15話 真たる戦
明海三十八年 5月9日 高砂島北部海域
『こちら戦闘機中隊琴海!攻撃を受けている!指示を請う!』
司令偵察機からの説明中に割り込んだ無線。
それは紛れもなく、最悪な部類の報告と要請だった。
『こちら咲銛、攻撃を受けている部隊は即座に回避行動を行え。但し、交戦は禁ずる。繰り返す、交戦は禁ずる。交戦許可が下りるかどうかは追って伝える』
そして応えられたその内容もまた、最悪なものであった。
「隊長、どうするよ?」
後ろから所沢が話しかけてくる。
「どうするったって、攻撃機の俺たちが出来ることなんて攻撃せずに回避をすることだけだ。戦闘機が来るのは拙いが、爆撃やらをしなくていい分、避けやすくはあるはずだしな。……はぁ」
思わずため息が出てしまう。
この派遣任務が始まって何度目だろうか。
「瑞守隊各機、聞いたな。回避行動を取り、いつ攻撃、若しくは撤退命令が来ても対応できるようにしておけ。高度を維持し、このまま当機に続け」
『『『了解』』』
「良い返事だ。……一体、どうなることやら」
不安を口にしても意味など無いが、口にせずにはいられなかった。
……。
それは、司令偵察機から最悪の応えが伝達されて、一分も経ったかどうか、というくらい。
遠くの爆音と、一つの無線。
『こちら琴海隊!二番機が落ちた!繰り返す!二番機が落ちた!攻撃命令を!』
『咲銛より琴海へ。言ったはずだ。交戦は現在許可できない』
『向こうは明らかに敵意を持って攻撃してきている!早く攻撃命令を!』
『繰り返す、それは出来ない』
嗚呼、最悪――――――。
『隊員が一人墜とされてるんだぞ!正気か!?』
『正気だ』
『おまっ……』
『……』
少しの間、無線からは沈黙。
そして再び無線から、声が聞こえた。
『琴海隊、散開。責任は全て俺が取る。戦闘開始』
『琴海隊!?交戦は許可できないと言ったはずだぞ!』
『部下を殺せねぇんだよ!なんと言っても俺らはやるぞ!降りかかる火の粉を払え!』
『『『了解!』』』
そんな言葉が聞こえたかと思うと、空から落ちてゆく黒の線が描かれていた。
『あいつら始めやがったぞ……。俺たちは、……どうする?』
『どうするって……始まっちまったもんはもう止められんだろ?俺たちも加勢する』
そんな声が続々と増えて行く。
『戦闘中止!繰り返す、戦闘中止!』
加勢に向かおうとする声の中に、司令偵察機からの声がただ空しく繰り返されていた。
『隊長……どうします?』
「攻撃を行う。ここで行かなきゃ帰った後が怖い。それに、死ぬより皆仲良く懲罰房の方がまだマシだ。攻撃進路を取る。攻撃分岐点まで続け」
『『『了解』』』
こうして瑞守隊もその攻撃に続き、戦闘機とは違い、まだ発砲していない艦隊へと攻撃する姿勢へと移った。
「任意に攻撃を開始せよ」
攻撃分岐点へ向かい、攻撃開始の合図を送った。
さて、ここで攻撃機研究会で得た知識を役立たせることができるのかという話でもあった。
「魚雷投下!」
その知識で得た通りに魚雷を投下してみる。
「……惜しかったか」
「ある程度対空砲に当たらないようにすれば、そう当たるもんでもないさ。気にするな」
重野が励ましてくれる。
まあ最初の奇跡の一回よりも再現性のある失敗が出来たと思っておくことにしておこう。
「各機、魚雷投下が終わり次第、水平爆撃へ移行せよ。攻撃している理由づくりでもある。攻撃効果や経済性を考えての出し惜しみをせずに、当たると思ったところには大量に投下せよ。とっとと帰るぞ」
『『『了解!』』』
帰ると言ったら返事がいいな。
ま、俺も早く帰りたいからこんなことを命令したんだが、もう少し分からない程度に気持ちを抑えてもらいたいものだ。
下手したらこの無線を聞かれた誰かに変な怒られ方してしまうかもしれない。
ま、戦わずに帰投するよりかは良いかもしれない、どの道怒られるのなら。
「爆弾投下!」
「投下!」
早く帰投するため、一度の爆撃進路で多くの爆弾を投下しなければならないので、早めの内に爆弾の投下を開始する。
「投下やめ」
「ふぅ……了解」
いつもより少しではあるが、爆弾投下の時間が長かったため、所沢は息を切らしていた。
「所沢、悪いが、効力確認できるか?この状態じゃ司令偵察機には頼めないからな」
「ああ、大丈夫だ」
この機が投下した水平爆撃の効果を所沢に確認してもらう。
「一発命中した。その他、効力弾一発。他は外したが、命中弾は艦構造物に影響を与えたように見えるな」
「分かった。この調子で他も当てるぞ」
「了解した」
敵艦隊を高空から通り抜け、折り返す。
そして再び、爆撃を行う。
「効力はどうだ?」
「そう焦るな……うん、命中した。今度は艦首部分に一発だけ、他に命中弾、効力弾は確認されない」
「了解した」
そう何度も上手くはいかないか。
「隊長機から瑞守隊各機へ、爆撃は終わったか?」
『二番機、終わりました』
『三番機、問題無し』
『四番機、完了しました』
「瑞守全機、帰投する。帰投後、雷撃及び爆撃の結果を報告し、反省会を行うぞ」
こうして、混乱の中に生まれた戦闘の末、俺たちは生きて帰ることができた。




