表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
三人目の姫との邂逅
31/37

第一話

 私は御前会議である提案をしました。それは魔王に宣戦布告した男に会いに行くというもの。


「正気の沙汰じゃありません!? おやめ下さい!!」


 ブレア卿が声を荒げて椅子から立ち上がって反対します。彼の座っていた椅子は彼の祖父が彼の父親、自分の息子の為に手作りで作った物でしたね。それが孫まで受け継がれるとは、感慨深いですね。


 ……五百年も長生きをすると感傷的になってしまいますね。


「一度会って、どうしても確認したい事ができました。


 イェーガー卿、ブレア卿の言った通りの男ならば、私の、知己の者の、関係者かも知れません」


 私は提案を変えず、尚且つ確信を持って私の意見を伝える。


「「「「「!?」」」」」


「ふ、む……」


「カタハニア、誠か?」


 他の六家紋の継承者は驚いていますが、やはり陛下は揺るがず、ガイナ様は淡々と私に説明を要求してきます。


「はい。


 先ず、ブレア卿とイェーガー卿の御二方にお尋ねします。


 私の考え通りなら、宣戦布告したと言う男。


 容姿は黒髪と茶色い目、そして異国の白の衣の上に黒の衣を羽織っていたのではありませんか?」


「は、はい。その通りです」


「……あの映像を見た、ってだけじゃ目までは確認出来ないな」


 ブレア卿は真正直に答えますが、イェーガー卿は戦闘に従事する人間の考え方ですね。


 この二人は幼少の頃から行動を共にしていましたね。微笑ましかったのですが、今は二人とも立派な御仁になりました。


「カタハニア様よ? どういう事だ?」


「……と仰ると?」


 パルちゃんはやはり突っ込んできますね。流石は梟の継承者です。


「何でその男に付いてそこまで言い切れるんだ? よっぽどの確信がなきゃ、あんたみたいな思慮深さが服を着て歩いている様な人間が断言して、行動を起こすなんてありえねぇ」


「口を慎め、(パル)。囀るのは小鳥で十分だ」


「あぁ? 仕方ねぇだろ? 俺が客観的に(上から)目を光らせてなきゃ、(間諜)を見つけらんねぇだろ?」


「全く、それでも女か?」


「おい? 今は関係ねぇだろ? 性別なんざよぉ?」


 この二人は変わらないですね。年上のガイナ様に臆する事なく、ちょっかいや悪戯を仕掛けていたお転婆な女の子が、軍師や参謀などで活躍する梟になるとは思いませんでした。


 出来れば彼女には女の子としての人生を送ってもらいたかったのですが……。


 ガイナ様と一緒に居たい気持ちの表れでしょうかね?


「止め、ぃ」


「……陛下。 申し訳ありません」


「申し訳ありません……。陛下」


 陛下に咎められ、すぐに引く二人。何方も今は仕事だと弁えていますね。


「……して、カタハ、ニア。説明を続け、よ」


「はい。


 と言うのも、その知己の者、私と同じ、姫なのです」


 噂の彼には名前を、明かす事になるかもしれない。


 異世界人(・・・・)日向(ひなた) (あか)の名前を。




「おし! こんなモンだな。次は……」


「何をしているんだ? テツロー?」


 俺が戦闘課の宿舎の屋上で麓の森から持って来た木を切って板にする作業を終え、次の作業に移ろうとした時、出入り口に佇んでいる漆が声をかけてきた。


「何って、看板だよ?


 此処を俺の国にするって言ったろ?


 それなのに名前が何時までも『第伍魔力研究所』何ておかしいだろ?」


「まぁ、な」


「だから、表の門の看板を外してこれに付け替えんの。


『駆け込み寺』にな」


「却下だ。そんな離婚したい女だけにしか需要のない国に誰が来る」


「離婚したい人妻」


「それが狙いか!?」


「いや、家事とか掃除とかやってもらおうと思ってね? 痛い!?」


 俺の言い分は聞き入れられなかった。折角作った板も割られた。悲しい。


「そういや、何で此処に?」


「え?」


 屋上の固いアスファルトで出来た地面に不貞寝した状態で質問した。


「いや、ヤタムナヤの授業をやってるって、聞いていたから、てっきり先生は二人掛かりでやるのかと」


「いや、その、! そ、そう言えばぁ!」


「お、おう?」


 歯切れが悪いな。


「は、腹が減ってないかぁ! 減ってるだろう? だ、だからこれをやる!」


 おぉ、昼食を持って来てくれたらしい。出来れば「先輩! 差し入れです!」とか言ってもらいたかった。


 無理だけどさ。地面に座り直し、漆から包みを受け取り、頭を下げながらお礼を言う。


「おぉ、ありがとう」


「じゃ、じゃあな?」


 手渡された香草で作られた包みはまだ温い。


 そそくさと立ち去ろうとする漆を立ち上がって呼び止める。

 

(なな)!」


 漆は振り返らずに、足を止める。


「!? な、なんだ?」


「ちょうど腹減ってたんだ。ありがとう」


「う、うむ。そ、そらなら良かった」


 そらなら、て。かみかみだな。


 今度は走り去ってしまった。恥ずかしがる事もないだろうに。


 渡された包みを開ける。紫色の焼かれた肉(ステーキ)。一枚デカイのが何かの上に乗っている。肉をどかすと、下に更に肉。飲ま呑まイェイ! てか?


 上の肉を手に取り、噛み付き、噛み切る。


 口の中に肉の匂いと味と味付けに使われたと思われる、何処で手に入れたのか分からない精力剤の様な独特の味が混ざり、噛み応えのある燻製(ビーフジャーキー)をチップごと食べてる気分になった。


 野性的な求愛だなぁ……。


 はぁ、完全に誘われてます。どうもありがとうございました。


 まぁ、貴重な食料なんだ。食べなきゃもったいない。


「うん、美味い」


 残さず全部食った。げふ。


 肉だけだと、やっぱ不健康だな。げふ。


 俺は畑を作る事を涙ながらに心に固く決意した。それより先ず水。げふ。


 その日の夜まで腰が引けていたのは言うまでもない。


 異世界女子の求愛、怖い。




「此処ですね」


 気配を『切る』事で道中、誰にも気付かれずに辿り着けました。そして浸入する事も。


 さて、彼を探さねば。


 と思っていたのですが、ヒヒイロカネ製のフェンスを飛び越えた先に、彼は三人の少女達に遠くから見守られながら、真っ赤な嫌に刺々しい鍬で地面を耕していました。


 延長線上にある魔導竜の発着場と思われる建造物を破壊しながら。


 お噂は本当だった様ですね。と言いますかお噂以上ですね?


 私は彼女達の座る地面に敷いている大きい布に、更に音を『切る』事で無音で近付き、お茶菓子が入っているバスケットの横に座り、彼らの観察を始めました。


「テツロー? 何してるの?」


「耕してるんだよ。畑にするのにね」


「おいテツロー、此処の土壌では作物は無理ではないか?」


 眼帯を付けている少女は見た目に反して、土壌などの知識もご存知でしたか。


「んー。麓から一合目までは木があるだろ? その木の葉を腐らせて、肥料として使いたいんだ」


「腐葉土ですね!?」


「詩さん、知ってるの?」


「はい! こう見えて、趣味はお花を育てる事です!」


 あら、彼女とはお話が合いそうです。それに意外と博識なのですね、かの御仁は。


「見た目通りだよ?」


「ひぁ!?」


「あはは! うたせんせーおもしろーい!」


「ふふ……」


 ……微笑ましい光景ですね。仲の良い家族、兄弟姉妹の様な雰囲気です。


 それにしても、かの御仁は顔立ちに覇気や野心を一切、感じません。意図的に感じさせていないだけかもしれませんね。本当に魔王に宣戦布告するだけの器量を持つ御仁なのでしょうか?


「しかし、本当に……」


 本当に彼を含めて四人だけ、ですね。


 一人は背の小さい黒髪で長髪の少女。眼帯の彼女が戦闘課の職員ですね。確かに良く鍛えられています。残りの少女は非戦闘員でしょう。あの気性なら当然ですね。彼は? ……十代後半ですかね?


 皆さん大体十代から二十代と言った所でしょうね。


 彼らの様な若人達が、自ら行動を起こさねばならない程にこの国は……。


 悲しいです。


「……(私は農村出身と言うだけで、知識はからっきしだからなぁ。はぁ)」


「どうした漆?」


「いや、何でもない」


 軍服を着た少女が何やら落ち込んでいるのを察知して、気にかける優しさは彼はお持ちの様ですね。


「……妊娠し(デキ)たのか?」


 え? 妊娠?


「な!? まだだ!? あ」


「まだ? (なにがまだなんだろ?)」


「まだ……!? (将来的にはするつもりですか!?)」


「……はぁ。漆? ちゃんと避妊はするからな」


 ……ど、どうやら、あの二人は男女の仲、らしいですね。


 本当に彼なのかしら?


「自分に自信が無くなりそうになるなんて、何百年ぶりかしらね?」


 これはまだまだ観察をしなければなりませんね?


 私はこっそり、敷物の上に用意されていたお茶菓子を一つ摘み、食べながら観察を続ける。




 その頃の弁当を渡し終えた漆さん


「わ、渡せた……!」


 私はあまりの緊張に、自室に走って戻り、ベッドに飛び乗り掛け布団を頭からかぶる。


 渡せた! 渡せた! 渡せた!


 人生初の手作り弁当! 人生初の他人、しかも男へ作った弁当の差し入れ!


「ふ、ふふふふふふふふふふふ」


 笑いが止まらない。あ、あんなに上手く渡せるとは思わなかった。


 し、しかも、あ、「ありがとう」とに、二度も言われてしまった!!


 きゃー! きゃー!


 両脚をバタつかせて喜びを抑えられない。


 はぁ……。まだドキドキする。これが恋か。


 冷静じゃいられないな。そ、それにじ、事実は先にやったしな! 寧ろ逆であるべきだったな! あれ!? なんか恥ずかしくなってきた!?


「あの、五郎丸さん? 「うぉお!?」ヤタムナヤちゃんの授業交代の時間ですよ?」


 あ、危なかった。布団に頭を包んでいなければ確実に聞こえていた声量だった。


 ? そう言えば味は適当に棚にあった奴を使ったが、アレは何だったんだ?


 その疑問は夜まで解ける事はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ