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来た時はろくに街並みを見ていなかったが、落ち着いて街を眺めて見るとカサンドラの前は大きな広場になっていて人も多くなかなか立地のいい場所にあった。
広場には大きな木が一本あり、その木はクリークが出来る全然前からあったそう。
「クリークの街を作ったご先祖様は遥か遠い不毛地帯からやって来たんだそうです。力尽きそうになりながらも遠目にこの大樹を見つけて『あそこまで行けば飢える事はない』と人々を励ましながらこの木を目指して旅をしたんだとか。そうして辿り付いてみたら近くに川も、食物が豊富な森もあって飢えの心配が無くなった事から大樹のお導きだと感謝の気持ちを込めクリークと言う名前をつけたそうですよ。」
「クリークって街の名前ってだけじゃないの?」
「え?やだな~、クリークって言ったら精霊神様が初めて笑い声を上げた時に口から産まれ落ちた第一子、樹の精霊の名前ですよ。…あ‼記憶がないんだった‼すいません‼」
焦った様に言うハサンに気にしないでと言うと、更にすまなさそうな顔でしょんぼりしてしまった。
嘘っぱちで落ち込ませてしまってこちらも申し訳ない気分になるが、私はそんな事より口から産まれたクリークという精霊に驚いた。口から産まれたってすごいな。
アーッハッハッハッハ――ポロッて感じかな。
頭の中で大口を開けて笑っている人から赤ん坊が転がり落ちてくる想像をしながら大樹を見上げる。
確かに精霊とやらが涌いていてもおかしくはない程に神秘的な見た目だ。
カサンドラの正面にクリークの大樹があって、その周りにはベンチがあり人々の憩いの場となっている様だ。
広場からは大きな通りが3本繋がっていて、カサンドラの正面から見て左に上下に伸びる大通りがあり、店は左の通りの角に面している。
「ここを左に行くと商店が並んでいて、右に行くと宿が集まってます。そのまま【商店通り】と【宿場通り】って呼んでます!!その先に川があって橋を渡ると――…酒場が沢山あるというか。と、とにかく大人の店が沢山あるそうです‼」
なーるほど、歓楽街があるのね。しかも言いよどんだって事は娼館とかもありそうですな。ふむ。
「ハサンはそうゆうお姉さんのお店に行った事あるの?」
「なな…な、何言ってるんですかぁ!僕にはまだ早いって兄さんが許してくれないから行った事ないですよー‼」
ほほぅ…存在は知ってる上に興味津々であると…。しかもそれを馬鹿正直に言ってみるもママが許してくれないから行けない訳ね。
ま、18歳ならそんな盛りでしょうよ、マルコスも気持ちが分かるんだから行かせてあげたらいいのに。
「こっちの通りは何があるの?」
後ろを向くと広場から三叉路になっている道があり、その内の一本が大通りになっていて気になったので聞いてみる。
「あっちは鍛冶屋とか、工房があります。たまに掘り出し物も売り出されててお買い得なんですよ~。あ、そういえばこの間兄さんと鍛冶場通りを歩いていたら――」
またも兄さんとの思い出をペラペラを話しだしてしまったハサンを放置して、広場から続く通りを見ると最初に見た謎生物が引く車がガラガラと音を立てながら通りすぎた。
「は、ハサン…あれ何?!」
「ーーしたら兄さんが『お前は本当にオツムが残念ねぇ』ってそれはそれは残念そうに言うんです!僕だっていつかは――」
――返事がない、ただのハサンのようだ。
仕方ないので、丁度そこに立っていたおじいさんに聞いてみる。
「あの、すいません。今道を通ったのって――」
「はっはー‼よくぞ聞いてくれたお若いの‼お主のような女性でも目を引いてしまうくらいの魅力…そうあれがクリーク一番のジャーマンじゃ‼若いのにいい目をしておるのう…。」
「ジャ、ジャーマンですか?」
「逞しい身体だったろう?!わしの飼っているジャーマンの中でも一際美しいんじゃ!わしの可愛いエリザベスちゃんは‼ーーふん、誰もがジャーマンを只の荷物引きの様に扱っていて由々しき事態じゃと思っていたが、この街もまだまだ捨てたもんじゃないのぅ!ほっほっほっほ」
黄門様のように朗らかに笑いながら去っていってしまい、この街にはまともな人間はいないんじゃないかと疑わしくなってきた。
ともかくあの生物はジャーマンって名前で、あのおじいさんが育てていて、荷物引きに扱われている。って事は分かった。
そしておじいさんがあれだけ愛情を持っている事からも危険ではないんだろう。
丁度止まったジャーマン車に近づいて見てみると、確かに鋭い牙の隙間からダラダラと涎は垂れてるわ、硬い鱗に覆われていて逞しい筋肉がついてるわ、まるで恐竜のようで恐ろしいけどよく見てみると円らな瞳をしていて可愛い。
「おい、そこの姉さん!あんま近寄ると危ないぜ!」
御者の男の子が話しかけて来た。
「この前も冒険者のおっさんが手を噛みちぎられて引退に追い込まれたばっかでさ。おいらの事もいつ食べてやろうかって目で見てくんだよな~」
前言撤回。全然可愛くない、可愛い所か見た目のまんまの性格だったわ。
こんな物を街の中で走らせちゃダメだし、あの爺さん何者だよ!
男の子にお礼を言ってハサンに意識を戻してみると、私が隣にいない事も気づかないまま楽しそうに話していて、完全に不審者を見る目で周りからヒソヒソと言われている。
そんなハサンを見て私も更に距離を置くのだった。
ありがとうございました。




