22話 陸軍の見立て
明海三十八年 5月27日 高砂海峡北部海域 空母応龍 第二会議室
俺たちを集めた上官は話し始めた。
「君たちに集まってもらったのは、今後の作戦についての話だ」
「今後の作戦について……って、私たちの作戦と言えば、この戦争が終結するまでの間、この海域の近辺を哨戒したりして、戦闘艦と見られる艦を発見して沈める……ってことではないんですか?」
「何もなければそのつもりだったんだが、そうさせておくにはその人数が多いというのと、それだけではないことが起こったから……だな」
「何があったんです?」
「またかと言うかも知れんが、陸軍の方で、対地支援作戦が難航しているらしい」
「はぁ……陸軍ですか」
先手を打たれて言葉を遮られたので、“またか”の言葉は内に秘めた。
「海軍の方の橋頭保の確保・構築は終了しているから、本当にこちらは関係がなかったが……、上層部曰く、”政治的判断”だと」
これまた“またか”と言いたくなるような言葉だ。
「具体的には、何をすればいいんですか?」
「浜綴航空技術研究所と海軍航空部門も関わっている、新型対地支援攻撃機の実験的実地投入試験だ」
これまた訳の分からないものに巻き込まれてしまうようだ。
「諸君らには、復興した高砂島の陸軍航空基地にて新型機の乗り方を二週間で習得してもらい、その後前線に出て陸軍の支援をしてもらいたい。まあ、その基地自体は火街にはあってないが……。これが今回君たちを呼び出した理由だ。今日の午後に早速だが、連絡機にて向かってもらうことになる。いいか?」
「質問があるのですが」
「何だ?」
「何故、我々なのでしょうか?機体が陸軍のものなら陸軍軍人にやらせればいいのでしょうし、それに海軍から引っ張り出すとしても、我々よりも現場での経験の長い熟練の攻撃機乗りにやらせればいいのではないのでしょうか?」
「それか……。何故海軍軍人を引っ張り出したのかというと、先の高砂島爆撃によって現在陸軍軍人の中で実地投入試験を予定していた者が負傷し、他攻撃機乗りも陸軍内の作戦によって引き出せる状況ではないことが、理由として挙げられているな。そして何故君たちであるのかというと、陸軍の揚陸作戦に於ける評価が高かったことが挙げられるからだ」
「私たちの評価が……?」
それは意外だったな。
あの宇品とかいう運輸部の司令官からは目の敵にされていた気がするためだ。
「そうだ。作戦機の中で最も撃破数が多く、現場兵士からの評価も高かったのだ」
「現場兵士からの……?」
「相坂中尉が向こうの司令に文句を言ったのは皆の知っている通りだと思うが、その後現場での陸軍兵士たちが声を上げてその司令の理不尽かつ非効率な言動を指摘され、異動処置や司令部意思決定能率の見直しが行われたらしい。そこでこの作戦に参加していた瑞守隊に白羽の矢が立った、というのがあるな」
ああ……、陸軍内でもあの司令官に対して、腹に抱えたモノを持つ者がいたということか。
誰に対してもあの態度であるなら、不満が外部からの刺激で噴出しても可笑しくはないか。
って、そう言えば。
「瑞守隊の撃破数が多かったんですか?」
「……今更その質問をするのか?第一、撃破数くらいは数えているんじゃないのか?」
「数えてはいますが、他部隊と対比しての評価というのはあまり気にしていないというか……。どちらかというと、命中率が良い方が弾薬の節約になっていい装備がこっちに回って来易いかな~、くらいなもので」
「はぁ……。貴様ら瑞守隊は、貴様らの前後三期以内の攻撃機乗りの中で、最も撃破数の多い部隊で、その上全海軍攻撃機部隊の中でも一桁以内になるような戦績だぞ?知らなかったのか?」
「そうですね……。他部隊員は知っていたか?」
「いや……」
「生きるのに精いっぱいで、そんなの気にしたことがないというか……」
「俺も噂くらいしか……」
「……こんな感じらしいです」
「お前らなぁ……。空母応龍の誇る名攻撃機部隊がこれとはな……」
上官は呆れかえっていた。
「まあいい……。取り敢えず、一三〇〇時より、連絡機で高砂島へ飛んで全員飛んでもらう。良いな?」
「「「了解」」」
「貴重品と他、必要な物の用意をして、早めに昼食を済ませておけよ。では解散!」
その声と共に、部屋を出て用意をし始めた。
高砂海峡北部海域 上空 連絡機内
「ほんっと、急だよな」
所沢が愚痴を漏らす。
「まあ、こういうこともあるさ」
「相坂は何でそんなに冷静なんだよ?」
「親父からこういった話は聞いたことがあったからな」
「相坂の親父さんから?」
「俺の親父は海軍の飛行機乗りをしながら、浜綴空技での試験搭乗員もやってたからな。予定があまりないときには、こういった試験機を飛ばすために、急に呼び出されることもあったって」
「俺たち空技じゃねぇよ」
「それもそうだな」
「だからなんでそんな冷静に」
「相坂に何言っても無駄だと思うぞ」
所沢の話が暑くなってきたところで、重野が割って入ってきた。
「何でだよ?」
「哨戒の時の相坂の顔をよく見たことがあるか?欠伸ばっかりしてるからな。こういった変化も欲しいんだろう」
「そういうもんか?」
俺もどうかは分からない。
だが確かに、何もない空を飛んでいるだけの時間に飽き飽きしていたのは事実だろう。
「お、見えてきた」
「例の新型機か?」
「航空基地の方だよ。何もないのに新型機を出すとも思えん」
「それもそうだな」
所沢も、新型機自体には興味はあるらしい。
さーて、どんなのに乗ることになるんだろうか。




