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異端奇譚  作者: こーよー
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10/16

10 忘れ物


 大激闘ストライクシスターズ!


 言わずとしれた対戦アクションゲームの金字塔!

 とはもう説明したはずだ。

 様々なゲーム会社が一同に介して各ゲーム会社の主力ゲームのキャラを詰め込んだ、いわゆるお祭りゲーといったやつだ。


 俺は小学生以来そこまでゲーム機を使うタイプのゲームはそこまでしてこなかったが、このゲームは友達の家に遊びに行った時によく遊んでいるゲームだ。


 シスターズという名前の通り、色々なゲームの女性キャラが出てくる

 各キャラクターごとに技に個性があるため、人それぞれの持ちキャラ的なものがあったりする。俺にもいる。


 「暁、今日は誰使うん?」

 「ん!マッハ!」

 「……ほーう?そんなテンプレ通りの強キャラで俺に勝てるとでも?」

 「今日は勝てるし!」

 「ぼくはいつものマシーンちゃんで行くよ。」

 「広斗は?」

 「俺いつもマリコ使ってる。」

 「シンプルだなー」

 「だからいいんだよ!」


 各々がキャラクターを選んで、それに文句を言ったり煽りあったりする。


 なんだろう。まだ試合じゃないのに楽しいなこれ。


 「よしやるか…」

 「何試合やりますか?」

 「そりゃもう…」


 きりっ、と真面目な顔をした左右は宣言する。


 「残機数3、制限時間7分だ。」

 「っしやるぞー」

 「今度は!負けないからね左右君!」


 びしりとコントローラーから手を離して暁君が左右を指さす。


 「良いのかな暁くぅん?」

 「何が!?」

 「試合始まっちゃうよ?手離してていいのぉ?」

 「あ"っ!」


 わたわたとコントローラーを掴んで、先程よりもガッチリと持つ。


 「分かってるし!」  

 「まあまあ暁君落ち着いて…」


 かなり苛立っている様子の暁君を心君はこなれた口調で諌める。


 「よっしゃ始まんぞ!」

 「負けないからね"!」


 中々ドスの利いた声で唸る暁君を尻目に試合は始まった。


◇◇◇


 「わ"あ"あ"ぁあ"ーん!!」

 「あ……っあ…暁君…」

 「俺の…勝ち、だな。」


 にたりと意地の悪そうに笑う左右に泣き叫ぶ暁君。


 まあ、試合の結果は散々たるもので左右のボロ勝ちだった。

 普段はコントローラーに乗り移って操作しているらしく、手を使ってコントローラーを操作することに慣れていないらしい心君が一番に脱落し、次に俺がアウトになってしまった。


 そして最後に生き残った暁君と左右の一騎打ちの状態になった。


 これだけ見ると暁君が善戦したように見えるが、この時点で暁君の残り残機は0で左右の残機は2だった。

 そんな状態で対等な長期戦が出来るわけもなく、暁君は普通に負けてしまった。


 「……僕…左右君に勝てたことないっ…」

 「ん……まあ…ふぅ…みんなそうだよ…」

 「俺ら同じ苦しみを背負ってるんだよ、暁君…」

 

 そして今、敗北者達で傷を舐め合っている訳だ。


 「ふはは、愉悦。」

 「ちょーし乗りやがってー!」

 「ふふん、また今度挑んでくるがいいさ。」

 「ちくしょー!覚えてろよー!」


 ガタンと立ち上がってべしょべしょの泣き顔で捨て台詞を吐いた暁君は、部屋から逃げるように立ち去っていった。


 「あっ、暁君!」

 「大丈夫だよ広斗君。いつもこうなんです。」

 「いつも…ああして逃げてくのが…お決まりなんだよ。」

 「毎回負けちゃうからね、ぼく達。」


 疲れ果てて息を切らした心君は汗を拭きながら答える。

 普段は体を留守にしているせいで体のコントロールも覚束ないらしい心君は、コントローラーのボタンを必死に押しすぎて早々に体力切れを起こしていたが、まだ息が整っていない。

 

 「ぜぇ……しっかし…ほんと…強いね…左右君……は…」

 「おい心、ジュースあるからそれ飲んで休んでろよ。」

 「っふぅ……あ、ありがと…」


 左右はオレンジジュースのボトルを空けてから心君に差し出す。

 差し出されたオレンジジュースを、似合わない動作で一息に煽る。


 「…おいしー」

 「運動した後に飲み食いするモンって世界一うまいよな。な、広斗!」

 「マジわかる。」


 今なら言えるよ。世界一うまい。


 「はー、でも心君の言う通りだよ。左右マジゲーム上手いよなー」

 「はー?たりめーだろ、俺は胎教がゲームサウンドだった男だぞ?産まれる前からゲーム漬けなんだよ…」

 「えっ、何それ始めて聞いたよ?」

 「えっ、言ってないっけ?」


 お互いに驚いた顔を向け合う2人にこちはも驚かされてしまう。


 「あー…まあこれは面白話というか…オチがあるタイプの話だと思って聞いてほしいんだけど…」

 「聞く!」

 「広斗めっちゃ前のめりじゃん。」


 戮力荘に来てから色々な事があったが、こうして他の人の身の上話を聞く機会は一度くらいしか無かったため、ちょっとばかしテンションが上がってしまった。

 注目されたことに恥ずかしくなったのか、頭を掻きながら左右は話を続ける。


 「俺の…親父とお袋はゲーム好きの夫婦な訳でさ。馴れ初めもそこだったんよ。」

 「そうだったよね。」

 「素敵なご夫婦じゃないかよ左右〜」

 「いっ、今弄るとこじゃねえよ!」


 顔を赤くしながら俺を怒鳴りつけるが、どこか勢いが弱い。素敵なご夫婦であることは否定したくないようだ。


 「…んで!お袋が俺産む直前に入院することになったんだよ。そんとき暇だからっつって親父がお袋の一番好きなゲームを病室に差し入れして、それ以来医者に止められるまでずっとやり続けてたんだよ。」

 「いい話じゃんか?」

 「何のオチがあんのさ。」

 「あーあー!話は最後まで聞けっつーの!」


 やんややんやと野次を飛ばす俺らをまた怒鳴りつける。


 「……なんで特に出産と関係ないゲームが医者に止められたと思う?」

 「……確かに、なんでだろ?」

 「えー、うーん、ゲームのしすぎで体調が悪くなっちゃうから…とか?」


 各々、この話のオチを予想するがどれも正解ではないようだ。左右なんかニヤニヤしてる。


 「なんでか知りたい?」

 「ここまで来たら知りたいよ。」

 「左右〜ギブ!教えて!」


 すると、これまで威勢の良かった左右は、すんっ、と目から光を消して答える。


 「俺のお袋な、普段はスゲー温厚っつーか、ほんわかしてんの。まじで。」

 「いいお母さんじゃーん。」

 「ぼく、以前お会いしたことありますけど凄く丁寧な方でした。」

 「マジでいいお母さんじゃーん。」

 「……まあ、それは嘘じゃないんだけどよ…」


 自重するかのような乾いた笑いと共に、左右は続ける。


 「…お袋、アレでバチボコにアクションゲー好きなんだよ。」

 「……アクションゲー。」

 「え、『ストシス』みたいな?」

 「いーや、ちょっと違う。」


 「もっと血が飛び出したり、臓物撒き散らすタイプの年齢制限がゴリゴリに付いてるみてーなスプラッター系のアクション。好きなんだよ。」

 「…………意外。」

 「よな。俺も思うもん。」


 まあギャップって奴じゃないの?


 「……そんなお袋の一番好きなゲーム、どんなもんだと思う?」

 「……えー、と。」

 「あー、もしかして…」


 「お袋、病室で激グロゾンビスプラッターゲーやったんだよね。」


 うん。そりゃ医者止めるよ。


 「医者が言うには『胎教に悪い』ってさ…」

 「そりゃ悪いよ…」

 「明らかに悪影響だと思うな…」


 流石にゾンビの悲鳴聞いて育った子供は、なんか、よろしくない気がする。

 ここまでの話を苦笑しながら聞いていた心君は、はっとして目を見開く。


 「……だから左右君、アクション系やる時はおっかない見た目の武器使うの…?」

 「えっ、胎教の影響受けてんじゃん。」

 「違っ……違うのか…?まってわかんなくなってきた!」

 「無意識に影響されてんじゃないのかよ?」

 「やっぱり胎教にゾンビスプラッターはナシだよ。」


 頭を抱える左右に、興が乗ったのか楽しそうに言葉で追い詰める心君。楽しそう。どっかの誰かさんみたいにニヤニヤしてる。


 「っだー!この話辞めようぜ!」

 「えー、前何の話してたか忘れちゃったなー。忘れたよね広斗君?」

 「うんうん、忘れちゃったよー。」

 「嘘つけお前ら!」


 怒った左右は立ち上がって俺達の上に覆い被さってくる。


 「ぎゃー!やめろよ!」

 「暑いのに引っ付かないでってば!」

 「うるっせー!お前ら!道連れだー!」

 「あちーよ!」

 「俺も暑い!」

 「バカかよ!」


 ぎゃんぎゃん吠えるように3人で暴れまわる。 


 楽しいかも。


 「っふふふ。」


 床に倒されて、思わず笑い声が口から漏れると左右と心君は俺を見て、顔を見合わせてから口元を緩ませる。


 「んぶっ、ぶふっ。」

 「へへへっ。」


 なんとも言えない楽しさが満ちていた。


 「広斗。」

 「なんだよ。」

 「楽しいか!」


 大口を空けて、こちらを見て笑う。


 「楽しい!」


 この夏が楽しい。


 「ははっ、ありがとう左右。」

 「何がだよ。」

 「俺マジ疲れててさ、なんか、今が夏休みなの忘れてたわ。」

 「夏休み忘れてたの?広斗君。」

 「うん。」


 もう2人は覆い被さるのをやめていたため、俺も起き上がって体育座りをする。

 暑くて膝の裏にたくさん汗をかいているため、体育座りをするついでに汗を拭う。


 「…だってさ、俺それどころじゃなさすぎてさ。

 友達も気を遣ってあんま遊び誘ってこないし、就活もあったし、その上、今じゃ俺、異端者だ。」

 「…んまー、ずいぶん忙しい夏休みだなあ。」

 「大変だったね。」

 「…ホントにな…」


 色々ありすぎる夏休みだ。

 遊びとかでもなく、おふざけなしのシリアス話が続きすぎて俺は疲れてた。


 「でも、こうして…友達?とゲームできて、話せて楽しかったよ。」

 「…そりゃあ、ようござんした。」

 「まあ、まだ高校生なんだし、いくらでも楽しんでいいんじゃないかな。」


 心君は机の上に置きっ放しになっていた蓋の空いたオレンジジュースをちょびっと飲む。結露が出来ていたようで濡れた手を俺に押し当ててくる。


 「うわ、つめて。」

 「へへっ、いいでしょう。暑かったから、気分直しに。」

 「え、めっちゃ水でてんじゃん。うし、見てろよ…」


 左右はペットボトルに指先をちょんとつけると机をゆっくりなぞり出す。

 しばらく真面目な顔で机をなぞっていたかと思うと、こちらを振り返ってなぞった部分を見せつける。


 「じゃーん!猫!」

 「…バケモンの間違いじゃなくて?」

 「何かのゲームのクリーチャーでしょ?」

 「ちげーし!」


 足が5本生えた謎の生き物(本人的には猫)が机に描かれた。多分あの足の1本かは尻尾なんだろう。とてもそうとは見えないけど。


 「光琉さんが見たら、左右君殺されるよ…?」

 「えぇ…描かねー方がいい?」

 「ふわりさんに教えてもらおう…?」


 心君は哀れみの目で左右を見つめる。かわいそ、絵が下手すぎるばかりに。


 「暇だし今度頼んでみっかー。絵とか高校の長期休みの宿題以来だわ。」

 「いいじゃん行こうよ!」

 「俺も行こうかなー。」

 「みんなで行こうぜー!」


 なんだかノリで今後の予定が決まってしまった。

 微笑ましいな……と思っていると、俺の思考の中に一筋の疑問が生まれた。


 「……あ。」


 「広斗?どした?」

 「……あ」

 「ん?」


 「そういえば俺!

 就活あったからって、夏休みの宿題なんっもやってない!!」


 「……マジ?」

 「おっ…大マジ…」

 「馬鹿野郎!ゲームどころじゃねえだろ!」


 大慌ての左右だが、反対に心君はそこまで焦っていない様子だ。


 「夏休みの宿題…」

 「あ、そっか心あんま学校行ってなかったのか。」

 「うん…どんなもんなの?」

 「一言で言うぜ、心。」

 「う、うん。」

 

 「『夏の破壊者』」

 「夏の破壊者!?」


 うん、まあ間違えちゃいないな。

 凄みのある表情で、左右は心君の両肩にそのまま手を乗せる。


 「わざわざ長期休みに勉強を強制する悪しき存在。その中でも特に恐ろしいのが夏休みの宿題だ。」

 「そんなに…やばいの?」

 「やばいな。」


 真面目な顔で左右は続ける。


 「俺もかつてはコイツに散々苦しめられた…コイツは俺のゲームタイムを奪い、自由を殺したッ…」

 「言い方いちいちカッコつけなくていいよ。」


 かなりのオーバーリアクションのまま、詳しくない心君をビビらせている。大人気ねえな。


 「…あー、まあ俺もちょっとオーバーでした。」

 「そうか!?夏休みの宿題とかいう悪には立ち向かうべきだ!」

 「左右君、何と戦ってるの?」


 「俺はもう3年生ですからね。そんなに宿題の量は多くないですよ。」

 「おお!そりゃよかった!」

 「丸一日あれば終わると思うよ。」

 「丸一日、か。何かあるといけないし、早めに終わらせたいよな。」

 「…それは、そうだけど…」


 左右は少し考えて、俺に笑いかける。


 「俺にいい考えがある。」


◇◇◇

 

 「という訳だから!明日の特訓を休みにしてやってください!明日休めば、コイツも全力で取り組めますから!」


 尖さんに土下座した。


 「いいぞ。」

 「いいの!?」


 結構あっさり許してくれた。


 「大体、その傷じゃ明日はまともに戦えないだろう。1日は休ませるつもりだったよ。」

 「ア、そうなんですかあ…」


 左右は凄くバツが悪そうな顔でこちらを見る。

 めちゃめちゃ涙目だ。泣くな。


 「…まあ、言い出しっぺになってくれてありがとう。」

 「広斗お…」

 「……まあ、」


 意味深な間を空けて尖さんが話し始める。


 「“明日”休んだら、覚悟しておけよ。

 今日以上にしごくからな。」

 「……うっす。」

 「てか、何日やる予定なんですか?」

 「…後、2週間は。」

 「え"っ」


 俺の特訓は、ずいぶん長く続くらしい。


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