第1話:片目の少年と稲穂の村
鶏が交代で鳴き始め、まもなく日が昇ることを告げていた。外は、昨夜から降り続いた雨のせいで、まだとても寒かった。
ジョルダはゆっくりと寝台から起き上がり、それから彼の注意は、竹を編んだものを布団代わりにして、その上にまだ横たわっているムザへと移った。
ジョルダの手が優しくムザの頭を撫でた。ムザはまだ眠っていて、その顔はまだ疲れ果てたように見えた。
「おい、坊主、起きろ、俺たちの稼ぎを鶏につつかれちまうぞ」
あくびをしながら、ムザはジョルダの言葉に答えた。「ふあぁぁ……本当にもう朝なの?」
「ん?、何か言ったか?」
ムザはゆっくりと寝台から起き上がり、ふらふらと歩きながら、片目の覆いを取るためにテーブルのほうへ向かった。
「まったく、ひげおやじは今じゃ耳が遠くなったのかよ?」
「俺が耳が遠いだと?、おい、言っておくがな、若い頃は、山の頂で狼が吠えれば、俺は必ず聞き取ったもんだ」
「はいはい、とりあえず信じてみるよ」
「ああ、ああ、ついでに言うとな、俺が昔、若かった頃は――」ジョルダの言葉は途切れた。
叔父の昔話があまりに多いことにうんざりしたムザが、木の桶を彼の頭めがけて投げつけたのだ。
ムザはそっけない態度で服を身にまとった。そして、すっかり古びて見える外套も忘れなかった。そうであっても、その外套の縁の模様は今もとても美しく、金糸の刺繍の柄はまだ輝いていた。
この土地の人々は、それを「バティック」と呼んでいた。
「鶏につつかれる前に急ぎたいって言ったのは誰だよ、なんで突っ立ってるんだ?ほら、川へ行くぞ、この怠け者」
「このガキめ、捕まえたらその生意気な顔をボコボコにしてやるからな」ジョルダはそう言いながら、逃げるムザを無茶苦茶な勢いで追いかけた。
村の景色は、ちょうど涼やかな空気に包まれていた。
道といえば、方向を示す土の小道があるだけで、その縁には夜の明かりとして松明の棒が並んでいた。ジョルダとムザは、まだ背の高い草の上を駆け抜け、山の岩々がその景色をいっそう素朴で美しいものにしていた。
やがて二人は川に辿り着いた。流れは穏やかで、川筋に沈んだ天然の岩々から、水の泡が立ち上っていた。川で身を清めたあと、ムザは川面に映る自分の顔を見つめた。
右目が見えない、その目を見つめた。何度見ても、ムザは自分が障がいを負った者として生まれた運命を受け入れられないようだった。
毎日、彼は同じことを繰り返していた。水を見つめ、自分の顔を見て、心の中でこう言うのだ。「ぼくは障がい者じゃない」と。それは、日ごとに薄くなっていく、彼の自信の壁だった。
その後、二人が一日を費やしたのは、かなり広そうに見える区画の畑での畑仕事だけだった。灌漑用の水路が、その土の畝の一本一本に沿って流れ、これから育つ稲のための水源となっていた。
稲を植えることが、そのときのムザの主な仕事で、収穫のときに売る商品にするためのものだった。
気候と天候は、今は村人たちが畑仕事をするのにまさに適していて、おまけにこの村は、食料の生産で名高く、かなり質のよい稲の産地として知られた村だった。
農民であることが、ここに住むほぼすべての人の主な職業であり、生きるための生業だった。
休憩の合間、ムザとジョルダは弁当を食べながら、ほかの農民たちと一緒に、あれこれと噂話に耳を傾けた。
「みんな聞いたか?隣の村で昨日、ジンが来て大騒ぎになったらしいぞ、きっと都の中心から来た連中が来たせいじゃないか」
「ああ、確か監察官だろ、あいつらここに何しに来るんだ、遺物でも探しに来たのか?もう無いって言われてるじゃないか」
そのときの状況と会話は、ひどく張り詰めた空気に包まれていた。そこにいた村人の一人が、ひどく平坦な口調で何かを言った。「あいつら、生贄にする誰かを探してるんじゃないのか?」
遠くから、人影が次第に近づいてきた。はっきり見えてくると、それはこの村の村長だった。杖をついた老人にすぎず、歩くたびに自分で引っ張れそうなほど長い白い顎ひげを蓄えていた。
「皆、落ち着け。生贄などというものはない。お前たちは、起こるとも限らないことを考えすぎだ」
「あの者たちの来訪には、きっと別の理由がある。自分のことに集中するほうがいい。考えすぎは、自分自身にとって毒のようなものだ。今夜、数人は私と一緒に寺院へ来ることを忘れるな」
そこにいた全員が、村長の助言を黙って聞いていた。村長について寺院へ行くよう選ばれた数人は、ただ「はい、村長」と答えるだけだった。
ご飯を噛んでいたムザは、その会話を聞いて突然むせた。意気込んで、尋ねようとした。
「待って!何の話をしてるの?ジンって何なの?」
「おい、ガキ、大人の話に首を突っ込むなと言っただろう」
「そもそも、中央の監察官って、あいつらいったい誰なんだよ――」
ジョルダはムザの口を手のひらでふさぎ、同時に手で静かにするよう合図した。叔父の眼差しがいつもと少し違うことに気づいたムザは、その指示に従った。
その間にも、叔父の眉はますます鋭くなっていった。
時はそのまま過ぎていき、やがてコオロギの鳴き声が少しずつ聞こえ始め、その日の仕事が終わった合図となった。
そのときの空は夕暮れの赤に染まり、夜が訪れる合図だった。二人は一日の畑仕事を終えて、家路についた。
ムザは叔父のほうを見た。叔父はさっきからずっと、誰かにささやき、話しかけているようだった。
けれど、叔父が誰と話しているのか、その姿は見えなかった。ムザは、叔父は疲れているのだろうと、心の中で推測するしかなかった。
「おじさん?大丈夫?さっきからずっと、すごく変だよ。しかも急にぼくの口をふさぐなんて、ぼくはただ聞いただけなのに」ムザは畑の道具を片づけながら尋ねた。
「……大丈夫だ。晩飯のあとは、早めに寝るようにしろ、わかったか?」
「はぁ、また無視して。最近のひげおやじは、いつも人に命令ばっかりするんだよな?」
「何だと?!お前、また何か言ったか?」
「な、な、何でもないよ」ムザはつぶやいた。その後も、ジンとは誰なのか、中央の監察官とは誰なのかという疑問は、ムザの頭から離れなかった。
二人は、まだ乾いた稲わらを編んだものを敷物にして座り、そこで穏やかに夕食をとっていた。
ムザは一日中働いてとても空腹だったので、その薩摩芋をがつがつとむさぼるように食べていた。一方、ジョルダは、ずっと窓の外へ注意をそらし続けていた。
「それでさ、おじさん、真面目に聞きたいことがあるんだ」
「何だ?俺の若い頃の話の、どの部分をまた聞きたいんだ?」
「話をそらすなよ、ひげおやじ。ぼくは、ジンって何なのかが気になるんだ」
ジョルダは、ムザの言葉を聞こえないふりをした。ムザは、叔父が聞こえないふりをするのが大の下手だと知っていた。
それは、顔を横にそむけ、同時に口の端がしきりにひくついていることからわかった。
「おい、本当に無視する気か?こんな因果の法則を覚えてないのか?『孤児を無視する者は、実は死に最も近い者である』」ムザは、詩人のようなポーズをとりながら、そう言った。
「ほう、今度は俺と法で遊ぶつもりか?そもそも、神々はとうの昔に死んだんだ。子どもの法なんて、そんなものは通用しない」
「お前に、因果の何がわかるっていうんだ、ガキ?」
ムザはそれから黙り込み、叔父の問いをもっと深く噛み砕こうとした。壁に掛けられたランプのほうを見た。
そのランプは、毎晩飛び交う何匹かの虫にいつも囲まれていた。自分の考えを目にしているものと照らし合わせようとしながら、ムザは叔父の問いに答えた。
「ぼくが思うに、因果って、虫に囲まれたランプみたいなものだと思う。それを消せば暗くなるけど、その一方で虫は去っていくから、噛まれる心配もしなくていい。だから因果は、均衡として存在してるんじゃないかな?たぶん?」
「ははは、なかなか面白い答えだな、ガキ」ジョルダは、ムザの口から直接出たその答えを聞いて、腹を抱えて笑った。
彼にとってそれは、その年頃の子が、生の因果の循環の意味を噛み砕くには、なかなか深い考えだった。
その場の会話を割くように、犬の遠吠えが響き渡った。犬たちは非常に大きな声で吠え、それはこの村の人々が信じる凶兆の一つだった。
その声を聞いたジョルダは、電光石火のごとく背筋を伸ばして立ち上がり、ときおり窓のほうへ目をやった。
遠くでは、道沿いの松明が一つ、また一つと静かに消えていき、何かひどく悪いものの到来を告げる前触れとなっていた。
「あ、あ、あの者たちが来る!」
「あの者たちって誰?」
ジョルダは、今は口にしてはならないことを言ってしまったことに気づいていなかった。
そのため、ジョルダは自分の頭を撫でながら、ぶつぶつと不満をこぼすしかなかった。
「今それを説明するのは面倒だ、ガキ」
「俺の後ろに隠れていたほうがいい」
犬の吠える声はさらに近づき、彼らのほうへ向かってきた。慌てて、ジョルダは机の下にある箱を取った。とても古びて埃をかぶった箱だった。
ゆっくりと、青い紙を一枚取り出し始めた。ジョルダはゆっくりと指を噛み、その血で、紙の上に柵の印を描き、それを扉に貼りつけた。
「霊系結界、開け!!」ジョルダが叫ぶと同時に、その指が素早く印を結び始めた。
紙から発した強い風が吹き荒れて爆ぜた。何が起こるのか身構えていなかったムザは、吹き飛ばされて木の壁に叩きつけられ、ゆっくりと意識を失っていった。
最後にムザが見たのは、あの小屋を取り囲むように宙に浮かぶ、文字のような形をしたものたちだけだった。




