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暁の水平線  作者: NBCG
本編
18/97

18話 反抗

明海三十八年 5月14日 高砂海峡北部海域 上空


夜も反抗作戦へ向け、陸海軍ともに独自に作戦が立てられ行動していたようだが、撤退戦を行っていた当の陸軍の方は混乱もあってか海軍の方に報告は無かった。


夜間も夜間偵察機である更雲や、夜間戦闘機の崇光が見回っていたようだが、地上部隊の動向について味方の行動も、そして敵の行動も、その詳細は分からずじまいであった。


敢えて言うとするならば、文華民国の無線技術は未だ帝國のそれよりも発達しておらず、軍同士の連携が遅いのは勿論のこと、夜間での活動が可能な航空機は発達していないようである、ということだ。


そしてこちらの軍には地の利があり、陸軍も無線を使えるので、その分早く撤退することは可能であろう。


俺の予想では、早く撤退できる帝國陸軍が地の利も無線もない文華民国陸軍にある程度距離を広げて逃げ切れるか否か、というところだった。


しかし、実際は違ったものになっていた。


『敵は残弾や支援が尽きて体力もない。そしてあと暫くすれば帝國陸軍航空機による支援も開始される。帝國陸軍に情けないところを見せるな。気を締めて行け』


昼間はゆっくりとした足取りで撤退していた帝國陸軍であったが、日が沈むと足を早め、奇襲戦術も絡めて敵陸軍の体力を削りながら撤退していたようだった。


そして夜の間に、敵爆撃から逃れた帝國陸軍航空機の臨時の再編も完了させ、海軍の支援に回るかたちではあるが、反抗作戦に間に合わせることが出来たようだ。


「文華民国陸軍が撤退しているな……」


追う者と、追われる者。


その立場が、昨日とは全く逆となっていた。


「今日は魚雷を載せてない分、機体が軽いな」


「その分対地爆弾を載せているから、俺の席がいつもより狭いのが難点だな」


「それは我慢しろ」


「はいはい」


「もうすぐ投下する。準備を」


魚雷のない機体の機動はいつもよりも軽い。


席の後ろからゴチャゴチャ言っているのが約一名いるが、それは気にしない。


昨日よりも多い対地投下爆弾がある分、攻撃回数は増える。


これで迫りくる軍勢を押し返すのがどれだけ可能なのか、俺たちの腕に問われている。


「投下」


号を下し、爆弾が投下される。


昨日と比べて、空に向かって放たれる弾丸も少なくなっているのは、気のせいではないだろう。


自らが作った爆炎が上がるごとに、その少なくなった弾丸も、更に少なくなる。


『対地攻撃部隊へ。いいぞ。このまま爆撃を続けろ。帝國陸軍の反抗作戦がより速やかに遂行しているようだ。他人様の土地に土足で踏み込んでくる無礼な連中を叩き出せ』


いつもは比較的冷静な司令偵察機の搭乗員も、熱の入った言の葉を放った。


この作戦に投入されている海軍軍人の殆どは高砂島生まれではないし、司令偵察機から命令を下している森崎と言う男も、十中八九本土生まれのはずだ。


それでも自国の領土が侵されているというのは、我慢ならないのだろう。


過去に帝國がこの領土を侵された事例として、浜煤戦争があったが、そこはここ、高砂島のようなある程度発展した土地とは違い、辺境の繰鈩諸島が一部艦砲射撃を受けたり、佐波鈴で海軍陸戦隊やらが敵陸海軍とやりあったりと、その程度の話だった。


島の北部にある総督府が存在する中心都市、高北市は、大唐帝国時代から島の中心的な都市としての歴史もあるため、軍民問わず人が多く、そこには明らかな人の文化文明、感情が存在する。


人が多く、経済と文化、どちらから考えても明らかに重要な土地だ。


今回侵攻を受けたのは高砂島南部であり、総督府からは遠いが、例え南部にでも敵橋頭保ができようものなら、総督府も危険に晒されていたのだろう。


特に陸軍が力を入れているのは、現在の総督が前職に陸軍次官にして第三師団長を務め、今なお陸軍大将の称号を得ている兒玉こだま 源一郎げんいちろうという男が務めているというのも、理由に挙げられるのかもしれない。


それだけ陸軍が気合を入れ、この一夜で日中から見違えるように戦果を挙げているのを見て、海軍軍人である森崎も戦果に対する意識が大なり小なり変わったのだろう。


『瑞守隊、その地点の敵部隊の残存部隊は陸軍に任せろ。次に言う地点にいる敵部隊を叩け』


いつもはより事務的というか、時折やや面倒臭そうにすら言っていた男が、こうまでして意欲的であるとは。


『瑞守隊、その地点ももう十分だ』


「もういいのか?」


『陸海軍の足並みが揃いつつある。それが作戦効率を上げ、さらに足並みが揃っていく。その相互作用でだんだんと破壊するべき対象も減っていっていき、作戦速度が上昇させていると考えられる。兎も角、次の地点へ迎え』


「了解」


戦術行動単位が短くなっていると感じる頃には、既に文華民国陸軍兵たちは明らかに彼らが乗ってきたのであろう揚陸艇へ向かっているということが分かる動きを見せていた。


『全部隊、攻撃やめ。繰り返す――――――』


「どうした?」


『敵上陸部隊が少数になり、その全てが降伏の意思を示した。降伏した兵士への攻撃は国際法で禁止されている。直ちに攻撃を中止しろ』


陽は傾き始めていたが、たった一日で彼ら文華民国陸軍上陸部隊の侵攻を辞めさせることが出来たのであった。

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