21話 束の間の休息
明海三十八年 5月23日 高砂海峡北部海域 空母応龍 格納庫
例の陸軍への支援作戦の後、哨戒任務を受け、その後に書類仕事を請け負ってしまったので、昨日は休めなかったが、今日は休める。
そこで足を向けたのは、葵がいそうなところだった。
「よう」
「……あ」
「整備士となると、休みなしか。大変だな」
そしてそこには思った通り、葵の姿があった。
「私が、好きでやっていることだから……」
「そか」
「うん……」
葵は俺の搭乗機である、星霜の機関やら何やらの、色々なところを外したり、留めたり、調整をしたりしていた。
手際よく、滑らかな手つきで工具を使いこなす。
「……」
「……ん?どうかした」
何故か葵はこちらを見つめていた。
「その……、ずっと見られてると、やりにくいというか……、集中しにくいというか……」
「ああ、ゴメンゴメン。様になってるというか、似合ってるというかなんというか、見蕩れちゃってて。邪魔したならもう出るから」
「…………いや、別にいてくれてもいいけど……。キリのいいところまで終わったし」
そういうと彼女は、周りに出していた工具類を片付け始めた。
「いやいや!俺たちが乗る機体の調整を途中で止められた流石に困るって!」
「本当に大丈夫なところで切り上げただけだから。最初からこうするって思ってたところは仕上げたし、さっきやってたところは今まで通りにしておくか、少し変えてみるかみたいなところで、ずっと見られて気になってから、元に戻して話しかけたから」
「それなら、大丈夫……か?」
葵は黙って頷いた。
「そろそろこんな時間だし、私は昼食にしようと思うけど、どうする?」
朝の支度をしてから日課の鍛錬が終わってから来て、暫く葵を見ていたらもうそんな時間になってたのか。
「俺も同席しようかな」
葵は再び黙って頷いていた。
食堂
「そういえば……」
「?」
昼食を摂っていると、葵が話かけてきた。
「なんで非番なのに私のところなんかに来たの?」
「なんでって……」
「私はいつもさっきみたいに整備してるだけだし……整備士でもないのに、整備しているところなんか見ても面白くもないと思うんだけど……」
「まあ、他人が俺の知らない機体を整備しているところを見ても、面白くはなかっただろうけど、葵姉だし。あと、俺が操縦する機体だったから、それがどう整備されるのかを見ても、興味深いというか……ま、自分の機体だから、かな」
「……ふ~ん。あ」
「ん?何?」
「そう言えば、どうして慎君は私のこと、最近は『葵姉』って呼ばなくなったの?」
「んー?あぁ……、一応軍の中だし、そこのところは線引きしておかないとと思って。さっき言ったのはうっかりで、つい」
「前にもそんなこと言ってたような気がするけど、必要……なのかな?」
「軍は規律規律で五月蠅い連中も多いし、敢えて問題が起こりそうなことをそのままにしておくのもどうかと思うし。ただでさえ軍内に女がいることを、良く思わないヤツもいるみたいだし。何も問題になるようなことをしてないのに、嫌味やらイチャモンやらつけてくる連中とかいなかった?」
「……いたかも」
「なら尚更。連中はこうして一緒に飯食ってるだけでも、何かちょっかいしようと企んでるからな」
そう言いながら周りに目配せすると、周りから変な静寂と少し異様なザワつきが感じられた。
ただのハッタリだったんだが、そう思っているヤツは本当にいたらしい。
しかも、この雰囲気からして、結構近い場所に。




