19話 問いかけ
明海三十八年 5月15日 高砂海峡北部海域 上空
敵上陸部隊の全てを破壊、または降伏させてから一日が経った。
高砂海峡にある全ての文華民国海軍艦隊も、作戦行動が行えるような状態ではない。
着底した揚陸艦や、戦闘能力を失った駆逐艦は、沈められるか拿捕されるかのどちらかだった。
航空機も、文華民国の航空機は能力の向上が目覚ましく、その数も投入できる数は倍近くで、上陸時に多くの帝國陸軍機を撃破していたが帝國の航空機の性能と搭乗員の練度には及ばず、撃墜対被撃墜比率はおよそ10:1とされている。
戦場でのこういった数字は盛られがちではあるため、実際はその半分ではあるかもしれないが、それでも帝國の航空機部隊が圧倒していることには変わりなかった。
事実、民国軍は部隊再投入、再編のために招集を掛け、稼働できる部隊が開戦していたときと比べ、十数分の一ほどにまで減っていた。
もはや、民国の侵攻作戦は短期間での再開はほぼ不可能なものであると、多くの人が考えていた。
その為、帝國政府が民国政府に対して、終戦の提案を行った。
今日はその協議のため、抵抗する残存部隊の掃討作戦が行われていた。
「ふぁ~あ、攻撃機部隊にすることなんかあんのかよ」
「黙って飛べ」
「はいよ」
とはいえ、抵抗する部隊の殆どは戦闘機や爆撃機くらいの話であって、民国軍の陸上部隊の中で、現在高砂島で活動している部隊は存在していないし、高砂島海峡にいる艦も、大陸沿岸の哨戒部隊以外には碌に活動しているとは言えない。
俺たちの部隊が行っているのは、高砂島に侵攻して来ようとする艦隊に対する哨戒作戦だ。
俺たちが海峡南部で敵上陸部隊に対する反抗作戦を行っているときも敵水上部隊の侵攻はあったらしいが、こちらの艦隊が砲雷撃戦で迎え撃ち、それ以降の侵攻は無い様だ。
無いからこそ、戦場で欠伸すらも出てしまうのではあるのだが。
「こちら瑞守隊、敵戦闘機視認。近くの部隊に救援求む」
『瑞守隊へ、了解した。琴海隊、瑞守隊を守れ』
『こちら琴海、了解。方位指示求む』
今は敵部隊を誘き寄せる囮となっている。
はっきり言って、囮になるような作戦の方が通常の雷撃や水平爆撃の任務よりも危険であるように感じる。
「チッ……。近くなってきたな。所沢、機銃を頼む。各機、任意に迎撃を行え」
「了解した」
『『『了解』』』
救援に来る部隊が少し遅れているようなので、搭載されている機銃で迎え撃つ。
『琴海隊、到着した。少し遅れた。済まない』
「ああ、大丈夫だ」
こんな感じで、暫くの間、作戦なのか何なのか、分からない行動をしていた。
5月18日 高砂島北部海域 空母応龍 第一会議室
「集まってくれたのは他でもない。今後の作戦の事柄について、結果が出た」
政治家たちの話し合いやらが終わり、それが伝えられたのだろうか。
上官はある意味、予想道理であったかのような顔をしていた。
「文華民国は我が国から提案を行った、終戦乃至停戦処理について、これを完全に否定し、交渉は決裂した」
嗚呼、悪い方の予想が当たってしまったらしい。
「このことから、陸海軍当局は、一つの結論に至った」
ここで、上官は一つ息を吐き、言った。
「それは、文華民国の本土進攻である。民国海軍を封じ、上陸作戦を行い、主要な港湾、及び都市の機能を落とし、民国の政治部に終戦させるよう仕向けることだ」
どうやら、俺たちが行うべきことはまだまだあるようだ。
5月20日 高砂海峡北部海域 上空
本土から更なる支援艦隊が来て、準備万端といったところだろうか。
旧型の揚陸艇搭載型空母、索冥型空母のその一番艦、索冥と、その後継艦であり新型の玄武型航空母艦、二番艦霊亀が投入される。
また、海軍陸戦隊までもが投入されるらしい。
そして陸軍の方は、陸軍船舶部隊の動員を行い、独自に上陸作戦を展開するようだ。
はっきり言って、上陸作戦自体は海軍が行うため、陸軍には上陸後の作戦に注力してほしいが、そこは陸軍の意地のようなものがあるらしい。
反抗作戦を行うまでの撤退戦に於いて、海軍の力が無ければ順調にいかなかったであろうは分かっているため、それらを挽回したい、という思惑もあると考えられる。
『こちらが大々的に動けば、電探技術や無線技術で劣る文華民国の軍であっても察知されるだろう。向こうからも激しい抵抗があると考えられる。心して作戦に臨め』
ま、それもそうだろうな。
「敵艦自体、あまりいないとは思うが、小型艦艇は当てにくいから気を付けろ。それに、敵戦闘機の数自体は侮れない。一人も墜ちずに帰るぞ」
『『『応!』』』
士気は問題なし、か。
高砂海峡北部海域 大陸側沿岸 上空
「少ないな。それと小さい」
沿岸哨戒を行っている中型船が、10にも満たない数がいるだけだった。
「それにしても、弾幕は厚いな」
重野が言う。
あの小さな船体から多くの曳光弾の筋が見える。
必死の抵抗だな。
水際で阻止することを諦め、せめて敵である帝國の上陸部隊やその支援部隊を少しでもその数を減らすということだけを考えたような。
「魚雷投下」
一線級の艦隊とは違い、ゆっくりと動く哨戒艦艇は、まるで演習用の的のようだ。
落とした雷跡は、まっすぐその船に向かって引かれていった。
暫くして、爆音。
「各機、水平爆撃に移行せよ」
そういう横目に、雷撃した艦を見ると、着底こそしたものの、沈没することなく、未だ曳光弾を飛ばしていたのであった。




