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ハサンが落ち着きを取り戻し、お茶を入れて戻って来た頃。
ーーチッと舌打ちをしながら起き出したマルコスと3人でお茶を飲む。
ちなみに私の分が最初は無く、キレたマルコスに入れ直して来いと再度命令されていたのでTake2である。
「ふぅ…それで、その方は誰なんです?」
ジトーっとした目で私を見つめる少年。
やだ、こんな可愛い子に見つめられたら私…発作が起きてしまう。
「ハサンと一緒。森で拾って来たのよ。」
「嘘ですね。昨日兄さんは店は休んで交換所に行くって言ってました。兄さんが朝から起きて行動するはずないからきっとお昼くらいから交換所に行ったに決まってます。あの量の交換をするなら森に行く時間なんて無かったはずです。まして、休みだって決めた日にわざわざ森に行って仕事する気もないだろうし、薬草はつい先日僕と取りに行って沢山あるはずだし、…あの日はゴンザレスもあって幸運でしたね!!そういえば一昨日は兄さんが僕に甘い物が久しぶりに食べたいって言ってきたーー」
ごちゃごちゃと推理を披露したあげく全然関係ない日常の事まで話だしたハサンを見て、
「これは失敗なの?成功なの?」と小声で囁くと「成功ね、このまま話さしておけば勝手に納得するわよ」と言って、そうね、そうだったわね。と適当に相づちを打つマルコス。
「あはは!!それでガンツさんがこの野郎!とか言って拳骨を食らわせてきて、僕が泣いてたらアルマちゃんが撫でてきて、子供扱いするもんだからーー」
「これ、いつ終わるの?」
「普段あまり相手にしないもんだから、たまに話してあげると2時間は止まらないわね。」
マシンガントークで1人楽しそうに話すハサンを見て、やっぱりネグレクトされてる子供に思えて来て可哀想に思えて来た。
30分頃経過した頃には、敵対心丸出しだったのが嘘かの様に私にまで話をしてきて、1時間経った頃には話は最近の出来事からマルコスとハサンの出会いにまで話が及んだ。
二人の出会いは、約8年前。
マルコスが16歳、ハサンが10歳の頃だったという。
既にカサンドラがOPENしていて、16歳という若さで既に森でバッサバッサと魔物を倒し、採集をしていた時に魔物に追い詰められ、がたがたと震えているハサンを見つけたらしい。
その当時10歳だったハサンは父親に『森に食べ物を取りに行くから付いてこい』と言われ、付いて行くも初めて森に入るハサンは、歩きなれない獣道に足を取られモタモタしている内に気が付いたら父とはぐれてしまっていた。
日差しのあまり入らない深い森の奥深くで一人ぼっちで魔物から逃げていて、追い詰められもうダメだと思った時にマルコスに助けられたそうだ。
クリークまで連れて行ってもらい、裏街にある自宅に行くも『…どうして戻ってこれたんだ。』と言った父親と、気まず気に顔を逸らす母親に自分が捨てられたんだという事に気が付いたらしい。それを後ろで聞いていたマルコスはポロポロと泣くハサンを黙って抱きしめ、自宅へ連れて帰ったそう。
まるでヘンゼルとグレーテルの様だ。と、あまりの日本とかけ離れた非現実な話に暢気にもそんな感想を抱いてしまう。
森で出会ったのはお菓子の家に住む悪い魔女ではなく、強いオカマだった訳だが。
裏街の様子を見れば確かに掘っ立て小屋みたいな所もあったし、食うに困る人たちがいるんだろうけど、10歳の男の子を魔物が出る森に連れて行って置いて行くなんて…。死んでくれって言ってるようなもんじゃん。
「あの時は悲しくて悲しくて。一生分泣いたんじゃないかってくらい泣いちゃって」
今でも辛いだろうに笑いながらおどけて見せるハサンに涙が出る。
「ちょっと‼何泣いてるんですか‼」
いや、この歳になると涙腺が弱くてね…。昔は全然泣けなかったのに、今では小さい子が初めておつかいに行くのを見守るという番組で子供もいないくせに泣く始末。それなのに想像を絶するハサンの辛い体験に思わずね…。
「な、泣かないでくださいよぅ…僕まで悲しく…」
そう言ってボロボロと泣きだすハサンに釣られて更に泣き出すというカオスに包まれた。
「ちょっと、勘弁してちょうだいよ。辛気臭いわねぇ。」
心底嫌そうにマルコスが言ってる間もワァワァと二人で泣いていると、マルコスは呆れてもう調合しておかなきゃ間に合わないから。と言って部屋を出ていってしまった。
「に、兄さん…待ってくださいよ…。グス…。」
駄々をこねて、怒った母親に置いていかれてしまった子の様に後をついていったハサンを見ながら一頻り泣いた後、
――あ…本当にマルコスが言ってた通りになってる。
と私について深く追求されなかった事にホッとしながら1階へ降りて行った。
パタパタとはたきで陳列棚の埃を落としているハサンにマルコスは?と聞くと、兄さんなら奥の部屋で調合中です!とさっき泣いてたのが嘘の様に元気に返事をされる。
「兄さんから、記憶がないって聞きました。今日は午前中は休業して、買い物ついでにマリコさんにクリークを案内する様に言われているので早速行きましょうか!」
おばさんには眩しすぎる屈託のない笑顔で言われ、スキップでもしそうな勢いで外に出て行ってしまったキラキラの金髪の後を追うマリコだった。
ありがとうございました。




