41話 追う者、追われる者
明海三十八年 9月3日 高砂島南東部側 太平洋
「海中に目標、探知」
戦闘機部隊がIVGの部隊と交戦しているその最中、隣席で葵が目標を探知した。
「こちら瑞守隊隊長機。凛海へ、目標探知」
『凛海、了解した。目標の位置を予測する。もう少し持ち堪えろ』
「瑞守隊、了解」
こうして、敵戦闘機がいる中で探知を行うという緊張感に塗れた作戦は終始続いた。
『次に指定する地点に最短時間で到達できる爆撃部隊が爆撃を行え』
そして、爆撃。
『敵戦闘機部隊、撤退していきます』
『了解した。戦闘機部隊全機、戦闘中止。弾と燃料の消費を抑えろ。但し、警戒態勢は維持』
『『『了解』』』
「こちら瑞守隊、凛海へ。指定された領域から探知目標消失しました」
『了解。……作戦全機へ、目標消失及び、敵戦闘機部隊全機の撤退より、目標の撃破と認める。また、目標探知及び航空戦の発生により燃料弾薬の残量を考慮し、本日の作戦を終了とする。作戦全機、帰投せよ。第二波や折り返し機に注意し、後方の確認、警戒を怠るな。以上』
敵潜水艦の撃破が凛海によって認められ、帰投することとなった。
夕方 高南飛行場 庁舎 会議室
「本日の作戦の事後報告会を開始する」
作戦の事後報告会自体は以前からも行われていた。
しかし今日のそれは少しだけ緊張感が増しているものだった。
俺たち哨戒機部隊である瑞守隊、琴海隊を筆頭とする護衛の戦闘機部隊ら、司令偵察機一機でのみ構成される凛海隊、そして基地司令部の人間が集められていた。
いつもは隊長格の人間と基地の人間だけ集められていたが、今日はかなりの数が集まってきている。
逆に、爆撃機部隊の人間は大隊長一人だけであった。
「本日の対潜哨戒航行に於いて、敵戦闘機……、それもIVG、Igindese Volunteer Groupの戦闘機を確認しました。これはマルシアの正規軍単体でも、イギンダ連邦軍単体でもなく、恐らくマルシアがイギンダ連邦に掛け合って共同体制を築き上げてこの非公式戦線を構築しているという可能性を高く強めていると考えられます」
まずは現状を現場指揮官である生機中佐が話し出した。
以前から指摘されていた想定と可能性、それも、比較的悲観的な予想の方に近いという状況を伝えられ、基地司令部の人間は顔を顰めていた。
報告が終わり、基地司令と副指令がコソコソと話している。
耳を傾けてみると……。
「しかし司令、その判断は上に持ち帰った方が……」
「そうしている時間があるのか?現場の状況は今も刻々と変わっている。連絡を出すことには勿論反対はしないが、上に判断を仰ぐと後手の後手に回るのは目に見えているぞ」
どうやら、この作戦の状況判断をどうするのかについて軽く話していたらしい。
“上”というのが軍上層部というだけなら兎も角、政治関連の話になるとまたしても複雑な戦略に巻き込まれることになる。
いや、既に巻き込まれてはいたか。
しかし状況から鑑みて、前者である可能性は低い。
軍上層部での判断ということなら、高砂総督府の人間にでも聞けばいい。
電話線は繋がっているはずだし、連絡機を飛ばすにしても片道は半日も掛からない距離だ。
ということは、副指令が仰ぎたがっている“上”とは、恐らく政治的な決定権を持つ者のことなのだろう。
嗚呼、嫌なことにまで気が付いてしまう。
「ということは……つまり?」
「上層部への連絡自体は行う。しかし、動くのは現場判断を優先する。待っていても埒が明かないだろうからな」
「……分かりました」
既にこの新型機の実戦投入自体政治部内の複雑な駆け引きの末に出た話だ。
そこから更に複雑な問題まで巻き込まれて敵の後手の後手に回るなど、こちらとしてもなるべく避けたい事態だ。
そう意味では、司令のこの判断は吝かでない限りだ。
その後、他の部隊長らの話なども交え、今後の動きについて話し合った。
牽制として高砂の太平洋側の海軍基地の航空部隊はIVGに対して戦闘機による航空警戒態勢を敷くこととなった。
また、哨戒機部隊についても初期量産が決定され、試験機操縦が可能と判断がなされた操縦士と技術者が集められ、他の海域へ今構築されている部隊構成と似たような部隊が投入されるらしい。
9月4日 高砂島南東部側 太平洋
そうして翌日。
流石に哨戒機部隊の投入はあと一、二か月後くらいになるとは思うが、それ以外については既に部隊は召集され、戦線を構築されている。
主な被害を受けているのは民間船舶とはいえ、敵の正体は潜水艦とほぼ確定してしまったが故に、海軍は血眼になって敵の殲滅を目指すのだろう。
海軍上層部は未だ世界大戦に於ける極東戦線で起こった空母栄龍の喪失を根に持っているらしく、敵が潜水艦であるならば上層部はそれらを殲滅することに執着するのであろう。
空母栄龍は当時の最新鋭空母の一つ。
それを失ったのだから、それを目の当たりにした当時の軍人はそれを忘れず対策を講じていたのだろう。
哨戒機海邦の計画も元を辿れば動機はそれになっていそうだ。
「兎も角、俺らは敵を見つけ出すだけだ」
昨日の今日ではあるが、敵戦闘機を迎撃したことによって敵が前線の戦闘機を増やし、俺たちが明確に追われる側になってしまうというのは、高い可能性を有しているに違いないのだから。




