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異端奇譚  作者: こーよー
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15/16

15 ファーストコンタクトは


 昨日の会議から一変して、今日の戮力荘は静かだった。


 まず輪廻さんは当たり前のように今日も不在。

 左右も新作ゲームを買いに行ってしまって居ないし、その上、珍しくふわりさんまでも友達と遊びに出かけて行ってしまい、人がぜんぜん居ない。

 

 心君も今日は身体の調子が悪いらしく、憂さ晴らしに戮力荘2階をロボットモードになって凄まじいスピードで爆走している。そのため現在戮力荘2階の廊下は出入りが出来ない状態だ。

 正直、俺としてもストレスが溜まっている人に無闇に接するような自体は避けたい。それくらいの鬱憤晴らしくらいさせてあげたいし。


 学生2人は今日も仲悪く夏期講習にバラバラに向かっていった。

 ということで、今日の戮力荘には実質、俺と尖さんしかいなかった訳だ。


 夕方まで続いた特訓を終えても、なんだか身体中の大量の傷より、人がいない寂しさのほうが染みてくる。


 さらに訓練を終えた後、俺の手当を終わらせた尖さんも、さっさとランニングに行ってしまったため、現在俺はこのだだっ広い戮力荘に1人だ。

 

 「はあ……避けるのを伸ばすって言うのは分かるけどさ……ありゃキツイな……」


 ぼーっとして椅子に座りながら、今日の特訓内容を思い出す。


 作戦では、俺が囮となって容疑者の左近を誘き寄せる手筈だがその際に俺を狙う攻撃を避けて、素早く戦線を離脱することが求められている。

 俺は一般人上がりのケンカの経験もない高校生だ。妥当な判断だ。


 目的はあくまで左近の逮捕にある。

 それが叶うなら何も今の俺が無茶をして戦う必要は無い。

 大体、最近特訓しだした青二才が戦場をフラフラしてたら、迷惑だろう。


 その為、今日の特訓は避け特化の内容だった。

 特訓を始めた初日にも行ったボール避け、あれを重点的に行った。

 初日に比べると、ボールを6個避けることが出来たのは非常に喜ばしいことだろう。最初にボールを避けれた瞬間は、俺も嬉しかった。


 ただまあ、そう上手く行く訳もないのが特訓というものだし、逆に言えば6個しか避けれなかったとも言える。


 という訳で現在、橋船広斗、全身青アザまみれの酷い有様です。


 作戦参加の兼ね合いもあって、そこまで厳しくはなかった今日の特訓だったが、お腹には教科書で見たような銀河系みたいな形の大きなアザ、腕にも小さな青アザが点在している。


 とはいえ、そこは特訓のプロの尖さんのウデの見せどころだ。

 程よく手加減されていたようで、ちゃんと作戦に参加できるくらいには体が動く。

 ボコすのが上手だから手加減も上手いのかもしれない。


 色々な所に氷嚢を押し付けているため、変に冷たいし非常に不快である。

 正直ゆっくり体を休める以外に出来ることが無いため、俺は玄関前の椅子に座ってぼーっとしていた。


 ふと右腕の痛みが左腕よりも軽いことに気づく。

 能力の主体になっている箇所だからか、万一に備えてかそこまでの怪我をしないようにしてくれたようだ。

 狙わないでくれた右腕は、今日は使わなかったから特に何ともない。能力を使った後特有の腕の熱っぽさもない。


 こうしたデメリット?みたいなのも元からあったんだろうか?

 外に出れないし、右近に会うことも出来ないから聞くことは出来ない。

 この作戦が終わったり、戦うのに慣れて外に出れるようになったらまずは右近に会いにでも行こうかな。


 お昼ご飯も済ませたせいで、少しばかり眠くなってきた。

 背もたれに体重を預けて緩やかに目を閉じようとしていた時だった。



 ピーンポーン



 突然鳴り響いたチャイムに思わず目を見開いて、玄関の方に振り返った。

 

 人影だ。

 両開きの扉に付いている磨りガラス越しに、薄くシルエットが透けて見える。

 あれは間違いなく尖さんじゃない。それにあの人は帰ってきてもチャイムをわざわざ鳴らさないはずだ。


 音を立てないように椅子から腰を浮かせて、忍び足で扉から遠ざかって扉を正面に見据えるように立つ。


 左近か?

 戮力荘には認識阻害のうんぬんかんぬんがあるから、部外者には見えないって話じゃなかったのか?


 そんなことを考えていると、カチャ、と扉のハンドルが下がって、少しずつ扉が開く。


 服の右袖をまくって、拳を振り下ろせる体勢になる。

 扉を縫い付けられたように睨みつける。


 「かえ……誰だ、お前は。」

 「……?」


 ガラガラとトランクを転がしながら入ってきたのは、メガネをかけた男性だった。


 髪の毛は頂点の当たりは黄色だが、毛先になるに連れて濃いオレンジ色に変色している。

 グラデーションタイプの髪の毛の人だ。珍しい。

 裾の長い、研究者の着るような白衣を羽織っている。


 白衣の下に着ているのは、「なおーん」と吹き出しのついたデフォルメされた猫がきゅるんきゅるんの瞳で見つめてくるキュートなデザインの黄色いシャツだ。


 「変な服……」

 「は?」

 「い、いえ!なんでもないです……」


 スクエア型の太い赤縁メガネの奥、薄いオレンジの瞳が鋭くこちらを睨みつけていた。


 「はあ……質問に答えろ。誰だお前は。」

 「あっ俺は、橋船広斗と言います……数日ほど前から戮力荘に住まわせて貰ってまして……」


 俺の言葉を聞くと、男性は少し下を向いて考え込む。トランクの持ち手をリズム良く爪でコツコツと叩く音が玄関に響く。


 敵意、というか襲いかかってくる様子もないので住人なのは分かったが、どうもつっけんどんな態度だ。

 

 男性は顔を上げて睨むかのような目で俺を見る。


 「……新種の奴か。」

 「あ、そう?です……」


 眉間に皺を寄せて、疑わしげな視線とともに控えめに人差し指をこちらに向けるので肯定する。

 どうやら納得してくれたようで、軽く鼻を鳴らしてから男性は話し出す。


 「俺は桑原(くわばら)光琉(ひかる)。」

 「はい。」

 

 言い切ると桑原さんは置いてあったタオルを手に取ってから玄関の段差に座って、トランクのタイヤと自分の靴をタオルで拭きだした。


 「…え、今ので自己紹介終わりですか?」

 「終わりだ。何も言うことはない。」

 「……えぇ。」


 今だ玄関前に突っ立っていた俺に背を向けるように座ってしまい、言葉も閉ざされてしまった。

 なんともまあ、無愛想だ。


 これまで戮力荘の人達は、変ではあれど突き放しはしてこなかった。

 そう考えると新鮮な対応ではあるが、だからって冷たい態度を望んでいた訳ではない。


 「えっ……と、桑原さんは戮力荘に住んでる…異端者なんですよね?」

 「戮力荘に住んでる時点で分かるだろう。」

 「……そっすねー」


 こちらを振り向くこともせず淡々と言われてしまった。

 何も言い返せないが、だからってこんな言い方をしていい理由にはならないだろ。何だこの人。一応の確認だって必要だろ!?


 そのまま立ち上がって、桑原さんは2階へ上がろうとするので俺は急いで両手を広げ、彼の前に立ち塞がった。


 「……なんだ?」


 こちらを訝しげに見てくるが、俺は怯まず答える。


 「今、2階では心君がストレス発散の為爆走中です。下手に廊下にいると轢き殺されます……ってふわりさんが…言って、ました……」

 「そうか。」


 語尾が小さくなってしまったが、納得してくれたようで桑原さんはそのままリビングへ向かった。

 折角だし俺も一緒にリビングに行くことにした。


 始めましてがこんなしょっぱい感じなのはいただけない。俺はファーストコンタクトこそ大切にしたいタイプなんだ。

 いくら無愛想な人でも一緒に住んでいくんだ。できる限りいい関係を築けるように、最初の印象に気を配っておきたい。


 「……なんで着いてくるんだ。」

 「いけませんかね!?」

 「いや、まあ。良いが。」


 かなり早足な桑原さんの隣を置いていかれないように進みながら、横目で桑原さんを見る。


 横から見ると鼻が高くてシュッとした顔をしている。眉間に皺が寄ってなければ、なかなかにイケメンじゃないかこの人。話し方ムカつくけど。


 リビングについて、桑原さんは流れるようにソファーへゆっくりと座ってトランクの取っ手を下げる。

 俺も桑原さんの正面にあるソファーに勢いづけて座る。


 少し驚いたように目を見開いた桑原さんは、ポケットにしまっていたスマホを取りだしながら話しかけてくる。


 「……あまり勢いよく座るな。痛むだろ。」

 「あ、すいません……」


 なんだよ、人に対しては態度キツイのに家具は大事ってか?でも家具を乱暴に扱うのは違かったか。

 ソファーの丸みを帯びた肘掛けに手を置くと、桑原さんが視線をスマホに送ったまま話しかけてくる。


 「そのアザのことだ。鬼ヶ島か?」

 「……え?あ、分かりますか?」

 「ここでそんな大アザを作るようなことをするのは鬼ヶ島くらいだ。」

 「特訓でして。

 もしかしたら聞いてるかもしれませんが今度ちょっと作戦に参加するのでその為の特訓をしてるんです。」

 「……へえ?」


 鋭い目が俺に向けられる。

 少し身震いがしたが、そのまま桑原さんを見続ける。


 「まだ来て1周間も経っていないはずだが。そんな大層なことを任せたのか?導身のやつ。」

 

 不機嫌そうにスマホを叩く音が強くなった。


 「いえ!俺が志願したんです。

 俺に出来るのは作戦に参加して、囮になることだと思ったからです。むしろ輪廻さんは、俺が危ないからこの作戦を止めようとしてくれてました。」

 「……意外と根性があるじゃないか。」


 口角を吊り上げて桑原さんは言う。


 「囮とはなんだ。その誘き寄せる奴にお前が狙われてるのか?」

 「……間違いなく、そう、です。」

 

 言葉を紡いでいくうちに、自分でも怖くなってしまった。

 言いながら視線が下がっていった。


 間違いない。俺は狙われてる。昨日も帯刀さんが言ってた通りだ。

 左近は今だって俺の命を狙っている。


 「新種は狙われる。そう不安がることない。」


 いつの間にか立ち上がって、俺の隣に桑原さんが座ろうとしていた。

 驚いたが、止めるようなことでもない。そのまま話し続ける。


 「……新種だから、じゃないんです。」

 「なんだお前。異端者から個人的な恨みを昔から買ってたのか?」

 「いえ、因縁みたいなもので……

 俺のせいで捕まった異端者の兄が、復讐で狙ってきてるらしいです。」

 「それは…新種だから、というより厄介だな。」


 長いため息をつく声が隣から聞こえる。


 「それをどうにかするために作戦に、か。

 お前、高校生だろう。異端者の戦いに身を投じるのは、勇気か?命が惜しいからか?」


 スマホから目を離して俺を見てくる。

 少し考えてから正面を向いて言う。


 「正直、両方です。」

 「両方?」


 両膝の上のこぶしを無意識に固く握ってしまった。

 少し力を緩めながら話す。


 「その、これからも狙われる危険があるなら早いうちに対処したいと思うんです。これは多分命が惜しいからです。

 俺はまだ死にたくないからです。

 今もこれからも狙われるってのが怖いからです。」

 「勇気は?」


 「俺のせいで捕まった異端者は確かに犯罪者でした。人を襲撃して、その人のお金を盗る。それは確かに悪いことです。

 でも、右近は…悪いやつからしかお金を盗らないって決めてた。

 俺も、それが正しいとは思えません。でも、その行いには、確かに彼らなりの正義がありました。」

 「ふむ。」

 「右近は兄の作戦で動いてると言ってました。左近には悪人を裁こうとする正義感がある。」


 桑原さんは何も言わない。スマホを叩く音もしない。


 「だから、その兄の左近の正義を知りたくて、どんな正しさが彼らを犯罪に駆り立てたのか知りたくなったんです。

 会って話してみたら、もしかしたら自首したり、いい方向に行ってくれるかもしれないかなって。

 そのために勇気を出したくて。」

 「無理だな。」


 ズバッと切り捨てられてしまった。

 結構真剣に和解案を考えていたのに、にべもなく否定されてしまった。


 「なんでですか!?」

 「1つ、ロクに話せないだろう。

 復讐対象の言うことを真に受けるやつはいない。」

 

 人差し指を立てて、冷静な口調で続けられる。


 「2つ、自首は無理だ。

 犯罪者はそう簡単に後戻り出来ない。」


 続けざまに中指も立てる。


 「3つ、和解したところで、どうもできない。」


 最後に薬指を立てて、桑原さんはこちらを見る。


 「異端者は逮捕されれば特定の収容所に収容される。あそこには人権は無い。

 ……どうせ捕まって収容所行きになるんだ。和解したところで、意味は無い。」

 「人権って……」

 

 言葉が出なかった。

 人権までも否定されるのは、正直そうだろうと思っていた。しかしこうも突きつけられると、拒絶反応があるもんだな。


 ぐっ、と反射で睨みつけてしまうが、そんな俺の様子を意に介することもなく、桑原さんは立ち上がってトランクを引っ張ってくる。


 「だが諦めろとは言わない。」

 「…?」


 俺の正面でトランクを止めて、桑原さんは俺の前に立ち塞がるようにしている。


 「お前は諦めないやつだ。後回しにはしないだろう。

 奴らの正義を否定しないのなら……」


 人差し指を出して俺のおでこを押さえつけるようにする。


 「正解を探せ。お前が納得できる答えを見つけろ。」

  

 俺に背を向けて、桑原さんはリビングの出口へ手をかける。


 「それにだ橋船。」

 「……はい。」


 振り返って俺の方を向いた桑原さんは、不機嫌そうな顔で続ける。


 「俺は悪人が罰を受けるのを見るのは好きだ。」

 「はい?」

 「だから、だ。」


 にや、と笑顔になって言い放つ。


 「俺もそいつらの正義、案外嫌いじゃない。

 相談があれば乗るぞ。優しくて軟弱な住人の意見以外も聞きたくなれば俺の部屋に来い。

 刺激的なアドバイスをくれてやろう。」


 そういうや否や、さっさとリビングを出てってしまった。


 「……趣味悪いなあ。罰受けてんの見るの好きとか……」


 俺はソファーの背に緩やかに体重を預ける。

 

 遠くから、桑原さんの鼻歌が響いてくる。


────────────

いつも何人もの方々に読んでいただき、分不相応な幸せをひしひしと感じております。


本エピソードを執筆中に本作品設定資料のデータが吹き飛んでしまう事故が発生し、再執筆に時間がかかっております。

少しばかりモチベーションも落ちてしまっているため、もしよろしければ厳しいご意見含め、感想をお待ちしております。


非常に不定期投稿ではございますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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