43話 辣火
明海三十八年 9月4日 高砂島南東部側 太平洋
『敵戦闘機が涼風の防衛線を漏れ出した。爆撃部隊、哨戒部隊各機は持てる武装を用いて迎撃せよ。戦闘機部隊もなるべく駆り出せるようにするが、駆け付けるまでは持ち堪えろ』
生機中佐が鬼気迫る声で怒鳴る様に令を飛ばす。
そんなことは落ちた機体を見た者はよく分かっていることだが、前方しか見ていない者、落ちているところを見ていなかった者がいる可能性も十二分にあるためだ。
実際、そう言われて一部の機体の速度が上がった。
「……ッ!!!」
――――――ッ!!!!!!
所沢の方から息を吸う音が聞こえたと思ったとき、後方へ放たれる機銃の音。
この機体自体、集団の前方にあるが、敵機ももうこの機に照準で合わせられるくらい接近してしまっているということだ。
俺は後ろをずっと見ているわけではないので、どうなっているのかは詳しくは分からないが、この辺りまで敵機が侵入しているということは、もしかしたら友軍機が更に何機か落ちているかもしれない。
後ろの爆発音は、敵機のものか、友軍機のものなのか―――。
『敵戦闘機らが哨戒機に狙いを定めた。おかげで爆撃機は落ちなくなったが、最新鋭機が危ない。前にも言った通り、機体も操縦士もどちらも貴重だ。戦闘機部隊は急げ』
良い報せと悪い報せが合わせて来た。
それも、俺たち瑞守隊にとってはとても悪い報せだった。
先ほどまでの爆発音の中に友軍機が含まれていなかったのはいいことだが、それ以上にこの機体がIVGの連中に特異なモノであると気づかれているらしいことはかなり拙いことだ。
狙われることは勿論のこと、この機体を鹵獲、回収されてしまった場合、搭載されている磁気探知機を解析される可能性がある。
最新鋭の機材……それも概要すら諸外国に公開されていない技術を鹵獲されることは何としても避けなければならない。
勿論俺たち自身、まだ死にたくはないしな。
――――――。
周りからも、複数の銃撃の音が聞こえてくる。
瑞守の他の機体からか、それとも爆撃機からの音なのか。
兎に角、この作戦機群前方の空域に、戦火が降り注いでいるという事実は変わらない。
対潜作戦群は敵戦闘機によって酷い戦火に包まれた。
『俺の隊の機がまた一機墜ちた!』
『俺の隊からもだ!クソがッ!』
無線から聞こえてくる、無念の報と多少の罵声。
まるで戦争でも起きているかのような戦場に、思わず眩暈を感じた。
同空域 イギンダ連邦義勇軍
「連中、戦闘機以外も撃ってきやがったか……。面倒な……」
『ルークとマーヴィンの機が墜ちた!これ以上は流石に厳しいぞ!』
『大隊長!撤退命令を!』
戦闘機大隊の士気は最低のものとなっていた。
……これ以上、戦っても意味はないだろう。
もうすぐ彼らも領海、領空内に戻っていくことになる。
危ない線を越えて不用意な戦争を、それもこちらから仕掛けることとなると後が面倒だ。
「了解した。戦闘機大隊全機、帰投せよ」
『『『サー、イエッサー』』』
爆撃機などからの砲火を搔い潜り、時にその火の粉を振り払って落とすも、その砲火が衰えてくれるような感覚はなかった。
俺が諦めるのをためらわなかったのは、そういったことが主となっていた。
「デブリーフィングでは、根本的な問題を解決しないとな……」
その後に、この戦いに入って最も大きな溜息を吐いたのであった。
夕方 高南飛行場 庁舎 会議室
「戦闘機が数機、墜とされてしまったか……」
基地司令は親指で眉間を抑えるようにして、考えに唸った。
戦争時の事後報告と同等か、それ以上の緊張感がこの会議室を支配していた。
正規の戦争でこそ物量に負けて落とされることはあったが、世界大戦時の派兵作戦に於ける遭遇戦などでは墜落は確認されたことはないほどだ。
だから今回のことはとてつもないほど重要視されるほどの問題として取り上げられていた。
「戦闘機乗りに限らず、搭乗者の救出はどうなっている?」
「三名救出、全員軽傷でした。また、六名分の遺体が確認されています」
「そうか……。作戦全機と被撃墜機の確認は出来ているか?墜落後の生死不明者の確認も行っておきたい」
「それらについては現在、確認中です。作戦機自体、そこまで多くはなかったので、数えきれないということはないかと」
深刻な事態ではあるが、未だ士官らは冷静さを欠いているわけではなかった。
某所 イギンダ連邦義勇軍基地
「しかし、どうでしょう?」
「どう、とは?」
「彼我の差は大きい。これ以上の戦闘行為の介入は予期しない開戦が起こり得る可能性があります」
「一応、主体はマルシアだ。マルシアがヒンテイと開戦する可能性はあるが、我が国の可能性はかなり低い」
「私たちの航空部隊は既にヒンテイの海軍航空隊と交戦していますし、マルシアには喪失した分の潜水艦も輸出しています。マルシアははっきり言って弱いです。ヒンテイがマルシアに勝った後、IVGで積極的に参加していた我々も、無関係ではいられないでしょう」
「しかして、やはり主体で戦っているのはマルシアであることには変わりないし、潜水艦の輸出で言えば、セイアンやバンダー……いや、今は確かヴェアファッサング……だったか?も、輸出しているしな」
「セイアンやバンダーの後釜はヒンテイから遠い、しかし我々は、太平洋を一つ隔てているのみで、その中央には友好国のアラカイ王国があります。開戦自体は考えられます」
「なるほど……な。まぁ、そのことも懸念事案として、報告しておくか。詳しいことは本部や政治家、ロビー屋が考えることだ」




