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異端奇譚  作者: こーよー
3/4

婆さん……?

戮力荘は東京都叉ヶ台(さがだい)山代(やましろ)にある。俺の住んでいた家よりも県庁所在地の中之条( なかのじょう)区に近いため、全体的に都会だ。 


 そんな叉ヶ台区よりさらに中之条に近い庄条( しょうじょう)区に俺と輪廻さん、あと暁君は車で向かっていた。 

 運転は輪廻さんだ。輪廻さんはお付きの運転手がいそうな雰囲気だが、輪廻さん自身で運転している。俺は助手席に座って、暁君は後部座席に座って本を読んでいる。子供向けだけどもそこそこぶ厚い妖怪の本だ。分かるよ、俺も妖怪とかにハマってた頃あったよ。どうして今回の訪問に暁君も同伴しているのか気になったが、どうも今向かっている場所にいる異端者に暁君が特に気に入られている(暁君も気に入っているらしく、大喜びしていた。両思いだ。)かららしい。


 向かっているのは庄条区に住んでいる異端者──輪廻さんが言う”婆さん”が住む家だ。戮力荘を貸してくれた異端者だそうだ。

 以前その異端者の事を輪廻さんが大御所中の大御所と言っていたのを思い出した。婆さんと言うにはお年寄りなんだろうし、もしかしたら何か政界の重鎮とかそんな方なのか?昨日に続いて今日もとんでもない目に合うんじゃないんだろうか……?


 どうも最近緊張することばかりだ……一夜明けても自分が異端者だという自覚も出来なかった。

 それでも歓迎会は楽しかったし、シェアハウスに対する不安もなくなった。

 振る舞われた料理が美味しくて、感動してしまった。今まで伯父さんが帰ってきている時以外は自炊をしていたけども、ふわりさんとの圧倒的な料理スキルに敗北感を感じてしまった。


 そんな歓迎会では、俺の能力の考察も行われた。結論として、俺は手で触れた異端者の能力を奪う能力ではないかと言う話になった。

 どうして実際に試すのではなく”考察”だったのかは、俺が今使えるしている能力が現在逮捕されている右近の能力だからだそうだ。現在右近は異端者収容所に収容されているらしいが、異端者としての能力が一切確認されていないらしい。もし俺が奪っているお陰で右近の能力が発動できないなら、そのまま奪っていたほうが良いと言うのが上の判断らしい。


 しかしこの能力には制限もあるのではないか、と輪廻さんは言っていた。

 そもそも異端者の能力というのは異端者本人の身体に能力が依存しているタイプとそうでないタイプがいる。身体に能力が依存しているタイプを依存型、そうではないその他の自律型と呼ぶそうだ。

 能力の性質的に、俺が奪うことのできる能力は自律型だけらしい。原理はまだ分かっていないらしいが能力は身体から引き剥がせない云々を輪廻さんが呟いているのが聞こえた。

 こうした能力の研究にも俺は役立つらしいが、まだそうした研究に協力するといった話は出てきていない。流石に気が早すぎるだろうか。でも俺としては色々と協力したいと思う。

 ………もしそんなことになったら、道徳の範疇で研究してほしいな…


 結局大和は目覚めても俺の前に出てくることはなかった。やっぱり大和は俺と会うつもりはなかったみたいでそのまま部屋の整理をしていたみたいだ。

 これから一緒に暮らすからといってファーストコンタクト(?)を疎かにしたくなかったがうまくいかないな……伯父さんや守恒先生に連絡もしないといけないし、考えることは山積みだ。

 

 真っ直ぐ前をみたまま、流れる景色を眺める余裕も無い。エアコンが効きすぎているのか寒気がする。それでも汗が染み出てきて、手が気持ち悪くなる。

 手を擦り合わせて汗を飛ばす。


 「広斗。」


 突然、隣の運転席の輪廻さんに話しかけられる。


 「な…んでしょうか?」


 「緊張しているな。」

 

 こちらを見ないまま、落ち着いた口調で続ける。

 ちょうど赤信号だ。


 「昨日も言ったが異端者と言うものは一般の人々には余りにも遠い存在だからな。突然適応しろと言う方が理不尽というものだろう。」

 「……」

 「何事も慣れには時間がかかるものだけど、俺は少しでも早く君には異端者がどういうものなのか知ってほしいんだ。慣れると異端者だって、ちょっと個性的なだけで人間なんだ。」

 「…ありがとうございます。輪廻さん……あの、俺今まで異端者の話題あまり詳しくなくて。正直感心も無かったんです。」

 「まあそうだよね。僕もぜんぜん知らないし。」


 後部座席の暁君がこちらに身を乗り出してきた。

 

 「でもねそんな気を張らなくてもいいと思うよ。僕、特に気を付けて覚えようとは思ったりしなかったけど、まあまあ異端者の事詳しいんだ。後輩、どういう事か分かる?」

 「え?えーと……分からないです。」

 「知ろうとしなくてもなんとかやってけるってことだよ。それになんかお仕事とかやってたら勝手に頭に入ってくるんだ。」

 「そうだ、他の人から聞いた話が知らず知らずのうちに頭に入ってたりするだろ?」

 「あー……確かに友達の趣味の事とか話聞いてるうちに詳しくなったりします。」

 「友達!!」


 さらにぐっと暁君が身を乗り出す。きらきらした左目で俺を見る。


 「学校の友達!?ね!どんな友達!?どんな友達!?どういう話したりするの!?」

 「こら暁、あんまりプライベートな事を急に聞くのは良くないぞ。」

 「い、いえそんな。ぜんぜん良いですよ。」


 ずっと大人しめでのんびりした暁君がぐいぐい話しかけてくるのに少し面食らってしまったが、年相応な面もあるのが見えてなんだか悪い気はしなかった。


 ……待て、昨日輪廻さんが暁君は大和と同い年とか言ってなかったか?年相応か?

 …………まあいいか。


 「えっと、俺の友達に……結構ファッションとか美容系の話が好きな奴がいて。」

 「ファッション!!ふわりちゃんとか、ねおんちゃんはファッション好きだよ!凄いお洒落だもん!」

 「あー、ふわりさんの格好はガーリー系って言われる格好だね。ガーリー系の服はフリルとかリボンが特徴でね。可愛らしい印象で、若い子向けのもあれば少し控えめな大人向けのガーリー系の服があるんだって。」

 「確かに!ふわりちゃんの服さ、いっぱいリボンついてて可愛い!」

 

 「あと、ゲームが好きな奴もいるんだ。」

 「ゲーム!!あ、戮力荘(うち)にはね、左右君ってゲームが好きな人がいてね!たまにやってるところ見せてくれるんだ!僕にもやらせてくれるんだ!」

 「お、そうなの?なんてやつ?」

 「えっと……|ENDLESSエンドレス BANGLEバングルってやつとか、ハイパーハンターってやつ!」

 「中々玄人向けだな……ちょっと話してみたいな…」

 「後輩はゲームするの?」

 「俺はあんまりな〜ソシャゲはやるんだけど、買い切り型のやつはゲーム機を買わないといけないから値が張るんだよね…」

 「そっかあ……」

 「で、でも話聞くの好きだからさ!前に友達の家でやらせてもらったことあるし、無経験ってわけじゃないんだよ。それにゲームしてるのを見るの楽しいからさ。」

 「そうだね、後輩!今度左右君が帰ってきたら一緒に左右君がゲームしてるの見ようね!!」


 暁君は俺の目を真っ直ぐ見て、腕を掴んで上下に凄い勢いで振る。

 

 「暁、暴れないでくれ、結構危ないから。」

 「あ、ごめん輪廻君……」


 スッと暁君が後ろに戻る。だか、その後すぐに後ろから暁君の囁く声が聞こえた。


 「帰ったらもっと学校の友達のこと、話してね。」


 暁君の左目が弧を描く。躑躅色が薄く見える。


 俺はまだ何も知らない。異端者の事も、これから暮らしていく同居人達の事も何も知らない。

 だからなんだ。まだまだ時間はあるじゃないか、それに俺のこの生活は始まったばかりなんだしゆっくりやってけば良いんだ。


 俺は少し慌ててたんだな。慌てず、落ち着いてみよう。

 窓の外の景色は思っていたより緑が多かった。


◇◇◇


 「二人とも、着いたぞ。」


 輪廻さんが車のエンジンを止める。

 着いたのは普通の──都心であることを踏まえると普通の豪華な邸宅だった。デカい、めっちゃデカい。2階建てらしいのも相まってデカい。威圧感すら感じる。家を囲う塀は邸宅の色と揃えられた上品な黒だ。


 そんな豪邸の門の側に備え付けられたインターホンを輪廻さんは躊躇なく押す。


 「婆さん!来たぞ!」

 

 高級住宅街だからか、輪廻さんも(普段と比べると)声が小さめだ。


 しかしインターホンから返事が聞こえない。反応もない。


 輪廻さんは頭をかいて門の鍵穴に鍵を刺す。そのまま門の中へ入っていく。暁君が「ほら。」と手を差し出してきたので掴むと、そのまま俺も門の内側へ引き込まれる。

 

 「えっと…入っちゃって良かったんですか…?」

 

 少し躊躇して輪廻さんに問うと


 「ああ、大丈夫だろうそれに多分インターホンの音は聞こえてると思うぞ。」

 「じゃあどうして返事がないんです?」

 「あの婆さんな、」


 輪廻さんが何かを言おうとした時、玄関から、豪邸の方からドタドタと騒がしい音がする。


 「あ、来た!!」


 暁君が嬉しそうに玄関の扉を見る。


 ガチ!ガチャ!


 複雑な鍵が乱暴に開けられる音がする


 バン!!!!!!



 「はーはは!!!よう来たのお!!輪廻や!!暁や!!」


 扉から出てきて、こちらに走り寄ってくる、()()女性だった。


 車の窓から見た木々のような深い緑の髪は長く艷やかだ。生き生きとした表情で満ちた目は薄墨を垂らしたかのような灰色だ。


 ただ、俺はそうした彼女の姿はあまり目に入らなかった。

 なぜなら彼女は


 「おい婆さん…………」

 「ん?なんじゃ輪廻や。」


 輪廻さんは口元を引き攣らせたまま叫ぶ。

 

 「なんだそのとんっでもねえピッチリツヤッツヤのワンレンボディコンは!!!!」

 「わあ婆ちゃん、凄いえっちな格好してる。」


 暁君が手で顔を覆う。しかし指の隙間からこっそり視線を送っている。


 彼女のとんでもなく豊満な胸(友達の見せてくれたファッション誌にもここまでの爆乳はいないレベルのケタ違いの爆乳だ)を殆どつつむことができていないツヤツヤした鮮やかな赤色の生地。スカートは短く、太ももが三分の一も隠れていない。袖も無くスラリとした色白な二の腕が晒され、鎖骨も丸見えだ。


 そして思い出してほしい。彼女は走り寄ってきたのだ。


 もう走ってくる時おっぱいがもうぶるんぶるんで!!目に入れないようにしても無理に入ってくるようなおっぱいで!!すんごいぶるんぶるん!!

 ちょっと見えちゃいけないとこ見えそうだし!!走らないで!!

 

 俺の身近には女性がいない(クラスメイトがいるだろ?クラスメイトの女子と話せるわけないだろ)、つい最近辞めたバイト先には女性がいたが生憎高嶺の花と言うか話しかけることもできず遠巻きに眺めるしかなかった。

 つまるところ、俺には女性に対する耐性なんて全くない。


 顔が真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かる。顔熱いもん。その場に俺はへたり込む。


 あ、なんか鼻めっちゃ熱い。鼻血出てきたかも。

 

 「し、しよ、し初対面の女性に、俺はな、なんてことを…」

 「後輩大丈夫?」

 

 まだ手を顔に張り付けたままの暁君が顔をのぞき込む。

 鼻血が高そうな石の床に垂れる。


 「婆さん………」

 「なんじゃ輪廻、さっきっからどうしたんじゃ。」


 輪廻さんは拳をぷるぷるさせて、高級住宅街であることも忘れて叫ぶ。


 「健全な!!高校生の目に!!毒だろうが!!!!!!」


◇◇◇


 「いやーすまんのお。最近の流行りと聞いたんじゃがなあ…」

 「何十年前の流行の話だよ…」

 「僕その流行り知らないかも〜」


 豪邸の中で俺達はお茶とお茶菓子を食べていた。


 あの後、ここが住宅街であることを思い出した輪廻さんにより、俺達は大急ぎでこの豪邸に押し込められた。

 鼻血の処置をしてもらって、今俺の鼻にはティッシュが詰め込まれている。詰めてもらったときに見たが、アレ高級なティッシュじゃなかったか?鼻に詰めて良いティッシュだったのか? 

 

 「あの婆さんの性なんだから遠慮なく受け取っておけ。全くあの婆さんは……そう言えばそろそろ服を変えたいとか言ってたな……やっとアレから変えてくれるかと思って安心してたんだが、もっとまずい服になったな。」

 「……あの、前はどんな服で?」

 「…………地雷系ファッションだ。」


 嘘だろ、おい。


 「その前はクラシカルドレスだったか。」


 貴族かよ。


 「更に前はトロンプルイユだったかな。」


 何それ知らない。


 「なんじゃ儂のファッションに文句でもあるのか。」


 女性はじろりと輪廻さんを睨みつける。どうやら寒気がしたらしく、輪廻さんは体を震わせる。


 「おお、そうじゃそうじゃ。」


 パン、と手を叩いて女性がこちらを向く。


 「改めてすまんの、儂美少女じゃから。」

 「は…はあ。」

 「美少女って歳じゃないでしょ。」


 輪廻さんにゲンコツが飛んだ。悶えてる。かわいそう。


 「儂は可付加(かふか)じゃ、よろしゅうな。」  

 「…どうも、橋船広斗と言います。」

 「して、お主高校生と言うたか。」

 「は、はい。」  

 「若いの〜〜〜!!!!愛いの〜〜〜!!!!」


 突然女性──可付加さんが俺を抱きめて頭を撫でる。


 おっぱいリターンだ!!近い!!近い!!


 刹那輪廻さんが鋭くこちらを見て可付加さんを牽制した。

 視線に気づいたのかぱっと俺を抱きしめた腕を離し、両腕で頭を撫でだした。ちょっと恥ずかしいかも。


 そんな俺の様子が分かったのだろうか、お茶を啜っていた暁君が可付加さんに駆け寄る。


 「ねえ婆ちゃん婆ちゃん。」

 「おおどうした暁や。ちょっと背伸びたか?」

 「やだなあ婆ちゃん、冗談きついよーあめちゃん頂戴!!」


 暁君は両手を可付加さんに突き出す。


 「そうかそうか、ちょっと待っとれよ。」

 「わーい!」


 そう言って可付加さんはデカいリビングから出て、すぐ側のデカいキッチンへ向かう。

 冷蔵庫の中から出てきたのはこれまたデカい、カラフルなペロペロキャンディだった。


 「ほれ、来ると思って、ちょっとだけ冷やしておいたぞ。」

 「わーい!!婆ちゃんありがとう!」

 「割れんように時間は調節したが気を付けて食べるんじゃぞ。」

 「はーい!!」


 包装を剥いてキャンディを嬉しそうに口に入れる。いいなー


 「なんじゃ広斗、お主も欲しいか?」

 「いっ、いえ!そんな!俺はその、お茶菓子も頂いてますし大丈夫です!!」

 「遠慮するでないぞ、食べ盛りじゃろうて。ほれほれ〜」


 そう言って俺にもペロペロキャンディを渡す。輪廻さんにも渡した。


 「あ、ありがとうございます…」

 「……ありがとう、婆さん。」

 「ふん、何十個か買っておいたから後で持ち帰り用を包んでやろうな……はあ、昔のように可付加お姉さんとはもう呼んでくれんのか?」

 「あんたの実年齢知ったらお姉さんなんて言えないです。」

 

 力強く包装を破って輪廻さんは口にキャンディを突っ込む。

 なんだか髪型もバッチリ決まってて、スーツを着込んでいるのに、どこか俺のような若者の持つ反抗心の様なものが輪廻さんの振る舞いから見て取れる。


 「えっと……輪廻さんと可付加さんはいつごろからの付き合いなんでしょうか?随分親密な仲だと思うんですが……」

 「そりゃあもう、輪廻がこーーんな小ちゃい頃からじゃ。」


 可付加さんが親指を人差し指をくっつくのではないかと思うくらい近づける。


 「そんな小さい頃からか?」

 「そりゃあそうじゃよ!お主の母親とも儂は知り合いじゃったんだからな!」

 「……そうだったな。」


 輪廻さんが少し目を伏し目がちにしたかと思うと可付加さんを真っ直ぐ見直し人差し指を突きつける。


 「でも俺が一番最初に会った記憶があるのは5歳だ!!」

 「おお、そうかそうか。あん時はのお、ほんに小ちゃくて可愛かったのーほっぺもぷにぷにじゃったし。儂に人見知りしてのお!!」

 「突然目の前にチャイナ服の見知らぬ人間が現れたら誰だって怪しむでしょう。」


 チャイナ服だったんだ……………


 「今はもうこんな小生意気な小童になりおって……」

 「なんですか、俺の生き方に文句でもあるんですか。」


 ふんと鼻を鳴らす。可付加さんの真似だろうか。


 「いやいや、そんなことは無いぞ。むしろこれくらい生意気な方が可愛がりがあるもんじゃよ!!愛いの〜〜〜!!このこの〜〜〜!!!!」

 「ゔ。」


 今度は輪廻さんを抱きしめて頭を撫でだした。すげえ、今度はおっぱいに顔が埋まってる。凄い暴れようだ。

 ……待て、あれ息できてるか?


 「ちょ、可付加さん!!輪廻さんが死にます!!息できてません!!」

 「ぬ、おおほんとじゃ。」


 ぽん、と輪廻さんを胸から取り出す。顔が青くなっている、本当に死にかけじゃないか。ふらふらと動きながらしきりに息を吐いたり吸ったりしている。


 「全く、お主は相変わらず異端者の割に貧弱じゃのー。ほれ、あの、ほら、カノジョに稽古つけて貰ったらどうじゃ。」

 「尖はまだ彼女じゃないです!!!!」


今度は顔を真っ赤にして輪廻さんは答える。血圧とか大丈夫なのかあの人?


 「そうじゃ尖ちゃんじゃ、あの娘も元気かい?」

 「元気すぎるくらいですよ。体調も安定してますし。」

 「そうけそうけ、あの娘はなあ、まあ、なんともな、不憫な娘じゃ……輪廻や、幸せにしてやるんじゃぞ?」

 「だから気が早いって婆さん!!」

 「孫の顔が見たいのお……」

 「あんたからしたら全人類孫みたいなもんだろ!!」


 昨日まで俺は輪廻さんの事を少し親しみやすいが完璧超人の様な印象を抱いていたが、これは……


 「反抗期の高校生かな……」

 「高校生?何のこと?」


 暁君はキャンディを口から外し、疑問を投げかけるが俺は答えられなかった。つい口をついて出た言葉に変に説明をつけても誤解を招きそうだし。


 ひとしきり輪廻さんの頭を撫でていた可付加さんはどうやら本題を思い出したらしく、頭から手を離し俺の方を向いてリビングにあった背もたれの長い椅子に座る。ボディコンの服とのミスマッチさに不思議と魅力を感じる。


 「さて……今回は異端者の話が聞きたいんじゃったな?」

 「……はい、俺の様な今まで異端者と関わりも無かった奴に異端者に関する知識を授けて頂きたく…後のその、能力の事とか。」

 「まあそう畏まるな。儂もな、たまに誰かに話さんと忘れてしまうからの、丁度いいわい。」


 「さあ、世界最古の異端者が知恵を授けてやろうか。」

 

◇◇◇


 「異端者とは何か、根本的じゃがまあ一旦全部話していくぞ。」

 「よろしくお願いします。」


 真面目そうな表情で可付加さんが足を組む。

 

 「異端者とは、様々な能力を持つ者じゃ。異端者は後天的に異端者として覚醒する場合と、異端者として産まれてくる先天的異端者の2種類居る。基本後天的に異端者として覚醒する場合が多いの、義務教育の範囲でもそれは習ったであろう?」

 「あ、はい。小学校の時によく習いました。」

 「どうして小学校で習うのか覚えとるか?」

 「……異端者が後天的に覚醒するのは平均して6歳から18歳とされていて、異端者が覚醒するのは異端者がこういう能力に目覚めたいと心から望むから……だったはずです。」

 「そうじゃ、先天的異端者はともかく、後天的に異端者になる者は、《心の底から何かに憧れ、欲す事によって能力を覚醒させる》これが長年の研究の結果じゃ。儂は先天的異端者じゃから、特にそういうのはないんじゃがな。」

 「結構非科学的ですよね。小学生ながら願えば叶うって本当なのか疑問でした。」

 「まあ心の底から願ったとて異端者になる者は少ない。素質など別の要因もあると考察されてはいるが……未だに真偽は不明じゃ。」


 「異端者の能力には2つ種類がある。その肉体に能力が縛られている──と言うより肉体に能力が染み付いているタイプの依存型と肉体に能力が依存せず、体より外に能力が働く自律型がある。お主の能力で奪うことができるのは肉体に能力が依存しておらぬ自律型だけではないかというのは儂の考えでもあるんじゃ。昨日電話で聞いての、そもお主が昨日奪った能力は依存型に見えて自律型じゃ。」

 「え、肉体に依存してそうでしたけど……」

 「ふむ、じゃあクイズじゃどうやって依存型か自律型か見分けるか分かるか?」

 「え?えーと……すいません、分からないです。」

 「うむ、先程異端者にも2種類あると言ったな?」

 「あ、もしかして先天的異端者は依存型で後天的異端者が自律型ですか?」

 「正解じゃ!まあほんのちょっぴり例外はいるがな。」


 ちらりとまだ飴を舐めづつけている暁君を見る。暁君の、右目を見る。


 「基本、先天的異端者は常に少しだけ能力を使っておるんじゃ。能力が肉体の一部じゃからな。だがお主は今、右腕を変容させておらぬ。それは能力が自律型で、自由に発動するしないを切り替えられるからじゃ。」

 「へえ……」


 俺は昨日から持ち歩いていたメモに話を簡潔にして纏める。

 なんで昨日も持っていたのか?職場体験に行くのにメモはいると思ったからだ。昨日はあまり使わなかったが、ある意味とても必要になったから、持ってきてよかった。


 「あ、質問いいですか?」

 「うむ、申すがいい。」

 「可付加さんはどんな能力の持ち主なんですか?先天的異端者ということは常に能力を使ってるんですよね?」

 「あれ?言っとらんかったか?」

 「まだ……」

 「儂も歳じゃのー忘れとったわい。」


 髪を腕で勢いよく払い、しなやかな足を組む。


 「儂の能力は『付加(エンチャント)』じゃ。モノに能力を付与できるんじゃ。ほれ、お主昨日儂のエンチャントしたモノを使ったであろう?」

 「え、あの鏡ですか?」

 「そうじゃそうじゃ、あれには『空間移動』のエンチャントをつけての、便利じゃろ?………ん?」


 突然可付加さんが怪訝な顔でいつの間に椅子の後ろに立っていた輪廻さんを見て言う。


 「そういえば輪廻や、なんで鏡を伝って来なかったんじゃ?車なんぞ使って……」

 「前に鏡で移動した時あんた全裸で鏡の前でセクシーポーズしてただろ!!そんな所に遭遇したくないからだよ!!」

 「ご褒美じゃろう……」

 

 しゅんとしているが、どこをどう聞いても自業自得だ。嫌だろ、子供の頃からの知り合いの全裸セクシーポーズとか。


 「あ、えっと、ちょっと質問に戻るんですが…さっき可付加さんは先天的異端者と言ってましたよね?」

 「おお、言うたな。」

 「でしたら、可付加さんは常に能力を発動しているんですよね?どういう形で発動しているんですか?」

 

 可付加さんは少し目を丸くし、たように思えたが次の瞬間には普通の顔に戻っていた。


 「ああ、ああ、儂が常に何をしているか、か。」

 「えあ、はい。」

 「……儂の能力はエンチャントじゃ。」

 「はい……」

 「儂は《常に己の身体に無意識のうちにエンチャントをしている》」

 「……それは、何を。」

 「不老じゃ。儂は寿命で死なん。まあ死にかけたことはあるし多分不老不死という訳では無いだろうがの。」


 道理で納得がいった。婆さんという呼び方の割に若々しい見た目はこの為か。そういえばさっきも最古の異端者と名乗っていた。輪廻さんが産まれる前から、輪廻さんのお母様と親交があるなんて、見た目よりも歳をとっている何よりの証拠だ。

 少し触れてはいけない話だったかもしれない。可付加さんはおちゃらけたように少し早口で続ける。


 「儂の身体は、儂が肉体の全盛期を迎えた21の頃より歳をとらん。永遠のアンチ・エイジングとやらじゃ。世のレディーには羨まれるじゃろうなあ。」

 「……それ以前は何の能力を使っていたんでしょうか?」

 「分からん。」


 きっぱりと答えられた。


 「何分、もう千は昔の話じゃからな。覚えとらんのよ。」

 「せっ!?千!?」

 「千じゃ。なんじゃ疑うのか、言っておくが千までは律儀に数えておったんじゃぞ?」


 逆に千よりも上なのか!!??


 「……仙人みたいですね。」

 「まあな。」

 「そんな長生きだから、政界のじーさん方も婆さんには頭が上がらないんだ。」

 「お主もじゃろ?」

 「どうでしょうねえ。」

 「戮力荘。」

 「上がりません………」


 負けてる。異端対応部のリーダーが口撃でお婆さんに負けてる。

 一応メモはしておこう。

 

 「さて気を取り直して……儂ら異端者、そもどうして異端者という名前で呼ばれるのか。昔は別に色んな呼び方があったもんじゃ。奇跡を齎す者。選ばれし者。魔法使い。化け物。魔女。悪魔………そんな中から異端者という呼び名が定着してもうたのは、恐怖と異物感じゃろうな。」

 「異物感ですか。」

 「分かりやすいじゃろ?他と違う者として()()という語は何より簡潔で分かりやすいのじゃ。」


 「異端者という呼び名が最初に産まれたのはここ、日ノ本國(ひのとものく)にではなく、遠く離れたヨーロッパ大陸スペインの田舎町じゃった。スペインはあそこじゃ、地中海の入り口辺りの国じゃ。600年前、その町に偶然先天的異端者が産まれたんじゃ。」

 「田舎町ってそういう……()()に厳しい印象があります。」

 「その通りじゃ。閉鎖的なコミュニティじゃからな、そんなコミュニティにいきなり入ってきた異物──異端な者を、異端者と呼んだんじゃ。」

 「はー…」


 歴史の授業は好きだからこういう話はとても楽しい。だが……


 「はい!質問いいですか?」

 「ふむ、なにかの?」

 「どうして田舎町で作られた呼び名が今の時代まで600年も残ったんですか?」

 「いい質問じゃ広斗!!」


 ほぼ無表情で淡々と語っていたさっきまでとは一転して、ものすごい笑顔でぱん、と手を叩いて答える。


 「先ほど語った先天的異端者の話が都に伝わったんじゃ。そして王の耳にまでも噂が入っての、その異端者を王に捧げる事になったんじゃ。」

 「……そんなモノみたいに、人を。」

 「まあ、今とは何もかも価値観が違う時代じゃったとはいえ、嫌なもんじゃよな。儂もあの時は丁度昔のスペイン──カリステロ王国の都に滞在中じゃったから気分が悪くなったもんじゃ。自分もバレたら捧げ物にされてしまうかもしれんし、単純に同族がそんな目に遭ってるのが不愉快じゃった。」

 「……」

 

 「その《王への捧げ物》を、町で異端者と呼んだという話がヨーロッパ大陸中に伝わり、そういった珍妙な能力を持つ者を異端者と呼ぶようになったんじゃ。」

 「…はあ。」

 「………あ、ああそうそう。」


 可付加さんは少し苦い顔をして、俺に言う。

 

 「この話、尖ちゃんにはあんまり言うでないぞ。」

 「え、尖さんに?」

 「この話で捧げられた異端者は────彼女と同じ『鬼』の能力を持つ者でな……あまり触れないほうがいいでの。尖ちゃんも良い気はしないじゃろうしな。」

 「それは、勿論です。」

 「優しいの、そこでちゃんと言い切れるのか。偉いのお、若いのに、こんな目に遭ってもなんと良い子なんじゃ……こんな良い子は数年ぶりに見たわい。」

 「そんな、普通ですよ。」


 手をふって否定する俺を訝しげに可付加さんは見る。


 「普通、か。何たる異端者に相応しくない子よの。広斗や、お主どうも異端者らしくないの……」

 「やっぱり婆さんも思いますか。」


 輪廻さんは珍しく可付加さんに同調して言う。


 「広斗は……こう言うのもおかしいですが異端者としては──異端者の中では異端です。」

 「……輪廻や、ギャグみたいな事を言うの。」

 「ちょっと今は真面目に聞いてください。」

 「……」


 「異端者というのはな、どこか常人とは懸け離れた存在なんだ。悪く言えば普通の人に混ざれず、どんな形であれコミュニティから浮いてしまうのが基本だ。」

 「……なんでですかね?」

 「どうも思考回路が他と違うみたいでな。色々実験を重ねた結果だが、異端者は常人と比べて思考回路が大幅に違うらしい。何を見るにしろやるにしろ、異端者は他とは違う──だからこそ、迫害されやすく弱い立場にあるんだ」

 「じゃが!!じゃ。」

 

 びしりと俺を指差す。


 「お主……普通すぎる!!」

 「は、はあ」

 「おかしいんじゃよ!!そんな普通の倫理観で!!善良なごく普通の高校生をしてるのは!!儂の知ってる異端者はこう……どこかしらぶっ飛んでおる!!イカれているのを自覚できず暴れる者やら初恋の女の子とずっと一緒に暮らしているのに告白できてない者やらばかりじゃ!!」

 「おいなんで俺の身内で例を固めた!!」

 「うぅーん?お主の身内なんぞひと言も言うとらんぞお?」

 「ぐ……」

 

 「と に か く !じゃ!!」

 「お主は異端者に見合わぬ社会規範を遵守する心を持ち、特にクラスで浮くようなこともなく友達を作っておる!!」

 「は…はあ……待ってくださいなんでそんな事を知って……」

 「あーすまん広斗。俺が言った。」


 またかこの人。昨日もこっそり俺と尖さんの話聞いてたよな?なんか怖いぞこの人。確かにちょっとぶっ飛んでるよな。


 「……あの、俺が後天的異端者なだけじゃないですか?ほら、さっき言ってたじゃないですか。後天的に異端者になったから普通の思想が育った状態なんじゃないでしょうか……?」

 「それものお、悩み事よの。」

 

 可付加さんは悩ましげに顎に手をやり、椅子から落ちるのではないかと思うほど俺に顔を近づける。

 そんな可付加さんを椅子に押さえつけるように片手で可付加さんを押さえて、輪廻さんが口を開く。


 「異端者になるには条件があるかもしれない、というのもさっき婆さんが言ってただろう。人によってはその条件が『人とは違う考えを持つ狂った者』だと考える人がいてな。」

 「正確にそうだと決まってるわけじゃないが、基本その考えが正しいと思われておる。儂もそう思っとるしの、長い間多くの異端者を見てきたが、どいつもこいつもイカれ野郎じゃった。それが先天的であろうが、後天的であろうが無条件でイカれ野郎じゃった。」

 「ええ……」


 なんだかイカれ野郎イカれ野郎と連呼されるとどうもむずむずする。今まで俺は普通に暮らしてきたんだ。普通に勉強して、普通に常識を守って、普通に電車で席を譲ったりしてきた。

 こんな急にイカれ野郎まみれの集団と同類として扱われるのがなんか嫌になってきた。


 「……じゃがな広斗。気分は良くないかもしれんが、異端者全体で見たら悪いことではないぞ?」

 「はあ。」

 「大体常識なんてある方がいいんじゃよ、ない方がおかしいんじゃ。そんなんじゃから今まで異端者というのは淘汰されてきたんじゃよ。」

 「まあ…そうですね。」


 「お主はある種の特異点の様なものじゃ。お主は異端者でありながら初めてまともな異端者なのじゃよ。」

 「そ、そうですね………」

 

 照れるな。


 「……だからこそ、君にはお願いしたいことがあるんだ。」

 「お願いですか?」

 

 輪廻さんに真っ直ぐ目を向けられる。


 「正直今日の本題はそれなんだ、勿論異端者の事を知って欲しいのはそうだ。その過程で君には君の善性と常識が珍しいモノであると知って欲しかったんだ……それを踏まえて、異端者の中でもマトモな君に他の異端者の矯正をお願いしたいんだ。」

 「…………?」

 

 「だからな、異端者の視点で常識を教えてやるんじゃよ。手始めに、戮力荘の連中に常識を叩き込んでやるんじゃ!!」

 

 ぐっと握り拳をつくり、可付加さんは笑う。


 「……なんかマナー講師みたいですね…?」

 「まあ近いじゃろう。じゃがな?身近な異端者に常識のある者がいれば、少しは影響を受けるじゃろう。公務異端者だけかもしれんが、それだけでもいい。少しは連中がマトモになる手伝いをしてほしいんじゃ。」

 「…俺からもお願いだ。」


 輪廻さんは俺に頭を下げる。


 「え?な、どうして。」

 「俺は異端者の割には常識がある方だ。だから今までそういった活動もしてきた。しかし俺は普段はそこまで戮力荘にいられない。普段からそういった事を教えられないんだ。君の存在で、少しでも社会に出たい異端者が苦しまなくなるかもしれないんだ。」


 さっき可付加さんの所に来るまでも、輪廻さんは暁君の行いを諌めたりもしていた。子供に対する教育だと思っていたが、あれは普段から心がけている輪廻さんの普通教育なんだろうな。


 社会に出たい異端者。それは公務異端者として働く、という訳ではないんだろう。普通に会社で働いたり、お店で働きたい異端者もいるんだろう。

 そういう異端者に、人に対して少しでも助けになれるんなら、俺は


 「……勿論ですよ。輪廻さん!!」


 正座から思い切り立ち上がる。足が痺れるのも厭わず輪廻さんに語りかける。


 「俺は!異端者です。ですけど普通ですよ!それは変です!どういう視点から見ても……普通の人からしたら異端者で、異端者からは普通すぎて変な奴で………でも、だからこそできることがあるというなら!」


 バッと頭を下げて輪廻さんの手をつかむ。


 「喜んで手伝いますよ。それが《普通》ですよ。」


 顔を上げて笑いかけると、輪廻さんの口元も綻ぶ。


 「ありがとう、広斗。」 


 「うう…いい話じゃの……」

 「いい話ー。」

  

 その後ろで可付加さんがハンカチを持って大袈裟に泣いたふりをしている。多分暁君は何がなんだか分かってないと思うけど。


 「婆さん!!今真面目な話!!」

 「はいはい分かっとるわい、広斗やちょいと近うよれ。」

 「え?な!」


 近うよれ、と言われたがその時には既に可付加さんは俺の胸ぐらを掴んで自分の口元へ俺の耳を近づけていた。

 この人やっぱ距離が近い。マジで全人類孫のつもりなんだろうな。だからってこっちはそう思えないんですけどね!!ちょっと勘弁してほしいかな!!


 「輪廻をよろしくな。あの子は賢いが時々バカよりも頭が悪くなる。能力の反動かはわからんがな。」

 「…は、い。」

 「それと……暁には特に気をつけてやってくれ。」

 「はい……」

 「あの子は儂と「婆さん近えよ!!」


 ぐいと俺の耳から可付加さんの唇(比喩とかではない、マジで息が吹きかかるどころか、くっつくくらいだった)を引き剥がされてしまった。


 「む、そんな神経質な……」

 「暁の教育に悪いです!!」

 「そう僕の教育に悪い!!」


 むんと胸を張って暁君が答える。やっぱり意味分かってないだろあれ。

 

 「まあいいわい……広斗や、任せたぞ。」

 

 ちょっと呆れたように可付加さんは笑う。

 

 「…はい。任されました。」

 「何をされたんだ広斗?大丈夫か?」

 「いえ!何でもないです!」


 少し怪訝な顔をしていた輪廻さんだが、特に追求することはなく会話を続ける。


 「あ、そうだ婆さん。暁は……どうです?」

 「おお、変わらんぞ。特に不安な点もない、無理せず過ごしとったんじゃろ?偉いのお〜〜〜!!」

 「うっへへへへ!」


 暁君の頭をぐりぐり撫でる。今回は胸を顔を埋めさせることはしなかった。学んでくれてありがたい。


 「じゃあ今日はこんな所かの。」

 「えーもう?」

 「儂も今日は午後から用事での。すまんの暁や」

 「えぇぇ…………」


 悲しげな暁君をよそに輪廻さんは淡々と帰り支度を始めている。

 さっき貰ったキャンディの山をバッグに詰めている。さっき何十個とか言ってなかったか?絶対ウソだ。多分あの飴だけで2ヶ月は生活できる。

 甘い。余りにも甘い。俺に祖父母は居ないから分からないが、あれが(はやて)と将太がよく言っていた《おばあちゃん孫無限に食べられると思ってる現象》なんだろう。


 「じゃあ広斗。帰ろうか。」

 「あ、はい!」

 「婆ちゃん!ばいばーい!!」

 「おう、またおいで。」


 玄関前で可付加さんが笑って手を振る。


 そういえば


 「そういえば可付加さん。」

 「ん?なんじゃ?」


 「異端者はイカれ野郎と言ってましたが、それには可付加さんも含まれてるんですか?」



 何も表情は変わらなかった。手を振った後の微笑みのまま言う。



 「当たり前じゃろ。死ねるのに千もわざわざ生きとる奴がイカれてないわけないじゃろ?」

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