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07:憩いの湯浴み

話を追うごとにアリエが残念になって行く気が…


「ふぅ……」


盛大に漏れたため息が、誰もいない沐浴場に響く。昼下がり、いつもならお茶にしている時間。普段から人が少ないここは、ほぼ貸しきり状態だ。


「い~いゆっだ~な♪ ハハハン♪」


人がいないのをいいことに、鼻歌交じりに広い浴槽を平泳ぎで泳ぐ。こんなところを私の取り巻きが見たら、卒倒してしまうだろう。

誰もいないという開放感と心地よい湯の温度が、私のテンションを変な風にしている。す~いすい。あっ痛ッ、足つった!


「いだだだ…。……にしても、ほんと訳分からんわ。避けても避けても、ヒロイン襲来とかまじつらたん」


ぶつぶつ呟きながらしびれる足を引きずって、浴槽のふちに両手と、その上に頭を預ける。すると、頭に載せていたタオルがずり落ちかけたので、わっしと掴んで適当に戻す。傍から見れば、完璧にオヤジだ。

そのまましばらく半身欲をしていると、次第に背中が冷えてきたので裏返る。視線を上げると、湿気を逃がすためか、高い位置に作られた窓から差し込む光が、壁に反射してゆらゆら踊っている。なんで人がいないのか本当に不思議なくらい綺麗だ。

気温は暑くも寒くもなく、淡く光は降り注ぎ。中庭に近いからか、かすかに聞こえる小鳥達の鳴き声をBGMに、リラックスする。ここ最近はヒロインに振り回されっぱなしで、息つく暇さえなかったから。

思わず瞼が閉じかけて、慌てて開く。平泳ぎはまだしも、こんなところで寝てたら、流石にまずい。


「………にしても、ここは平和だなぁ………」


ヒロイン(彼女)もいないし、ヤンデレも現れようがない。まさに、憩いの場。

久しぶりの平穏を噛み締めて、しみじみと呟いた、――次の瞬間。


「おっふろ~!!」


……先ほどの静寂が脇に避けるほど、勢いよく開け放たれる扉。……うん、予測はしてたよ、こうなるってことくらい。べ、別に泣いてなんかいないんだからっ!


「わあっ、素敵なところ…! ほら、ネイちゃんも!」

「うわっ! ま、待ってくださいよ……! ……って、あ、アリエ様!?」


興奮気味のヒロインに手を引かれ、タオルで前を隠してまろびでたネイ。彼女の軽いつり目は私に向けられ、大きく見開かれている。

それに対しヒロインは、まるで驚くそぶりを見せない。――まるで、私がここにいることを最初から知っていたかのように。


「あ、アリエ様……? その格好は……」

「? ………あ、」


――忘れてた。ヒロインの突然の襲来に、固まったままだった自分の格好を。つった足を無事なもう一本の上にかけ、浴槽のふちに体を預け、頭に畳んだタオルが乗っている状況。どう見てもおっさんです。

信じられないものでも見るような目でこちらを見る二人に、血の気が引くような感覚を覚えた。やばい。


「いやその、違うのよ? こ、これはその、股関節のストレッチで……」

「あああ、はい! ストレッチですね! はい! わかった、分かりましたから!」


慌てて立ち上がって弁明すると、真っ赤になったネイがわたわたと手を振る。「それより、前!前!」としきりに叫ばれ、はたと自分が何も隠していないことに気付いた。うぎゃあああああ!! 瞬時にしゃがみ、全身を隠す。


「ち、ちちち違うのぉぉおおお!!! 見せようとか、そんなじゃなくて! だれっ、誰もいなかったから……!」

「おちっ、落ち着いてください! 何も、何も見てないですから!」

「……ネイちゃんも、落ち着いたほうがいーよー…」


ヒロインの、どこか冷めたような突っ込みも耳に入らず、慌てふためく私達。


 ――騒ぎを聞いた人たちが駆けつけるまで、30分もかからなかった。


もともとこの国の人間はあまり湯船に使ったりする習慣がなく、貴族は体臭をきつめの香水でごまかしているので、前世(日本人)の記憶があるアリエにはかなり苛酷な環境です。

でも、今回の事件でアリエが沐浴場に通いつめるのを取り巻き達が真似し始めて、しばらく後には宮殿の香水の使用量がかなり減ったとか。

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