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クロネコヤマネコ  作者: 葛飾タキ
Episode4.幻光華
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6.見学のつもりが関わることに。

「和葉くん、大変なのっ!」


 美加は慌てた様子で、和葉の部屋の襖障子を伺うこともなく、勢いよく開けた。


 和葉は起きたばかりなのか、やや不機嫌そうに美加を見据えてくる。


「何ですか、朝から」


 少し間を置いてから尋ねてきた。

美加の慌てた様子を見ても平然としている。

朝から騒がしいことがそんなに嫌だったのだろうか。

それとも状況がわからないからこそ、無闇に慌てても仕方がないと思っているだけだろうか。


 どちらでもいい。

和葉が平然とかはこの際どうでもいいのだ。

それよりも大変なことが起きたのだから。

それを伝えに来たのだから。


「人が消えました」


 美加は自分が落ち着くために一息ついてから言った。

でも、声は切羽詰ったものとなっている。


 それでさらに和葉は訝しくように見てくる。


 美加の気持ちは和葉に全く届いていない。

あわあわと口元が震えているのに、この表情でも関わらず、和葉に伝わらない。


「本当に朝から何を言っているのですか?」


 その怪訝をそのまま言葉に表している。


「ですから、人が消えてしまったんです」


 美加は素直に、そのままに言葉にした。

どこも間違っていない筈。

意味がわかるように言っている筈。


 なのに、どうして和葉に伝わらないのだろうか。

もどかしい――。


「誰が、ですか?

 もし、漆原千代のことでしたら、放っておいても大丈夫ですよ。

 神出鬼没はよくあることですし。

 むしろ、〝神出鬼没〟が代名詞みたいな人ですからね」


 やはり、どこまでいっても伝わっていない。


 美加は焦る一方。

どうやって伝えたらいいのか。

もっと詳しく――


「そうじゃなくて。

 団体のお客さんがいたじゃないですか。

 そのうちの一人が、朝になったら消えてしまったと言うんです」


 これなら和葉に伝わる筈。

ちゃんと伝わっている筈。

これ以上に伝える方法はない。


 その証拠に和葉は頷いてくれた。

これで如何に大変かがわかってくれた筈だ。


 なのに――


「団体? ああ、あの人たちですか。

 そんなこと、僕たちに関係があるんですか?

 第一、朝早く旅館を出て行ったとも考えられますがね」


 意味は伝わった筈なのに、大変だということは伝わらなかったようだ。

和葉は話に乗る様子が全くといっていいほどない。

他人事だから興味がなさそうだ。

欠伸をしてストレッチを始めてしまう。


「――男たちは皆、突然消えるなんて思いもしないようなことを言ってたわ。

 旅館の従業員にしても、消えた当人が出て行くところを一切見ていない。

 状況としては、事故の可能性もあるから、旅館の中と周辺を捜索するそうよ」


 美加の背後に突然気配が生まれた。

その言葉とともに部屋へと入ってくる。

和葉の言う代名詞――〝神出鬼没〟こと、千代。


 こちらも平然としているが、和葉よりも大変な状況であることをちゃんと理解してくれている。


「ですから、僕たちに何か関係があるのですか?

 漆原千代、あなたが何かをやらかさない限り、人が消えるようなことが起きるとも思えませんが」


 千代の言葉を聞いても和葉の態度は変わらなかった。

意固地だ、と言ってやりたくなる。


 だからこそ、千代が呆れたとため息をつく。


「どうしてあなたは、私をフルネームで呼ぶの?

 霞姉さんに対してもそうだし。

 ま、いいわ、今はそんなこと。

 まず、あらかじめ言っておくけど、私は何もしていない。

 〝一般人〟を相手にする必要なんて、私にはないもの。

 あの人たちが、〝私が何かをするようなこと〟をしたというのなら、別だけど。

 今のところ、そういう人たちには見えないし。

 それともう一つ――この辺りには昔から〈神隠し〉の言い伝えが残っているの」


 千代が淡々と語る。

美加は唖然とするだけだ。

千代が自分の知らないことまで知っている。


「〈神隠し〉ですか」


 今度こそは和葉の食指が動いたのか、フムと頷いた。

興味がないとこの男は何も感じないのだろうか。


「となると、〝例の魔具〟に関係があると?」


「さあ? 私には、まだ何も言えないわ。

 あれが魔具かどうかも明らかになっていない上、仮に魔具だったとして、どのようにして使用するかもわからない。

 そんなもので〝人を一人消せる〟のか、疑わしいもの」


「となれば、魔具とは別に、言い伝えがここにあったと?」


「魔具と結びつけるほうが普通よ。

 別のほうが考えにくいもの。

 ただ、あれが〝人を消した〟のか疑わしいと言っただけ。

 それに託けた別の事件かもしれないし」


「魔具に託けた事件ですか。

 となると、僕たちの他に女将、あとどれぐらいの人が魔具について知っているのか、ということになりますね。

 ――ま、こんなところで推測の域を超えない論議をしていても仕方がありません。

 女将に状況を訊くところから始めましょう。

 ああ、あと、あなたは一旦鏡を見たほうがいいですよ」


 和葉が何かを思い出したかのように、美加に向けて言ってくる。


 美加はきょとんとするだけだ。

何を言っているのだろうか、と。


「では、僕は着替えるので、二人とも部屋から出て行ってください」


 和葉はそう言うなり、美加の背中を押して部屋から追いやる。

美加はどこか遣る瀬無い気持ちで従うだけ。


 千代は黙ってついてくる。

むしろ、独りでそそくさと部屋を出て行ってしまって、すぐにどこかへと消えてしまった。

これが和葉の言う〝神出鬼没〟ということなのだろう。

現れるのも立ち去るのも、突然であっという間。

美加はこれに独り納得。


 それに、和葉が「鏡を見たほうがいい」と言っていたが、どういうことなのだろうか。

考える――。


 朝から騒がしかったから顔を洗う間もなかった。

なので、寝癖が酷いとか寝起きの顔が酷いとか、そういうことになっていたのではないかと恥ずかしさが押し寄せてくる。

ならば、一応身だしなみを整えてきたほうがいいのだろう。


 部屋へと戻って旅行バッグから化粧ポーチを取り出し、中からコンパクトを出して開いた。

鏡に映る自分の顔を見て――


「なっ……何じゃこりゃあ!?」


 物事を考えるよりも先に絶叫。

鏡には落書きされた自分の顔。

「キス魔」と猫のヒゲよろしく三対の線。


 誰の仕業だろうか。

でも、落書きされた怒りよりも、こんな顔で和葉の前に出てしまったことの恥ずかしさが募ってくる。

げんなりとするしかない。




 洗面所で落書きを洗い落として、今にも泣きそうな気分のまま着替えを済ませた。


 心身改めて和葉の部屋へと向かう。


 部屋の前では和葉が着替えを終えて待っていた。

美加を見るなり――


「くれぐれも言っておきますが、落書きは僕の仕業ではありませんので」


 と言ってきた。

美加から問い質す前に和葉が否定してきたようだ。


 ともなれば、残りは千代ということか。

ここにはいないので問い質しようもない。

しかし、いたとしても問い質すことができるとも思えないので諦めるしかない。


「それにしても、あなたにお酒が入ると、〝ああなる〟とは思いもしませんでした。

 それも、漆原千代を打ち負かした相手なんて、僕は初めて見ましたよ」


 和葉が笑いながら言うと、歩き出した。


 美加は何も言い返せず、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にして俯いて、和葉の後ろについていくだけだ。


 昨夜のことをよく覚えていない。

千代と一緒に夕食を始めたところまでは覚えている。

しかし、千代との間に会話がなく、間が持たないために酒を口にしたところまでも。


 その後だ。

その後の記憶が全くなかった。

その後どうなったのか全くわからない。

気がつけば朝。

いつの間にか眠ってしまったのだろうという印象しかない。

記憶のない間に自分は何をしていたのだろうか。

それも和葉にまで見られていたと思って間違いなさそうだ。

和葉は記憶のない間の自分を知っている。


 そして、顔の落書きのことを考えると――酔った勢いでやらかしたようだ。


 酒に強いなんて全く思っていない。

弱いとも思っていない。

程度を考えて飲めば問題はない。

ただ、一度酔ってしまえばその勢いで色々と〝被害〟を出していることは、同僚たちの間でも知れ渡っているほど。

美加と同僚が一緒に飲む時は、必ず誰かが監督役になって泥酔しないようにセーブしてもらっている。


 自己嫌悪に陥ってくる。

まさか、和葉にまで〝被害〟が及んだのだろうか。

和葉に確かめたくても何て尋ねていいのか、うまく言葉が出てこない。

もう穴があったら入りたい気分でいっぱい。

恥ずかしさに心の中を埋め尽くされてしまって、朝のことなどどこかへと行ってしまったと言わんばかりに、周りに気がいっていない。


 そのために、立ち止まった和葉の背中にぶつかってしまった。


「何をするんですか?」


 和葉が一瞥をくれてくる。

美加はただひたすら平謝りをするしかできない。

和葉はそれを見て、呆れてものも言えない状態のようだ。

それ以上言ってくることはなかった。


 そんなことを言っているよりも他に重要なことがあるから。


「百合垣です。宜しいですか?」


 和葉が皐月の部屋の前で、中へと声をかける。

少し間を置いて障子が開けられた。

皐月が出てくる。

その顔はどこか疲れているようで、セットされている筈の前髪が少しほつれてしまっている。


「朝早くから、騒がしくて申し訳ありません」


 頭を下げてきた。

〝人が消えた〟ということで、迷惑がかかったと思っているようだ。


 クレームをつけに来たわけではない。

なので――


「いえ、気にしていませんよ。

 それよりも、少し聞きたいことがあります。

 もしかしたら、それが朝のことと関係があるのかもしれないので」


 和葉が代わりに答えてくれた。




「――確かに、そういった言い伝えがこの辺りにあることは知っています。

 幼い頃から、この辺りに住んでいる子どもたちは皆、親から聞かされるのです。

 悪いことをすると〈神隠し〉に遭うって。

 そうすることで自制心を持たせようということなのでしょうね。

 ですが、それとこの万華鏡に関連性があるのかと問われると、残念ながらわからないとしか答えようがありません。

 先代からそのような話を聞かされたことがありませんし、先代からの付き合いのある人たちからも、そういったことを聞かされたことがありません」


 和葉が〈神隠し〉と魔具に関係がないかと尋ねたところ、皐月がそう答えたのだ。

嘘をついているようには見えない。

あるがままに話してくれていると見ていいだろう。


 またもや〝わからない〟という答えに、和葉が渋い顔をしている。

もっとわからない美加にとっては、何もできずに見ているだけ。


「万華鏡はずっとこの木箱で保管していますので、もしこの万華鏡に何かがあれば、私が気づくと思います。

 けど、何も変わった様子がなかったと思います。

 それも、私がこの部屋にいた間での話になってしまいますが。

 もし、私のいない間にこの万華鏡が何かをしたというのでしたら、必ずということにはなりませんけども」


 皐月が漆塗りの木箱を和葉の前に出して開いて見せる。

木箱の中は至って変わらない。

万華鏡が入っているだけ。


「私が仕事をしている間は、この部屋には誰もいません。

 なので、その間にこれを誰かに見ていてもらうことで宜しいでしょうか?

 私としましても、これのせいでお客様に何かあっても困りますし」


「でしたら、僕に預けさせてもらえませんか?」


「何が起きるかわからないものを、預けても宜しいのでしょうか?

 これを預けたがために迷惑をかけてしまっては、申し訳ありません」


「お気になさらず。

 こういったものを完全な形で保管するのも僕のような者の仕事であり役目なのです。

 そもそも、これの鑑定でここへと来ているわけですし、何かしらの力がこれにあるのなら、それを見定めるのも僕の役目だと思っています」


「そうおっしゃっていただけるのでしたら、是非ともお受け取りください。

 私は女将として、この旅館でこれ以上お客様方に不安がられることのないように努めたいと思います」


 和葉と皐月が互いに頷きあう。


 同じ部屋にいるというのに、美加は蚊帳の外へと追いやられた気分。

しかし、魔具に関しての知識を持ち合わせているわけでもない。

その上、この旅館には客として訪れている。

そのために、二人の話に入っていけないことはよくわかっているつもりだし、理由もなく首を突っ込むわけにもいかないことぐらい、重々承知している。

何よりも、〝ただの客〟のくせに、和葉についてきてまで話を聞いていること自体が差し出がましいこと。


「では、これは僕が預かるということで。

 消えた人についてですが、彼女に任せてはいかがでしょうか?」


 そこへ和葉が言うなり、美加へと手を差し向けてくる。


 完全に気を抜いていた。

美加はとっさのことに驚いて、和葉を見やる。

どうして、ここにきて自分を挙げられるのだろうか、と――。


「あの、お客様が消えてしまったことに関しては、まだ事件や事故といったことと決まったわけではありませんので。

 こちらからは何も申し上げることはできません。

 本当にお独りで帰られてしまったということもありますし。

 大げさにするというのも。

 あ、いえ、だからといって、お客様がなぜ消えてしまったのかをできる限り調べようとは思っております。

 何ごともなければ、どちらにとってもいいわけですから」


「ええ、勝手にいなくなってしまった人の問題ですから、帰ってしまったのなら何の問題もないですからね。

 今は、もし〝消えてしまった〟と仮定した場合の話です。

 ここは彼女に任せるのが一番だと思いますよ。

 事を大きくするもしないも、彼女の腕次第ですから」


「ですが、お客様に物事を頼むというのも」


「それなら問題ありません。

 大丈夫です。

 この人は、一応その手に関してのプロですから」


「プロ? 探偵さんか何かでいらっしゃるのですか?」


「彼女は、これでも警察官です。

 こんな見てくれなので――いえ、見てくれどおりの頼りない警察官ですけどね。

 でも、警察官である以上、人捜しのプロでもあります。

 彼女に消えてしまった人を任せてみればいかがでしょうか」


 和葉の嫌味交じりの紹介に美加はげんなり。

苦笑いをしつつ「バッジは持ってきていませんけど」と頭をかく。


 皐月がまじまじと美加を見てくる。

本当に警察官なのか疑わしいと見ているのだろうか。

和葉の嫌味を鵜呑みにして、頼りない人と見ているのだろうか。

あまりいい印象の視線とは思えなかった。


「万華鏡は僕、人捜しは彼女に任せて、女将は通常どおりの仕事をしてください」


 和葉は木箱を受けとると立ち上がって、皐月に会釈をして部屋を出て行った。

美加は皐月の視線にオロオロとしながらも、和葉の後に続いた。


 和葉の部屋の前まで戻ってくる。

皐月から魔具と思しき万華鏡の入った木箱を預かってきたわけだが、和葉はどのようにするつもりなのだろうか。

魔具としての発動をしないために、見張るようなことを皐月に言っていたことを思い出す。


 何か方法があるのだろうか――考えたところでわかるわけがない。

悩んでも答えが出るわけのない美加に、和葉が振り返ってくる。


「では、僕はこれを見張っておくので、あなたにいなくなった人の捜索を頼みましたよ」


 そう言ってそそくさと部屋へと入ろうとする。


 魔具かもしれない万華鏡を確保してしまえば、他のことはどうでもいいのだろうか。

起きた事件――と断定できないが――に関して、無頓着過ぎるのではないだろうか。

人一人が消えてしまったのだ。

もう少しそちらにも気を回してもらえないのだろうか。


 美加は和葉の態度に納得がいかない思いなので――


「捜索と言われても、どうすればいいんですか?」


 これに対して和葉はもう一度振り返り、怪訝を返してくる。


「どうする、と僕に訊かれても困るのですが。

 あなたは人を捜す時、どうしてるのですか?

 捜査課に所属しておいて、今まで一度も人を捜したことがない、なんて言わないですよね?」


「そ、そりゃ、捜査課ですから、人を捜すぐらいのことはやったことあります。

 けど、魔具で消えたかもしれない人を捜すなんて、やったことがありません」


「何を言っているのですか?

 そもそも、魔具で消えたかどうかも明らかになっていないのに、魔具で消えた人を捜すつもりだったのですか?

 魔具で人が消えたと確証もない状態で決め付けているのですか?

 魔具がどうとか考える前に、〝一般人〟としての考えで行動してください。

 なので、まずは普通に警察官としてのあなたの仕事をこなしてください。

 〝魔具と関係がなかった〟と仮定すれば、できますよね?

 普通の人捜しです」


「え、えぇとぉ……普通、に?

 聞き込みとかをして、捜すということですか?」


「警察の仕事を、僕が知るわけがないじゃないですか。

 僕は商人であって、警察じゃないのですから。

 ま、あえて言うのでしたら、あなたの思うようになさってください。

 警察官としてのあなたが、どのようなことをすればいいのかを考えればいいだけのことです」


 和葉はそう言い残して、部屋に入ると襖障子を閉めてしまった。

これ以上煩わすなと言いたげに見えてしまう。


 美加は廊下に取り残される形となり、ため息をついた。

人を捜すといっても何の手がかりもないのだから、どこから捜していいのかもわからない。


 魔具が関係するのなら、自分独りでどうにもならなかったことだろう。

でも、魔具に関係ないとするのなら、和葉の言ったとおり警察の仕事と同じと見ればいい。


 となれば、まずは聞き込みから始めようと歩き出した。


 どこから、誰から、聞き込みを始めたらいいのだろうか。

迷うところ。警察の捜査というもの、初動捜査が肝心だ。

その出来不出来で後の捜査へと影響が出てきてしまう。

それは、独りでやらなければならない時も同じといえるだろう。


 そもそも――


 何よりも誰が消えたのかが全くわかっていない。

消えたのは客の一人ということだけ。

それも、この旅館の客といえば、自分たちを除けば昨夜の温泉サークルの男たちしか見ていない。


 となれば、あの男たちの誰かが消えたということになる。


 最初に当たるべき相手が決まった。

男たちのところへと行って、直接聞き込みを始めればいいのだ。


 かといって、見知った相手というほどのものでもないので、どのように聞けばいいのか。

警察だと言ったところで、バッジを持ってきているわけでもないので、男たちが信じてくれるか疑わしい。


 男たちの一人、老神を思い出した。

紳士的な対応をしていた老神なら、突然の聞き込みでも応じてくれるかもしれない。


 期待が募る。


 とはいえ、どの部屋に老神がいるのかわからないので、ロビーで老神の部屋を聞くべく向かうことにした。


「――警察?

 本当ですか、それ?

 信じられないなぁ」


 ロビーの受付の男は訝しく見てくる。


 美加は消えてしまった人を捜すために老神から話を聞きたいから、と受付の男に老神の部屋を尋ねたのだ。

しかし、簡単に答えてくれることがなかった。

プライバシーの侵害に関わるから、と即否定されたのだ。


 それに、男たちが警察官だと信じてくれるか否かの前に、受付の男がまず信じてくれるかどうかをすっかり忘れていたということもある。


「本当に、警察なんですけど……。

 バッジはありませんが……」


 何ともみっともない、と自ら情けないと辟易するしかなかった。


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