56話 内部事情
西暦1934年 2月15日 メラシア帝国 グルバヤ・ジミリア 某所 コロドコ設計局
「なんとか稼働……、タキシングくらいはできるようになったか」
「タキシングと言っても、プロペラが動いてそれで動くかどうか、というくらいですけどね。まあ、これで実験……機体の研究が捗りそうですね」
「そうだな。パッと見、こちらの戦闘機とそう変わらないな。強度を出す構造……組み立て方がやや違うな……」
「そもそもそこまで異なるんでしょうか?今やパーラメントの設計局にはなりましたが、コロドコ所長の師の設計局、ポポフ設計局もメラシア=浜綴戦争時に得た、不時着した敵戦闘機から飛躍したものを生み出したらしいですし、その系譜もこのコロドコ設計局に多少は受け継いでいると思いますが……」
「とはいえ、もう数十年も前の話だ。こちらも変われば、向こうも変わる。得られるものはあるはずだよ」
「それもそうですね」
「さてさて……」
そして、彼らの「研究」が始まる。
同月 30日 夕方 大浜綴帝國 高須賀海軍基地 庁舎
諜報を兼ねた北方への演習を終え早、数十日。
得た情報は早速上層部へ伝えられ、次なる演習には群鶴の艦隊が行くこととなった。
俺たちほど危うい諜報活動は流石に行われないだろう。
“アレ”は一歩間違えれば戦争が起こり得る。
取り敢えず俺たちは暫くここでゆったり訓練に励むことになるだろう。
新たな機構を携えた攻撃機の開発がなされているとも葵姉から聞いている。
はあ……。
本当に試験搭乗員として正規登用されているような状態だな……。
そちらの話ももう暫くするまでは関わることは無いかもしれない。
話によると、未だ理論を実証するための「モノ」の開発の最中らしい。
それも革新的な技術が盛り込まれているらしいため、その機構の開発がいつ終わるのかの予想もついていない状態らしい。
試製攻撃機どころか、実証試験機を飛ばしてからの話だ。
どんなに早くても半年以上。
どのような技術かも機密らしく、概要も分からないため俺も詳しくは分からないが、その状態で予想するのなら一年から二年が妥当か、行き詰ればそれ以上掛かってしまうこともあり得る。
兎にも角にも、それまで訓練ということに変わりはないだろう。
「っと、今日の訓練はここまでか……。疲れたなぁ……ふぁ~……、春眠暁を……」
「それは朝の話だろ?もう夕方だぞ」
訓練終わり、独り言を呟いていると、ザワが話しかけてきた。
「珍しいな、どうした?」
「どうしたって……前に話しただろ?」
「話したって……何を?」
「本当に忘れてるな……」
ザワは呆れたようにそう言った。
「北方の演習に行ってた時、女関係で云々って話をしただろ?鍛錬室とかで」
「うーん……?」
「お前なぁ……」
俯き、額に手を当てて溜め息を吐くザワ。
「最初に言っておくが、もう色々と手配しちまったから、取り消しは無しだぞ。お前は良くても、俺がそっちの関係に顔合わせできなくなるからな」
そう前置きされ、説明してきた。
話の内容があまりにもなものであったので要点だけ簡単に表すと、俺が女と会って慣れるためにザワが色々と手配した、ということらしい。
で、そのためにザワなりのツテを使って娼妓を呼んで来たとのこと。
断るのもそれはそれで安くないお金が掛かるらしく、俺にこの件の取り消しを無しと言ったのはそのためらしい。
はぁ……なんか今までとは別の方向から面倒なことに巻き込まれた気がする。
それに少なくない金が、と言っていたが、ザワ自身そこそこの階級だから収入から考えるとそこまで問題視するほどの額ではないとは思うが。
ま、金を掛けた挙句その上で取り消し費用を更に払わないといけないとなると、そこそこのお金が掛かってしまうのかも知れない。
こうなることになる前にしっかり言ってくれれば無理して俺が行くことにはならなかっただろうになぁ……。
休日が一日、意外な形でなくなってしまったが、これもまあ、一つ、人生の経験とでも思うことにしておこう。
「分かった、分かった。そういうことなら行くって。で、それはいつなんだよ」
「やっとか。それは―――」
斯くして、俺はその手の話に乗ることになったのであった。
「ん?んー?」
「どした?」
「いや……、んー?」
「だからどうしたんだよ」
何かこう……忘れてるというか、心に留まる何かがあるというか……。
「なんだっけ?」
「いや、俺に聞くなよ」
やはり何か感覚的に詰まるようなものを感じる。
だが、それが何かは自分でもよく分からなかったのであった。
同年 3月2日 首都万京 首相官邸
「首相、例の件は既に完了した、とのことです」
「“向こう側”の進捗は?」
「こちらのことを警戒しているきらいは未だ抜けませんね。それは仕方ない部分もあります。先の作戦で帝国残党を刺激し過ぎたことは否めません」
「それは、そうか」
「下からは、次はどうするかと訊かれておりますが」
「“あちら側”は暫く静観でいいだろう。これ以上刺激して、望まぬ方向にコトが進むのは流石に許容できん。下には下の、元の業務の方を進めるよう伝えておいてくれ」
「承知致しました」
「ああ、それと、なるべく次の革新技術について、どちらか片方だけでも早めに実用化するよう急がせてくれ。例の資金も場合によっては投入すると」
「はい。そう伝えておきます」




