第7節:【5ヶ月〜6ヶ月/5月〜6月(初夏)】 「寝返り・離乳食」と冒険者ギルドの流れてきた狩人たち
■ 第7節:【5ヶ月〜6ヶ月/5月〜6月(初夏)】
「寝返り・離乳食」と冒険者ギルドの流れてきた狩人たち
【生後5ヶ月(5月中旬・1歳の誕生日まで:あと7ヶ月)】
初夏の爽やかな風が、新緑を揺らしながらアルカ村の木造小屋を吹き抜けていく。 生後五ヶ月を迎えたサリマは、ボロ小屋の床の上で「ずり這い」をしながら、部屋の角に置かれたかまどの様子をじっと見つめていた。
(首もすわった、寝返りも打てる、ずり這いで数メートル移動もできる……。順調に人間らしくなってきているわね! でも……ついに来てしまったわ、この時が……!)
サリマの視線の先では、母エリスが土鍋で何かを静かに煮込んでいた。 グツグツと音を立てているのは、村で採れた雑穀(ヒエやアワの原種)を細かく破砕し、水でドロドロになるまで煮詰めた「重湯(お粥)」だった。
そう、生後五ヶ月から六ヶ月にかけて——赤ん坊にとっての大きな壁である『離乳食の開始』である。
「ガノス様、サリマの重湯が煮上がりましたわ」
エリスが土鍋から小さな木碗にお粥を掬い取り、フーフーと息を吹きかけて冷ましながら、ガノスの待つ床へと運んできた。
「おお、ついにサリマも大人と同じものを口にするようになるんだな! 感慨深いなぁ」
ガノスが作業の手を止め、嬉しそうにサリマの傍らへ腰を下ろした。
「ええ。今までは私のおっぱいだけでしたけれど、これからは少しずつこの雑穀のお粥で栄養を摂っていかないと……。ほら、サリマ。あーんして?」
エリスが小さな木匙にお粥をすくい、サリマの口元へと運んでくる。
サリマは木匙の上に乗った灰色っぽいドロドロした重湯を見つめ、前世の29歳社畜バイオ研究者としての脳内で、瞬時に栄養成分と構造の解析(分析)を開始した。
(待って待って待って! お母さん、気持ちはすごく嬉しいんだけど、このお粥……そのままだと今の私の胃腸じゃ危険よ!!)
サリマの警戒には、明確な科学的根拠があった。 生後五〜六ヶ月の赤ん坊の消化器官は、まだまだ未発達だ。特に、でんぷんを分解するための酵素(唾液アミラーゼや膵アミラーゼ)の分泌量は、大人の何分の一にも満たない。
この村で栽培されている粗末な雑穀は、精白米と違って外皮の食物繊維が硬く、でんぷんの難消化構造(β化)が強い。こんな重い重湯をそのまま未熟な胃腸に流し込めば、消化不良を起こして激しい腹痛や下痢を引き起こし、せっかく蓄えた栄養をすべて吐き出してしまうことになる。
(かといって、お母さんのおっぱいだけに頼っていたら、これから成長するための鉄分やエネルギーが不足しちゃう……! どうする!? どうやってこの雑穀お粥を、赤ん坊の胃腸でも一瞬で吸収できる『超・低分子化スープ』に変えさせるの……!?)
「ほら、サリマ。美味しいお粥よ? あーん」
「……ぶーっ!!」
サリマはプイッと横を向き、木匙を小さな手でペシッと突っぱねた。
「あらあら……? いやいやしちゃいましたわ。どうしたのかしら、サリマ。お腹が空いていないの?」
エリスが困惑したように首をかしげる。
「ガノス様、せっかく煮込んだのですが……一口も食べてくれませんの」
「うーむ、初めて見る食べ物だから警戒しているのか? サリマ、一口だけでも食べてみろ? 甘くてうまいぞー」
ガノスがお粥を少し舐めて見せるが、サリマは絶対に口を開かない。
(違うのよお父さん! 警戒してるんじゃなくて、今の私の胃腸じゃこれを分解できないの! でんぷんの分子構造が大きすぎるのよ!!)
サリマは必死に考えた。 でんぷんを低分子化(糖化)させる方法……。 そう、すでにサリマが胎内時代にガノスを誘導して作らせた、あの秘密兵器があるじゃないか!
(【麦芽】よ!! 麦芽の中に大量に含まれる糖化酵素!!)
あの発芽させた麦から抽出した『麦芽シロップ』をほんの数滴この温かいお粥に混ぜて保温すれば、麦芽酵素が雑穀の硬いでんぷんを一瞬で分解し、ブドウ糖や麦芽糖へと低分子化してくれる。消化吸収に優れ、お腹に優しく、しかもほんのり甘い『天然の発酵・甘酒風お粥』が完成するのだ!
(お母さん! かまどの横にある、あの麦芽シロップの容器を見て!!)
サリマはズリズリとずり這いでお粥から離れ、かまどの横に置かれている小さな土瓶(麦芽シロップの容器)へと一直線に向かった。
「あうー! ぶぶーっ!」
サリマは土瓶を小さな手でペシペシと叩き、そこからエリスとお粥を交互に指さした。
「あら……? サリマ、その土瓶が気になるの?」
エリスが不思議そうに寄り添ってくる。
「ガノス様、サリマがこの麦芽シロップの土瓶を指さしていますわ。もしかして……これをお粥に入れてほしいのかしら?」
「ええっ!? お粥にあの甘いシロップを入れるのか? お粥が甘くなっちまうぞ?」
「でもガノス様、サリマは生まれてすぐにあのシロップを美味しそうに舐めましたでしょう? この子はあの甘い麦芽の匂いが大好きなのですわ。もしかしたら、シロップの匂いをつけたら食べてくれるかもしれません」
(お母さん……神!! 察しが良すぎる!! そうよ、それなのよお母さん!!)
サリマは「あうっ! あうっ!」と全力で頷いてみせた。
「よし、じゃあ試しに少しだけ混ぜてみるか。どれ……」
ガノスが土瓶から麦芽シロップをほんの三滴、温かいお粥の中に垂らし、匙でかるく混ぜ合わせた。
すると——。
サリマはかまどの余熱が残る土鍋の近くへお粥の木碗を誘導するように手で押し、数分間放置させ(酵素がでんぷんを分解する60度前後の保温状態を作り)、お粥の変化を待った。
数分後。
「あら……? ガノス様、見てくださいな!」
エリスが驚きの声をあげた。
ドロドロとして硬そうだった雑穀のお粥が、酵素の分解作用によってサラサラとした滑らかなポタージュ状へと変化していたのだ。しかも、かまどの周りには、ほんのりと香ばしい甘い香りが漂い始めている。
「な……なんだこれ!? ドロドロだった重湯が、サラサラのスープみたいに溶けてるぞ!?」
「まあ……! 匙ですくうと、こんなに滑らかですわ! 試しに少し味見を……」
エリスが木匙ですくい、そっと口に含んだ。
「……っ!! おいしい……! 雑穀のボソボソした嫌な感じがまったくありませんの! 舌触りがとても滑らかで、お口の中でとろけるように甘いですわ……!」
「本当か!? どれ……うおっ! 本当だ! 雑穀の臭みが消えて、すごく飲みやすい甘いスープになってる!」
ガノスも目を丸くした。
(ふふん! これこそが酵素による『でんぷんの加水分解(糖化)』よ! これなら私の未熟な胃腸でも負担ゼロで、一瞬でグルコースとして吸収できるわ!)
サリマは「あーん!」と口を大きく開けた。
「あ、サリマが口を開けたわ! ほら、サリマ、あーん」
エリスが滑らかになった発酵お粥を口へ運ぶ。
パクッ……ちゅぷ……。
(……ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 美味しい!! 雑穀の滋味と麦芽の優しい甘みが広がる……! これなら完璧よ!!)
サリマは満足そうにゴクゴクと飲み込み、ニコッと弾けるような笑顔を見せた。
「食べた! 食べたぞエリス! サリマが食べた!!」
「まあ……! おかわりも欲しがっていますわ! 良かった……本当に良かった……!」
ガノスとエリスは抱き合って喜びを分かち合った。
サリマが美味しそうにお粥を完食するのを見届けながら、サリマは【キン】のスキルを自分の胃腸へ密かに集中させた。
(ターゲット設定:自分の小腸粘膜! 麦芽酵素で低分子化されたグルコースとミネラルを、効率よく吸収できるよう腸内フローラをサポート! これで私の成長速度はさらに加速するわよ!)
こうして、サリマの「離乳食の壁」は、バイオテクノロジーの酵素分解という知恵によって、何の問題もなく突破されたのだった。
◇
【生後5ヶ月半(5月下旬・1歳の誕生日まで:あと7ヶ月)】
サリマの「麦芽発酵お粥」の成功は、思わぬ形で村全体へと広がることになった。
ある日、村のボロ小屋へ、近所に住む若い母親のマーサが、痩せこけた赤ん坊(生後七ヶ月の女の子)を抱いて泣きつきながら飛び込んできたのだ。
「エリスさん……! ガノス村長……! 助けてください……っ!」
「マーサさん!? どうしたのですか、そんなに慌てて!」
エリスが駆け寄ると、マーサが抱く赤ん坊は顔を真っ赤にして泣き叫び、食べたものを戻していた。
「あ、赤ちゃんが……離乳食のお粥を食べさせたら、激しいお腹の痛みを訴えて、食べたものを全部吐き戻してしまうのです……! お母乳の出も良くないのに、このままじゃこの子が干からびて死んでしまいます……!」
マーサは涙をボロホロとこぼした。
13州の最果ての貧村では、赤ん坊が離乳食を開始する時期に、硬い雑穀の消化不良を起こして命を落とすことが日常茶飯事だったのだ。特に飢饉の余波が残るこの村では、乳幼児の生存率は極めて低かった。
ガノスとエリスは顔を見合わせ、深く頷いた。
「マーサさん、泣かないで。すぐにうちのお粥を作ってあげるわ!」
エリスは急いでかまどへ向かい、雑穀のお粥に例の麦芽シロップを垂らし、数分保温してサラサラの「発酵お粥」を作り上げた。
「ほら、マーサさん。これを少しずつ、この子の口に含ませてあげて」
「え……? お粥に、あの甘い麦芽を……? でも、そんな貴重なものを……」
「いいから、早く!」
マーサは震える手で木匙を取り、涙目になりながら赤ん坊の唇へ発酵お粥を垂らした。
ちゅ……ちゅぽ……。
すると、今まで痛みに泣き叫んでいた赤ん坊が、ピタリと泣き止んだのだ。 お粥が滑らかで喉越しが良く、お腹に負担をかけない優しい甘みだったため、赤ん坊は拒絶することなく、ゴクゴクとお粥を飲み込み始めた。
「あ……あぁ……! 吐かない……! 飲んでくれたわ……! 飲んでくれた……っ!」
マーサがその場に崩れ落ち、赤ん坊を抱きしめて号泣した。
「エリスさん、ありがとうございます……! なんでこんなに滑らかで、甘いお粥が作れるのですか……!?」
エリスは微笑み、足元でずり這いをしているサリマを優しく見つめた。
「これはね、うちのサリマが教えてくれたのよ。お粥に麦芽を混ぜて保温すると、お腹にとても優しいお粥になるの」
「サリマ様が……!?」
マーサは目を丸くしてサリマを見つめ、何度も深く頭を下げた。
「サリマ様……! この子の命を救ってくださって、本当にありがとうございます……!」
(いやいや、教えたのはお母さんの観察眼と優しさよ! でも、赤ちゃんが無事で良かったわ!)
サリマは「あーうー!」と声をあげ、可愛い赤ん坊に向けてニッコリと微笑みかけた。
この日を境に、エリスは村の赤ん坊を持つ母親たちを集め、「麦芽発酵お粥」の作り方を惜しみなく教え伝えた。村の乳幼児の消化不良による死亡率はゼロになり、サリマは村の母親たちから「福を呼ぶ赤ちゃん」として崇められ始めるのだった。
◇
【生後6ヶ月(6月中旬・1歳の誕生日まで:あと6ヶ月)】
初夏の日差しが眩しく降り注ぐ6月中旬。
村の外れから、緊迫した叫び声と重い足音が響き渡った。
「村長! 村長はいるか! 外から怪我人が来たぞ!!」
村の狩人ダンが、肩を貸しながら三人の男たちを村の広場へ連れ込んできた。 革鎧を身に纏い、腰に大剣や弓を携えたその男たちは——村の外から流れてきた『冒険者パーティー』だった。
「クソッ……不覚を取った……! まさか『毒角大鹿』の群れと遭遇するとは……」
冒険者のリーダーらしき大柄の男・ラグナスが、血に染まった太ももを押さえながら荒い息を吐いていた。 その後ろの若い冒険者二人が、引きずってきた大型の魔獣の死体をドサッと広場に放り出す。
それは、見上げるほど巨大な黒い鹿だった。頭部には怪しく紫色に光る『毒角』が生えている。
ガノスが慌てて駆け寄った。
「冒険者の方々!? 大丈夫ですか! すぐに傷の手当てを!」
「助かる、村長……。山越えの最中に『毒角大鹿』に襲われてな。なんとか仕留めたが、俺も毒角にかすり傷を負っちまった……」
ガノスは村に保管してある薬草をラグナスの傷口に塗り、包帯を巻きつけた。 治療を受けながら、ラグナスは地面に転がる毒角大鹿の死体を悔しそうに見下ろした。
「せっかくの最高級の肉(大鹿のモモ肉)だが……持って帰るのも限界だ。それに、この魔獣の肉には強力な神経毒が回っている。角の毒が全身の血液に巡っちまうんだ。解体しても食うこともできねぇ……ここで捨てるしかないのが無念だ」
「毒角大鹿の肉……。やはり、毒が回っていては人間には食えませんか……」
ガノスも無念そうに溜め息をついた。
その時、エリスに抱っこされて広場へやってきていたサリマの目が、爛々と輝いた。
(ちょっと待って……! 『毒角大鹿』の肉を捨てるですって!?)
前世のバイオ研究者の知識が、即座にその魔獣のデータを検索する。
(毒角大鹿の肉……! 冒険者の世界じゃ『最高級ジビエ』と称されながら、解毒が困難で大半が廃棄される幻の肉!! 毒の正体は、神経系を麻痺させる特定アミン系タンパク質毒素よ!)
サリマは胸の中で狂喜乱舞した。
(タンパク質毒素……? 重金属毒じゃないのよ!? タンパク質毒素なら、酸と加熱、塩漬け、そして——我が【キン】のスキルで誘発する『熟成分解酵素』で、完全に無毒なアミノ酸へと分解できるじゃないの!!)
肉の旨味成分であるグルタミン酸とイノシン酸が爆発的に詰まった最高級肉。 解毒さえできれば、全村人と冒険者たちが狂喜する「極上発酵ジビエロースト」が作れるのだ!
(お父さん! 捨てさせちゃダメ!! その肉、私が100%解毒してみせるわ!!)
サリマはエリスの腕の中から身を乗り出し、大鹿の肉を指さして叫んだ。
「あーうー! ぶぶーっ!」
「あら、サリマ? どうしたの?」
サリマはラグナスの前に移動させてもらうと、ラグナスの手を取り、続いて大鹿の肉、そして自分が抱えている『塩の袋』と『麦芽シロップの瓶』を必死に指さした。
「あうっ! あーうっ!」
「ん……? なんだこの赤ん坊は……?」
ラグナスが首をひねる。ガノスがサリマの動きを凝視し、ハッと目を見開いた。
「ラグナスさん……! その肉、捨てるくらいなら俺たちに譲ってくれませんか!?」
「あ? 譲るのは構わんが……言ったろ? 角の毒が肉全体に回ってるんだ。食ったら全身が痺れて死ぬぞ?」
「大丈夫です! 我が家には……麦芽の酵素と塩で、毒を消し去る秘伝の『熟成加工法』があるのです!」
ガノスはサリマの熱い眼差しを見て、確信を持って言い放った。
「な……毒角大鹿の毒を消すだと……!? そんな芸芸、王都の最高級錬金術師でも難しいんだぞ!?」
「試させてください! もし成功したら、冒険者さんたちにも最高の肉料理を振る舞います!」
◇
ボロ小屋へ運び込まれた毒角大鹿の巨大なモモ肉。
サリマはガノスに抱っこされながら、直接その肉に小さな手を触れさせた。
(スキル【キン】——発動!!)
サリマは全身の全集中を指先に注ぎ込んだ。
(ターゲット設定:大鹿肉に回ったアミン系神経毒タンパク質! 麦芽のプロテアーゼ酵素と、塩分に強い熟成乳酸菌を急速増殖! 毒素の分子構造(ペプチド結合)をズタズタに切断し、完全無害なアミノ酸(旨味成分)へと再構築しなさい!!)
目に見えないミクロの解毒革命。 サリマの指先から放たれた菌の波動が、肉の繊維の奥深くまで浸透し、神経毒を完全に分解・無毒化していく。さらに、麦芽酵素が肉質を限界まで柔らかく解きほぐしていく。
ガノスはサリマの指示(視線と手振り)に従い、解毒された大鹿肉に大量の塩と麦芽汁を揉み込み、かまどの薪の煙でじっくりと燻製焼き(ロースト)にした。
数時間後——。
ボロ小屋から広場全体へと、今まで誰も嗅いだことがないような、脳を狂わせるほど香ばしく濃厚な「極上ジビエローストの匂い」が漂い出させた。
「な……なんだこの匂いは……!? 涎が止まらん……!」
広場で休んでいた冒険者のラグナスたちが、吸い寄せられるように小屋の前に集まってきた。
ガノスがかまどから、黄金色に焼き上がった毒角大鹿のロースト肉を取り出した。ナイフを入れると、肉汁がジュワッと溢れ出し、真っ赤で柔らかい断面が顔を覗かせる。
「出来たぞ……! 毒角大鹿の『発酵解毒ロースト』だ!」
「ほ、本当に毒が消えたのか……?」
ラグナスが唾を呑み込み、半信半疑でスライスされた肉を一口噛み締めた。
むぐっ……。
瞬間——ラグナスの全身に衝撃が走った!
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
ラグナスは大剣を床に落とし、両手で頭を抱えて絶叫した!
「う……美味すぎる……!! 美味すぎるぞなぁぁぁぁっ!! 神経の痺れも腹の痛みも一切来ない! それどころか、噛むたびに溢れ出す肉汁と濃厚な旨味が、傷ついた身体にドバドバと活力を注入してくる……っ!!」
「本当ですかリーダー!? 俺にも……っ! うおぁぁぁっ! 上美味い! 王都のどの高級料亭の肉より美味いぞこれぇぇぇっ!!」
若い冒険者二人も涙を流してロースト肉を貪り食った。
毒は完全に消え去り、極上の旨味だけが残されていた。 村人80人にも惜しみなく肉が配られ、広場はまるで収穫祭のような大狂乱の宴へと包まれた。
ラグナスは興奮冷めやらぬ面持ちで、ガノスと、エリスに抱かれている赤ん坊サリマの手を握りしめた。
「村長……! そしてこの小さなボクちゃん……! お前たちは凄ぇ! 毒角大鹿を完全に解毒してこんな極上品に変えるなんて、伝説のバイオ職人か何かか!?」
「ははは、サリマが教えてくれたのですよ」
ガノスが誇らしげにサリマを抱き上げる。
「俺たちは世界中を旅している冒険者だ! この最果てのアルカ村に『毒を消し、極上の熟成肉を作る恐ろしい技術がある』ってことを、ギルドの連中や街の商人に言い触らしてやるからな! 感謝するぞ!!」
冒険者たちは大満足で、村に礼金を置いて旅立っていった。
(ふふん、大成功ね! 最高級の肉で村のタンパク質補給も完璧だし、冒険者たちを通じて村の噂が外へ広まったわ!)
サリマはエリスの胸の中で、誇らしげに「あう〜」と声をあげた。
しかし、外の世界へ広まった「極上肉と秘伝酒」の噂は、やがて山脈の奥深くに住む『あの亜人種族』の耳にも届くことになる。
生後七ヶ月、八ヶ月——自力でハイハイ移動を始めたサリマの前に、伝説のドワーフ族との出会いが近づいていた。
『1歳の誕生日(12月25日)まで:あと6ヶ月』




