11話 国連
明海三十八年 4月27日 高砂島北部海域 空母応龍 第一会議室
全く開戦の意識が無いまま、浜文間の戦争が始まった。
開戦して一週間、今はまだ高砂島の局地紛争のようなもの程度には収まってはいるが、これがいつ全面戦争、総力戦に変わるかは分からない。
唐国時代から極端に近代化されている文華民国の政治と軍はその変化速度を現場の兵士に十分なまでに見合った冷静さを与えられているのだろうか。
そういった懸念も考えられる中、ある報せが届いた。
「国連がこの戦争を議題に上げた」
国連。
浜綴語では正式に、国際連助と呼ばれる組織。
成語ではMutualaid of Nationsと呼ばれ、その略称はMNとされる。
世界の大国や準大国の殆どを巻き込んだ、世界大戦や雄州大戦と呼ばれた戦争が終結した2年後、あのような大規模戦争が起こらないようにと、戦勝国の大国が集まり、世界平和を軸に考えた組織の名だ。
この組織は当時の戦勝国であった大国、大成帝国、北銀連邦、浮蘭詩王国、芦麻菜王国、そして大浜綴帝國の5か国の提案で組織された。
この中で最初の提唱者がいた北銀連邦を除く、4か国が常任理事国として活動している。
北銀連邦は孤立主義を貫く保守層が多かった上院が反対したため陪席者参加……、所謂、オブザーバー参加のみを行っている状態だ。
国連は二つの議会からなり、総会と特別会議というものが存在する。
総会は加盟国の全会一致で可決される会議であり、後述の特別会議と対比して一般会議と呼ばれる。
対して特別会議は、加盟国の関わる紛争や戦争、衝突など、全会一致が行われない可能性がある場合に行われる。
当事国とその支援国や保護国などを除いた国家の中から7か国がクジで選ばれ、その国家代表同士の同意を以って意見がなされるという会議らしい。
話を戻して、国連がこの戦争を議題に取り上げたという報せ。
浜綴も文華も加盟国であるため、おそらく特別会議に挙げられたのだろう。
先に領土に圧力を掛け始めたのは文華民国であることは明確であるのだが、問題は「どちらが先に発砲したのか分からない」という点だ。
現場に居た俺たちは向こうが先に仕掛けたことは明確だが、この状況を浜綴と文華以外の人間が見ていた訳ではない。
つまり、文華の方が「浜綴が先に撃ってきた」と主張する可能性は非常に高い。
そうなってくると、やった、やってないの水掛け論となり、もう泥沼だ。
国連内での立場を確保するために、「政治的な判断」が現場にも降りてくる。
そして命令系統が混乱し、部隊の足並みは乱れ、結果、軍全体の行動が鈍る。
その現場の中で、俺たちが犠牲になるかもしれない、ということだ。
「……という訳で、暫くは再び圧力を掛けることとなる。文華民国から本格的な攻撃を受けた場合は別だが、そうでない牽制射などの場合は交戦を禁ずる」
ほら、こういうことになった。
「本格的な攻撃と、牽制の判断の仕方はどうなっているんですか?」
至極最もな疑問が、俺の後方から聞こえて来た。
「それは現場の司令偵察機の判断、指示を仰いでほしい。現場現場によって状況が異なると予想されるため、ここでその基準を明らかにすることはできない」
考えられる中で、最上級水準で悪い指示がなされた。
この指示で、一体何人の浜綴軍人が亡くなってしまうことになるのやら。
そしてその犠牲者の中に俺も含まれてしまうのだろうか。
だが俺も、飛べと言われれば飛ぶしかできない。
上に俺が戦闘機乗りとして認めさせるまで死ねないから、それまでは何としてでも、生き残ってやる。
5月2日 高砂島北部海域 上空
「魚雷投下!」
「投下ぁ!」
投下した魚雷が敵艦隊の方向へと進む。
「落とし時を見誤ったか……」
「すまん、相坂!」
「いや、俺の指示が間違っただけだ。……旧式艦とはいえ、回避行動を取る船に対しての命中精度は限度があるな……」
結局のところ、文華民国艦隊の対空射撃が収まることなどなく、交戦禁止が発令することは殆どなかった。
収まるどころか、敵艦隊は規模を少しずつ増やし、そして少しずつ北上し、本土にまでその航行範囲を広げようとしている。
勿論、高砂島にいる部隊と航行艦隊がそれを阻止しているが、いつ彼らが本土に対して艦砲射撃や爆撃を行うのか、分かったものではない。
政府と国連が協議している間にも俺たちの戦いは続く。
国連は平和維持、紛争調停組織として、今までの紛争に少なくない数介入してきた。
しかし、国連が直接の原因で戦火を収束させたのは、その介入数に比べると、いささかその成功率には疑問を感じざるを得ないものがある。
世界初で、前例のない組織であり、経験がないので仕方ないこともあるのかもしれないが、戦争で直接戦っている人間にはそんなことは関係ない。
どうにかして、奴らの荒唐無稽な意見を跳ね除け、この戦争を収束させてほしいものだ。
どうにも国連の今までの活躍を見ると、小国同士の諍いは治めてきたが、中規模国家以上の関わる紛争や戦争の調停に成功したことはないので、あまり期待できないが。




