37話 Reversal Side
明海三十八年 8月28日 高砂島南東部側 太平洋 上空
初弾、水平爆撃を敵潜水艦に対して行い、撃沈を図った。
だが、手応えはなかった。
「外した、か……」
これでこちらが敵意を持って狙っているということがバレただろう。
さて、どうするか……。
「瑞守隊より琴海隊へ。周りに敵性航空機はいるか?」
『こちら琴海隊。そのような航空機は今のところ見られない。どうした?』
「南側の対潜警戒を頼めますか?」
『いいが……俺たちにできることは少ないぞ?』
「構いません。水中に変な影を見つけたら報告して下さい」
『承知した』
「芙蓉、俺たちは東側の対潜哨戒を行うぞ」
『了解。俺は隊長の北側の海域を調べる』
海面を探知しながら、撃ってきた潜水艦の位置を予測する。
『爆弾投下』
その位置に、芙蓉機が爆弾を投下した。
「手応えはどうだ?」
『外した。済まない』
「いやいい。謝るより先に見つけて沈める方が先だ」
芙蓉が爆弾を投下した後、琴海隊の一人から報告が入る。
『雷跡視認!第七柑子丸へ真っ直ぐ近づく!』
「クッソ……。それはどこだ!第七柑子丸へ周波数を合わせ伝えろ!」
その情報が即座に伝えられ、第七柑子丸は回避行動を再びとる。
先ほどの状況から、警戒航行を行い、船体を左右に振り乱して航行していたのがかえって災いし、舵が間に合わない。
そして――――――。
『爆破閃光視認!被雷した模様!船速の低下がみられる!』
無線から無念の報が届く。
「クッ……。なら、嚮導していた方はもういいか……。幟、服部、聞こえるか?」
『大丈夫です』
『聞こえます』
「これより、瑞守全機は第七柑子丸へ魚雷攻撃を行った潜水艦の索敵、撃沈を行う。第七柑子丸への嚮導は、同船舶が航行不能であると判断し、その任務を中止とする」
『『了解』』
せめて一矢報いることができるかと思い、対潜爆撃を続けた。
『最後の爆弾、予想位置に投下完了しました』
『燃料がそろそろ心もとないです』
「了解した。瑞守隊帰投する。琴海隊も帰投してください」
結局、最後まで手応えはなく。
琴海隊が高砂島に駐留している海軍艦艇を何隻か呼び出したため、海に投げ出された第七柑子丸の乗員の多くは救助された。
しかし爆発に巻き込まれた者や、沈没する船から逃げ遅れた者もおり、全員の救出はできなかった。
事後報告で反省点も洗い出そうとするも、明確な答えは見つからなかった。
太平洋 洋上 潜水母艦パラキート
「トーマス少佐、到着がいつもより早くないですか?」
「問題が発生した。それも作戦の変更を考えるほどの」
「了解しました。空いている部屋を用意します」
「よろしく頼む」
用意されたと連絡を受けてから甲板から早足で指定された空き部屋へと向かう。
「それで、問題とは?」
部屋に入るなり、作戦司令がそう質問してきた。
「はい。作戦行動中に、航空機より爆撃を受けました」
そして、単刀直入に本題へと入った。
魚雷発射後すぐに目標船舶に魚雷を発見され、回避されたことやその周辺に航空機が多数、飛行していたこと、海域に異様に中型船舶が少なかったこと、そして爆撃を何度か受け、なんとか逃げて来たということを一通り説明した。
「そうか……」
作戦司令は目を伏せ、考え込む。
「どうしますか?」
「暫く考えることにする。何、明日までには決定する。それまで補給を行い、また潜水艦員もゆっくりしていってくれ。ただの潜水母艦で、そこまで広くも無ければ、なんでもある訳でもないがな」
「ご配慮、ありがとうございます」
「気にするな」
そうして、MF-2に与えられていた任務、いや、パラキートを中核とする特務部隊全艦隊の作戦が1日分延期されることとなったようだった。
翌日 太平洋 F級潜水艦MF-2
水しぶきが跳ねている。
潜水艦は潜航せず、水面を進んでいる。
出航した俺たちは、南へと向かっていた。
作戦司令が出した結論とは、戦力の増強だった。
それは艦艇数の増強も多少あるが、主に増やすのは航空機戦力だ。
敵が潜水艦を攻撃していることは明らかであったため、戦闘機による洋上護衛を行う予定らしい。
勿論、俺は疑問を口にした。
艦船にしてもそうだが、特に航空機の戦力差は大きい。
ヒンテイは航空機戦力に長けており、それに対して俺たちマルシアはセイアンの“おさがり”の航空機を扱っているだけだ。
セイアンで旧型となった機体を輸送艦で乱雑に届けられ、潮風をたっぷりと浴びた機体には多少なりとも錆びがあるものばかりで、錆びの少ない機体を扱えるのは軍の中でも一部のエリートパイロットのみだ。
マルシアで製造される機体も存在するが、工業力自体はセイアンに一歩、二歩劣るため、製造しているのはいつもセイアンが退役間近の機体に限られる。
そして生まれる彼我の差は、凄まじく大きい。
相手は極東、列強の末席の国家であるが、セイアン帝国を成す一国家であるマルシア単体よりかは物量を生み出せるのが現状。
質でも量でも勝る相手をするのには、いくらマルシアでも分が悪い。
そのことを指摘してみたが、作戦司令は
「気にすることはない。それも織り込み済みで増援を頼んである」
とのこと。
不安はあるが、暫く前線から下がることのできる俺は、あまり心に負担を掛けないよう、作戦司令の通り、気にしないことにした。
俺たちの後任は、増援が来るまでは大変そうだな。




