12.妖艶たわやかな蛇/月下に啼く巨人。
美加はベッドから出ようと考えるものの、右肩と左わき腹に痛みが走り、上体を起こすことが関の山だった。
傷自体は深くないし、数針縫った程度のもの。痛みが走るのは麻酔が切れてきたからだろう。
「無理をなさらないほうがいいです。
傷が浅いとはいえ、傷を負わせたものがいささか危険なものですので、傷の治りが悪くなっています」
遊慧がそばにやって来る。
とはいえ、遊慧もそれなりの怪我を負っている筈で、歩けるほどの軽症だったのだろうかと疑問が浮かぶ。
遊慧を見やれば、そうでもないようだ。
暑いわけでもないのに、汗を浮かべている。
冷や汗だろう。
左手が右脇を押さえているあたり、動けば痛むに違いない。
「〝妖刀〟といえばいいでしょうか。
あれも魔具の類のものです。
千代お嬢様があの刀を持ち出しているとは思ってもいませんでしたので、重ね重ねお詫びを申し上げます」
遊慧は深々と頭を下げてくる。
そういった動作をするだけでも痛みが走っているようで、息遣いが変わる。
「いえ、怪我をしたのは私が勝手に出しゃばったからです」
美加は首を横に振った。
後先考えずに突っ込んだことは確かであり、それで怪我をしたのだから自業自得だと認識している。
だから謝ってもらう必要はない。
どちらもその後の話が続かなかった。
痛みを堪え、何よりも、事件の後ということもあって、どこか気まずい空気となってしまっている。
ざわざわとしたざわめきが、気まずい空気をどこかへと追いやる。
ロシア語が聞こえてくるので、この階でリーリャの修復作業に取り掛かっているロシア人のものだろう。
ざわめく理由としては、ロシア語がわからないので、窺い知れない。
女の声、それもロシア語で何かを言い返している。
この階のロシア人の中に女を見た記憶がない。
となれば、ざわめく理由は、誰かがここへとやってきたことが考えられる。
その女の言葉でロシア人たちを一蹴したようで、静かになる。
何を言われ、何を言ったのか。
それで済むようなことだったのか。
勘ではあるが、女がロシア人たちを恫喝したようにも聞こえた。
カーテンが揺らぎ、深紅の髪が何よりも印象的な女――霞がやって来た。
小さく手を挙げ、挨拶のつもりだろう。
「自己紹介がまだだったわね。
私は――千代ちゃんと遊慧ちゃんに聞いているだろうけど、咲耶霞よ。
さて、それはいいとして、ゴメンネ、色々と。
でも、お蔭というか、あなたが傷を負った際に〝蛇〟が動揺してね。
その隙を衝いて、この体の支配権を取り戻したの。
そのことに関してはありがとね」
霞はベッドの端に腰を下ろす。
遊慧は頭を下げると、美加と霞の話の邪魔をしないためだろうか、カーテンの向こうへと消えていった。
美加は遊慧が見えなくなるまで見送ってから、口を開く。
「私は何もしていません。
いつも、何もできなくて、役に立たなくて……」
「そんなことないわ。
あなたがいるから、〝今〟を維持できていると思うのよ」
「私がいるから?
私は何もしていないのに」
やったことは無鉄砲なこと。
それは今までと何も変わらない。
それゆえに、何も役に立たないという焦燥感だけが未だにしこりとして残っている。
霞は微笑み――
「ここにいるじゃない。
もし、あなたがいなかったら、今はもっと酷いことになっていると思うの。
みんな、血の気が多いからね。
〝あなた〟という存在が、みんなの血の気を抜いてくれるのよ。
謂わば、マスコット的な感じかな」
美加の頭を優しく撫でてくる。
動物をあやすような感覚とでもいおうか、美加は自分が〝山猫〟呼ばわりされている動物としたら、ゴロゴロと喉を鳴らしているのかもしれない、と内心笑んだ。
霞が「あ」と言葉を漏らして、撫でる手を止める。
「私のほうが年下だったのよね。
これじゃ、年上であるあなたに失礼ね」
「いいえ、私は未だに和葉くんから年上に見てもらっていないので、何も問題ないです」
美加ははにかんで笑んだ。
年相応に見られないのは少し寂しい。
でも、仮に年相応として見られていても、自分が年下に見られるのは変わらない気がした。
霞にはそれだけ落ち着きがあり、慈愛に満ちた女神とでも謂うべきか、包容力があるように見えたからだ。
言動そのものは道化と変わらないのだろうが、雰囲気が包み込んでくれる。
霞が抱きついてきた。
美加の胸へと頭を押し当ててくる。
美加はその感触にこそばゆさを感じて息を漏らし、さらには傷の痛みに耐え切れず、半ば押し倒されるようにしてベッドへと体を預けた。
霞が胸へと顔を埋めてくる。
もとより起伏の乏しい美加の体では、埋めようとも顔が隠れることはなく、霞の顔を窺うことができる。
目を細めて、愛玩動物がすがっているように見えた。
しかし、抱きつく手が体を締め上げてくる蛇のように、するりするりと背中へと回され、逃すまいとしている。
美加は霞を引き離そうと抵抗を考えるのだが、霞が「いいにおい。心が落ち着く」と呟いてくるのを耳にして、諦めた。
なぜ諦めたのかは、自分自身でもわからない。
危害を加えようという気がないから任せてもいいと思えた――あえて理由をつけるのならそうなるのだろう。
他には、霞が動くたびに傷が痛むのだが、我慢できないほどでもないから好きにさせているということもある。
少なくとも、霞に抱きつかれても不快感がなかった。
霞がもぞもぞと動く。
抱きつくだけでは事足りないのか、美加が再び見やれば、霞は美加の左わき腹の部分が赤く染まったブラウスの裾を捲し上げているところ。
腹部が外気に触れ、ひんやりと感じる。
美加が抵抗するよりも早く、霞が動いた。
傷の部分は縫った後で消毒液のついたガーゼがテープで止められているだけの簡易的なものなのだが、霞はためらいもなくはがしていく。
そして、傷口に口付けをしてくる。
唇が触れると、今度は傷口の線に合わせて舌を這わせてくる。
それは痛みなのか快楽なのか、ぞぞっと来る感覚に思わず声が漏れてしまった。
背中をのけぞらせ、必死に感覚に耐えようとするものの、全身に走っていくものを抑えるに至らない。
息を荒げ、体が熱くなっていく。
左わき腹から舌が離れたかと思えば、次はブラウスのボタンを外していく。
美加にはもう抵抗するだけの余裕もなく、霞にされるがまま見ていることしかできなかった。
ブラウスのボタンが全て外され、腹部だけに限らず、首元から胸部までもがあらわとなる。
白い肌は磁器のように滑らかで、白雪のように艶やかで、照明を浴びてその白はより一層煌びやかに映る。
霞の手はまだ止まらなかった。
ブラウスをさらに脱がそうというのか――右肩があらわとなる。
こちらも左わき腹と同様に、ガーゼをはがされ、口付けと舌を這わせてくる。
美加は再び声を漏らしてしまう。
霞にされることにより、何もできず、でも受け入れるというわけでもなく、体にこもる熱に耐えられず、呆然と自分が何をされているのかを眺めることしかできず、考えることもままならない。
「――今の、もしかして感じてた?
私でも一応効果があるのかな?
それとも、性的興奮に溺れていたりするのかしら?
どちらもでいいけど、少しばかし我慢してね。
誰もあなたの傷の〝処置〟をしてくれないものだから、私なりのやり方をしてあげる。
私は普通に〝処置〟ができないから、他の人が行うような普通の〝処置〟と違うから――」
霞の顔がすぐ目の前にまで迫ってきた。
熱いと息はどちらのものだろうか。
霞の目が、唇が、艶やかに光っている。
妖艶に潤んでいる。
「ゴメンネ。あらかじめ、謝っておくね」
さらに霞の顔が近づいてきて、美加の口を霞の口が塞いできた。
何も抗えない。
何かが美加の口を強引にこじ開け、中へと侵入してくる。
それが霞の舌であることに気づくものの、何もできずにいる。
何かが霞の舌より伝ってくる。
美加の口内へとゆっくり流されてくる。
何も抵抗できず、何もできず、されるままに、なす術もなく、考えることもできずに、眺めているだけのことで――
口内に流されたものを飲み込んだ。
霞の顔が離れていく。
口の僅かに見える舌先から、〝白い糸〟が伸びている。
「私の体液というか、唾液なんだけどね。
それとともにオドを流し込んだんだけどぉ――これはこれで癖になりそうね。
女同士の秘め事へと興じたくなりそうだわ」
ぼんやりとした意識へと変わっていく中、霞が親指で自らの唇を拭いつつ言っているのが見える。
それは少しの間の認識であり、意識が薄れていく――
「あら、眠っちゃうの?
そんなことだと、悪戯しちゃうかもぉ――」
また言っている。
でも、声が遠退いていく。
見せる世界も、白く染まっていった。
◇
「霞姉さん、ここで要らぬことをしないでください」
ブラウスが半ば脱げてベッドに横たわる美加の上へと馬乗りしている霞に、かける声があった。
半眼ジト目で霞を見据える千代。
「ん?
千代ちゃんがいつまでも彼女の〝処置〟をしないものだから、私のオドを注ぎ込んで、無理矢理にも〝処置〟をしていたの。
これで、傷の治りもよくなると思うわ。
でもぉ、癖になりそうよね、こういう――」
「はしたないです!
というか、場所を弁えてください」
「もぅ、千代ちゃん、妬いているの?」
霞は美加から降りると、ブラウスを閉じてやり、毛布をかけてやった。
千代へと見やれば、顔を赤くして唇を噛み締めている。
息をつき、千代へと手を伸ばし、あやすように頭を撫でてやる。
今にも爆発しそうな千代だったが、霞に撫でられたことで少しは気をよくしたようだ。
感情が少し穏やかになったように感じられた。
「〝誰かを守ること〟。これは私の存在意義だし、彼女もまた守らなければならないのよ。
千代ちゃん、あなたもそう。私は守ると決めた人を守り抜く。
たとえ、何になろうともね。
そうしないと、私が私でいられなくなってしまうから」
霞は千代を抱きしめた。
◇
「思っていたよりも早く宿主の体が朽ちるとは、新しい宿主を探す身にもなってほしいものだね」
半月が膨れつつある夜空の下では、ジトジトとした空間が広がっている。
そこには二つの人影があり、一つは立ち姿でもう一つは伏せている。
声は立ち姿のほう。
伏せているほうは、声を出すどころか動くことも叶わないだろう。
顔は無残にも原型を留めておらず、〝ミンチ〟になってしまっている。
腐敗も進んでおり、臭いが酷く、蟲もたかっている。
「さて、この〝使いものにならなくなってしまったもの〟は、どうしようかな。
放っておいでもいいのだけど、いつぞやのように嗅ぎつかれても困るからね」
立ち姿のほうがぼやけば、月明かりとは別に生まれた光が伏せているほうへと、胴から黒い触手を伸ばした。
何本もが幾重にもなり、まるで一本一本が生き物であるかのように、伏せているほうへと伸びて貪っていく。
血を滴らせる音、肉を千切る音、骨を噛み砕く音、オーケストラのように奏でられていく。
――音がやみ、触手が胴へと戻っていくと、全てが〝食〟されてしまった。
跡形もなく、唯一地面を濡らす血が月の明かりを反射している。
〝食〟した後のゲップとでもいうのか、甘美な思いに浸る含み笑いが響く。
口の周りについたソースを舐め取るように――実際には何もついていないが――舌をべろりと這わせた。
血だけが残されたこの場所を背に向け、歩き出す。
半月を見上げ、両手を広げ、月の光を全身に浴び――身につけている鎧が月明かりを反射。
その光に僅かに映る紫色――〈紫鎧〉。
「さあ、僕の愛しいジャンヌ、待っていておくれ――」
まるで恋人を慕うような声音ともに、高らかな笑いが上がる。
しかし、その笑いも長くは続かず、笑いを遮るかのように、〈紫鎧〉の右膝に衝撃が走って力なく崩れた。
驚き慄き、立っていられずに地面へと右手を突き――今度はその右肘に衝撃が走った。
耐え切れずに左手を地面についた。
何が起きたのか。
右膝も右肘も紅く濡れ、ひしゃげてしまっている。
全くもって使いものにならない状態。折角新調した宿主だというのに、これではもう一度探さなければならなくなる。
周囲を見渡せば、前方より、闇という空間、暗黒の世界から君臨した巨人がゆっくりと歩んでくるのが見えた。
それが何かをしたようには見えない。
ただ近づいてくるだけ。
なら、他に何かが潜んでいる筈。
それが右膝と右肘を使いものにならないようにしてくれた筈だ。
――顎から、喉、首へと何かが衝撃とともに穿っていった。
これでは、最早声をも出せずに、ヒュゴォヒュゴォと隙間風が吹くような空気が喉の穴から漏れるのみ。
近づく巨人の姿が少しずつあらわとなっていく。
神父姿をした巨躯。
首から逆十字のロザリオを下げており、黒い神父服の上から対照的によく映える。
巨躯が手の届きそうな位置まで近寄ってきたところで足を止めた。
何も語らず、真っ直ぐに見下ろしてくる。
〈念 折角手に入れた体なのに、何てことをするんだい! 念〉
〈紫鎧〉から黒い触手が伸び、巨躯へと襲い掛かる。
巨躯は身動きをとらず、これなら余裕で巨躯を絡め取ることが可能だ。
だが、触手が巨躯へと触れることがなかった。
巨躯に透明な壁、もしくは膜が覆っているのか、触手が巨躯を避けて通るだけ。
直後にカウンタパンチを食らうかの左肘に衝撃が走って、崩れた。
支えを失った体はゆっくりと前のめりに倒れこみ――もう一撃、額に衝撃が走って、後ろのめりに倒れた。
「ワタシは神の加護を受けている。
そのような、悪魔の術式など、一切受け付けぬ」
巨躯が口を開いた。
それに続けて、いくつもの足音が聞こえてくる。
それらは〈紫鎧〉を囲んだようだ。
〈念 君たちは、何なんだ!? 念〉
◇
「モルゲンシュテルン卿、これは何なのです?
こんなものが必要だというのですか?」
イヴァンは隣に立つ巨躯――ルドルフ・フォン・モルゲンシュテルンへと尋ねた。
彼らの前には、両肘と右膝、顎から首にかけて、そして額を撃ち抜かれた男が仰向けに倒れている。
体には鎧のどう部分だけが装着されているものの、近代において防弾チョッキの代わりにもなり得ない代物としか映らない。
「君が望むものに対して、絶対とは言わないが、必要になってくる。
他から調達するよりもはるかに効率的だと思えるのだよ。
ただでさえ、人の手に有り余る術式を行使するのだ。
〝受体〟も、それなりの物を用意したほうがいいと考えたまでのこと。
あと、これまでの力を携えたものが、ちょうどよくこの街を闊歩していたのだから、利用したまでのこと。
それよりも、まだこれに近づかないほうがいい。
〝人を食らう鎧〟なのだから」
ルドルフが言うと、イヴァンは手をかざして、目の前の鎧から遠ざかりつつ指示を送る。
彼らの周囲にいるイヴァンの部下たち――目出し帽を被り、AKS74Uで武装した男たちは後ろへと下がった。
鎧の男とルドルフを中心に彼らが円で囲う様は、状況が違えばこそ、まるで幼稚園のお遊戯のよう。
〈念 答えろ。
あなたたちは何だというんです? 念〉
「迷える子羊たちに安息を与えるため、求める者の願いを叶えるための神の使徒に過ぎない。
君は〝肉〟なのだ。
君が人間を〝肉〟として利用してきたように、我々も君を〝肉〟として扱うだけのことだ」
ルドルフが鎧へと手を伸ばす。
鎧が触手を伸ばしてくるものの、ルドルフに一切触れることが叶わない。
ルドルフの手が鎧の襟元を掴んで引き上げた。
なおも鎧は諦めずに抗い続ける。
触手が鎧をまとう男の体を蝕んでいき、肉がズルリと崩れ落ちる。
首も腕も、鎧から切り離されて、地面へと生々しい鎧を立てて落ちた。
胴もまた、まるで服を脱がされていくように鎧から抜け、地面へと伏せた。
鎧が触手を伸ばす様は、夜の海に触手を漂わせているイソギンチャクだろうか。
ただ、そんな生易しいものではなく、鎧には奇異さがある。
禍々しさがある。
〈念 何をする気なんだい。 念〉
「願いを叶えるだけだ。
君にも願いがあるだろう?
それも叶えてやろうというのだ。
ただ〝肉〟としての役目を全うすることになるとはいえ、願いが叶うのなら、本望だろう?」
〈念 願いを叶える? 念〉
「そうだ――」
ルドルフが懐へと手を入れると、金色の球体を取り出した。
夜の闇の暗さも負けず、自らを主張しているかのように周囲の光を反射して輝いている。
――〈黄金の林檎〉――
鎧はあたかも〈黄金の林檎〉を見据えているかのように大人しく、でも触手は次手を模索しているように蠢き――様子を窺っている。
「いつまでも、そんな鎧のままでいるのも嫌だろう?」
ルドルフが〈黄金の林檎〉を鎧の胸部へと押し当てる。
〈黄金の林檎〉が光の粒子となって霧散、鎧へと吸収されていく。
鎧の触手が内側から光によって蝕まれていき、消えていった。
〈念 な、何を……。 念〉
鎧の声もかすれていく。
ルドルフは鎧を放り捨てた。
スチールバケツが転がるような、軽く高い音を上げて、鎧は何の変哲もない鉄の塊としか思えないまでに動かなくなった。
触手は、どこへといったのか、すでに消えている。
「モルゲンシュテルン卿、今のは?」
「それは見ていればわかる。
これより、〈奇蹟〉という名の〝天使〟が舞い降りる」
イヴァンが尋ねると、ルドルフは低い声で高らかに笑った。
何がおかしいのかわからない。
なぜにそこまで笑い声を上げるのか、イヴァンには到底理解しがたいものだった。
ルドルフの笑い声に反応するかのように、鎧が小刻みに震えだす。
金属同士のこすれあう耳障りな音を立ててひしゃげていく。
内側に吸い込まれていくかのように、鎧は原型をとどめず、奇異なる存在へと変貌していく。
イヴァンの部下たちから声が上がった。
信じられないものを見たことで慄いている。
たとえ、イヴァンともども、元は軍人であろうとも、ルドルフのような違う世界を行っている者の常識など知る由もない。
イヴァンの部下たちもまた、ルドルフのような者からしてみれば、ただの〝一般人〟に過ぎないのである。
イヴァンもまた、驚きのあまり、声が出なかった。
目の前で、無機質である筈の鎧が姿を変えていき、有機物の人のなりへとなってしまったのだから。
金属音が聞こえなくなると、目の前には全裸の女が横たわっていた。
これが鎧だったとは誰も思えないし、思うことすらも至らないだろう。
「――これが、〝受体〟させるべき〝肉〟だ。
それも、あの鎧に残る思念もまた、人を作り上げる願いがあった。
偶然――いな、必然であろう。
神が我々を導いてくださるのだ。
神が用意してくれた好機なのだ。
さあ、あとは〝受体〟の刻まで待とう。
月の満ちる刻まで――」




