18.目に見えるものが全て幻なのか、それとも幻と限らないのか。
和葉が冷笑を向ける先には男が二人。
一人はイヴァン。
もう一人は見知らぬ男。
イヴァンの部下と見ていいのだろうが、イヴァンの横に並ぶ姿を見ると何ともみすぼらしく思えてしまう。
それだけイヴァンに貫禄があるのだろうか。
ただ単に、この男に威風がないだけなのか。
どちらも和葉を見て、驚いているようだ。
「どうしました?
僕の顔に何かついているのですか?
おかしいですね。
朝、ちゃんと顔を洗った筈なのですが」
和葉はとぼけ、わからないふりをした。
彼ならではの、いつものやり方。
そして、誰であろうと気負いもせず、臆すもしない道化師――
どうやって相手をなぶろうかとする猫の狩り。
「どうしてだ。お前はあそこにいた筈だ」
イヴァンよりも早く、もう一人の男が窓――の向こうに見える瓦礫の山――を指差した。
双眼鏡を手にしていることから、和葉が病院跡に入っていくところをしっかりと視認したとでも言いたいのだろう。
和葉は再び冷笑を浮かべる。
男が睨んでくる。
機関拳銃――スチェッキンを抜き、向けてくる。
和葉の態度が余程癪に障ったと見える。
「僕が病院跡に入っていくところを見たのに、ここにいることが信じられないということですか。なるほど。
では、あえて聞きましょうか。
本当に見たのですか? 〝僕が入っていくところ〟を。
〝見たつもりになっている〟だけとは、考えられませんか?
――いえ、つもりになってしまっているので、考えるに至りませんかね」
「グダグダと言うな。
お前はあの瓦礫の下に埋まっている筈だろ!」
「そう喚かれても、〝僕はあそこへと入っていない〟ので物理的にありえません。
あそこには咲耶霞と漆原千代――と言っても通じるのかわかりませんが、〝二人〟のみです。
僕は敷地の前まで足を運んだことは事実ですが、そこから引き返してこちらへとやってきた次第です。
あなたは僕以外の何か――そうですね、〝僕の幻〟でも見たのではありませんか?
そう、たとえば〝これ〟を見たんですよ」
和葉は懐へと手を入れると、紙切れを取り出した。
何気なく宙へと放れば――
和葉がもう一人、和葉の横に並んでいた。
どちらも全く同じ。
双子以上にそっくりで、鏡に映す以上に同じ和葉。
「僕が、もとよりあなたたちと戦うなんて無理なんですよ。
なので、欺かせていただきました。
これは僕の意思のとおりに動くものなんです。
そして、これからも僕へと何を見てきたのか、漠然としたものでありますが、伝えるようになっています。
魔具や魔術の一つなんですが、あなたに言ってもわかってもらえるか、疑問ですけどね。
それで、あの中に入った二人はというと――どうなのか知りません。
どうなったって構わないので、知らなくてもいいことですけどね。
何かあれば、連絡を入れてくるでしょうし」
和葉がもう一人の和葉へと触れると、もともと何もなかったかのように消えてしまった。
正しく、〝幻でも見ていた〟かのように。
「ちっ、手品かよ。
で、どうする気だ?
戦うのが無理と言っておきながら、どうして俺の前に現れた?
俺の前に出てきて、どうにかできると思ったのか?」
「さあ、どうなんでしょうかね。
そもそも、僕はイヴァン大佐に用があったわけで、あなたのような下っ端に会いに来たわけではないので。
そうですね――暴力では軍人崩れに勝てませんので、〝僕らしく〟いかせてもらいます――」
和葉は再び懐へと手を入れた。
◇
何度もむせ返る影とその背中をさする影――雨風に晒されている霞と千代。
「――さすがに、無理しすぎたかな。
体が持たないわ」
霞は息を整えると、その場に座り込んだ。
地面の上だということを気にしなければ、雨風に晒されていることすらも気にしてない――体を休ませたい気分が強かった。
「霞姉さん、こんなところに座らないで場所を移しましょう。
それに、霞姉さんがいなければ、私は今頃瓦礫の下です。
私を助けるまでできたのですから、まだ少しぐらい動ける筈です」
千代が霞の腕を引っ張りあげる。
霞は立ち上がりたくない気持ちを息とともに吐き出し、ゆっくりと立ち上がる。
力が入らないのか、風にあおられているのか、足元が覚束ない。
二人の後方――少し離れたところには瓦礫の山がある。
二人が先程までいた病院跡の成れの果てである。
そして――
イヴァンの部下が和葉を始めとした、中へと入ってきた者たちを罠にはめるべく崩壊させたものだ。
二人が外にいる理由として、病院跡の異変を感じ取った霞が、千代を引き連れて外へと脱出したのである。
霞が千代よりも感応性がよかったことと、体に〈異能〉を宿しているからこその人間離れをやってのけたこと、それに和葉が二人に病院跡を任せるぐらいのことであるから、罠があるとあらかじめ念頭に入れてあったからこその用心が、脱出に至ったといえる。
霞は千代に引き連れられ、近くの建物の軒下へとやって来た。
病院跡から見えない位置に隠れ、雨風を完全とまでいかなくとも凌ぐことができ、体を少しでも休められるのはないかと見てのもの。
でなければ、一時的に身を隠せるための場所。
霞は〝力尽きた操り人形〟、もしくは、〝糸の切れた労働者〟のように、座り込んだ。
ぐったりとしながらも顔を上げれば、千代が周囲に警戒の目を向けている様を見ることができる。
千代が一点を見据え――
「栗花落ビルで、大掛かりな魔具の展開がなされたようです。
ロシア人の襲撃でしょうか?」
それに対して、霞は小さく笑んで返す。
千代は訝しき、見下ろしてくる。
「他の誰かが、行使したということですか?
これほどの力を持った魔具、そして、扱える者など思い当たりませんが」
「本当にそう思う?」
「霞姉さんは、心当たりがあるのですか?」
千代は眉尻を下げ、答えに至らないためか苦悶している。
「だって栗花落ビルでしょ。
私たち〈異端狩り〉だって近寄りがたい場所じゃない。
あそこの五階にあるのは何?」
「忌々しきネコジシ商会です。
――魔具を扱う商会なので、魔具に関することなら事足りませんでしたね。
ですが、誰が?」
「出かける前に、カズくんがミーちゃんにあるものを渡してたわ」
「ミーちゃんて誰ですか?
あ、いえ、察しました。あの女ですね。
それで、何を渡したのですか?」
「ヒ・ミ・ツ」
霞はウフフと笑う。
いつもの千代を弄ぶ時の顔。
だから千代の眉尻が跳ね上がり――
「霞姉さん! もう、こんな時までそんな調子なんですから」
両手を腰に当てる。
子どもを叱りつける母親か、悪ふざけしている園児をたしなめる保母か。
「千代ちゃん、怖い顔。
折角の可愛い顔が台無しよ。
とりあえず、栗花落ビルは放っておいても大丈夫よ。
だから、千代ちゃんはカズくんのところに行ってくれる?
あっちはカズくんだけだから、任せっぱなしにしておくのも大変かなって」
「わかりました。
不本意ながら、霞姉さんがそう言うのでしたら。
では、霞姉さんは、どこか雨風の凌げるところで休んでいてくださいね。
風邪を引かれると後が大変ですから」
千代はため息をつくと、周囲を一度見渡し、瞬時に姿を消した。
――雨風の音がより強く聞こえ、遠くでは騒ぎが大きくなっているのか、人々の声がいくつも聞こえる。
霞は疲労感にたまらず、ため息をついた。
髪の毛が乱れて肌に張り付いていることに気づき、手櫛で整える。
膝に手をつけ、年寄りじみたゆっくりとした動きで立ち上がる。
移動すべく立ち上がったのはいいのだが、視界の隅に見覚えのある人物が入ってきたので、立ち尽くす。
「元気そうで何よりだのぅ、霞嬢ちゃん」
「いえいえ、ちょっと動いただけでこの様なので、駄目としか言いようがありませんよ」
声をかけて近づいてくる隆文に、霞は苦笑で迎えた。
隆文は霞の横に並び、腕を掴んで支えてくれる。
「柳崎さんは、いつも忙しそうね」
「霞嬢ちゃんほどでもないのぅ。
本部の捜査が行き詰って、俺のような所轄者は、何もできず焦れったい思いしかできんからのぅ」
「そうなの。じゃ、忙しい私は、どこかで休みたいわ」
「公安もチョロチョロしておって、こちらは動きづらいんでの。
サボりたいところだった。
さて、行くかのぅ」
「こうして歩くと、年の差カップルに見えたりするのかしら?」
「さて、どうかのぅ。
不良娘を補導する警察官かもしれんぞ?」
「あら、それは困ったわね」
二人して笑みを交わすと、歩みだした。
灰色の街の中、けたたましいサイレンを鳴らして赤い花を咲かせているパトカーを横に見ながら。
◇
部屋の中を満たす光は、眩しく、冷たく、何ものにも覆すことのできない威圧感があった。
誰もがその光に呑まれ、その力に目を閉じた。
――美加が目を開ければ、光の代わりに大きな蝶が現れていた。
息を呑み、目を離せなかった。
目を離すことを許してくれないような、引き付ける何かがその蝶にはあるかのよう。
人よりも大きな蝶はゆっくりと羽ばたけば、風が吹き荒れる。
誰もが風に身構え――風圧に身動きを封じられてしまう。
蒼白い鱗粉が舞い――部屋の中はとても煌びやかな世界へと変わっていく。
一つの銃声――つられるように二つ三つと増えていく。
遊慧を狙っていた筈の銃口たちは、吸い込まれるように蝶へと向けられていく。
「何だ、あれは!? 何をした!?」
男はリーリャへと見やり、半ば叫ぶように言った。
あれほど余裕にあふれていた表情はすでになく、慄いた顔は恐怖に彩られ歪んでしまっている。
「だから、〝黒猫〟が〝蝶々〟を置いていったと、私、言ったんだけどね。
信じてくれないそちらのせいなのに、勝手に驚かれて私に怒鳴られても困るのよね」
リーリャがほくそ笑む。
人差し指を立て、左右に振って見せる。
男は懐へと手を入れ――
目出し帽の一人が床に転がった。
体を痙攣させた後、動かなくなる。
死んでいる様子はないようだが、気を失ったその様からそう易々と目覚めるようには見えない。
――銃を抜き、何が起きたのかと見やる。
ゴトンと音を立てて二人目が転がっているところだった。
蝶が大きく羽ばたいて目出し帽を殴り――最早、薙ぎ払っている。
――三人目、四人目――
目出し帽たちも負けずと撃ち続ける。
蝶はびくともせず、次の目出し帽へと迫っていく。
――五人目――
目出し帽が減っていくにつれて、銃声の重なりも減っていく。
逆に蝶の勢いが増していき――
――六人目――
「どうにかしろ! あれは何だ!」
男はリーリャの頭へと銃口を突きつける。
リーリャを目的としている筈なのに、もう頭にないようだ。
行動がその場凌ぎで構わないから、どうにかしようという考えしかないようである。
「私には無理よね。
この体で何かできると思っているいの?
〝魔法使い〟じゃないんだからね。
それに、あれは私が起動させたわけでもないしね」
リーリャは首を振り、銃口を逸らすために、銃を払う。
男が次に見やるは美加だ。
歪んだ表情そのままに、睨んでくるその目は鬼気がある。
――七人目――
美加は蝶の荒々しさに慄くばかりで、動けない。
男の鬼気迫るものが目に入ってこない。
――八人目――
視界の隅に男が銃口を向けてくるのが見える。
――九人目――
「あの女か? あの女があれを?」
男の目が鋭く歪み――美加はその目の殺気に釘付けとなった。
胸元に蒼い光を灯していることを、美加は気づいていない。
蒼い蝶をここへと出現したのは誰なのか、自らがわかっていない。
助けてほしいと願った祈ったことが、〈蒼い王〉を具現させ、目出し帽たちを薙ぎ払っていったことを理解していない。
そして、男がその胸元の蒼い光を睨んでいることを。
――十人目――
動いている目出し帽は全ていなくなった。
銃声も今やない。
あれほどにまで喧騒だったことが信じられないほど静かで、今ある緊張感が聴覚を研ぎ澄ませているようで、吐息も聞き分けられるのではないかと思うほどに。
「上の人間は、どうしてあんな女を欲しがるのか。
この街など、我が国に必要などないのに。
全てを物量で奪い取れば――」
「現に十人も投入して、呆気なくやられたのは誰なのかしらね?」
「黙れ! お前が〝パッケージ〟でなければ――」
男の血走った目がリーリャへと向き、銃を頭へと突きつけ、トリガーに指が絡められ――
鮮血が走った。
男は呻き声を上げ、右腕を押さえて床に膝を突く。
右腕は、手首から先がなく、血を噴出している。
リーリャは赤く染まるものの、男の返り血だけであって、怪我を負っていない。
男を見下ろすだけ。
そして、男のそばには遊慧が立っている。
手には小太刀が握られ、血を滴らせている。
冷徹な目で男を見下ろし――でも、体が痛むのか空いた手でわき腹を押さえて口元を歪ませている。
美加は体が震えていることに気がついた。
何もできず動けず、ただ見ているだけしかできなかったことの、力なのなさに辟易とするしかない。
その背後へと蝶が止まるように、静かに漂い――ゆっくりと消えていった。
役目を終えたということか。
美加の胸元の蒼い光も消え、ただの蒼い石――サファイアのペンダントに戻っている。
「何だ……。ぐうぅ、この女は……」
男が遊慧を見上げる。
「私は、ただの〝一般人〟です。
普段は、喫茶店の雇われ店長――とは言いましても、今は訳あって休業中ですが。
ちなみに、〈異端狩り〉ではありません。
そのような名もなければ、そのようなこともできません。
ただ、〈異端狩り〉を名乗るお嬢様方に剣の手解きをした程度のことです。
――いえ、私が言うまでもなく、あなた方なら知っていて当然のことだと思いますが」
遊慧は小太刀を鞘へと収める。
それを左の袖口へと挿し込むと、するりと収まって見えなくなった。
今まで袖の中に隠し持っていたことになる。
となれば、いつ抜くタイミングかを見計らっていたのだろう。
「さ、怪我の治療をしましょう。
今すぐ取り掛かれば、血を失いきる前に国へと帰ることも可能となりましょうから」
◇
「――させん!」
和葉が懐へと手を忍ばせたところ、イヴァンの隣に立つ男がトリガーを引いた。
やられる前にやる、ということなのだろう。
実に容赦のない、いや、迷いのない行動だった。
和葉の胸に一発、頭に一発、銃弾が穿つ。
和葉の体は何も抵抗のないまま、仰向けに倒れる。
「手品など、させる前に仕留めればいいだけのこと」
男は勝利に酔いしれ、ほくそ笑みながら和葉へと歩む。
見下ろし、動かない和葉に高笑いをあげる。
歓喜、愉悦。
「――何をそんなに喜んでいるのですか?
いいことでもあったのでしょうかね?」
和葉は男の背後でため息をつく。
かぶりを振り、厭いた様子で男を見やる。
侮辱の視線、嘲笑う吐息、懐から懐中時計――と紙切れを取り出した。
紙切れがボロリと朽ちていく。
「こんなところで時間を食っていても、仕方がないんですがね。
用のない人なのに、いつまでも邪魔をしてくれるものですから、時間だけが過ぎてしまいます」
懐中時計を見ながらぼやく。
男は振り返り、和葉を見やるなり、視線を戻して倒れた筈の和葉を――和葉の姿がないことに慄く。
「ああ、〝僕を撃ち殺した〟とでも思ったのですか?
あれも、あなたの見た幻ですよ。
あなたは〝僕を撃ち殺した〟気になっていただけに過ぎません」
「今度こそ、殺してやる!」
男が銃口を向けてくる。
怒気に満ちた瞳、殺気が迸る。
「随分と直情的なんですね。
イヴァン大佐の下にいるのですから、もう少し頭が切れてもよさそうなのに。
あぁ、それだけ大佐の指揮が優秀だったのかもしれませんね。
それゆえに、下っ端が指揮すると否応なしに優劣が垣間見えるわけですね。
あなた程度では、大佐の代わりに部隊を指揮するのは荷が重いと思いますよ。
はっきり言わせてもらいます。
あなたでは力不足です」
「抜かしてやがれ!」
「撃ちますか?
構いませんよ、好きなだけ撃っても。
――と言っても、撃つのはためらいますよね?
また、その気にさせられているだけで、僕を殺すことが叶わないのではないか、という恐怖と焦りがあるでしょうから。
それとも、武器を持たない僕を未だ殺せないことに、自尊心が保てなくなってきましたか?」
和葉は懐中時計を懐へと戻すと、その際に指先に触れたペンダントを手にした。
ペンダントトップを見やり、青い光に目を細める。
ペンダントトップを戻し――
「さて、そろそろ終わりにしましょう。
ここで時間を無駄に費やすわけにもいきません。
僕の目的は――あ、いえ、その前にやっておかなければなりませんね。
その人を静めてください。
イヴァン大佐との会話の邪魔でしかないので」
和葉は男を見ることなく言った。
見る先はイヴァンのみ。
怒気の晴れないままの男が白目を向いて、倒れる。
――この場にいた三人以外の〝影〟が蠢いている。
「ご苦労様です。
わざわざ僕のところまで来てくれるとは思いませんでした」
和葉は〝影〟へと言う。
呼応するように、〝影〟が動いた。
――イヴァンの首筋に銀色の光が煌めく。
イヴァンはあっという間の出来事に動くことができなかった。
いや、そもそも動く気すらなかったのかもしれない。
真っ直ぐに和葉を見据えてくるだけ。
イヴァンの横には銀色の光を放つ――刀を持った千代。
全身ずぶ濡れのまま、肩で息をしている。
病院跡から、急いでここへと馳せ参じたことが窺える。
「僕としては、生き埋めになってくれていたほうがよかったのですが――まあ、無事でいてくれたのは何よりです。
一人でも欠ければ、誰かが泣いてしまいそうなので――と、心にもないことを口にしておきますよ」
そう言うと、千代が睨んでくる。
反抗的な目なのだが、いつものように喚きださないところ見れば、霞に言われたからやっているに過ぎない、と言い返したいのだろう。
「刀を下ろしても構いませんよ。
イヴァン大佐には、僕たちに抗う気はないようですし。
潔いといいますか、自分で場を覆せないとわかっているようで、諦めているようですしね」
「随分とお喋りだな。
吾と話がしたかったのか?」
「そうですね。
互いにこのような立場でなければ、話の一つでもしてみたかったですよ。
リーリャに関わる人ですからね。
ですが、僕には目的がありまして――」
「あの女か? 無事の筈だ。
一般人相手に傷つけるつもりはないし、取引に使うと部下には言ってあるから、丁重に扱っている。
あの女は、単に居合わせたのだ。
あの女も吾々も、どちらにとっても不運だっただけのこと」
「そうですか。
では、場所を教えてくださいますか?
物事は、できるだけ早く済ませたいですし」
「わかった――」




