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快晴の空に 〜幻想世界のなんでも屋〜  作者: ろこやるく
第6章 青年たちと酒場、少年少女と恋月草
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6-6 双子姉妹の転校生


■■■


「……よくそんな事細かに覚えてるね」

「そらお前、俺の人生の転機やからな」


 僕を真っすぐに見つめて、隆一は笑う。

 見た目のクールさとは裏腹に、彼は熱い(暑苦しい)男である。

 そんなパッション溢れる青年の手元には、赤みの強いオレンジ色のカクテルが置かれていた。

 その色味は、内に情熱(暑苦しさ)を秘めた彼の性格に何となく似合っているように思った。


「そのカクテル、何?」

「ああ、これか?」


 僕が問うと、隆一は自身の手元のグラスに目をやった。

 と、彼はおもむろに、僕の方へとそのグラスを差し出した。


「飲んでみるか?」

「……少しだけ貰おうかな」


 得体の知れないカクテルをゆっくりと口に含む。

 お酒に弱い僕は、アルコール度数の分からないモノへの警戒心が人一倍強い。

 それくらいしないと、後で後悔する事態になりかねないのだ。


「……お、それなりに飲みやすい」

「それなりってなんやねん」


 柑橘系の強い酸味が効いたカクテル。

 酔いでまどろんでいた頭をキュッと引き締めて、目を覚まさせてくれるよう。


「これな、カリフォルニアレモネードって言うカクテルやねん」


 カリフォル……とにかく、お洒落なカクテルの名前を彼は口にした。

 幻界で初めて飲んだお酒だけど、恐らく名前からして実界から流入されたカクテルだろう。


「なんでまたそんなカクテルを頼んだのさ」


 いつの間にか横に置いてあったファジーネーブルを手に取り、僕は隆一に尋ねた。


「ん、まぁ……なんとなく、かな」


 少し歯切れの悪い返しをして、彼はカリフォルニアなんとかを口に含んだ。


「それはともかく、次はお前の番やで」

「へ……?」


 隆一の急なフリに、まだ覚醒したばかりの頭はついていけない。


「せやから、俺が昔話をしたやん? 次は宗治がする番やろ」

「番やろって……それ、ただのお前ルールじゃん」

「宗治のルールは俺のルール、俺のルールは俺のルールや」


 ドヤ顔で言葉を返すが隆一、それは何かおかしいぞ。


「それ、隆一が俺のルールに従いたい人になってる」

「え、マジで? それただのMやん」


 これ以上言葉を返すとよろしくない方向に話が進みそうなので、僕はそっと受け流すことにする。


「……仕方がないなぁ」

「お、きた! どの話しとく?」


 クリスマスプレゼントに待ち焦がれる子供のように生き生きとした瞳を向ける成人男性。

 僕はその熱い視線も、そっと受け流すことにする。


「そうだね……鈴ちゃんや三上姉妹と遊んでた時のことなんかどうかな」

「あー、そないな時期もあったなぁ。……めっちゃ懐かしい」


 小学校四年生の頃だったか。

 隆一が真田家に来てから、一年ほど後の出来事だ。


■■■


 さわさわと桜並木を通り抜ける風の音が聴こえる。

 淡く色づいた花弁(はなびら)が風に乗って宙を舞う。

 風はまだ冷たく、ランドセルを背負った二人の子供が身を縮こませて歩いていた。


「うう、寒い」


 赤髪の子――真田宗治が、弱々しい声でそう言った。


「ほんまになあ。はよあったかくなってくれ」


 青い髪の眼鏡をかけた子――飛鳥隆一は、気候への行き場のない怒りを僕にぶつけた。


「隆一くん、それ、ボクに言われても困るよ」


 僕は苦笑いを浮かべて言葉を返すが、


「ええやん、友達のグチくらい聞いてくれ」


 むっと口を尖らせて、遠くを見つめる隆一少年。

 自身の表情のこわばりを感じ、苦い感情だけが残る。

 それでもなんとか平静を保とうと、隆一と同じように遠くを見た。


「ほら隆一くん、もう学校が見えてる。もう少しで着けるよ」


 僕がそう言って指した先には、小さな三階建ての校舎が構えていた。

 校舎の中なら冷たい風に当たることもない。

 温かい教室の中で過ごすことができるはずだ。

 ……が。


「うわあ、マジでかぁ。春休み明けとかもうめっちゃ帰りたい」

「え、そっち?」


 隆一の予想外の反応に、僕はあっけにとられる。


「でも、今年の春休み明けはそこまで残念でもないけどなぁ」

「へぇ、なんで?」


 歩き疲れて少し重く感じ始めたランドセルを背負い直して、僕は尋ねた。


「今年は転校生がくるやん? しかも同級生! めっちゃ楽しみやん!」


 眼鏡越しの瞳を輝かせ、隆一少年は明るい声で話す。


 小学四年生の春、僕達の通う小学校に双子の姉妹が転校してきた。

 プラチナブロンドの髪に紫がかった赤目の姉、三上瑪乃有(みかみめのう)。

 雪のような青みのある白い髪に、真っ赤な瞳を持つ方が妹の三上瑠里(みかみるり)。

 姉妹は真田家の近所に引っ越してきたばかりで、僕や隆一とはまだ面識がなかった。


 教室に入ると、クラスメイト達が落ち着きのない様子で席についていた。

 どんな子だろうと、僕と隆一も同様に、彼女らが教室にやってくるのを楽しみにしていた。


 チャイムと同時に、担任が二人の少女を連れて教室に入ってくる。


「今日から皆さんと一緒のクラスになる、転校生を紹介します」


 お決まりのセリフを放ち、二人の自己紹介が始まる。


「姉の三上瑪乃有です。よろしくお願いします」

「い、妹の三上瑠里です……よろしくお願い、します」


 冷静に、淡々と挨拶をする瑪乃有と、緊張を隠せない瑠里。

 僕の二人に対する第一印象は、“正反対の双子姉妹”だった。


 その後、姉妹はそれぞれの席に着いて授業を受けた。

 休みの時間は他の同級生たちに囲まれており、質問攻めにあっていたようだ。

 

 結局、僕はその日三上姉妹と一切関わることなく放課後を迎えた。


「え、二人と何も話しとらんの?」

「だって、二人ともすごく人気だったから近づけなくて……」


 信じられないものを見るような目を僕に向ける隆一。

 そんな彼に、思わず顔をしかめる。


「ボクは隆一くんと違って、自分からいくのが苦手なんだよ」

「しゃーないなあ。ほんなら、明日は一緒に話そうや!」


 傷ついた表情を察したのか、隆一はそんな言葉を僕にかけた。




 帰宅後、僕は隆一と二階の部屋に上がり、ランドセルを投げるつけるように勉強机に置いた。


「五時まであと二時間もあるで、宗治!」

「うん、いつもの公園でいいよね」

「おう! 俺ちょっと武夫さんと話があるから、先に行っとってくれ!」

「はーい!」


 早々と部屋を出て階段を下りていく隆一の後に続いて、僕も階段を下りていく。


「久恵さん、公園に行ってきます!」

「いってらっしゃい、気を付けてね」


 リビングの久恵に挨拶をすると、玄関を飛び出した。




 僕は駆け足で公園にやってきた。

 滑り台と、二人分のブランコ。そして、三人くらいが腰掛けられるベンチ。

 鬼ごっこもままならない、小さな公園だ。

 そのためか公園はいつも人がおらず、僕と隆一で二人きりの貸切状態になることも珍しくなかった。


「……あれ、あの子って」


 誰もいないと思っていた公園に、僕と同じ年程の少女が一人ブランコに腰掛けていた。

 雪のような白い髪は肩にぎりぎりかからない長さで、髪の間から白い肌が見える。

 後ろ姿ではあるが、その髪色と肌の白さから双子の転校生の妹の方――三上瑠里であると確信した。


 ゆっくり近づいていくと、瑠里は何か本を読んでいたようだった。


「何、読んでるの?」

「ひゃっ……!?」


 びくっと肩を上げ、少女はこちらを振り返る。

 赤い大きな瞳を向けて何かを言わんとするが、肝心の口からは声を出せないでいたようだった。


「あ、いきなり声をかけてごめんね!」

「……ううん。大丈夫」


 ふぅ、と静かに深呼吸をして、少女は答えた。


「えっと……真田宗治ちゃん、だっけ」

「うん。そうだけど……なんでちゃん付け?」


 変わった呼び方をする少女に、僕は尋ねた。


 ――その呼び方って、なんかまるで……。


「だって、女の子だし」

「なるほ……ん??」


 ――女の子だと思われてた!?


「あの……ぼ、ボクは男だよ?」

「え、え、えっ?? あ、え、あああ……ご、ごめんなさい!!」


 少女は勢いよくブランコから降りて立ち上がり頭を下げるが、


「あ、近っ、痛っ!」


 距離感を誤ったのか、僕の顔面に頭をぶつける。

 頭をぶつけられた僕はあまりの痛みに顔を押さえてその場でうずくまった。


「きゃ、ああわわ、ご、ごめんなさいっごめんね……!」


 ひたすら謝り続ける白い髪の少女に、その前でうずくまる赤髪の子供。

 その異様な光景は、公園に一緒にやってきた飛鳥隆一とその妹の鈴音、そして瑠里の姉の三上瑪乃有に目撃されていた。



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