第5話:古き記憶の終わり
そのとき、村長の家の中では話し合いが行われていた。リオはそのとき、海で自分の身に起きた出来事について、村長と話していた。
「では、リオ、説明してもらえるか。いったい何があったのか、そして、どうして何人かの漁師があんなふうに死んだのかを」
「僕にはわからない。何があったのか、本当に忘れちまったんだ」
実のところ、村長が同じ質問をリオに投げかけるのは、もう何度目かの日のことだった。
だが、不思議なことに、リオは自分の身に起きた出来事をはっきりと思い出すことがまったくできなかった。
「では、その腕はどうしたのだ?」
リオは虚ろな眼差しで、ほとんど完全に失われた腕を持ち上げようとした。残っているのは肩の部分だけだった。
「……本当にわからないんだ、……ただ、水と、雷と、……鉄の匂いが……」
「ほかには?」
「……ジョルダ……」リオは小さくため息をつきながら答えた。
「ジョルダ?あの男がどうしたのだ?」
「ジョルダ……僕と、ほかの何人かで、海へ魚を捕りに行って……それから、嵐が」
リオの頭は突然、ひどい頭痛に襲われた。脈打つたびに、大きな岩に押しつぶされるように感じ、ただ頭を強く押さえて、苦痛にうめくしかなかった。
それを見た村長は、すぐに特別な瓶に入った水を飲んだ。普通の水のようには見えなかった。
村長は、飲んだその水をリオの顔に吹きかけた。穢れた霊力が突然リオの頭から抜け出し、黒い風のようなものとなって、周囲でゆっくりと薄れていった。
そのとき、息を切らしたジョルダがそこに到着し、扉を力任せに開けた。扉の後ろ側が壁に激しくぶつかった。
村長の家の護衛が何人か、その軽率な行動を止めようと、あとを追ってきた。
「おい、村長、赤ん坊はどこだ」
「落ち着け、村長は今、人と話しておられる」護衛たちは、ジョルダの体を押さえて中へ入らせまいとしながら言った。
「聞いてくれ、この村に災いが降りかかってほしくないなら……」
騒ぎを聞いた村長は、竹の椅子から立ち上がり、扉の前の彼らのもとへ歩み寄った。
「皆、落ち着け。何を騒いでおるのだ」
「まず放してくれ、とても重要なことなんだ――」
村長は、ジョルダの目が決意に満ちているのを見て、護衛たちに放すよう命じ、「中へ入れ」と言った。
最終的に、彼らはそれぞれの椅子に座った。ジョルダはちらりと友のほうを見た。長いあいだ知っていた男とは別人のようで、戸惑いに満ち、自分自身の意識が不安定になっていた。
当初、ジョルダはリオがこんな状態なのを見て、話すのをためらった。だが、今回のことは、どうしても言わずにはいられないことだった。やむなくジョルダは口を開いた。
「それで、何の用でここへ来たのだ。祠にいるべきではなかったのか」
「いや、体は大丈夫だ。だが、来たのは、あんたたちが見つけた赤ん坊のことだ」
「その赤ん坊がどうかしたのか?」
「長々と説明する気はない。その赤ん坊を殺せ。さもなくば、この村は滅びる」ジョルダは平坦な口調でそう言った。
村長は、目の前の男の口から出たばかりの言葉が信じられなかった。
その場の空気は一瞬にして張り詰め、村長は静かに背中から短刀を取り出した。
「聞き間違いではないのか?今、何と言った」
「言っただろう、その赤ん坊は今どこにいる!」ジョルダは立ち上がり、鞘から鉈を抜いた。
「……赤ん坊……ジン……あいつら……血……死ぬ」リオは言った。
ジョルダと村長は言い争いを続け、その間もリオは絶望の中でうわごとを言い続けていた。
二人の声があまりに大きかったため、隣の部屋から赤ん坊のむずかる声が聞こえ、それを耳にしたジョルダはすぐにそちらへ駆け出した。
ジョルダはゆっくりと竹で編んだ籠のほうへ近づき、少しずつ、その鉈を籠へと向けていった。
村長は止めようとして、最後の警告として短刀をジョルダに向けた。「ジョルダ!今すぐやめろ」
だが、ジョルダはその言葉をすべて無視した。そのときの彼の望みは、ジンに狙われているその赤ん坊を殺し、この村を迫り来る災厄から守ることだけだったからだ。
ジョルダは泣いている赤ん坊を抱き上げた。赤ん坊はまだ温かい布に包まれていた。ゆっくりと、ジョルダは赤ん坊を離した。
怪物の姿をしているだろうと思っていた赤ん坊が、片方の目が白く、盲目の、障がいを持つただの赤ん坊でしかなかったと知って、彼はどれほど驚いたことか。
その張り詰めた空気の中、赤ん坊はふいに、ジョルダの顔を見ると泣きやんだ。まるで、自分に危険など降りかかるはずがないとでも言うように。
ジョルダの眼差しの安らぎに、赤ん坊は微笑んだ。
ジョルダの手にあった鉈が、たちまち落ちた。石の床に当たって、鉄の甲高い音が響いた。
命の意味さえ知らない小さな人間が、自分の殺意と向き合わされていたことを、彼は到底信じられなかった。
「……これが、あんたたちが浜辺で見つけた赤ん坊なのか?」
「そ、そうだ」村長は、まだジョルダを警戒しながら言った。
張り詰めた状況はようやく少し和らぎ、彼らは再び椅子に座ることにした。ジョルダは、あのとき起きたことを、何一つ隠さずに語り始めた。
村長は、ジョルダの話に目を見開くしかなかった。自分たちが何に出会ったのか、そして、あのジンの女王が何と言ったのかを。
言い争いの末の結論として、赤ん坊の養育権はジョルダに委ねられた。村長にはどうしてよいかわからず、この状況で赤ん坊の命を守れるのは、ジョルダの力だけだったからだ。
あの出来事から2日が、そのまま過ぎた。ジョルダは今、浜辺の縁に座っていた。肩から腰まで巻きつけた布とともに。
その中には、小さな命が一つ入っていた。素性の知れない赤ん坊だった。
その隣には、商人の仕事から帰ってきたばかりのキラナがいて、反対側には、村長の治療とジョルダの霊的な助けのおかげで、少しずつ回復してきたリオがいた。
「それで、これからどうするの、ジョルダ?」キラナが尋ねた。
「まあ、仕方ないさ。遅かれ早かれ、あいつらも探しているものがここにあると知るだろう。どうやら、俺の旅はまだ続けなきゃならないらしい」
「……ああ、くそっ、お前、もうすぐ父親になるのか?」リオは冗談めかして尋ねた。
「まさか。俺はまだ結婚もしてないんだぞ」
「おいおい、隣にキラナがいるじゃないか。言っちまえよ、友よ」
それを聞いたキラナは、リオに近づいてその後頭部を叩き、言った。「冗談はやめなさい。さもないと、もう片方の腕も切り落とすわよ」
夕暮れの太陽は、三つの影を刻んでいた。あるいは、まもなく育つかもしれない、一つの小さな影を。
海風は、重い思いを手放すのに最もよい風だった。だから三人は、その風が吹きやむ前に語り合った。
「それで、いつ発つの?」キラナは、目にきらめきを宿して尋ねた。
「今夜だ。早ければ早いほどいい。あいつらに足取りを嗅ぎつけられたくない」
「そう。またここへ戻ってくるの?」
「運命がそう言うのなら、帰ると言おう」
「おお、武人が賢くなったもんだ。でも、僕たちはいつでもお前を迎えるぞ、ジョルダ」
ジョルダは、二人の友の言葉に、ただ小さく微笑んだ。自分の手のひらを見つめながら、ジョルダは心の中でつぶやくしかなかった。
「もし命が二つあるなら、俺は二つとも、ここを選ぶ」。
夜が訪れ、旅の支度と必要な品を整えて、村の出口で、キラナは何かを手にして、ジョルダに差し出した。
「これには金の刺繍が入っているの。私が自分で編んだのよ。このバティックが、あなたたちを守ってくれるわ」
「ありがとう」
別れの言葉を告げると、ジョルダはゆっくりとその小道を歩いていった。二人の友は、その背中がだんだん遠ざかっていくのを、ただ見つめていた。
「ジョルダ!!!次に会ったときは、もう片方の腕を取り立てるからな!!!」リオは大声で叫び、隣のキラナは耳をふさいだ。
そのときのジョルダの答えは、ただ一つだった。月の下で右手を高く掲げ、握りしめた。命の借りに対する、神聖な誓いとして。




