった。
主に出力や速度、耐久の限界値など。
発艦の感触、着艦で注意する点まで異なるので、応龍に搭載されていた試験型とは明らかに違っていた。
応龍で試験した二つの射出機、油圧式と蒸気式があったが、煙龍に搭載されるのは油圧式。
蒸気式の射出機の発艦の手触りも憶えていたためか、煙龍の油圧式射出器の感覚に戸惑ってしまった。
さて、艦船の話についてはこれくらいにして、次は俺たちが乗る機体について。
攻撃機、「星影」。
燃焼噴射推進器、通称「ジェットエンジン」を搭載する機体。
以前よりHATIが実験を繰り返し、実用化に漕ぎつけた推進器で飛行するその速度は最高時速780kmを超える。
その武装は、固定武装として機首、20mm機銃と後方用機銃12.7mm機銃それぞれ1挺を有する。
選択可能な爆装として、50号爆弾か80号爆弾を1発、または20号爆弾か25号爆弾2発の搭載が可能となっている。
構造をほぼ同一のものとする偵察機「暉雲」が存在し、そちらも煙龍型空母に搭載される。
これにより万が一推進器の予備部品が足りないときには共用とすることも出来る。
50号爆弾や25号爆弾2発以上の重量物を搭載する場合、星影は燃料を満載で飛行できないため、それらを爆装して発艦する場合は燃料を少なくして飛び、空中給油後に作戦へ移る、といった感じの動きを想定しているらしい。
その為に浮蘭詩王国との共同開発で実用化させた技術、二重反転推進翼機構で高速飛行ができる空中給油機、「碧空」も配備された。
大型の攻撃機と偵察機、今まで配備されたことの無い機種が配備されたことで、海軍史上最大の空母であるにもかかわらず、搭載される機体の数が過去最多の搭載数だった栄龍型空母……以前搭乗していた応龍の搭載数に劣る。
最後は、艦隊や航空部隊の編成などについて。
俺たちは第一九三航空群、第三〇一攻撃大隊となった。
第三〇一攻撃大隊……つまり、空母煙龍の第一となる攻撃部隊だ。
攻撃機部隊と爆撃機部隊は部隊番号が三から始まるため、爆撃機含めた部隊の中で第一の部隊となる。
これはかなり珍しいことで、基本的に浜綴海軍では基地航空隊や空母所属部隊で三から始まる部隊は爆撃機部隊が殆どで、攻撃機部隊が一番を取るのはそもそも爆撃機が存在しない基地航空隊だけだ。
機動部隊所属の攻撃機部隊で一番を取ったのは恐らく俺たちが初めてとなっただろう。
航空部隊の編制はこれくらいにしておいて、再編された高須賀海軍基地所属艦隊について。
首都万京に最も近いこの艦隊は、海軍直轄艦隊であるところの航行艦隊の次に重要な艦隊である。
しかし、作戦機動性を求められる航行艦隊とは違い、防御を行うため砲火力と防御力を優先し、艦隊の足回りは航行艦隊よりも一足劣る。
航行艦隊は重巡洋艦より少し大きいくらいの速力のある戦艦が属しているが、高須賀海軍基地所属艦隊には足が少し遅いが高火力、重装甲の戦艦が配備されている。
そして空母もその足に合わせたような艦が配備されている。
航行艦隊に於いては最新式の中型空母、卷龍と清龍、揚陸艇搭載空母、玄武型航空母艦の二番艦、霊亀が。
高須賀海軍基地の艦隊には煙龍、銘龍が。
因みに煙龍型の二番艦沼龍は揚陸艇搭載空母索冥と共に緒穂湊に、卷竜型二番艦仙龍は群鶴に、玄武型一番艦は瀬保、索冥型二番艦角端は浦呉に配属されている。
航行艦隊はほぼ変わっていないが、高須賀海軍基地所属艦隊に入った分が他の基地に行くなどして、多少内容が変わったらしい。
今まで練習空母であった真龍と浜龍の内、艦橋が左側にある浜龍が退役し、真龍と共用部品であり真龍の耐久性が懸念される部品と交換され、解体されるらしい。
浜龍は真龍の後に建造、進水、就役した艦船だが、艦橋が左側にあるため、練習空母としては使いにくいことが挙げられ、この対応となったらしい。
俺たちが今まで乗っていた航空母艦応龍は練習空母となった。
就役初期から射出機の試験台となっていた空母で、戦闘艦として就役していた中では最も古い艦だったが、煙龍型が就役したことによって遂に艦種変更となって、練習空母兼実験空母というような扱いとなる。
正式には練習空母というだけだが、これからも射出機やその他新型航空機の艦載機としての試験場という扱いは続いていくだろう、という話だ。
文華民国の内戦や払綿土連邦と芬=駆路の戦争、未だ不穏な緊張感が下がりきらない団州や伊銀田との国際関係など、懸念されることはあるが、それらに応龍が積極的に加わることはないのだろう。
「はぁ……」
次に俺たちは、どのような面倒事に巻き込まれてしまうのだろうな。




