第7話:詩人とは何か
ジョルダはそのとき、謎めいた監察官の目をまっすぐに見つめた。二人の視線がぶつかり合った。だが監察官は、ジョルダに向けてやわらかく一度だけうなずいてみせた。
まるで、互いにすでによく知っている者同士のようだった。
監察官から視線を外すと、ジョルダは村長のほうへ向き直った。
「ああ、お待たせしてすみません、村長」ジョルダは恐縮した様子でそう言い、ほかの村人たちの中に紛れ込んだ。
ムザは、叔父の隣について歩いていた。しかし監察官の視線は、先ほどからずっとムザに注がれていて、その少年から少しも目を離そうとしなかった。
ムザは後ろ頭をかきながら、ぎこちなく笑うしかなかった。
村人たちは、年寄りも子どもも若者も、誰一人欠けることなく集まった。この集まりが終われば畑仕事に出るつもりなのか、みな身近にあるものを身にまとっただけの姿だった。
高く積まれた石の前では、中央の監察官が村長と、何か大事なことをひそひそと話していた。村長の顔はしばらくこわばったが、やがてまた笑みを取り戻した。
監察官は前に進み出て、手を高く掲げた。どこからともなく、真ん中を赤いリボンで結ばれた一枚の紙が、その手の中に現れた。
それからささやくように何かを唱え、結んであったリボンをほどくと、寺院の石の一つが小さな壁のように持ち上がり、続いてそこにいくつもの文字が浮かび上がった。
「では皆、中央の監察官のお話をお聞きなさい」村長はそう言って、木の杖で床をこつんと打った。
風の衝撃が強く駆け抜け、ムザの髪が上へ逆立った。その響きに、まだ声を出していた者も、互いに話していた者も、一瞬で静まり返った。
人々はようやく耳を傾け、しっかりと背筋を伸ばして立った。
「こんにちは、ボガ村の皆さん。私はビマ。中央都市ナガラから来た、中央の監察官の代表です」
「まず、私の来訪の目的を説明する前に、出回っているでたらめを一つ正しておきたい」
「先日の私の来訪は、噂されているようなものでも、何か悪い行いに関わるものでもない」
「それから、隣の村でのジンによる襲撃は、私のせいではない。ジンと結託していた者たちのせいだ」
「自らの力を悪用したことにより、中央都市は、私たち、中央の代表である監察官に命令を出した」
「その要点は、各村から若者を何人か、2年後に中央都市で行われるバティンの試験に必ず参加させること。霊的な学院の人材募集のためだ」
「今でいう詩人学院だ。私はこれ以上は言わない。この石に記された文章を、自分で読むがいい」監察官の言葉が終わると、彼は姿を消し、突然がらんとした空気の中に痕跡だけを残していった。
村人たちは、石に刻まれた告知を読もうと、われ先に前へ進み出た。ムザは、監察官の残した空気の痕跡を、まだ呆然と見つめていた。
ムザは、あの口の動きをはっきりと覚えていた。彼は、こう言っているようだった。「あ・い・に・こ・い」
ジョルダの手がゆっくりとムザの肩に触れた。「どうした、坊主?」
「……なんでもない。ところで、詩人学院って何?それに、バティンって?」
「それは、あそこで調べたほうが早いな」ジョルダはそう言って、告知の石を指さした。
二人はゆっくりと、告知の前に集まった村人たちをかき分けて進んだ。ムザは、そこに刻まれた文を一行ずつ丁寧に読んだ。
『中央都市ナガラからのお知らせ』
『詩人学院 生徒募集
ジンの出現は人々の安全を脅かし、各地の霊気を汚している。これに対処するため、中央都市ナガラは、詩人学院の新入生を募集することを告知する。
選抜条件:
一、バティンがすでに開いていること。
二、筆記試験に合格すること。
三、体力試験に合格すること。
各村は、この告知が出された日から2年後に、中央都市ナガラで行われる選抜試験に、若者を一定数送らなければならない。
以上、お知らせする。皆様のご理解に感謝申し上げる。』
ムザはただ首をかしげて、そこに刻まれた文を読んでいた。この人たちが何の話をしているのか、まったくわからないという印だった。
一方ジョルダは、しばらく告知を見つめてから、ムザへ視線を移した。これからは、ムザに本当のことを正直に話すべきなのか。それとももう一度、本当の真実から逃げ去るべきなのか。
だが、ムザがこれまで知ってきた世界が、ジョルダ自身の嘘が作り出した幻にすぎなかったと、ジョルダは示したくなかった。
しかし、ジョルダがどれほど偽りを抱えて逃げ続けても、真実は遅かれ早かれ、必ず二人を追いかけてくるのだった。
「……ムザ、今日から畑仕事はやめだ」
「あとで、家の裏で会おう」ジョルダはそう言うと、ムザを置いて歩き去り、人混みの中へ消えていった。
ムザが隣の叔父のほうを向いて返事をする間もなく、叔父はもう行ってしまっていた。
一方、ムザの頭の中では、叔父のその言葉を聞いて、こう思っていた。「畑仕事をやめる?じゃあ何を食うんだよ?おっさん、新しい仕事でもあるのか?このひげおやじ」
ムザはそこから立ち去り、寺院の階段を一段ずつ下りていった。周りを飛ぶ鳥たちを連れて。ムザは口笛を吹き、小指で鼻をほじりながら、上から村の景色を楽しんだ。
黄色く色づき始め、収穫の時が近いことを示す稲が見えた。穏やかな川の流れには、魚たちが跳ねていた。
そして、さまざまな種類の木々が、小さな砦のように村を取り囲んでいた。
気づけば、ムザがこの村に住んで2年がたっていた。今、12歳になった彼の運命の選択は、これから自分が何を選ぶかにかかっているのかもしれない。
最後の一段のところで、視界の端に、自分と背丈の同じくらいの少女が映った。華やかなドレスを着て、通り過ぎたあとにはとてもよい香りが漂っていた。
「ちょっと、待ちなさい!……あなた、告知の石はどこにあるか知っている?」ムザの後ろにいた少女が尋ねた。
ムザは振り向きもせず、鼻をほじった指を上へ突き上げ、寺院のある方向を指して答えた。「上だよ。上に登ればいいだけ」
少女の顔が、熟れかけたジャワフトモモの実のような色に急に変わり、眉がゆっくりとつり上がった。
「そんな口のきき方、失礼だわ!私が誰か知っているの!」
ムザは少女の言うことをほとんど気にも留めず、歩みを緩める気配すらなかった。ただ首を横に振って、「知るかよ、この野郎」と言うようなそぶりを見せただけだった。
少女は、わけのわからない文句をぶつぶつと言い始め、感情をあらわにして何度も地面を踏みつけた。
それは当然ムザの耳にも届いていたが、家の床下で鳴くネズミのチューチューという声のようにしか聞こえなかったのかもしれない。
結局、少女は、遠ざかっていくムザの背中を見送るしかなかった。抵抗も謝罪もなく、その村の少年の態度に、少しばかりプライドを傷つけられた。
家に着くと、ムザは叔父に会うために家の裏へ回った。そこには、小さな袋と、布に包んだいくつかの食料や旅の品を支度しているジョルダの姿があった。
「おい、じいさん、何してるんだ?」
「知りたがりだな」
「まさか、また引っ越すなんて言わないよな」
「……まさか。引っ越してばかりいられるほど金があると思うか?ほら、取れ」ジョルダはそう言いながら、小さな袋をムザのほうへ放った。
「これ……何のため?」
「今から2年間、俺たちは山で寝泊まりするんだ」
「山?どの山のことだよ?それに、何しに行くんだ」
「や~~~ま……あれだ!」
ムザは、叔父が差した手をじっと見た。少しずつ、叔父の人差し指は、非常に高い山の頂を指していた。
村からそれほど遠くないかもしれないが、周囲の人々は皆、その山がとても危険だと知っていた。凶暴な獣から、そこに棲みつくジンまで。
「冗談だろ?」
ジョルダは黙ったまま、最後にひとつ息をついて、布で包んだ荷物をすべて肩に担ぎ上げた。ムザのほうを見ることもなく、のんびりと歩き出した。
「尻を蹴飛ばされなきゃ動かないのか!」すでに前を歩いていたジョルダが叫んだ。
不平たらたらの顔で、ムザは重い足取りで叔父の足跡を追った。親鴨についていく子鴨のように、ずっと後ろをついていった。
ムザは叔父を後ろから見つめた。心の中では、叔父はこれまでいつも一方的に決めてきたけれど、それでも結局はいつも自分のためのよい決断だったのだと思っていた。
ムザは、山で何をすることになるのかわからなかった。だが叔父は、この子に何をさせるべきかを知っていた。未来が待っているものは、まだ掘り起こされていない、真実という事実にすぎなかった。
二人揃って村の門を出た。背後の影のシルエットは、決断がすでに下されたことを物語っていた。結果がどうなるかを、彼らは知らなかったとしても。
運命の書が、二人の行動から新たな枝を書き記し始めた。
言葉なき選択肢、ただ確かな行動だけ。
ムザは周囲の自然の様子をじっと眺めていた。丈の高い草の陰から跳ね出るバッタ、あちこちを行き来する山猫、そして空を旋回するワシ。




