55話 星鳥に舞う
西暦1934年 2月11日 メラシア帝国 シテアリン山脈トウドキヤニ山 北東側 某所
「ここで不審な航空機の姿……ですか……」
「いつもなら、気を張りすぎだとか、誤認だろうとか言っているところだが、先のあんなことがあったからな。流石にそういったことは言えないな……」
「それにしても、私たちがこんなことをしなくてもよかったんじゃないですか?」
「整備士や実験員、試験搭乗員なら別だろうが、俺たち研究員は全くと言っていいほど体を動かさないからな。たまにはいいんじゃないか?」
「そうですか……」
山岳装備に身を包まれた集団が山道を踏みしめる。
その中でもあまりこういったことに慣れていないような二人が混じっていた。
「私は聞いてないんですけど、なんで私たちがこの捜索隊に混ざってるんです?」
「あれ?言ってなかったか?」
「大分と急で、聞いてませんでしたよ。たとえ言われていたとしても」
「すまんすまん。頼まれたのは、その場でどういった航空機なのかの判別をして、尚且つ機体自体が安全か、モノによっては使えるかどうかを判断して持ち帰るよう準備の指示をして欲しい、とのことだ。再組立てできるように、細かい分解はせず、大まかな分解だけするように、とも言われている」
「それ、別に軍人だけでもよかったのでは……?」
「ま、警戒強化で出せる人員も限られているらしいからな。それに、新型機自体、今年の初めにロールアウトしたばかりだから、態々根を詰めて研究を突き詰めなくてもいいと判断したんだろうな」
そこで会話は途切れ、暫く歩き続けること更に数分。
「待て」
兵士の一人が合図を出し、集団の足が止まる。
「ここからは山道を離れる。道に残る残存部隊、中核部隊、先行調査部隊に別れ、行動する。先に決めていたように分離する。コロドコ設計局の職員方は中核部隊に同行してください」
「分かりました」
山道から外れ、草木をかき分け入っていく。
―――ッ……、―――ッ……。
暫く歩いていると、前の方から銃声が二発。
「先行調査部隊が見つけたか……。ここで、危険な毒物や爆発物などがないか分かるまで、周囲の警戒をしつつ全員待機だ」
部隊長の男の言葉に従い、何をするでもなく待機。
更に数分後、前方から草木をかき分ける音。
「一通りの確認が終わりました。問題はなさそうです」
「了解した、案内してくれ。中核部隊、出発するぞ」
先行調査部隊の男についていくと、そこには少し開けた平原があった。
「あれは……」
「ふむ……。保存状態が良いな」
研究員の男はまずその機体の保存状態に目を向けていた。
「不時着ではない……か」
「……これは確か……しかし、先に掴んでいた情報とは少し形状が異なりますね……。翼面に改造されているようなところが見えます……。うーん……、脚部もかな?」
「推測するに、事前に不整地ではあるがある程度開けた場所を見つけ出して、着陸する算段を立てていたんだろう。だからある程度荒れた地面でも着陸ができて短距離着陸ができるように改造されていた……と考えるのが妥当か。とすると……諜報員が入ってきた可能性も考えられるか?」
それぞれが一考に浸る。
「ふむ……。中を見ても?」
「大丈夫です。既に安全確認はしています。おい、風防を開けろ」
「ハッ!」
「機体足元は簡易的に固定していますが、この季節です。霜もあるでしょうし、もしかしかしたら油が漏洩しているかもしれませんので十分足元に注意してください。比較的高い翼面で滑ってこけてしまえばコトです」
「ああ、気を付ける」
翼に足を掛けてよじ登る男。
「おおっと」
気を付けて登り、先に登っていた兵士の手を掴んでいたが、軋む翼面が靴の接地面を滑らせてバランスを崩しかける。
「ふぅ……。何とか大丈夫だったな。さてさてこれは……」
男が風防の中を覗き込む。
「二人乗りか……。戦闘機か偵察機……いや、原型機は戦闘機だったが……。この構造なら荷物を載せたりするなら椅子は取り外すはず……。と、いうことは二人で来たのか?うーん……」
ドンッドンッ。
「……エンジンは中に入ったままか。壊したわけじゃない……。いや、既に破壊されていたり、時間が経つと壊れる仕掛けになったりしているかもしれないが……うーん。持ち帰ったら、多少は参考になるか?」
男は風防の前の部分を叩いて確かめて更に考える。
「特に中は不審な点は無いが……その点だけが逆に不審だな……」
「そっちはどうです?燃料タンクはほぼほぼ空で、外部の改造らしき箇所以外は変だと感じる箇所はありませんでしたが……」
もう一人が翼の上に立つ男に対して呼びかける。
「こっちも特に変な箇所はなかった。二人乗りの練習型戦闘機、若しくは偵察型戦闘機といったところだな」
「他に見るところは?」
「今は無いな。エンジンや内部の詳しい構造は持ち帰ってからだな」
「分かりました」
男は機体から降り、兵士に話し掛ける。
「完了です。出来たら回収したいのですが、この大きさは回収できますか?」
「この程度なら問題ない。分解するための工具も多く取り揃えている。持ち出せる重さ、大きさに分解するまで待っていてください」
「ええ」
暫くしてから、彼らはそれらを回収し、帰る支度を始めるのであった。




