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異端奇譚  作者: こーよー
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13/16

13 はじめまして


 朝だ。

 真っ白な壁を眺めながら、ずるずると体を起こす。


 今日の目覚めも昨日や一昨日と変わらず、まだ綺麗…というか殺風景な自室で迎えることになった。

 

 正直、最初はモデルハウスと見紛うほどに綺麗な部屋にテンションが上がってもいたが、そろそろなんかアクセントが欲しくなってきた。

 せっかくこんな広い部屋を貰ったんだ、左右の部屋みたいにテレビとか置きたいな…小物でもいい。

 元の俺の部屋から持ってきた私物はそこまで数が多くなかったのもあって、あまりにも寂しい状態だ。

 内装が部屋に釣り合っていない。


 「明日にでも、なんか買いに行こうかな……」


 そんな独り言を口に出して、はっとした。

 俺、今外出れないんだった…


 俺は現在、連続強盗でもあり犯罪異端者でもある『破壊強盗』もとい、左近という異端者に命を狙われている…かもしれないらしい。


 あの日、俺に会って能力を奪われたせいで、左近の弟でもありもう1人の『破壊強盗』でもある右近は逮捕されてしまった。

 それを知ったら、恨むのは必然だろう。

 いや、そもそも逮捕されるようなことをしないでほしいんだけどさ……

 

 つまり俺の部屋の模様替えも、まだ先だ。

 後1週間…いや、後6日お預けだ。しくしく。


 「はあ……」


 外に出れないせいで、備え付けの冷蔵庫には下のキッチンから貰ってきた俺の好きなジュースであるピスカルが1本だけしか入っていない。

 ひどく閑散としている…こんな状態の冷蔵庫滅多にお目にかかれないぞ?


 「下のキッチンの冷蔵庫って、お菓子とか入ってるかな…貰ってきちゃお…」


 小腹が空いた時にどうすれば良いんだ。

 俺は育ち盛りの高校3年生だぞ!夏休みだけど!

 

 心の中の文句が止まらなくなってきた所で、扉がコン、コンと2回叩かれる。


 「広斗、私だ。」

 「入っていいですよ!」


 入ってきたのは尖さんだった。

 偉い、扉を叩いた上で俺の返事を待ってから入ってきた。


 「尖さん、おはようございます!」

 「おはよう広斗。

 …返事待ったぞ!これで、大丈夫だったか?」


 褒め待ちのようで、もじもじしながらこちらを真っ直ぐ見つめてくる。

 ……まあ、進歩してはいるけど。


 「尖さん。」

 「なんだ広斗!」

 「……ノック2回は、お手洗いの空室確認に使われることあるんで…なるべく避けましょうね。」



◇◇◇



 「ねえ広斗君〜」

 「…どうしましたか、ふわりさん?」

 「なんでさっきからず〜っと尖ちゃん塞ぎ込んじゃってるの〜?」


 ふわりさんの指差す先には、ダイニングの広い長机に顔を突っ伏した尖さんがいた。


 先程、ノックの回数を指摘して以来あの調子だ。

 いや、褒め待ちなのは分かったけどだからといって指摘しないわけには行かなかったんだ…許して…


 申し訳なさがトッピングされた朝食の白米は、なんかいつもより気不味い味がする。ふりかけじゃ覆い隠せないよな…


 「少し……指摘をしたら…思ってたのと違ったみたいで…

 …褒めてもらいたかったみたいなんですが…俺も指摘しないわけには行かなくて…」


 持っていた茶碗と箸を置いてから、少し声を抑えてふわりさんの耳元に囁きかける。

 ちょっと頭を動かしたかと思うと、ふわりさんは尖さんのいる方にさっと向かっていった。


 「尖ちゃん!」

 「…ふわりか。」

 「尖ちゃん、ほら、立って!」


 ふわりさんはぐいぐいと両腕を掴んで尖さんを無理やり椅子から立たせる。


 よく持ち上げられるな……いや!これは尖さんが重いとかそういうことじゃなくて!普通に成人女性をよく持ち上げられるなってことに驚いただけで!


 「尖ちゃん、ノックの回数は覚えたんでしょ?」

 「……ああ、覚えた。」

 「ちゃんと返事ができたんでしょ?」

 「…できた。」

  

 ふらふらとした状態のまま尖さんは俯いている。

 そんな尖さんの顔を、ふわりさんは両手で思い切り叩いた。


 バチィン!!


 明らかにやばい音がした。

 尖さんの色白な頬に真っ赤な紅葉が2つ現れている。あれは間違いなく痛いやつだ。


 「しっかりなさいな尖ちゃん!」

 「ふ…痛……ふわり…?」


 「尖ちゃんは新しい知識を得ました!

 その過程の少しばかりの失敗、気にすることありません!」

 「……!」


 青空のような瞳をかっぴらいて、尖さんは自身の顔を両手で包みこんでいるふわりさんを見つめる。


 「…失敗、か。」

 「そう!」

 「……ふふ、少し違うな。」


 もう一度顔を俯かせる。黒い髪がカーテンのように尖さんの顔を覆い隠す。

 そして、尖さんは勢いよく立ち上がったかと思うと、顔を上げてにやりと笑った顔を見せる。


 「これはもはや成功だな!自分の欠点を理解し!改善に生かす!この体験のどこが失敗なのか!」  

 「おっ……おお。」


 きらきらきら…なんてエフェクトが舞うかのような満足げな表情に口をあんぐり開けたまま、表情を強張らせていたふわりさんだったが、暫しの間の後喜ばしげに口角を上げる。


 「…んまあいっか!」

 「いいんですか…?」

 「ほら…本人納得してるし…」


 思わず問いかけると、手のひらで壁を作って俺に囁くように言う。

 良いのか?


 「うむ!じゃあちょいとランニングをしてくるぞ!異端課の連中が来る頃には戻ってくるから安心しろ!」


 尖さんはぐいんと両腕を上げて、その場で軽くストレッチを始めた。屈伸もしてる。

 切り替え早いなこの人。


 「分かった、行っといで〜あと着替えるのよ〜」

 「無論だ!!」


 返事をするやいなや、尖さんはダイニングから文字通り飛ぶように出ていってしまった。俺には残像しか見えなかった。修行が足らんな。


 「……うん、私あの尖ちゃんが一番好き。」

 「元気なのが一番ですよ。」

 「ふふ、そうねえ…」


 にこにこしたまま、ふわりさんは自分の食器を片付け始める。

 俺も今が食事中なのをすっかり忘れていた。おかずの野菜炒めを箸で掴んで白米の上に乗せる。うまそー。


 「異端課の方々がいらっしゃるの10時だから、広斗君もそれまでゆっくりしてなね?」

 「はい、ありがとうございます。」

 「それよりぃ…その野菜炒め美味しい?」


 すすす、と俺のところに戻ってきて隣に座ってきたふわりさんは少し早口で問いかけてくる。


 「あ!凄く美味しいですよ!」

 「ほんと!ふふ、嬉しいなあ〜」


 素直に感想を伝えると、ふわりさんは頭を前に傾けて嬉しそうにする。


 「この、醤油風味の味つけがピーマンに合いますし…その…名前忘れちゃったんですけど、このキノコとも合ってます!」

 「それ舞茸よ〜」

 「あ、舞茸か……」


 箸でキノコ──じゃなくって舞茸を掴む。

 そのまま口に放り込むと、キノコの旨味と醤油の風味が合わさり、幸せをお届けしてくれる。最高の味わいだ。


 「んんー!うま!」

 「んふふ〜嬉しいねえ、広斗君美味しそうに食べるから私も作りがいがあるよ〜」


 肘をついてこちらを嬉しそうに見てくる。あんまり食ってるところは見られるのは慣れてないが、なんか幸せそうなので注意し辛い。まあ悪い気はあんまりしないし良いか。


 「じゃあ私部屋戻るから、また後でね〜」

 「はい!美味しいご飯今日もありがとうございます!」

 「へへっ、どうもね。」


 照れくさそうに頬を掻いて、ふわりさんは立ち上がってダイニングを出ていった。


 ……ダイニングには俺一人になった。このダイニングに一人になったのはこれが初めてかもしれない。なんだか心細い。


 美味しい野菜炒めと白米をかきこんで食器を洗った俺はさっさとダイニングを出て、歯を磨くことにした。


 「……何しよ。」

  

 歯磨き粉をチューブから捻り出しながら、ぼーっと鏡の中の自分を見る。

 焦点が合わないのか、自分の姿がぼやけて何重にも重なって見える。瞬きをして視界をクリアにしてみても、頭のぼやけ具合は変わらない。食後だから眠くなってきたのか?


 重い動作で口に歯ブラシを突っ込んで動かす。

 しゃこしゃこブラシを動かしながら、手洗い場の鏡を邪魔しない小さなデジタル時計に目線を送る。


 現在時刻は8時52分。異端課の方々が来るまで1時間位だ。


 「ふぇふひょうひゃひゃ〜」


 今俺は『絶妙だな〜』と言った。

 歯を磨いている人間はまともな言語能力を奪われることを忘れて、思わず独り言を呟いてしまった。まあ独り言ってそんなもんなんで。


 そんな事より時間だ。ちらりと時計を見ると、さっきよりも1分時間が経っている。

 正直1時間という時間は、一番微妙だ。なんてったって中途半端だからだ。用事があるんだから集中して何かに取り組んで時間を逃すわけにもいかず、かといって何もしないわけにもいかない。

 何もしないと人は勝手に寝てしまうことがあるからだ。唯でさえ今ちょっと眠いのに、何もしなかったら寝てしまう。


 しっかり歯磨きができたところで、俺は口の中の液体を吐き出して水で口を濯ぐ。

 軽くがらがらもしちゃったりして、すっかり口の中は爽やかだ。眠気もちょっと取れた気がする。ミントの効いた歯磨き粉ってのはこれだから好きなんだよ。


 「……一旦部屋戻るか…」


 匂いだけは爽やかな息を吐いて、俺は部屋へと歩を進めた。



◇◇◇


 

 ヴーッ、ヴーッ、と軽いバイブ音を伴って手に持っていたスマホが震えて、俺も反射的に体を跳ねさせる。


 「……こんな時間か。」


 時間を忘れないように、俺は9時30分にスマホのアラームを仕掛けておいた。やっぱりアラームが一番良い。


 アラームを消すと、スマホの画面が元の画面に戻る。

 画面にはトーク用SNS「LINK」のグループトーク画面が映し出されていた。


 現在、俺はマイフレンズと長々とLINKをしていた訳だ。ちょうど連絡が来ていたのもあって話が弾んだものだ。


 話題は俺達マイフレンズの中で唯一受験をするため夏期講習を受けさせられている間山(まやま)将太(しょうた)からの怒りの連絡だった。


 うちの高校、都立重羽(かさねば)高等学校では、夏期講習はほぼ強制だ。1年2年なら絶対に受けることになる。3年生になってやっと夏期講習の枠から外れる人間が出るのだ。

 その条件というのが、進路が就職の人間と専門学校に通う人間だ。


 同じくグループに入っている須賀(すが)颯(はやて)は、第一志望の美容専門学校にすでに合格しているため夏期講習を受ける枠から外れていて、俺も進路が就職のため外れていた。

 そのため、仲良しの俺達がいない将太は1人で夏期講習を受けなければならず、ダルいとのことだった。

 我慢しろ。


 『お前らこっそり夏期講習来ちゃえよ!』

 『てか来い』

 『ぼっちなん自尊心ゴリゴリ削れる』

 『ヒロならまだしも颯予定空いてんだろ!?』


 怒った表情のアニメの女の子のスタンプが3連続で送られてきたのが始まりだった。


 『オレだって予定くらいあるし????』

 『嘘つけ何があんだよ』

 『一人暮らしのための準備とか』

 『おれが悪かった』

 『謝れるお前偉いよ、お前なら受かるって』

 

 ファイト!と書かれた吹き出しを背にしたやけにリアルな犬がサムズアップしているスタンプが流れていた。


 「頑張ってんなー……」


 矢継ぎ早にピコンピコンと増えていく会話に、俺も混ざったのが、ちょうど9時頃。そっから30分スマホに齧りついていた訳だ。アラームを仕掛けなければ死んでいた。

 素早くスマホを操作して、メッセージを綴る。

 

 『わり、用事あるから抜けるわ』

 『おけ』

 『ヒロも頑張れよ!』

 

 応援してます…!とアニメの女の子が両手を組んで上目遣いになっているスタンプと、またもやリアルな犬がサムズアップしているスタンプが送られてくる。

 なんだよこの犬。


 スマホをしまって、部屋を出る。

 廊下を進んでいって、階段を下りていると尖さんが下にいるのが見えた。


 「尖さーん!お帰りなさい!」

 「広斗!ただいま。」


 ランニングウェアを着込んだ尖さんは、体中から滴る汗を必死にタオルで拭い取ろうとしていた。

 息が上がっているのをみるに、中々にハードなランニングをしてきたようだ。


 「もう半をきりましたよ!早く着替えて来ちゃってくださいね!」

 「すまないね!急ぐよ!」


 疲れているだろうに、俺の言葉を受けて尖さんは素早く階段を駆け上がっていく。

 凄いなあ、体力どうなってるんだあの人。


 尖さんが上に上がったのを見送るって、俺は玄関へと向かった。いち早く玄関で待っていたほうが良いだろう。

 俺は友達と遊ぶ時は待ち合わせの15分前には集合場所にいないと気が済まない質の人間なのだ。


 幸い、戮力荘の玄関付近には備え付けられている椅子もあるし(廊下なのに!?)立ち続ける羽目にはならない。

 

 現在時刻9時36分、大分早く着いたがまあ良い。じっくり待ちながら、ビジネスマナーを調べよう。失礼をしないようにしなければ。


 『おはようございます。広斗君。』

 「うおあ!?」


 気配が無かったのに突然声をかけられて、驚いてしまった。

 いつの間にか、足元にはお掃除ロボット──心君がぶつかりそうになるほど近い距離まで接近していた。


 『ふふん、驚きましたか?』

 「おっ…どろいた…」


 声に合わせて光の強さが変わるライトが淡く黄色に光っている。意外といたずらっ子だなさては。


 『異端課の方がいらっしゃるまで、まだ全然時間があるのにもう来たんですか?』

 「ん?うん。なんか…こう言うのは早めに来たいんだよね。」

 『案外心配性なんですね。』


 そう言ってから、お掃除ロボットのカメラがくるりと反対方向に向けられる。


 『すいません。ぼくまだお掃除が残ってまして、失礼しますね。』

 「あ、うん、頑張ってね。」

 『ありがとうございます。』

 

 ヴン、とモーターを稼働させる音が響いたかと思うと、お掃除ロボットは素早く立ち去っていった。


 さて、暇になってしまった。

 今度こそぼーっとするしかやることがなくなっちゃったよ。


 ちょうど一番最初に目についた戮力荘の内装をじっくり観察してみよう。

 床はつやつやした大理石みたいな床で、掃除が行き届いているのか土足で歩き回っているのにチリ1つ見えやしない。


 …もしかして、心君のお陰なのか?

 心君は基本自分の体を出てロボット掃除機として過ごしている理由だけど、それには心君が自由に動き回りたいという理由もあると思うがそうじゃないと戮力荘内は中々に汚れてしまうからなのかな?

 いや、普通に玄関前にはフロアマットがあるからそこで靴底の汚れは落とされるし、タオルも完備されてるからそんなことはないか。ただ単に心君が動き回るのを楽しんでるだけだな。


 そういえば今座ってる椅子は中々に洒落てるな、と考えながら座っている椅子の木目をなぞる。


 戮力荘内は基本白を基調とした内装に統一されている。外から見ると茶色のレンガも相まって中も茶色なのかと思っていたが、そんなことはないみたいだ。

 壁も白いし床も真っ白、だからこそドアの焦げ茶色の木材がよく映える。すげーオシャレだ。


 この椅子もドアと同じように、木目が綺麗な焦げ茶色だ。そして、木目をなぞると言っても椅子にはしっかり加工がされているようで凹凸は全く感じない。むしろつやつや過ぎて撫で回したくなるほどだ。

 だが、木本来のいい匂いが消えているわけでもない。いいなあこれ。俺の部屋の家具買う時はこう言う色合いの家具を選ぼう…


 しばらく椅子を撫で回していると、廊下の奥から大きな足音が近づいてきた。


 「すまない広斗!まだ来てないよな!?」

 「尖さん!大丈夫ですよ。」


 滑り込むように俺の前に現れた尖さんは、ちゃんとランニングウェアから着替えていつもの格好になっていた。

 急いで来たようで、息を荒くしている。


 「はぁ…今何時だ?」

 「えー、と……9時42分です。」

 「は、ふぅ…ギリギリセーフ…」


 スマホの画面を見せると、安心したように俺の隣へ座る。


 「まだ時間ありますよ?」

 「ふぅ……広斗、分かるだろう?集合時間の15分前には着くのがマナーってヤツなんだよ…」

 「えっ、尖さんマナーとか知ってるんですか?」

 「ふふん、勿論だ!輪廻に教えてもらった!」


 ナイスだ輪廻さん。流石長年連れ添っただけある。


 「つまりだ、もうそろそろ奴らが来」


 ピーンポーン


 尖さんがセリフを言い終わらないうちに、インターホンが鳴り響いた。

 尖さんがスマホを取り出すと、何かのアプリを起動して、スピーカーボタンを押す。


 『こんにちはー来ましたよー。』

 「直ぐに開けるぞ。」

 『どもねー。』


 答えを聞き終わると、即座にスピーカーボタンをもう一度押して、通話を切ってしまう。


 「尖さん今のってなんですか?」

 「戮力荘(うち)専用のアプリだ。これを入れれば設置されている全ての防犯カメラの映像にアクセスできて、インターホンにも応対できる。」

 「ごっ、豪邸のインターホンってそういう仕組みなんだ…」

 

 立ち上がって足早に移動を始めた尖さんに続くように、俺も椅子から立ち上がる。

 尖さんはそのまま、玄関に降りてスマホを操作する。遠目から見てみると、さっきと同じアプリだ。


 「鍵もこのアプリだ。」

 「すご……」


 なんか突然最先端技術をぶち込まれて、呆気にとられてしまった。とてもレンガ造りの家には似合わないハイテクノロジーだ。


 スマホをかざすと、ピンと軽い音がした後、ニャ~ンと猫の鳴き声がスマホから響いてドアが開いた。


 玄関前には、既に3名が並んでドアが開くのを待っていた。

 

 「こんにちは、鬼ヶ島さん。あと橋船さんですね。僕は…」

 「帯刀(たてわき)、自己紹介は後にしてくれ。一旦入ったほうがいい。」

 「…んまー、それもそっすね。じゃ、お邪魔しま~す。」


 先陣を切って入ってきた男性が笑顔のまま戮力荘に入ってくる。

 次に不安げな表情の、かなり大きなリュックサックを背負った俺と同い年くらいの男の子。

 そして最後にスーツを着込んだ女性が続いた。


 もう慣れっこだと言わんばかりに、ドアマットに靴を擦り付けて汚れを落として上がり込んできた。


 「ふー……さて、と。」


 ぱん、と手を軽く叩いた男性はにこやかな笑顔を張り付けたまま、瞳を俺の方に向ける。

 赤紫色の瞳が、好奇心を隠せないと言いたげにじっくりと見つめてくる。



 「改めましてこんにちは、橋船さん。僕ら、異端対策部異端課のモンです。」



 キュッと瞼が糸のように細められ、緩く弧を描く。


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