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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第6章 青年たちと酒場、少年少女と恋月草
52/97

6-7 赤もやし

■■■


「あれは何事かと思ったわなぁ」

「だろうね。三人の驚いた顔は今でも忘れられないよ」


 あのあと、五人で自己紹介を交わして公園で遊んだり話したりしていた。


 三上姉妹の父親は海外へ単身赴任中であること、母親は幻界開発プロジェクトのシステムエンジニアであること。

 春休み中だけ真田家に滞在していた鈴音ちゃんからは、早川の話について聞かされたっけな。

 隆一が出かける前に武夫さんと話していたのは、そのことだったらしい。


「でも、まさかあの親父がわざわざ連絡よこしてあっちゃんの引っ越しのこと言うてくれるとは思わんかったな」

「それだけ息子のことが心配だったんだよ、きっと。早川は隆一の数少ない友人だったわけだし」

「数少ない友人は余計やろ……」


 早川は隆一と離れて少したってから、母親が再婚したらしい。その再婚相手というのが幻界人だった。

 幻界人は実界に来ることができないので、早川と母親で幻界へ引っ越した、というわけだそうだ。

 だが当時、僕は早川と面識がなくあまり関心がなかったので、正直詳しい話を覚えていない。


「しっかしなあ、なんであっちゃんは宗治を殺そうとしたんやろな」

「俺も心当たりがないんだよな……そんなに憎まれるようなことをした覚えもないし」


 約二週間前、死の荒野で僕を襲った早川。あの目は明らかに殺意を持っていた。

 そもそも僕は早川とは深く関わっていないし、殺したくなるほど妬まれるようなエピソードなんて無かったはずだ。


「あっちゃんが実界に戻ってきてから中学でなんかしたんとちゃう? 消しゴム盗んだとか」

「うーん、特に記憶にはないな……」


 確かに、隆一の言う通り早川は小学校を卒業するころに実界に戻ってきている。

 同じ中学で面識はあったが、クラスが異なったのでまともに話した記憶もない。

 隆一という共通の友人が居たという程度で、直接の関わりは皆無に等しかった。

 しかし、殺しという行動を取るということは、それなりの理由があるのだろう。


「謎は深まるばかりだ……」

「せやなぁ、しばらくは警戒しとかなあかんな」


 テーブルに置かれたろうそく型のランプを見つめた後、手元のファジーネーブルに手を伸ばした。

 同時に、隆一もカリフォルニアレモネードを手に取り、一口飲んだ。


「いうて中学って言ったら、宗治が男だったことに衝撃を受けたことくらいしか鮮明に覚えてへんで」

「それはなんというか、最も覚えていなくていい事な気がするな」


 なんて言いつつも、僕にとってもそれは思春期最悪の思い出だ。

 そう。中学と言えば早川のこともあるが、このことが最も衝撃的な出来事と言える。

 ずっと同じ部屋で過ごしてきた僕のことを彼はあろうことか、中学校に入るまで女子だと思っていたのだ。


「せやかて宗治。あんな華奢で、しかもあんな髪型してたら誰でも間違えるわ。ほら、瑠里も間違えてたやん」

「初対面だった瑠里はともかく、何年も一緒にいたお前が気付かないのはどう考えてもおかしいよ」


 確かに一緒にお風呂に入るなんてこともなかったし、基本的に着替えは一階の脱衣所でしていたから裸を見られた記憶はない。

 それでも、髪を切って学ランの試着をするまで気付かないのは隆一がおかしいと思う。


「学ラン着たときマジでなんで?? ってなったからな……」

「俺は隆一の今までの妙な気遣いの謎が解けたと同時に、かなりショックを受けたけどね」


 一階の脱衣所で着替えていたのは、そもそも隆一の提案だった。

 部屋で脱ごうとしたときに止められたのも、そういうことだったのだ。


「それからやったか? お前が筋トレとか走り込み始めたの」

「ああ、おかげさまで」


 彼のおかげで身体づくりの運動は欠かさなくなった。

 だが、それでもまだまだ僕は修行が足りていない。


「でも、俺は筋トレをもっと強化していくつもりだよ」

「え、いや……お前もう十分強いやろ」


 なぜなら――。


「だって、未だにある女の子からは“赤もやし”なんて呼ばれてしまうからね」



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