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■ 第22節:【2歳6ヶ月〜2歳8ヶ月/6月〜8月(初夏〜夏)】前編

■ 第22節:【2歳6ヶ月〜2歳8ヶ月/6月〜8月(初夏〜夏)】


初夏の爽やかな風が、青々と茂るアルカ村の共有畑を吹き抜けていく。

しかし、村長ガノスと農夫のピートは、畑の脇で頭を抱えて深いため息をついていた。


「うーむ……弱ったな。畑の規模を広げ、地下工房での清酒づくりや肉の解体作業が増えたせいで、人手がまったく足りん……!」


ガノスが汗を拭いながら困り顔で呟く。


「そうなんですよ村長! 畑の雑草抜きにジビエの解体、裏山からの薪の切り出しまであって、村人80人じゃ体がいくつあっても足りません! 俺たち若い衆も連日ヘトヘトです……」


ピートも肩を落とす。村が豊かになり、生産拠点が「地下大工房」まで広がったことで、アルカ村は深刻な『労働力不足』という壁にぶち当たっていたのだ。


「お父ちゃん! ピート! お仕事、たいへん?」


2歳6ヶ月を迎えたサリマが、小さな手押し車を押しながらトコトコと二本の足で走り寄ってきた。


「おお、サリマ。いやなに、村の仕事が増えすぎて、人手が足りなくて困っていたんだよ」


ガノスがサリマの小さな頭を優しく撫でる。


サリマ(明日香茅理紗)は、前世のアラサー社畜バイオ研究者としての脳内で、即座に現状の経営リソース(人員配置)を再計算した。


(うん、完全にオーバーワーク(過小人員による業務過多)ね! 畑の耕作、生ハムや味噌の加工、清酒のナノろ過、ドワーフの鍛冶場の手伝い……。村人80人の大半が肉体労働で限界を迎えてるわ。このままだと疲労による怪我や病人が出ちゃう!)


(労働力(マンパワー)を増やさなきゃいけない……。だけど、代官ゴルドーに怪しまれずに『新しい人手』を確保するにはどうすれば……?)


サリマが腕組みをして小さな首をひねっていた、まさにその時——。


「村長! 村長はいるか! 大変だーーーっ!!」


村の入口から、狩人のダンが悲鳴のような叫び声を上げて駆け込んできた。


◇


【新メンバーとの出会い】


「どうしたダン! そんなに慌てて!」


ガノスが駆け寄る。ダンは息を荒らしながら、街道の方向を指さした。


「隣領の村から逃げ出してきた避難民だ! 代官ゴルドーの酷い重税で村が崩壊し、着の身着のままで山を越えて倒れ込んで来やがった! 身寄りのない若い連中ばかり、四人だ!!」


「なに……!? 隣領の避難民だと!?」


ガノスとピートが顔を見合わせ、急いで村の入口へ向かった。サリマもトコトコとガノスの後ろを追いかける。


村の柵の傍らには、ボロボロの服を纏い、泥と傷にまみれた若い男二人と少女二人が、力尽きて倒れ込んでいた。全員ガリガリに痩せこけ、肌は乾ききっている。


その中で、一番年長と思われる15歳ほどの少年が、弟や妹たちを庇うように立ち上がり、震える手で錆びたナイフを構えた。


「く……来るな! 俺たちは……ただの逃亡民だ! 追い払うなら殺していけ!」


少年の瞳には、理不尽な世界への強い絶望と、仲間を守ろうとする必死の光が宿っていた。


「カイ、もうやめて……! わたし、お腹が空いて……」


後ろで倒れ込んでいる13歳ほどの少女が、消え入るような声で少年の服の裾を掴む。


ガノスは静かに両手を挙げ、穏やかな声で語りかけた。


「安心しなさい、若者よ。俺たちは代官の手先じゃない。アルカ村の村長ガノスだ。……包丁を下ろしなさい。怪我はないか?」


「え……? 追っ手じゃない……のか……?」


少年——カイは呆然と手からナイフを落とした。

少女——リラも涙をポロポロとこぼしながら、その場に崩れ落ちた。


エリスが急いで温かい野草茶と、サリマが作った「発酵雑穀お粥」を持って駆けつけてきた。


「さあ、お飲みなさい。お腹が空いていたでしょう」


「あ……ありがとう……ございます……っ!」


カイとリラ、そして他の二人の少年たちは、差し出されたお粥を貪るように食べ、涙を流して貪り食った。


「う……美味い……っ! なんだこの温かくて甘いお粥は……っ! 俺たちの村じゃ、雑穀の殻すら奪われていたのに……っ!」


カイがボロボロと大粒の涙をこぼす。


サリマはその光景を静かに見つめ、前世のアラサーバイオ研究者としての知性をフル回転させた。


(……見つけたわ! アルカ村の深刻な労働力不足を解決する、最高の『新しい仲間たち』を!!)


サリマはトコトコとカイの前へ歩み寄ると、小さな手でカイの泥だらけの手をギュッと握りしめた。


「お兄ちゃん! もう、こわくないよ! ここで、一緒にご飯食べて、お仕事しよう!」


「え……? あ、赤ちゃん……!?」


カイとリラは、2歳6ヶ月のサリマがこれほどハッキリと喋り、力強い眼差しで見つめてくることに、口を開ぐぐぐと開けて言葉を失った。


ガノスが深く頷き、力強く宣言した。


「カイと言ったな。お前たちさえ良ければ、このアルカ村で暮らさないか? 表向きは『俺の家の住み込み使用人』や『遠縁の親戚』として代官には説明する。畑仕事や作業を手伝ってくれれば、温かい飯と寝床を保障するぞ!」


「ほ……本当ですか……!? 俺たちを……雇ってくれるのですか……っ!?」


カイとリラはガノスの前に膝をつき、地擦りのように深々と頭を下げた。


「ありがとうございます……! ありがとうございます村長様! 俺たち、どんな辛い仕事でも、死ぬ気で働きますっ!!」


こうして、カイ(15歳)、リラ(13歳)をはじめとする4人の若者が、アルカ村の『新しい仲間』として加わることになったのだ!


◇


【2歳7ヶ月(7月初旬・盛夏と危機)】


新しい仲間であるカイとリラたちの加入により、アルカ村の労働環境は劇的に改善された。


「カイ! こっちの薪割り、手伝ってくれ!」

「はいっ! ピートさん、すぐ行きますっ!」


「リラちゃん、サリマ様の作られた『カブモドキのキムチ』を壺に詰めるのを頼むわね」

「はい、エリス様! 手伝わせていただきますっ!」


カイは並外れた体力と真面目さで、薪割りや重い荷物の運搬をバリバリとこなし、手先の器用なリラは、エリスの家事や発酵食品の仕込みを完璧に補佐した。


サリマの読み通り、彼らは代官への強い憎しみと、村への深い感謝の心を持っており、どんな泥仕事も笑顔でこなす最高の労働力となったのだ。


さらに、カイとリラは、2歳6ヶ月のサリマがただの幼児ではなく、村の全ての技術と知恵を仕切る「天才バイオ指揮官」であることを即座に察知し、サリマを「サリマ様」と崇めて深く忠誠を誓うようになっていた。


「サリマ様! 今日の畑のコンポスト肥料の準備、完了しましたっ!」


カイがサリマの前でシャキッと直立不動で報告する。


「カイ、ありがと! パラパラ〜って、上手く撒けたね! 100点!」


サリマが小さな親指を立てて「サムズアップ」をすると、カイは「サリマ様に褒められた……!」と顔を真っ赤にして感涙した。


リラもサリマの横で、小さな薬草ポーチを持ちながらクスクスと微笑む。


「サリマ様は本当に凄いですわ。私よりも小さいのに、村のお仕事の全てを把握していらっしゃるなんて……!」


「リラも、手先が器用で、すごいよ! さりまの助手(アシスタント)一番乗りね!」


「助言……アタシがサリマ様の助手ですか!? 嬉しいですっ!」


新メンバーとの温かな信頼関係が築かれ、村の生産体制は盤石と思われた。


——しかし。


盛夏の日差しが照りつける7月中旬、大きな悲劇と試行錯誤の危機がアルカ村を襲った。

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