25話 攻撃演習
明海三十八年 6月3日 新松試験飛行場 附属射撃演習場 上空
『これより射撃演習を行う。先に指定された目標に対して、これから指示する兵器で攻撃を行え』
「相坂機、了解」
『芙蓉機、了解した』
『幟機、了解』
比較的早い時期に攻撃演習が始まった。
今はまだ通常の飛行状態での演習ではあるが、演習の予定全体から見ても実戦状況を想定した訓練は数日後には行われることだろう。
『最初の訓練は7.7粍機銃からだ』
「7.7粍旋回機銃用意!」
「前方銃座、装填準備完了、安全装置解除、射撃用意良し!」
所沢は手際良く準備していた。
「後方銃座、同様、射撃用意良し」
後方銃座にいる大久保も、それなりに早く準備をしていた。
この大久保という男、四番機で機上整備士をしていたのだが、今回は同型の機体が三機しか用意されていなかったことと、この機体の想定搭乗員数が5~7人ほどであるため、他の四番機の搭乗員と共に、他の機体に臨時に搭乗し、この男は機上整備補佐と後方銃座の担当をしている。
俺の操縦する機体には大久保という男の他、四番機の副操縦士であった中野という男が航法と通信、そして前方銃座の補佐を担当している。
「演習用意良し。指示を待つ」
『演習場の用意は既に完了している。演習を開始せよ』
「了解。演習を開始する。射撃手は、こちらからの指示で攻撃を開始せよ」
「了解した」
「了解」
射撃手の二人は短く返した。
「言いつつ最初はすぐだ。第一目標に対し、三秒後、攻撃開始。三……、二……、一……、撃て」
そう言った途端、後方から凄まじい銃声が機体に轟く。
操縦と通信を行う場所と、後方の射撃を行う場所は一応壁で仕切られているが、それをもってしても轟きを防ぎきることは出来ていないようだ。
「結構響くな」
重野も鬱陶しそうに呟いた。
「壁が薄いことも一応書いときますか?」
「そうしておいてくれ」
少しヘラついた感じで言った中野に、適当に返した。
俺たちの今の仕事はこの航空機の試験飛行と評価だ。
こういうことも書いておいても良いだろう。
そしてその中に多少嫌味の一つも書き込んでおいても余程のことは起こらないだろう。
「折り返して試験二回目を行う。射手は一息つけるはずだが、旋回で機内を転がるなよ」
「はいよ」
「了解」
射撃訓練を兼ねた火器類試験は爆音を奏でながら行われた。
「20粍機銃は腕に来たな。少し手が痺れた」
所沢が疲れたように言った。
『次は120粍迫撃砲だ。用意せよ』
「了解……。この機一番の大砲を用意しろってよ」
「最後は銃自体を持たないから撃ってるときは疲れないが、装填が疲れるな……」
「もうそろそろ開始だぞ」
「分かってるって……。大久保、装填を手伝ってくれ。こればっかりは一人で連続は無理だ」
「了解した」
急かすといそいそと準備し始めた。
「相坂、迫撃砲を撃ってるところ、見たことあるか?」
「無いな。どうした?重野はあるのか?」
「いや、俺も無い。この薄い壁しかないから、どう聞こえるのか知りたくてな」
「なるほどなぁ……」
確かにそれは気になるところだ。
迫撃砲の砲身自体、機体の下に付けられているとはいえ、撃った時に鼓膜が破れないか心配だな。
操縦室の誰か一人の耳が聞こえなくなるだけでも重大なことだというのに、発射音で全員の耳がやられないかどうかはとてつもない懸念事項だ。
今も耳当て付きの通信機の受話器をつけているが、それでも20粍機銃の発射音は五月蠅く聞こえていた。
これも、試験の危険性というやつになるのか。
陸軍は地上試験用の機体を使って試験をしていたらしいが、それが今、適用されるかどうかは保証されていない。
「取り敢えず、祈るのみか……。所沢、準備はいいか?」
「応よ!いつでもいける!」
「そろそろ標的が来る。来たら撃て」
「了解した!」
疲れているのか、所沢の声自体は大きいが、おちゃらけた雰囲気が減っていた。
「射ーッ!」
的が来たのか、大声を出して号を出した。
そして次に来たのは爆音だった。
「連射じゃない分、マシかも知れんが……」
「これは……強烈だな」
重野も渋い顔をしていた。
「こちら相坂機。迫撃砲の発射音で聴力に不安あり。誰か何か通信で言ってくれ」
『こちら芙蓉機。隊長、聴こえるか?』
「相坂機から芙蓉機。ああ、大丈夫そうだ。ちゃんと聴こえる」
『そうか。こちらの射撃時も注意しておく』
「ああ、それがいい。……所沢、次の目標が来るぞ、大丈夫か?」
「ああ、装填済みだ」
「そうか。音の方は大丈夫か?」
「俺が撃つって分かってる分、大丈夫だったな」
「それならよかったよ」
間を開けず、所沢が言う。
「第二射いくぞー!……射ーッ!」
今度は撃つ前に片耳を手で押さえることが出来たので、一射目よりかは耳の負担はマシだった。
「飛ぶだけだと思ってたが、案外キツいな……」
「ああ……」
「そうっすね……」
俺の言葉に、重野と中野がゲンナリとした表情で同意していた。
これから暫く、こんな爆音と付き合っていかないとなると、根気が削がれた気がした。




