異端でも普通の一歩を
可付加さんの邸宅から戮力荘に帰ってきた。
もう俺からしたら戮力荘は『帰ってくる』場所になっているのが不思議だ。そうだ、帰ってきたら伯父さんに連絡をしようと思っていたんだ。元の家をどうしようか。
「あ、輪廻さん達!お帰りなさい〜」
玄関の扉を開けるとふわりさんがぱたぱたと歩いてきた。
右手にタブレットを持っている為か、左手で手を振る。
「ただいまふわりちゃん!」
「ただいま。」
「た、ただいま…帰りました。」
ただいまなんて言うことになるとも思ってなかったなー。なんか気恥ずかしい。
「可付加さんはお元気そうでした?」
「ああ、相変わらずな。」
「今日はどんなお洋服だったんですか?」
「ワンレンボディコンだよ。いつの時代だって話だよな。」
「お、おお………」
なるほど、ゆるふわ系の人が本気でびっくりするとああいう顔になるんだな。眉毛がすんげえ形してる。心電図みたいだ。
「ねえねえ、ふわりちゃんこの前言ってた絵って描き終わったの?」
暁君がふわりさんに問う。絵って何のことだ?
「んーまだ〜今回は難産だよ〜なんかね、私でも分かるの。これ違うな〜って。」
「ほおおーー……」
感心したのか目を輝かせてふわりさんを見つめる暁君を尻目に少しばかりの質問を投げかける。
「あの……絵って?」
「ん?ああ、私ねえプロのイラストレーターしてるの〜」
少し誇らしげにふわりさんは笑う。
「昔っから絵描くの好きでね〜おじいちゃんも絵を描くのが好きだったんだけど、いっつも私の絵を褒めてくれたの。」
「それで、絵の道を?」
「そうだよ。」
ふわりさんはせっかくだからと玄関ホール正面の左右対称の階段の奥──中庭に通じている通路の端の椅子に座って、俺にも座るよう促す。
輪廻さん達はというとそれぞれ手を洗いに行った。清潔第一というのはここのルールでもある。
「正直悩み事は尽きなかったよ。芸術の世界は厳しいし、私より上手い人なんて山のようにいるし。それに……」
遠くを見つめて言う。俺はそこで、ずっとふわりさんの顔をみていたことに気づいて、咄嗟に前を向いた。
「私は、自分が異端者なのが、分かってたから。」
そういえば、と昨日の歓迎会を思い出した。
◇◇◇
『異端者になったのが何時ぐらいか分かるか?』
『……分からないです。その、今の今まで異端者だと言う自覚もなく、過ごしてきたもので…』
『今まで異端者と遭遇したことは?』
『無い…はずです。』
『うーん、異端者になりたい!って思ったことはある〜?』
『ありません…と言うかその、異端者とか関係ない人生だと思っていたので。』
『………やはり先天的異端者か?』
『だとすれば今まで見つけられなかったのも納得だな。異端者と接触せずにいたら、そもそもこんな力があることに気づくこともないだろう。』
『……後天的だとしたらどんなきっかけでこんな能力に目覚めるんだ?異端者と接触したこともないのに…』
『異端者に対する憧れが……』
昨日の夜、歓迎会での豪華な食事の残骸を前にして俺は縮こまっていた。
食事を一通り終えたところで、俺は先天的異端者なんじゃないのか、いや後天的だろうなんて議論が輪廻さんと尖さん、後ふわりさんの間で交わされていた。暁君はコーンスープをちびちびと飲みながら我関せずといった様子だった。多分ぼーっとしてたんだろう。
『……私と尖ちゃんと輪廻さんは先天的異端者だからね。どうすれば異端者になるとか、分からないのよね。』
『そうだな……暁。』
『…………何?』
やけに間を空けて暁君は応えた。コーンスープに口を付けたまま、顔をこちらに向けずに応えた。あの向きだと、暁君の顔はこちら側から全く見えなかった。
『……お前が異端者になった時、何を考えてた?』
『…………うーーーーーーーーーん』
コーンスープを机に置き、椅子がひっくり返りそうになるほど仰向けになりながら唸る。
長い唸りをひとしきり続けた後、躑躅色の瞳をくるんとこちら側に向けて暁君は続ける。
『うおおお!!やってやるぜ!!……て感じ?』
『………あー……うん、なるほどな、ありがとう。』
一体どこらへんを聞いてありがとうと言ったのか分からなかった。納得できたか?今ので。
『……でも良かった。広斗君がこうしてここまで能力に覚醒することなく過ごせて。』
『へ?それは……』
『だって……異端者だって分かったら、怖くなっちゃうし。』
ふわりさんは俯く。緩やかに巻かれたミルクティー色の髪に顔が覆われて、今の彼女はどんな顔をしてるのかさっぱりだった。
『……自分が、他の人と違って迫害される存在だって気づくの、結構しんどいから。だから良かったよ〜!私達異端対応部がある時代に異端者として覚醒して〜』
さっと顔を上げてにこやかに笑っていた。
不自然なほど、にこやかに笑っていた。
◇◇◇
「でも、結構恵まれてたほうだよ〜私は。だって尖ちゃんと会えたんだもの〜」
「尖さんに?」
「そうだよ~」
嬉しそうに思い出を語りだした。
「あの頃、私は17歳だったの。高校2年生ね。進路とかの話も活発になってさ。」
「あー、その頃には俺も就職の話とか結構相談乗ってもらってました。」
「そう、私芸術系の学校に行きたかったの。親も許してくれたけど、それはそれとして私は異端者なのがずーっと気がかりでね。」
唐突にふわりさんはポケットに入っていたペンを取り出して、指で弾く。
ペンは床に落ちなかった。弾かれた少し後の空中に留まり続けている。
「ただモノを浮かせるだけ、そんなしょぼい能力だとしても異端者は異端者だしね。」
「でも、結構便利そうですよね。」
「そう、使い勝手良いんだこれ。まあでも、異端者の中じゃ結構しょぼい能力だからねこれ。小さいのしか浮かばせられないし。勝手に浮いちゃうのは大変だけど、常に髪の毛を浮かせれば良いってのに気づけば楽だったしね。」
「それだけなのに、って今でも思うの。ちょっと浮かせられるだけじゃんって。でも高校生の私は怖かったの。私は他の人とは違うんだって。化け物って言われちゃうんだって。」
「……」
ふわりさんは下を向く。つま先を上下させながら話す。
「そんなある日ね、私異端者に襲われたの。」
「え!?」
唐突に衝撃的な事を告げられて、ずっと打ち付けられたように前を向いていたのに思いっきり顔を向けてしまった。
目と目がかち合うや否やふわりさんは吹き出した。
「あっははは!ふふ、君やっぱ反応がいいね〜ナイスリアクション!」
褒め言葉として受け取っておこう。
「まあびっくりするよね。普通に犯罪に巻き込まれてるわけだし。」
「…まあそうですね。」
「そう、放課後に普通に帰宅してただけだったの。急に緊急警報が鳴ってどうすればいいか分からなくなってたら、目の前にいたの。怖かったなあ。」
「そ、それでどうなって……」
「その異端者が攻撃してくる直前にね、尖ちゃんが来てくれたの。」
和やかな笑みでふわりさんは続ける。
「かっこよかったんだ。尖ちゃん。広斗君も分かるよね?あのスタイリッシュな感じ!!今でも思い出すよ……」
「……はい。その、男として、何か負けた気になるほどかっこよかったです。」
「ふふ、そんな事気にしなくていいのに〜」
つんつんと俺を人差し指でつつく。ああ、これが大人の余裕か。
「それで、その異端者をボッコンボコンにした尖ちゃんに声をかけたの。『すいません、私も異端者なんですけど』って。ふふ、尖ちゃん凄いびっくりしてたなぁ。異端者から民間人を助けたかと思ったら、そいつも異端者だったんだもん。驚くよね〜」
「色々終わらせた後に、尖ちゃんとお話して、目指してる進路の話もできたんだ。それで、異端対応部に誘われたんだ。私の社会進出の手伝いができるって言われてさ。もう嬉しくて嬉しくて。」
「……」
さっき可付加さんとも話した話題だ。社会進出がしたい異端者というものに対してよく分かっていなかったが納得できた。
元は普通の人間と一緒に暮らしていれば、社会人として働きたい、夢を見たいという思考になるのは当たり前のことなんだ。
普通の人間と一緒に暮らしていた異端者──俺もそれに当てはまるのを忘れてはいけない。他人事ではない。
「それで、大学に合格した後に戮力荘に住むことになったんだ。一人暮らし?もしたかったから嬉しかったんだ〜広斗君も、ちょっとテンション上がらない?」
「あー、俺は元の家に住んでた頃でも伯父さんは基本家に居なかったので……大和には避けられてたのでほぼ一人暮らしみたいなものだったので。」
「あ…」
しまった。ふわりさんは気まずいことを聞いてしまったと言わんばかりにウェーブがかった髪を指で巻き取る。
「あ!でも戮力荘の内装は凄い気に入りました!レンガ造りの建物ってそれだけでかっこよくないですか!?」
「……そうだよね!私も気に入ってるんだ!資料にもなるのこれ!」
無理に上げていることが丸わかりなテンションでふわりさんは膝に乗せていたタブレットを立ち上げる。
「レンガはロマンなんだよね!実は今ね、漫画の作画を担当しないかって話が来てるの。その漫画にレンガ造りの建物が出てくるみたいでね!ここでの経験が役立てられるって思うとすごく嬉しいの!!」
タブレットにはペイントアプリが写っていた。ふわりさんが画面をスワイプすると、そこには戮力荘に似たレンガ造りの建物の絵がいくつも並んでいた。
……時々なかなかにセクシーな格好をした青い髪の女の人の絵もあるが、見なかったことにしよう。うん。
「……広斗君。広斗君はまだ高校生だよね。」
「あ、はい。」
「…ちょっとこっち見て。」
見て。なんて言われたが、そう言われた時にはもう俺はふわりさんと向き合うように無理矢理体を回された。力強くないか?
がしっと手を掴まれる。千切れるかも。やっぱり力強い。
「まだ若い君は存分に悩むんだよ、無理に異端対応部で働こうと思ったりしなくていいの。でも、これから色んな異端者に会うと思う。その時に何を思うか、何がしたいと思ったか、それを踏まえて、じっっくり考えるの。分かった?」
「………はい。その、ありがとうございます。」
「よし!私の話はこれくらいにして!ほら、手、洗ってないでしょ?」
「えっ?あ!はい!」
俺の手を離したふわりさんはぱんと両手を合わせて勢いよく立ち上がる。
「私もリビングに行くから、途中までついてこうかな。」
「あ、来ます?」
「うん、そろそろリビングのお掃除ロボットが起動する時間なんだ。」
「お掃除ロボット?そんなのいたんですか?」
お掃除ロボットって金持ちの家になる印象だったけど戮力荘にもあるんだな。輪廻さんのポケットマネーとかで買ってるのかなそういうの。いや、異端対応部は仮にも公的機関だし経費で落ちてるのかな。もしかしたら、ここの生活用品は経費で賄われているのか……?
「ふふふ、そういえばシン君に広斗君のことまだ紹介してなかったねえ……きっと喜ぶよ〜」
「……?」
まさかこの人お掃除ロボットに名前つけてんの??いや名前つけるまでは分かるか、喜ぶ??本気か?
まともかと思っていたけどやっぱりこの人も異端者だな……
てかなんでシン君なんだ…?
そんな事を考えながらも通路を抜けて手洗い場へ向かう。
ふわりさんとは途中で別れてリビングに向かった。俺は右に曲がった先の手洗い場にまっすぐ進む。既に輪廻さんと暁君はいなかった。
ありがたいことに用意してもらったコップがあるので手を洗うのみならず口も濯げる。本当にありがたいな。
手洗いを出て、そのまま1階の奥のリビングに向かう。広いリビングの隅っこでは壁に向かってしゃがむふわりさん、そしてその様子をソファーに座ったまま眺める見たことない若い男性がいた。
色素の薄い青みがかった緑色の髪の男性はこちらに気づいたようで濃い赤紫色の瞳をこちらに向ける。
「あ……どうも。」
「え、あ、どうも……」
お互いに頭を下げあってしまった。控えめな人なのだろうか、どこか俺と同じ匂いを感じる。歳も近そうだし、少し打ち解ければ仲良くなれそうな気がする。
……仲良くなれればの話だが。
「ちょっと!左右君それはないでしょー!」
「えー…他に何言えばいいんですか。」
「それは、ほら、自己紹介とか!」
「…あー確かに。そうっすね。」
男性はソファーから立ち上がり俺の前まで歩いてきて、改めて頭を下げる。
「はじめまして、俺は上下左右と言います。戮力荘に住む異端者なんで……えーと、これから…よろしくお願いします。」
「あ、橋船広斗です。こちらこそよろしくお願いします。」
またお互いに頭を下げる。2人そろって頭を下げる絵面は想像もしたくない。
やっぱりこの人とは気が合うのかもしれない。頭を突き合わせながら考えることではないかもしれないが、ここまで行動が被るとなんだか運命的なアレを感じざるを得ない。
「………」
「………」
「…………」
「…………」
まずい。お互いに黙ってしまった。
いつも颯や将太と話す時何話してたっけ…?あいつらは好きなものがわかってるから話が広げやすかったけど……そうだ!
「…あー、その、ご趣味は?」
「いやお見合いかーい!」
ふわりさんがノリよくツッコんだ。手も添えてツッコんできた。
ツッコむタイプの人には見えなかったが、これはありがたい手助けだ。
「ぷっ……」
男性───左右さんはずっと硬かった表情を綻ばせて笑った。
「ふ、ご趣味は…んぐ……ゲームだよ…ぶふっ」
「ちょ、笑いすぎじゃないんですか!」
どうやらかなりツボに入ってしまったようで、左右さんは顔を背けて笑い出してしまった。
笑ってくれたのはありがたいが、なんか自分の行動で笑いが起きるのは恥ずかしさもあるんだよな。
耳が真っ赤になっているのが顔を背けられていてもよくわかる。いくらなんでもツボりすぎじゃないか!?
「いや、ふ、ごめんごめん、ツボったツボった。俺ツボ浅くて…」
「まあでしょうね……えっと、タメ口で大丈夫…ですか?」
「えーと、高校3年…だっけ?」
「は、はい。」
「……別にいっか。俺は19だし、タメでいいよ!」
親指をぐっと立てながら、にまにまと笑っている。まだツボってるよこの人。
「19歳なんですか?」
「うん。大学には行かずにそのまんま公務異端者になったからね。」
「あー、俺も今のところはそうする予定です。」
「………え、じゃあ俺境遇的にもまじで先輩…?」
少しばかり目を輝かせて左右さんは自分自身を指差す。
嬉しそうな声を聞いて、ふわりさんが壁を向いたまま左右さんに話しかける。
「左右君、比較的新入りだもんねー。感慨深いかい?」
「あの……やっと、暁の気持ちがわかりました……」
暁君、俺が来るまで左右さんに先輩マウントとってたな?
「ふふふ……若者よ……仲良くするんだよ……」
「んなこと言ってますけどふわりさんだってまだ若いじゃないですか。」
「……そうね、まだ若いわね……まだ……まだね…………そう、まだ………」
後ろ姿にどこか哀愁が漂っている。なんか駄目なこと言ってしまったみたいで、左右さんは何を言えばいいのか分からないという様子でこちらに視線を送る。
俺に何ができると思ってるんだ……
ピピン
気まずい沈黙を打ち破ったのは場違いな明るさを纏った電子音だった。
小さな駆動音がふわりさんの方向から聞こえてくる。
ふわりさんが立ち上がると、足元に丸いフォルムのお掃除ロボットが充電ステーションから動き出すのが見える。
「じゃじゃーん!こちらシン君でーす!シン君、リラックスして大丈夫だよ。」
「あ、これが……」
「仲良くしてやってな広斗君。」
どうやら左右さんもお掃除ロボットに名前がついているのにはまだしも、仲良くするという言い方をしているあたり慣れているようでまるで友人でも紹介するように気さくな話し方をする。
……まあペットロボットとかもいるし、慣れれば可愛いもんなのかな?
「こんにちはー…橋船広斗だよー……」
お掃除ロボットの上部にくっついている小さなカメラに向かって話しかける。
ピピと小さい音の後に続いたのは
『こんにちは、橋船広斗君。ぼくは法霊崎心といいます。はじめましてがこんな形になってしまってごめんなさい。』
まるでリアルタイムで人間が喋っているかのように流暢に聞こえる音声だった。
申し訳なさそうにロボットの側面にあるライトが青く点滅する。
「………………へ?」
「……あのふわりさん。」
「どうしたの左右君。」
「ちゃんと事前に説明しましたか?色々と。」
左右さんは不安げな視線をふわりさんに向ける。ふわりさんは10秒ほど呆然とすると、途端にあわあわと焦り出す。
「ごめん広斗君!ちょっと言葉足らずだった!ほんとごめん!」
「え、あ、あーまあ大丈夫ですよ……」
『……えっ…と、少し手違いがあったみたいだね?』
「わりー心、ちょっとだけ説明が足りてなくて……」
ふわりさんは俺に、左右さんは屈んでロボットに手を合わせて謝罪する。
くるくると忙しなくカメラが回っている。どうやら焦っているらしく、音声と認識できないノイズがスピーカーから漏れ聞こえてくる。
「…すいません心さん。少し戸惑ってしまって……」
『いえいえ、こんな見た目のぼくも悪いところあるので…』
さっきから青いライトが点滅しっぱなしだ。
機械音声なのにどこか不安げな声でなんだか申し訳なくなってくる。
『ぼくの能力は自分の意識をモノに移すことができる能力なんです。ですのでこうした動きやすくて話すことのできるロボットとかに普段は意識を移して過ごしているんです。』
「結構便利なもんでね、掃除してくれるし。」
『ぼくとしてもありがたい限りです。その、ぼくずっと体が弱くてあまり動くことができなかったので……こうして広い戮力荘を走り回れるのは楽しいんです。』
「へぇ…」
どうやら見た目の奇抜さとは裏腹に、なかなか礼儀正しいし、まともそうだ。
見た目の先入観に縛られてばかりではいけないな。
「ごめんね心君……」
『いいんですよ。ぼく気にしてません。それより最初に気遣ってくれてありがとうございます。』
「優しいね心君……」
床にへばりついてお掃除ロボットに語りかける図は正直シュールだ。慣れねば。
「心は広斗君よりちょいと年下だけど、まあここじゃ誤差みてーなもんだしな。」
『ぼくら歳近いけど、すごく仲いいからね。へへ、年上なのに後輩とはなんだか複雑です。』
「まあ、とりあえずよろしくね。心君。」
『はい、あと呼び捨てでいいですよ。』
「心………さん。」
「道のりは遠いね……」
全員でお掃除ロボット──心君を中腰になって囲んでいるため、かなり手暗がりになっている。全員で屈んでお掃除ロボットを囲む図は、端から眺めないで欲しい有様なんだろうな……
『そういえば、広斗……さん。』
「心君も呼び捨てできてないじゃ~ん。」
「ふわりさん、しっ!」
照れくさそうに、それとも少し怒っているのかライトが赤く明滅する。電子音の咳払いをして心君は続ける。
『弟さんも、ここに住んでるんですよね?』
「あ、うん……もしかして見かけたりした?」
『はい、流石にこの姿だったので声はかけられなかったんですけどね。』
「もしかして…何かまずいことを?」
『いえ!そんなことではなくてですね、その、ぼくが見た時部屋の整理をしてたみたいで…その時持っていた制服が……』
制服?大和の学校は俺と違って私立だ。制服もおしゃれなブレザー型だ。
大人しい大和が制服を改造しているとは思えないし……一体何が?
『ここに住んでいる学生の異端者の学校の制服……と一緒だと思うんです。もしかして弟さんの通っている高校って私立翠嶺高等学校ですか?』




