■ 第25節:【3歳1ヶ月/1月(極寒の冬)】後編
■ 第25節:【3歳1ヶ月/1月(極寒の冬)】
【バイオ研究者の判断と新開発】
小屋の中がしんと静まり返った。
(王都での重度感染症と二次化膿……典型的なブドウ球菌・溶連菌による集団感染ね!)
サリマの脳内で、前世のアラサー社畜バイオ研究者としての専門データが高速で駆け巡った。
(夏に狩人ダンを救った『青カビ軟膏』は、傷口に塗る外用薬。でも、今回の王都の症状は『高熱と内臓・喉の感染症』……。外用軟膏だけじゃなくて、口から飲んで全身の細菌を叩く『経口用・抗生物質発酵エキス』と、免疫力を急上昇させる『高濃度ビタミン発酵ドリンク』の組み合わせが必要よ!)
サリマの瞳に、不屈の科学者としての強い光が宿った。
サリマはトコトコとクラウスの前へ歩み寄ると、小さな手でクラウスの震える肩をポンと叩いた。
「クラウス様、泣かないで! お友達、死なせない! さりま、凄いのつくってあげる!」
「サ……サリマ様……っ! 本当ですか……!? 助けていただけるのですか……っ!?」
クラウスが感涙を流して叫んだ。
サリマは即座に振り返り、手伝いのカイとリラに向かってハッキリと指示を出した。
「カイ! リラ! お父ちゃん! 裏山の『秘密の倉庫』に行くよ! 大急ぎでお薬の準備!!」
「「「ハッ!!」」」
ガノスとカイ、リラが素早く立ち上がった。
サリマはクラウスをボロ小屋で待たせるため、優しく語りかけた。
「クラウス様は、ここであたたかいお茶飲んで待っててね! 倉庫の場所は内緒だから、ここでお薬持って帰ってくるからね!」
クラウスは涙を拭い、深く深く頷いた。
「分かっております、サリマ様! 秘密の掟は絶対に破りません! ここでお待ちしておりますっ!」
徹底されたセキュリティ(情報隔離)を守りつつ、サリマたちは吹雪を突いて裏山の二重結界隠し地下大工房へ向かって走り出したのだった!
◇
【地下大工房での極密調合】
ブワァァァッ……!
二重結界を潜り抜け、暖かな地下大工房へと踏み込んだサリマたち。
サリマは3歳の誕生日にドワーフのバルドから貰った『魔導ルーンの万能調合具(卓上リアクター)』の前に立った。
(ターゲット設定:柑橘皮と雑穀培養液から精製した高純度ペニシリン抽出液! 【キン】のスキルで不純物を完全分解し、胃酸に耐える『経口用・精製バイオペニシリンエキス』として濃縮調合しなさい!)
サリマは調合具に両手をかざし、全身の【キン】の波動を注入した。
シュワシュワシュワ……!
漆黒の調合具の中で、エメラルドグリーンの光を放つ透明な薬液が生成されていく。
さらに、サリマは冬場野菜のハウスで収穫した「カブモドキの濃縮ジュース」と「発酵麦芽シロップ」をブレンドし、壊血病や熱病で消耗した身体を急速回復させる『特製・高濃度ビタミンアミノ発酵エキス』も同時に仕上げたのだ!
そばで見つめていたリラとカイが、感嘆の声を上げた。
「すごい……! サリマ様の魔力と調合具が反応して、エメラルド色に輝くお薬ができたわ……!」
「これなら……これなら王都の人たちも絶対に助かりますっ!」
サリマは完成した『経口用バイオペニシリンエキス』と『高濃度ビタミン発酵エキス』を、ドワーフが作った精巧なガラスの小瓶(各二十本)へと慎重に注ぎ分けた。
「出来たよ! これが、熱病と腐敗菌を体の中から撃滅する『万能発酵傷薬&回復エキス』よ!!」
◇
【驚愕の効能と破格の取引】
サリマたちは小瓶の詰まった木箱を抱え、吹雪を突いて表のボロ小屋へと戻った。
ボロ小屋でソワソワと待っていたクラウスは、木箱を受け取ると、震える手でエメラルド色の小瓶の蓋を静かに開けた。
ぽんっ……。
ふわり……っ!
小瓶から、清涼感のある爽やかなハーブと発酵の香気が漂い出した。
「こ……これが……『万能発酵傷薬』……!」
「クラウス様! これ、一滴でお水に混ぜて飲ませてね! あと、傷口にはこの青カビ軟膏を塗るの!」
サリマが小瓶と軟膏の小鉢を指さしながら、使い方をハッキリと説明した。
クラウスは木箱をまるで国家の至宝でも扱うかのように大切に抱きしめ、サリマの前に膝をついた。
「サリマ様……ガノス村長……! この恩、一生忘れません! すぐに王都へ戻り、病に倒れた者たちへ投与いたします!」
クラウスは懐から、ずっしりと重い革袋を取り出し、テーブルの上へと置いた。
ジャラララララッ……!!
袋から溢れ出たのは、眩いばかりの光を放つ【本物の金貨の山(四百枚)】であった!
「な……四百枚の金貨だとぉぉぉっ!?」
ガノスとカイが目を見開いた。
クラウスは固い決意に満ちた目で言った。
「この薬は……ただの薬ではない。人の命を死の淵から引き揚げる『神の奇跡』だ! 小瓶一本につき【金貨二十枚】の価値がある! 今後もこのお薬を定期的に提供していただけるなら、我がクラウス商業連合の全力を挙げて、アルカ村を後ろから支援させていただきたい!!」
「金貨二十枚……! 了解しました、クラウス様! お友達を救ってあげてください!」
サリマがニカッと太陽のような笑顔を見せると、クラウスは感涙を流し、大急ぎで馬車へと乗り込み、王都へ向かって嵐のように疾走していったのだった。
◇
【王都からの吉報とさらなる飛躍】
数週間後。
吹雪が和らいだある日、クラウスからの緊急の使い(隠密飛脚)がアルカ村へと届いた。
ガノスが手紙を読み上げると、ボロ小屋の中に大きな歓声が沸き起こった!
「やった……! やったぞサリマ!! クラウス様からの手紙だ!」
ガノスが興奮で声を震わせた。
「サリマのお薬を飲んだ王都の幹部たちや、宮廷筆頭貴族(公爵様)が……わずか二日で高熱が下がり、化膿が綺麗に消えて全員完全に快復されたそうだ!!」
「まあ……! 全員無事に助かったのですね……!」
エリスが胸を叩いて安堵の涙をこぼした。
手紙には、クラウスからの溢れんばかりの感謝の言葉とともに、こう記されていた。
『公爵様は感動のあまり“この秘薬を作ったお方を我が館にお招きし、一生の恩人として破格の待遇で迎えたい”と仰っておられます。しかし、約束通りサリマ様と村の秘密は死んでも守り抜きます。“最果ての地の名もなき高潔な錬金術師の仕業”としてお伝えしておきました。今後も小瓶一本=金貨二十枚で、定期的な買い取りを懇願いたします』
「ふふん! 完璧な対応ね、クラウス様!」
3歳1ヶ月のサリマは、小さな胸を張って「サムズアップ」をして見せた。
カイとリラも目を輝かせてサリマの周りに集まった。
「サリマ様……! 王都の大貴族の命まで救ってしまうなんて、本当に凄すぎますっ!」
「これで、クラウス様だけでなく、王都の大貴族までが僕たちの『裏の後ろ盾』になってくれたんだね!」
「うん! これで代官ゴルドーが何を企んでも、絶対に負けないよ!」
サリマが親指をグッと立てると、ガノス、エリス、カイ、リラ、そしてピートたち村人全員から、割れんばかりの歓声と拍手が送られた。
表向きは貧しい寒村を擬態しつつ、裏では王都の大商人や最高級貴族を太いパイプで結び、莫大な金貨と絶対の医療技術を備えた『発酵隠密要塞都市』。
3歳1ヶ月を迎えた天才バイオ幼児サリマの知恵と開拓は、最果ての村の枠を遥かに超え、異世界の歴史そのものを鮮やかに塗り替えながら、どこまでも力強く、誇らしく進んでいくのだった。




