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暁の水平線  作者: NBCG
本編
37/97

33話 その意図は

明海三十八年 8月7日 大浜綴帝国 首都万京


「ふぅ……」


男は書面に目を通し、項垂れて溜め息を吐いた。


「失礼します。……総理?」


部屋に入って来た、秘書を務める男が尋ねた。


「ああ、済まない……。これを見てくれ」


「これは……」


「中長距離輸送船の沈没事故件数と、行方不明件数だ」


「高砂事変後、明らかに増えていますね」


「それも、航路が東南イシアからマルシアまでのどこかを通る船が殆ど、だ」


「考えられるのは民国というのも考えられますが……マルシア、ですか」


「その可能性は高いな。勿論、他の国家の可能性も十二分にあるが」


「事変後、哨戒活動を行う海軍艦艇でこれ以上出せる艦は無いですからね……。以前より検討がなされている、海上警備のみを行う国境警備隊の活動を海上に移した準軍事組織の組織はまだ時間が掛かりそうですし……」


「この海賊行為を行う国家は、我が国が先の事変で多少の国力が上がり、大陸東部域の国力の均衡が崩れるのを防ぎたいという目先の目的は分かるが、その先は未だ分からん。なぜこういった表にし辛い方法で行っているのか、これで我が国がどう動くことを想定しているのか」


「沈没の理由と言うのは、分かっているのですか?」


「半数は分かっていないが、分かっている内の七割が機雷によるもの。残る三割は魚雷だ」


「魚雷、ですか……」


「それも潜水艦発射式だ」


「そんなことまで……。って、潜水艦ですか?」


「どうかしたか?」


「いえ……。総理、ご覧いただきたい資料が」


「唐突だな」


「相手が潜水艦を用いるのなら、『彼ら』の新たな開発は、役に立つかもしれません」


「ふむ……」


男は手渡された資料に目を通す。


「なるほど」


「如何です?」


「実験にはもってこいの状況ではあるが……非正規戦が想定されてしまうな、このままだと。かの事変以降、軍関係者に非正規戦闘の関係で信頼を落としているからなぁ……」


「それは……そう、ですね。しかしながら総理、現在この新型機の試験を担当している者たちは、例の事変に於いて非正規戦闘時に於いて優秀な戦果を挙げ、そういった環境には適していると存じます」


「……分かった、詳細を考えてみよう」


「他には?」


「以前話に上がっていた、懲罰対象になっていた部隊を護衛につけて、“演習”をさせよう」


「“演習”、ですね?」


「ああ、“演習”だ」


「……承知いたしました」


そうして秘書の男は少し急ぐようにして、その部屋を立ち去るのであった。


8月19日 浜綴航空技術研究所 附属飛行場


「はぁっ!?今から高砂に飛べ!?」


悲鳴にも似た驚疑の声が空に響く。


「いやぁ……済まないね。上からの命令からには逆らえなくてね」


武戸目所長は頭をポリポリと掻きながら苦笑した。


「上からって……」


武戸目所長は浜綴航空技術研究所の所長であり、その上ともなると政府関係者だったはず。


「……触れてはならない話題ですか?」


「まぁ……うん。一応名目としては、演習だね」


「……演習?」


上からの命令……触れてはならない話題……名目で演習……。


明らかに面倒事だ……。


「これって、最初から決まっていたんですか?」


「決まっていたなら、こんな急に話をしないよ」


所長は肩を竦めながら言う。


「その演習って、どんな内容なんですか?」


取り敢えず内容を聞いてみよう。


「限られた海域で、標的となっている無人駆動潜水艇に対する爆撃……ってところかな」


「その爆撃って……」


「勿論、実弾頭有りで、模擬弾ではないよ」


やはりか。


「この演習は実戦を想定して、護衛の戦闘機部隊を付けるらしい」


「はぁ……」


“実戦を想定して”、ねぇ……。


上の人間とやらは、「実戦」と「実戦を想定した演習」の違いを分かっているのかどうか。


残念なことに、分かっていて命令しているんだろうな。


「この演習の理由は何です?」


「実戦を想定した、対潜哨戒機の性能試験を兼ねた訓練だ」


「そうではなくて……」


「残念ながら、それ以外のことは開示できない。勿論君の疑問は分かっているつもりだよ。この情報は君たちだけではなく、私以外の誰にも伝えることは許されていない。空技も軍も関係なく、ね」


真顔で淡々と述べていたものの、ほんの少し青ざめていることから、武戸目所長も胃の痛くなる想いをしているようだ。


「……分かりました。その演習は実際にはいつからの予定ですか?」


「今日一日掛けて西海島の海軍航空基地まで飛んでもらい、明日再び飛んで高砂島に到着し、実戦演習が可能であれば行い、そうでないなら作戦……演習の内容の確認を行うといった具合だ」


「航続距離から見ても一日で高砂島まで着くのでは?」


「念のため、実際に長距離移動で燃料がどれくらい減るのか、その確認を行いたい。一日での片道移動であるから問題はないはずだが、実際の運用に於いて仕様緒元通りに動くとも限らない。これは、公試で行われているのは機体の性能を最大限まで引き上げられるまで引き上げて計測しているためだ。他に質問は?」


「これは別途手当とか付きますかね?」


「……一応、上に申請しておこう。護衛機の方は、空技とは別の上の部署から出ているはずだからね。こちらから出しても良いのだが、それだと、出せる分が限られてしまうからね」


斯くして、またしても面倒事に巻き込まれてしまったのであった。

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