40話 Volunteer
明海三十八年 9月3日 高砂島南東部側 太平洋 上空
昨日の作戦は最終的に成功したのか、それとも失敗したのか、ただ分からないまま任務をこなしていく。
「この海域にもいないか」
「そう簡単に見つけさせてはくれないだろうさ」
俺の独り言に、重野が返した。
『次の海域を探知する。領海から結構離れた場所となる。出てくる可能性も徐々に上がっていくだろう。気を抜くなよ』
いつも通り、低空をゆっくりと進み、海の中をじっくりと探知していく。
そうして、更に大洋へと翼を広げた。
その海の上で待っていたのは、いつもとは違う光景だった。
『こちら琴海、不明機を多数視認、こちらに向かっている』
『無線で話し掛けて伝えろ。ここは軍事演習中であると』
『了解』
暫くして、再び琴海隊からの無線。
しかしそれは先ほどとは違い、ひっ迫した感情が込められていた。
『こちら琴海!アレらは戦闘機だ!撃って来やがった!指示を!』
『琴海隊、そのまま応戦せよ。他戦闘機部隊も戦闘に向かえる機は向かわせろ。爆撃機部隊は各部隊、後方で待機。哨戒機は指定する海域の上で探知を行え』
「こちら瑞守。凛海、敵が現れた以上、早急に撤退するべきでは?」
『戦闘機と不意に遭遇したということは、そもそも戦闘機が守っている何かがいるはずだ。だが爆撃機や攻撃機、水上艦艇も目の前にはいないとなると、その対象は水面下にいる可能性が高いということだ。被害を最小限に抑えて撃沈するために、作戦自体は早急に終わらせる。その為にも協力してほしい』
「……了解した。探知領域の座標を」
生機中佐は話にのせるのが上手いな、と感心する。
探知する意図が明確ならば、即座に探知を行うべきなんだろうと、気持ちを切り替えた。
「相坂大尉、少し速度が速いです。もう少し速度を下げないと精度に異常が発生する可能性があります」
自分自身としては少しの速度上昇のつもりだったが、磁気探知機の精度に影響が出てしまうほど速度を上げすぎていたらしく、葵姉から窘められてしまった。
切り替えた気持ちを更に引き締めて、機体の速度を落とした。
「撃ち漏らしがこちらまで来るかもしれない。ザワ、しっかり頼むぞ」
「その呼び方まだ続けんのかよ……。応、戦闘機の話聞いてから、ちゃんと気を引き締めてるって」
「そうかよ」
機内の空気を引き締め、更に無線にも耳を傾ける。
『戦闘機部隊各機、敵機の所属は明らかか?』
『こちら琴海、敵機の所属が尾翼の紋章で分かった。敵機の所属はIVGだ』
その言葉に、空にある全ての浜綴の機が緊張感を生み出した。
IVG、それは……。
『了解した。凛海より作戦全機、現在の敵機はイギンダ連邦の非正規軍だ』
そう、イギンダ連邦の軍の一つだ。
正式名称はIgindese Volunteer Group、という。
漢字で書かれる場合は銀国義勇兵だとか、銀国義勇軍などと称される。
銀国の連邦軍と言えば、世界大戦までは飛行機同盟の中でも比較的遅れた技術の国家であった。
とはいっても、浜綴と比べれば皆おなじようなものだったのだが。
それが大戦によって国債を発行し、その金でボロ儲け。
その金で他の産業や兵器は勿論、飛行機にも資金は投じられ、飛行機の技術も量も文華民国の空軍を越えるまでになった。
各国の航空戦力を語る際は近年、大浜綴帝國、文華民国、銀国連邦を連ねて挙げられる。
因みに、大成帝国はそれに次いで4番目ほどの国家として、払綿土連邦は5番目として考えられている。
『琴海より凛海。ただの非正規軍として考えない方が良いと思われる。少なくとも最後に確認したときの銀国の最新鋭機でお出でだ』
嗚呼、ここにきて最悪の報告だった。
『機種はP-39、エアラパイソンで合っているか?』
『ああ』
生機中佐が愛称も合わせて確認を取り、最悪の報告が空耳ではないと確定してしまった。
P-39、エアラパイソン。
銀国の最新鋭機でもあるが、武器貸与(Lend-Lease)を目的としても作られている機体。
銀国陸軍航空軍への納入の他、払綿土連邦や大成帝国に貸与を予定しているが、大成帝国の方は一部受け取り拒否され、銀国陸軍航空軍がやむなく受け取ったものについては新たにP-400という型番を与えられているという機体だ。
貸与を目的としている分、ある程度性能を抑えた機体となっているはずだが、IVG……義勇兵で尚且つ、恐らくほぼ正規部隊をそのまま持ってきているものであるとなると……。
今稼働できるP-39/P-400の中で最も性能の高い機体を帝國海軍の涼風部隊が相手取っているということになるだろう。
『凛海へ、一機逃した!敵機は哨戒機部隊へ向かっている!追います!』
『こちら凛海。いや、大丈夫だ。こちらの直掩を回す。前線の機体を相手し続けろ』
『クッ……了解!』
追いかけようとしていた戦闘機を制止し、こちらの哨戒機の直掩を向かわせる生機中佐。
本当に大丈夫なのだろうかと思うが、直掩の戦闘機が無駄のない動きで撃ち墜とした。
驚異の生産能力と開発能力でここまでに上り詰めて来た銀国の戦闘機とは言え、先行して研究開発、生産体制の構築を行ってきた浜綴にまだ優位性がある。
ほぼ一つの大陸を国家に治める銀国の産業体制には全く呆れるほどのものだったが、未だ技術として優位性の維持している間にどうにか敵にならない立ち回りと言うものを政府にはして欲しいものだと、落ちる敵機を見て切に願うばかりだった。




