17話 劣勢
明海三十八年 5月13日 高砂島北部海域 空母応龍 飛行甲板
“海峡南部戦線が一部突破され、高砂島内に敵橋頭保が築かれつつある。”
その報せを受け、俺たちはその翌日に出撃することになった。
「瑞守隊一番機、相坂、発艦する」
先行する戦闘機部隊に続いて、俺たちも発艦した。
高砂海峡南部海域 高砂島沿岸付近 上空
俺たちに課せられた任務は二つ。
一つは魚雷による敵揚陸艦または補給艦の航空阻止。
もう一つは陸上に展開した敵上陸部隊への爆撃だ。
敵上陸部隊への爆撃は、誤爆した際の影響の低減と、軍艦の装甲を貫くわけでもなく、より低威力であっても大丈夫であり、更にその分、攻撃回数を増やせるという考えから、今回投下爆弾は低威力小型のものしか搭載していない。
そんなことは兎も角として。
「今回の雷撃目標は揚陸艦と補給艦。対空砲の弾幕は今までよりもかなり薄い。いつもより近くで落として確実に当てて沈めろ。補給を絶てば、奴らは撤退か全滅するしかなくなる。この作戦、雷撃は集中しろ」
『『『了解!』』』
護衛の巡洋艦や駆逐艦もいるが、事前に海峡南部戦線へ投入されていた部隊がある程度先に艦や対空火器を潰していたので、先の作戦での弾幕は薄い。
勿論敵戦闘機もいるが、先行部隊による損耗で、こちらからの護衛戦闘機と交戦する機ばかりであり、俺たち攻撃機部隊や爆撃機部隊へ注意力を割ける敵部隊は少なかった。
「……魚雷投下」
沿岸で停泊し揚陸艇を出している揚陸艦に対し、魚雷を発射する。
止まっている大きな目標に対して撃つのは、訓練で行っている的当てよりも段違いに簡単なものだった。
今日は瑞守隊の四機とも、魚雷での戦果が上がった。
「瑞守隊、魚雷投下完了。敵上陸部隊への爆撃を開始する。咲銛隊へ、攻撃目標の指示を請う」
『こちら咲銛。瑞守隊、しばし待て。制空権の確保された空域を確認する』
「瑞守隊、了解した。……瑞守各機、編隊飛行へ移行せよ」
『『『了解』』』
緩やかに旋回しながら、地上を確認する。
「あー……、こりゃ酷い」
燃え上がる市街地に、荒らされている田畑。
そこに民間人はいない。
既に避難したのか、そこで骸となってしまったのか。
そこにいるのは敵味方問わず、銃を構える兵士だけだった。
『咲銛から瑞守へ。指示する地点へ向かい、爆撃を行え。目標地点は……』
司令偵察機から言われた地点へと向かう。
そこは市街地からやや開けた地点、郊外というにも自然が多い地域だった。
見慣れた戦車と見慣れない戦車が砲撃し合っている。
帝國陸軍の戦車と文華民国の戦車だ。
それぞれの周りにそれぞれの兵士も一緒に行動している。
『爆撃自体はそれぞれの判断に任せる。友軍への誤爆はするなよ』
「瑞守、了解。瑞守隊へ、任意で爆撃を行え。所沢、やるぞ」
「おうよ」
そして、実戦で初めて、対地爆撃を行うことになった。
「爆弾投下!」
「投下!」
爆弾を投下してから少しして、司令偵察機から報告が入る。
『瑞守隊、敵戦車への爆撃、確認。続けて爆撃を行え。最前線の部隊への爆撃よりもそれより少し敵後方の戦車を爆撃せよ』
それは誤爆回避のためと、敵の長時間の打撃力、そして精神を削るためなのだろう。
「本来なら陸軍の爆撃機が行う仕事のはずなのにな」
珍しく重野が愚痴を溢した。
「仕方ねぇよ。敵の上陸時に先んじて爆撃されて、最前線基地は混乱、一度撤退して、再編するには時間が掛かる。それまで恩を売っておこうぜ」
「恩を売る前に死ななきゃいいんだがな」
「怖いこと言うなよ」
「……それもそうだな」
重野がそんなことを言ったのは、もぬけの殻となった陸軍の航空基地を見たからなのだろうか。
滑走路と建物の近くに爆撃跡があったため、文華民国からの爆撃があったのだろう。
帝國陸軍は基地・拠点からの一時撤退作業もあり、どうしても民国陸軍から押されているように見えてしまう。
帝國軍はあまり撤退戦の訓練や演習を行わない。
その所為もあってか、出さなくてもいい被害まで出てしまっているように見える。
「次の地点までもう少しだ。所沢、爆撃準備は出来てるか?」
「大丈夫だ。いつでもいける」
その慣れていない撤退戦の犠牲者をなるべくすくなくするために、俺たちも頑張らないとな。
「もうそろそろだ。……爆弾投下!」
「投下!」
投下される爆弾、燃え上がる爆炎。
その全てが敵戦車に当たるわけではないが、せめて周りの敵兵士にでも当たって欲しいというものだ。
「ふん……そろそろ引き際だな。瑞守隊全機、帰投する」
この後も何度か敵部隊への爆撃を行ったが、敵部隊の勢いが衰えることはなかった。
魚雷で停泊していた揚陸艦や補給艦に対して攻撃を行い、大打撃を行ったはずだが、その影響がでるのはもう少し掛かってしまうらしい。
もしかすると俺たちが成功させた雷撃の効果が見られないのかもしれない。
戦略的に考えると、今から帰投する俺たちが見られないのはいいことだが、それはそれで、少し物寂しさがあるものだな、と、未だ戦い残る帝國陸軍の戦車を横目で帰投したのだった。




