↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/32

第18節:【2歳0ヶ月(2歳の誕生日)/12月25日】 2歳の誕生日! 秘伝酒『水晶(クリスタル)』の完成と村の『大感謝祭』

■ 第18節:【2歳0ヶ月(2歳の誕生日)/12月25日】


2歳の誕生日! 秘伝酒『水晶(クリスタル)』の完成と村の『大感謝祭』

【12月25日(2歳の誕生日・夜)】


しんしんと舞い降りる白い雪が、最果てのアルカ村を神秘的な銀世界へと変えていた。

村の外れ、裏山の切り立った赤岩の断崖絶壁——あの『結界隠し地下大工房』の中は、ドワーフの土魔法とサリマのバイオ調湿膜により、年中と変わらぬ「12度前後・湿度65%」の澄み切った暖かな空気に包まれている。


今夜、この外部からはただの岩壁にしか見えない「結界の中の地下大ドーム(中央広場)」に、アルカ村の全村人80人と、極密協定を結んでいるドワーフの小頭バルド率いる職人たちが一堂に集まっていた。


「とうた! かぁか! みんな、そろったよ!」


2歳0ヶ月——ついに2歳の誕生日を迎えたサリマは、あの極上のバイオシルクでエリスが縫い上げてくれた、雪のように真っ白で軽やかなお祝い着を身に纏い、トコトコと元気いっぱいの二足歩行で地下工房の広場を駆け回っていた。


「がはは! 早いなぁサリマ! 広々とした地下広場を一人で元気よく走り回って……本当にお父ちゃんは嬉しいぞ!」


ガノスが作業着の袖で涙を拭いながら、真新しい木製の祝い樽を広場の中央テーブルへと運び込む。


「本当に……。代官の手下たちからこの宝物を守るために、ドワーフさんたちとこの大工房を作れて良かったですわね。ここなら大人数集まっても温かいですし、外に音も匂いも漏れませんもの」


エリスがかまどで煮出した温かい野草茶の香気を漂わせながら、感慨深気(かんがいぶか)に広場を見渡して微笑んだ。


そう、代官の兵士たちの捜索を完全に遮断しているこの地下大工房こそが、村人80人とドワーフたちが安全に集まれる唯一の「秘密の集会場」なのだ。


サリマは自分の小さな手を見つめ、前世の29歳アラサーバイオ研究者・明日香茅理紗としての記憶と、この2年間で歩んできた軌跡を脳内で振り返っていた。


(受精卵というたった一つの細胞からスタートした私の異世界サバイバル……。0歳の頃は首すら据わらず喋れなくて悶絶したけれど、1歳になって歩いて喋れるようになってからは、ドワーフとの地下大工房建設、カブモドキのキムチ開発、悪徳代官ゴルドーへの『全家屋破壊捜索返り討ち』と『減税交渉』……そして、大粘糸グモの糸から作った『ナノろ過シルク膜』による至高の透明清酒『水晶(クリスタル)』の完成……!)


(泥臭く試行錯誤を重ねてきた私のバイオの知恵が、ついにここまで実を結んだのね……!)


サリマが誇らしく胸を張っていると、集まった村人たちやドワーフたちから、割れんばかりの歓声が巻き起こった!


「サリマ様ーっ! 2歳のお誕生日おめでとうございますーーーっっっ!!!」


「サリマ様! 村のみんなで作った新しい木彫りのおもちゃです!」

「サリマ様、ドワーフの職人みんなで鍛えた特製の小さな匙ですよ!」


「みんな、ありがと! さりま、とっても嬉しい!」


サリマが2歳児らしいハッキリとした口調でお礼を言うと、村人たちから「可愛い……!」「なんて賢いお子様だぁっ!」と温かな笑顔が広がった。


ドワーフの小頭バルドが、赤髭を揺らしながらサリマの前で豪快に膝をついた。


「サリマ様! 俺たちドワーフ族からの誕生日プレゼントじゃ! 受け取ってくれ!」


バルドが差し出したのは、ドワーフの極上鋼鉄と魔導鉱石で鍛え上げられた、サリマ専用の小さな『魔法のバイオ実験調合鉢(メス&マドラー機能付き)』であった。


「わぁぁ……! バルド、これ……! 凄くカッコいい!!」


サリマの目がバイオ研究者としての本能で輝いた。小さな手にしっくりと馴染む重厚な打感と、魔力を帯びた金属の質感。


「ガハハハハ! お気に召していただけて光栄じゃ! 外の冒険者どもや代官には一切見せぬ、俺たちとサリマ様だけの秘密の道具じゃからな!」


バルドが大泣きしてサリマの小さな肩をぽんぽんと撫でた。


◇


【結界地下工房での大宴会】


やがて、地下大工房の中央に据えられた大きな炉の火を囲み、サリマの2歳の誕生日を祝う盛大な宴(大感謝祭)が開始された。


広場の長テーブルの上に並べられたのは、サリマの知恵と村の絆が生み出した奇跡の料理の数々だ。


サリマが品種改良し乳酸発酵させた「カブモドキのシャキシャキキムチ」、ドワーフの罠と熟成味噌タレで漬け込んだ「岩甲イノシシの極上ジビエ味噌焼き」、そしてサリマの【キン】の酵素で柔らかく仕上がった「トゲイノシシの発酵生ハム」。


外の冒険者ラグナスたちには、事前に表の村の広場で「狩りの報酬」としてこれらの加工肉を一部分け与えて納得させてあり、この地下工房の存在も、ここで作られている秘伝酒の真のクオリティも、彼らには一切伏せられている。厳重な情報管理(セキュリティ)のもとで守られた平和だった。


村の狩人ダンが、ジビエ肉を豪快に噛み砕いて叫んだ。


「美味いっ!! 美味すぎるぞ! 噛むたびに肉汁と味噌のコクが溢れて、外の吹雪なんて完全に忘れちまう!」


「そうだ! 酒だ! 今日の主役、サリマ様が二年間仕込み抜いて作られた……あのお酒を出してくれぇぇぇっ!」


ピートの言葉に、全場の視線が広場の中央へ集中した。


村長ガノスとバルドが、大切そうに抱えて上がってきたのは、先月ナノろ過シルク膜によって不純物を100%削ぎ落とした、あの『至高の透明清酒(原酒一号)』が詰まった大型ガラス樽であった。


ガノスが震える手で、ガラス樽のバルブをひねる。


とろ〜り……。


透き通った小杯に注がれたその液体は——不純物が一滴もなく、まるでダイヤモンドや水晶を溶かしたかのように美しく、神聖な光を反射していた。


そして、樽から溢れ出たその香気が、広々とした地下工房全体へ広がった瞬間——。


ふっ……ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……っ!!


「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?」」」


広場にいた村人80人とドワーフたち全員が、雷に打たれたように完全に硬直した。


熟した果実の甘い香気、清冽な湧き水の透明感、そして胸の奥をふんわりと解きほぐし、全身の血流と細胞を覚醒させるような圧倒的な芳香。


「な……なんだこの香りは……!? 息を吸うだけで、身体の底から熱い元気が湧き上がってくるようだ……!」


ダンが目を剥き、手で杯を包み込んだ。


「ガハハ……! ドワーフが百人生きて醸す酒すら、この一本の前には泥水に過ぎん……! まさに代官の手下どもには絶対に見せられぬ『至高の水晶(クリスタル・サケ)』じゃぁっ……!」


バルドが感動の涙をボロホロと赤髭にこぼした。


ガノスが全員へ向けて、小杯を掲げた。


「俺たちの村を救い、俺たちに生きる勇気と笑顔を与えてくれた……愛する息子サリマの2歳の誕生日に! そして俺たちの絶対の秘密と絆に……乾杯ーーーっっっ!!」


「「「乾杯ーーーーーーーーーーっっっ!!!!」」」


全員が一斉に、透明な水晶清酒を口へと運んだ。


ごくり……。


「……っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」


静寂の後、地下工房全体を揺るがすような、地鳴りのごとき大歓声と涙が弾けた!


「美味い……っ!! 美味すぎるぞチクショウ……っ!! 雑味が一切なく、口の中でとろけるような甘みと旨味が弾けて、全身にエネルギーが満ち溢れてくる……!!」


「生きてて良かったぁぁぁっ! 代官に隠してこんな素晴らしいお酒が飲めるなら、この村で生きてきて本当に良かったぁぁぁっ!」


「サリマ様! サリマ様バンザイ! 至高の酒造家だーっ!」


村人たちとドワーフたちが肩を抱き合い、号泣しながら杯を汲み交わした。


ドワーフの魔法技師たちが仕掛けた「祝いの魔導花火」が、外に光が漏れぬよう地下工房の天井近くで静かに美しい七色の光を咲かせ、聖夜の宴を華やかに彩っていく。


◇


【宴のあとの静けさ】


宴が夜深くになり、村人たちがそれぞれの家へと引き揚げたあと。


温かい火がくべられたボロ小屋の家族の部屋で。


ガノスとエリスは、2歳になったサリマを二人で優しく膝の上に抱きしめていた。


「サリマ……サリマ……! お前が俺たちの元に生まれてきてくれて……本当に良かった。ありがとうな、サリマ……!」


「ええ……! あなたは私たちの、そしてこの村全体の最高の宝物ですわ……!」


両親のあたたかな胸の温もりと、溢れんばかりの深い愛。


サリマは胸の奥がカッと熱くなり、小さな手で二人の首をぎゅっと抱きしめ返した。


前世の社畜時代、暗いラボで深夜まで一人でパソコンの画面を見つめ、誰からも感謝されずに孤独に倒れて死んだ二十九歳の記憶。

けれど今——自分にはこんなにも深く愛してくれる両親がいる。自分が科学とバイオの知恵で救い上げた、たくさんの仲間の笑顔がある。


(あきらめずに試行錯誤を重ねてきて、本当によかった……!)


エリスが小さな器から、サリマが大好きな「黄金色の麦芽シロップ」を木匙でひと滴すくうと、優しくサリマの唇へ乗せてくれた。


ちゅ……ちゅぽ。


(……っ〜〜〜〜〜〜〜!! 甘い!! やっぱりこの麦芽シロップの味は、世界で一番美味しいわ!!)


サリマはちゅうちゅうとシロップを味わうと、ニカッと太陽のような満面の笑顔を浮かべた。


「とうた! かぁか! だいすき!」


「「サリマ……!!」」


ガノスとエリスがサリマを強く抱きしめた。


サリマは両親の膝の上でしっかりと自立し、満ち足りた思いで窓の外の美しい雪空を見上げた。


(細胞時代から始まった、私の泥臭い0歳・1歳サバイバルはこれで完全に大成功で完結よ!)


(でも……私の物語はここからが本当のスタート!)


サリマの瞳(前世のアラサーバイオ研究者の知恵を宿した瞳)が、力強く、そして未来に向かって頼もしく輝く。


(二年間の試行錯誤で完成させた私のバイオ技術、ドワーフの古代魔法と鉄具、そしてこの至高の透明清酒『水晶』……。これがあれば、もう悪徳代官の脅威なんて過去のものよ!)


(これからは、この本物の価値を秘密裏に理解できる信頼できる外の商人(王都の大商人クラウス)と極密に繋がり、この最果てのアルカ村を13州一の『バイオ醸造・隠密要塞都市』へと発展させて……)


(いつかお父さんとお母さんと一緒に、堂々とこの至高の酒で『最高の家飲み』をしてやるんだから!!)


家族の深い愛と、試行錯誤の科学の知恵、そして甘い麦芽シロップの味とともに——。

2歳を迎えた天才バイオ幼児サリマの異世界での新しい人生は、さらなる輝かしい未来と美味にあふれた世界へ向かって、力強く歩み始めていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。