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■ 第22節:【2歳6ヶ月〜2歳8ヶ月/6月〜8月(初夏〜夏)】後編

■ 第22節:【2歳6ヶ月〜2歳8ヶ月/6月〜8月(初夏〜夏)】後編


【ダンの危機とバイオ抗生物質の精製】


「誰か……! 誰か助けてくれぇぇぇっ!!」


山から戻ってきた狩人のダンが、カイとピートに肩を貸され、血まみれになって広場へと倒れ込んできた。


「ダン!? どうしたんだ、一体なにがあった!?」


ガノスとエリス、そしてサリマたちが駆け寄る。


ダンの右足の太ももには、魔物の爪で引き裂かれたような深い傷が刻まれていた。傷口は赤黒く大きく腫れ上がり、ドロリとした黄色い膿が溢れ出している。ダンは全身をガタガタと激しく震わせ、意識を失いかけて高熱でうなされていた。


「ひ……酷い……! 山で倒木の下敷きになり、爪傷から『悪霊の毒(細菌感染)』が回っちまったんだ……! 傷口が腐り始めてる……っ!」


カイが青ざめた顔で叫ぶ。


最果ての地に、まともな医師や魔法医など存在するはずもない。この世界において、傷口の化膿による破傷風や敗血症は、即座に「死」を意味していた。


「ダン……! しっかりしろ、ダンっ!!」


ガノスがダンの体を抱きしめて叫ぶが、ダンの体温は灼熱のように熱く、呼吸はどんどん浅くなっていく。


「そんな……ダンさん……! 死んじゃ嫌だ……っ!」


リラが涙をポロポロとこぼす。


(敗血症……! 傷口からのブドウ球菌・緑膿菌の重度感染症(バイオハザード)よ!!)


サリマの瞳から幼気の光が消え、前世の社畜バイオ研究者としての冷徹で絶対的な集中力が覚醒した!


(このままだと24時間以内にショック死する……! 水で洗うだけじゃダメ! 殺菌抗生物質(アンチバイオティクス)が絶対に必要よ!!)


サリマはトコトコとカイの前へ走り込み、カイの服の裾を強く引っ張った。


「カイ! 泣かないで! ダン、死なせない! さりま、お薬つくるから、手伝って!!」


「え……? サリマ様……お薬って……こんな酷い化膿を治す薬なんて、王都の宮廷錬金術師でも無理ですよ……!?」


カイが目を剥く。


「できる!! さりまの【キン】の力があれば、絶対できる!! リラも、来て!!」


サリマのあまりにも力強く、絶対の自信に満ちた瞳に、カイとリラはハッと息を呑んだ。


「は……はいっ! サリマ様、何でも命令してくださいっ!!」


◇


【バイオペニシリン(青カビ軟膏)の誕生】


サリマはカイとリラを従え、ボロ小屋の奥の作業場へと駆け込んだ。


サリマが取り出させたのは、秋に収穫して保存しておいた「柑橘類の皮」と「雑穀の果皮」、そしてドワーフから貰った「発酵用の麦芽汁」であった。


柑橘類や穀物の表面には、自然界に存在する有用な『青カビ属(ペニシリウム属の原種)』の胞子が付着している。


(ターゲット設定:柑橘と穀物の青カビ胞子! 【キン】のスキルで、人体に有害なマイコトキシン(カビ毒)を発生させる悪性株を100%排除! 細菌の細胞壁を破壊する『天然ペニシリン産生株』だけを選択的・急速増殖させなさい!!)


サリマは小さな両手を麦芽汁の入った土壺に押し当て、全身の【キン】の波動を叩き込んだ!


シュワシュワシュワ……!


土壺の中で、目に見えるスピードで青緑色の美しいカビの膜(ペニシリン培養液)が形成されていく。


そばで見つめていたリラとカイが、口ぐぐぐと開けて絶句した。


「す……すごい……! 土壺の中で、青いカビが……生き物みたいに育っていく……!?」


「リラ! これ、布でこして! 液体だけ取り出す!」


「は、はいっ!」


リラが震える手で布をかざし、サリマが培養した青カビの液体(粗製ペニシリン抽出液)をろ過した。


サリマはさらに、その抽出液に「蜜蝋(ミツロウ)」と「精製したジビエの脂(ワセリン代替)」を混ぜ合わせ、滑らかな『発酵・殺菌塗布軟膏(バイオペニシリン軟膏)』を作り上げたのだ!


「出来た……! これが、傷口の腐敗菌を殺す『魔法の塗り薬』よ!!」


サリマは完成した青緑色の軟膏を小鉢に盛ると、広場へと走った。


◇


【劇的な回復と新たな絆】


広場では、ガノスとエリスが瀕死のダンに付き添い、祈るように背中を擦っていた。


「お父ちゃん! これ、ダンの傷口に、たっぷり塗って!!」


サリマが小さな手で軟膏の小鉢を差し出す。


「サリマ……!? これが、お薬なのか……?」


ガノスは迷うことなく、サリマの作った青緑色の軟膏を手に取り、ダンの赤く腫れ上がった太ももの深傷へと、たっぷりと塗り込んだ。


すると——信じられない奇跡が起きた!


ジュワァァァ……ッ!


軟膏が傷口に触れた瞬間、黄色い膿が泡を立てて分解され、黒く腫れ上がっていた傷口の炎症が、目に見えるスピードでスーッと引いていったのだ!


「な……なんだ……!? 傷口の熱が……冷めていく……!?」


ガノスが叫んだ。


さらに数時間後。


うなされていたダンの体温が劇的に下がり、荒かった呼吸がスーッと静かな寝息へと変わった。

ダンが静かに目を開けたのだ。


「ん……? 俺は……一体……?」


「ダンーーーーーっ!! 気がついたかダンっ!!」


ガノスと村人たちが抱き合い、歓喜の涙を流した!


「信じられない……! あんな絶望的な化膿と高熱が、たった数時間で完治に向かうなんて……! 神の奇跡だぁっ!!」


作業を手伝っていたカイとリラは、呆然とその光景を見つめた後、2歳6ヶ月のサリマの前に感涙を流してひざまずいた。


「サリマ様……! あなたは……あなた様は本当に、天から降ってきた神様なのですか……っ!?」


カイが声を震わせる。リラも涙を拭いながら手を取り合わせた。


「カイ、ちがうよ! さりま、バイオ研究者……じゃなくて、みんなのサリマだよ! カイとリラが手伝ってくれたから、ダンは助かったんだよ!」


サリマがニカッと太陽のような満面の笑顔を見せると、カイとリラは「サリマ様ぁぁぁっ!」と大泣きしてサリマに抱きついた。


◇


【2歳8ヶ月(8月下旬・結実)】


8月下旬。

すっかり太ももの傷が完治し、元気に弓を担いで走り回るダンの姿があった。


「ガハハ! サリマ様のお薬のおかげで、傷跡も残らず元通りだ! 今日も山で大きな獲物を獲ってくるぞ!」


「ダン、無理しちゃダメだよー!」


サリマが手を振ると、ダンは嬉しそうに山へ向かって走っていった。


新しく加わったカイやリラたちの労働力により、共有畑の収穫量は過去最高を更新し、地下工房での清酒や発酵肉の仕込みも、これまでにないハイスピードで進んでいた。


ボロ小屋の前で、カイとリラがサリマを囲み、楽しそうに新しい『薬草園』の雑草抜きを手伝っていた。


「サリマ様、この青カビの軟膏があれば、もう誰も怪我や病気で死なずに済みますね!」


リラが目を輝かせる。


「うん! カイとリラが手伝ってくれるから、もっとたくさんのお薬や、美味しい食べ物が作れるよ!」


「はいっ! サリマ様のためなら、俺たちどこまでもついて行きますっ!」


カイが力強く胸を叩く。


サリマは二人の頼もしい姿と、元気に働く村人たちの笑顔を見渡し、前世のアラサー社畜バイオ研究者としての胸の中で、誇らしく頷いた。


(ふふん! 深刻だった労働力不足も、避難民のカイたちを受け入れたことで完全解決ね!)


(さらに『天然発酵抗生物質(バイオペニシリン)』の精製にも成功して、村の医療・自給体制は完璧になったわ!)


(表向きは貧しい寒村を装いながら、裏では最高の食糧、莫大な金貨、完璧な防衛と医療を備えた『発酵隠密理想郷』……!)


サリマはガノスとエリスの手をぎゅっと握り、初夏の爽やかな空を見上げた。


2歳8ヶ月を迎えた天才バイオ幼児サリマの挑戦は、頼もしい新しい仲間たちとともに、さらなる輝かしい未来へ向かって、どこまでも強く、たくましく歩み続けていくのだった。

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