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暁の水平線  作者: NBCG
本編
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36話 遭遇戦

西暦1933年(明海三十八年) 8月28日 マルシア共和連邦海軍 F級潜水艦MF-2


俺の名はトーマス・ベネット、階級は少佐。


今、与えられている任務は単純だ。


秘密裡に大浜綴帝國の民間商船を破壊し、通商を減衰させることだ。


俺には政治のことはよく分からないが、東イシアの国際政治上のパワーバランスがヒンテイの重さを増すことは、我が国にとって都合が悪いらしい。


黄禍論もあることから、ただ単純な脅威というだけでなく、その理由付けに政治を絡めているという話もある。


まあ、何にせよ俺のすることは簡単だ。


俺たちの乗る潜水艦は比較的旧型で、搭載されている魚雷も旧式で射程も長くはなく遅いが、大型の民間商船を襲うには十分な性能だった。


機動性のいい軍用艦に対して魚雷を発射するのなら兎も角、丸腰の大型民間船。


固定標的よりは難しいが、それ以外の射撃演習に比べれば、簡単もいいところ。


向こうは基本的に対潜警戒装備などを装備していないし、稀にあっても座礁しないために搭載されている、低精度の音響観測装置くらいだ。


そんなもので俺たちを見つけられることはないので、正しく圧倒的なワンサイドゲームだ。


今日もその民間船を見つけたので、そのワンサイドゲームが始まろうとしていたのだが……。


「妙だな」


「艦長……?」


「周りに船が少なすぎる。中型の船舶が異様なほどに少ない。それに……潜望鏡で確認したか?」


「いえ、私はまだ……」


「変な行動を取っている航空機がいる。遊覧飛行にしては編隊飛行が異様に綺麗だ。全員元軍人というのなら、分からんでもないのだが」


「飛行機乗りは軍人あがりが多いでしょうし、そこまで不思議なことではないのではないでしょうか……?」


「それもそうだが……」


実戦と言う実戦は今回の任務が初めてだが、どうにも軍人の勘と言うかなんと言うか、嫌な予感がする。


しかし潜望鏡から見える目標は、もうそろそろ魚雷を撃たないと間に合わなくなるかもしれない。


態々こんなおいしい状況を逃す訳には行かない。


「気にはなるが……。発射管には装填済みだな?うむ、撃て」


「ファイア!」


機動力のある軍用艦なら2発以上発射するのがセオリーだが、相手は足も舵も遅い民間商船。


魚雷も高価であるため、この1発に賭ける。


相手が足の遅い商船であるため、例え1発目を外したとしても次のもう1発で当てることは可能であるためだ。


そして最初の1発目が、のんびりと航行しているヒンテイの民間商船へと向かった。


軍の戦闘艦が丸腰の民間船に対して攻撃を仕掛けるのはやや気が引けるが、これも任務であり、仕方のないことだ。


俺自身、そこまで黄色人種に対する同情など、する方でもないしな。


心の中でそんなことを考えていると、観測員からの報告が来た。


「魚雷、外しました」


その報告に、先ほどまで感じていた自らの中の嫌な予感が更に高まっていくのが解った。


今まででも、魚雷を外したことなどあったし、あまつさえ2発外すこともあった。


だが、今、外すのはそういうこととは違う明確な理由があった。


「相対位置、速度を間違えたか?」


サブマリナーは動揺しない。


それは俺のような艦長は勿論、手先となる水兵らまで同じことだ。


至って冷静に、観測員に尋ねた。


「いえ、目標船舶が魚雷を認知し、回避行動を取ったものと見られます。あの位置で急な旋回を行うのは、それ以外には考えられません」


その言葉を受け、頭では冷静でいられるが、本能が逃げたいと叫んでいる。


「魚雷の装填と発射管への注水急げ。攻撃を察知されたと認識し、もう1発を発射後、即座にこの海域を離脱、潜水母艦パラキートとの合流地点へと向かう」


「ラジャー」


「発射管注水作業、もうすぐ終わります」


「早いな」


「あの船が旋回を始めたのを聞いて、既に始めていました」


「そうか、いいぞ。発射準備を済ませ、相対位置、相対速度計算を行い発射管開放後、速やかに攻撃せよ」


「注水作業完了、魚雷発射管開放!」


「発射!」


「ファイア!」


魚雷は発射された。


「より深くに潜航し、直ちにこの海域から離脱する!」


嫌な予感という、なんとも抽象的で直感的だが、これはこの戦場の状況からの判断もあるため、その判断に従い、この海域を離脱し始めようとし、宣言したそのときだった。



――――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!



艦体に鞭打つ爆音。


突然の爆音に失神しそうになるが、どうにか意識を振り戻し、耐えることができた。


「こういうときだけ嫌な予感が当たるものだな。爆雷か?」


「おそらく」


「敵軍用艦が近くに?」


「いえ、潜望鏡からは爆雷投下可能な艦艇は見られません」


「となると……まさか航空機が?」


「その可能性が最も高いかと」


「飛んでいたあれらが……クソッ」


「艦長?」


「いや……すまない。何でもない」


思わず感情的になってしまう。


初弾が最も近かっただけで、その後は遠い位置での爆発が確認され、敵の爆弾が命中することなく海域を離脱し、潜水母艦パラキートとの合流に成功した。

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