34話 秘匿演習
明海三十八年 8月21日 高砂島 高南飛行場 近辺上空
高南飛行場は去年から民間飛行場として開かれている飛行場だ。
しかしながら定期便の運用本数は一向に増えなかったため、海軍が一時的に徴用し、軍用飛行場としても運用している。
現在は当該演習のため、通常の民間機の定期便は停止し、軍の輸送機や連絡機が代用されて飛んでいる。
飛び始めて二週間弱、始まって早々長距離飛ぶことになった。
そして新型機としてあまり知られないように、海上を低空飛行して巡航した。
「ふぁ~~~……」
疲労からか、欠伸も出る。
まあ、こんな退屈な航行ももうすぐ終わり、てんやわんやの“実戦を想定した演習”が始まってしまう。
「大丈夫……ですか?」
横に座る葵が尋ねてくる。
試作哨戒機海邦は四人乗り航空機であり、操縦席の横には探知員席が存在し、副操縦士・連絡・航空士席は操縦席の後方に存在する。
爆弾投下員予備席および銃座は更に少し後方に位置している。
そのため今、俺の横には葵が座っている。
「ああ、問題ない。そろそろ着陸する。全員、衝撃に用意しろ」
「「「了解」」」
「瑞守隊、高南飛行場管制の指示に従い、着陸せよ」
そうして、着陸に対して再び気を引き締めるのであった。
高南飛行場 海軍庁舎 会議室
以前の試験で行われていた新松市は高砂海峡側の北部であるのに対し、ここ高南市は高砂海峡側の南部に位置している。
より赤道に近いため、暑さもひとしおだ。
そこで覚えのある顔を見た。
「あなたは確か……」
「ん?君は……」
「「誰でしたっけ?」」
そこまで互いに詳細には知っていないようだ。
「私は、今回の試験で試製哨戒機海邦に搭乗する、第一〇三航空群、第三一五攻撃大隊の、瑞守隊隊長、相坂慎宕です。階級は中尉です」
「ああ……あの瑞守の……。失礼、私は第一〇二航空群、第二一七戦闘中隊、琴海隊隊長、佐藤喜一郎だ。階級は大尉だ。今回琴海隊は君たち新型哨戒機の護衛……の演習をさせてもらう」
大尉もこの“実戦を想定した演習”の仄暗い政治的な裏側についてある程度知っているのだろう。
「ところでその……『あの瑞守の』の、『あの』とはいったい……?」
どうせ大尉に政治的な裏の話を聞いても核心に触れた話はないだろうし、聞けたところで碌なことにはならなそうなので、話の中で気になったことを訊いた。
「ん?ああそれはただ攻撃機の中で特筆すべき戦果を挙げた部隊だと皆の記憶に残っていた部隊だったからな。被撃墜無しの攻撃機部隊の中で最も多い戦果と、陸軍からの特殊な航空機に試験飛行……、それも実戦投入も兼ねたものに入れられて、全員五体満足で帰ってきた。そりゃ噂にもなる」
考えても見れば、それもそうか。
陸軍の方に試製航空機の試験のために出向すれば、噂にならない方が可笑しいな。
そうしていると、部屋に男が入ってきた。
「失礼する。諸君、よく来てくれた」
入ってきたのは、ここの基地司令を務めている男だった。
「今回の演習は基本的に秘匿性の高いものであると、事前に説明を受けていると思うが、改めて確認しておくと、新型……それも特異な新用途機体の訓練であるため、ここで演習することになった。期間としては二か月間を想定しているが、この演習の成果を見て上層部が判断を下し、演習期間が延長されるかもしれないということを考えておいて欲しい」
「……そういうことになったか」
佐藤大尉は聞こえるかどうかの声量で、静かに呟いた。
想像していた通り、この人もこの演習に何かが隠されているということを理解していたことが、改めて確信となった。
基地司令からの説明は続き、演習内容についてへと移った。
内容は武戸目所長が言っていたものとほぼ同じであったのでそこは割愛するが、新たに説明されたところをかいつまんで挙げてみると、自分たちが演習する航路の説明と、この演習には無人潜水艇が未だ高価であることと、“より実戦を想定している”ため少なく配置されているらしい。
……嗚呼、なんの猿芝居だろうか。
小学校の劇でさえ、ここまで杜撰な台本は用意されないだろう。
「詳細は以上だ。早速だが、燃料弾薬の補給が済み次第離陸し、演習を開始してもらう。ここで質問が無ければ、次の質問は事後報告時になる。補給が終わる前に何かあれば伝えてくれ」
ここまで無理に急いだ演習があってたまるか。
「「「了解しました」」」
心中、思いながらも口の上では了承しておく。
そして数十分後。
『こちら高南基地管制、琴海隊全機離陸確認。瑞守隊の内、既に滑走路に入っているものは発進し、離陸せよ。そうではない者は滑走路が空き次第、滑走路に進入せよ』
その言葉を受け、機関の出力を上げ、空へ昇る。
『こちら琴海、瑞守隊機を全機確認した。瑞守へ、俺たちが見えるか?』
「ああ、問題ない。海岸線を越えた先が第一参照点だったな?」
『そうだ。そこから探知爆撃演習が開始だ。現在その海域は通常の潜水艦に対して海上封鎖している。躊躇いなく存分に爆撃せよ』
「了解」
『不測の事態に備え、我々琴海隊は先行している。離れすぎた場合はすぐに伝えてくれ。互いに見失う前にな』
島の山を抜け、海岸線は遠くに望んできた。
今回は、早めに帰ることが出来ればいいな。




