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異世界に囚われた僕と囚われてた姫達  作者: TE$TU
三人目の姫との邂逅
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第二話

 はぁ〜あ、疲れた〜。


 傭兵達の詰所の真ん前にあったヘリポートを畑にし、詰所から休憩所に変えた建物を背にして座り込み天を仰いで後ろに両手をつく。雲一つない空は俺の身体の清々しい疲労感を達成感に昇華させた。深呼吸をすると掘り返された火山灰を含んだ土の匂いが達成感を更に確かな物にさせる。この世界に来て初めての真っ当な爽快感ではなかろうか?


 一昨日の国名看板の新名称は、翌日に行った会議の結果、ヤタムナヤの「テツローのいえ」に決まった。二番手は漆と詩さんの「尾口城」。俺の「メイド募集」、「国始めました」などの名案は悉く却下された。詩さんからも狙われてる気がするのは何故?


 何がいけないメイド募集。異世界なんだから良いだろ? 猫耳とかさ?


 看板の板は研究所のネームプレートに上塗りする形でヤタムナヤ自身がペンキで書いた。文字はぐちゃぐちゃだったが、頭を撫でて思いっきし褒めた。娘が居たら絶対こんな感じで甘やかしてるだろうな、と再確認。


 勝手に出て来たクリクリさんや久しぶりのもーるさんの登場で詩さんが気絶する騒動もあった。


 やり終えて思う反省点は、流石に地面の中に入ってしまう瓦礫の除去も考えてやるべきだった。お陰で昼前に終わらせるつもりが、瓦礫除去で昼休憩を挟んで、三時過ぎに終わった。施設を破壊してから耕した方が、効率良かったとか思っても仕方ない。お陰で三時のおやつを食べ損ねた。三人一緒に作ったクッキー……、食べたかった……!


 俺が瓦礫ごと耕すなんて非効率的な事をしていた理由はただ一つ。


 今の力を試したかった。


 体を動かし、力を使えば使う程、筋繊維の一本一本が引き締まり密度が濃くなる感触が戦闘中にもあった。最初に気付いたのは漆との初戦闘の二回戦。あの笑ってる時の快感の正体がそれだった。あの時の感情は、愉悦。楽しい。それだけしか覚えていない程、不気味なまでの快感。俺は快感を制御する為の訓練を始めようとブリンガーに相談した。アドバイスは単純だった。


(慣れるか、それ以上の快感を見つけろ)


 慣れるのは危険だと思いやめた。あの快感に慣れると、人間的に生活していく中での快感も薄れてしまうと思った。そんなのはごめんだ。元の世界に帰れなくても、化け物じみた膂力を持っていても、俺は人間だ。


 必然的に新しい快感を見つける事を選択しなければならなかったのだが、うん、見つけた。と言うか模索する前に向こうから襲ってきた。上に乗られて口に舌入れられた時とかヤバかった。


 ま、兎に角、手に入れた力は強力になっていた。鎖を変形させた鍬で耕したが、豆腐をスプーンですくう感じの力加減でヘリポート全体に亀裂が走った。また快感に飲まれてると思ったが、理性は残っていたし、三時頃から見学していた三人と、鎖で無線みたいな物を作って、会話しながら作業を続けられた所を見るに、漆との、……関係は続けて良いらしい。


「テツロー、はいコレ」


 新品の柔らかそうな白い無地のタオルを渡してくれるヤタムナヤ。


「あぁ……ヤタムナヤありがと」


「えへへ……!」


 この娘を守れて本当に良かった。もし俺があの時守りきれていなかったら、精神が崩壊していた。確信を持って言える理由は分からないが、ヤタムナヤを他人とは思えない親近感。父性に近い愛情はあの闘技場のメアリーとの戦いで発露したのだろうか?


 とても不思議な感覚だ。




 凄いですね。私が着いてから一時間もしない内に終わらせてしまいました。用意されていたお茶菓子もついつい食べ過ぎてしまいました。


 今は小屋の様な場所の前で姫と思われた黒髪の少女と共に寛いでいますね。




「さて、じゃ帰るか」


「うん! あ、うたせんせーがね、ばんごはんの食べものとってきてって言ってたよ?」


「え? もう冷蔵庫の中身、無くなったのか?」


「だって! ご飯おいしいんだもん!」


 そう言えば、漆とヤタムナヤはよく食べる。男の俺が気後れする位には食べる。詩さんは一般的だ。小口でリスの様に一口ずつ齧るみたいに食べる。ヤタムナヤは同じリスでもほっぺに貯めるリスだ。どちらも可愛い。漆は一口で獲物を飲み込む蛇みたいに食う。黙々と食べ続けるという意味だ。話し掛ければ話すが、話に乗り遅れたりすると食べ始める。軍人気質なのを考えると軍隊の訓練校時代の癖が抜けていない軍人さんみたいな事かな? 十九歳って言ってたし、卒業してすぐ就職したのかな?


「じゃあこれから行ってくる。ヤタムナヤは先に帰ってて」


「は〜い!」


 元気に右手を挙げて返事をし、宿舎の方へと走って行った。俺はそれを見送りながら、休憩所に入り、ロッカーの中に置いておいた替えの服に着替え始めた。




「詩さん、何気に人使い荒いな。ふぁ〜あ……」


 着替え終わりましたね。この小屋は農作業の休憩所を兼ねた彼の私室でしょうか?やはり眠そうですね? 彼の実力を見るには、仕方ありません。


 彼に近付き、彼の疲労を『切り取る』。


「んぁ? 疲れが、消えた?」


 ふふっ。驚いてますね。何だか子供の頃に戻った気分です。


「……何か見られてる様な気がするんだよなぁ」


 今、彼はとんでも無い事を言いましたね。気配と音を切り取り、完全に姿を消しているのですが……?


「気持ち悪いなぁ。場所的には幽霊とか居そうだけど、やっぱ闘技場の真上に畑なんか作ったら罰当たりかなぁ」


 ……そうですね。確かにあの場所は聞き及んだ所によれば、多くの民草、抵抗軍の者達が非業の死を遂げた場所です。一体何人……。魔王はやはり討伐せねば。


「たくよぉ、あの似非課長と似非所長」


 ! イェーガー卿とブレア卿に関して彼の意見が聴けますね。と言いますか、独り言が多い方ですね?


「何が所長待遇だ。金貨だって一枚も渡さずにとんずらしやがって。課長も一発もぶん殴れなかったし、……はぁ、猛獣でも倒すか」


 酷評ですね……。ブレア卿には交渉で一本取られた様ですし、倭国の制度について知った事で給料について嘘だと分かったんでしょう。『ぶん殴る』とは……。洒落になりませんね。ゴーレムの燃料について感情を抑えて、淡々と説明したのがイェーガー卿に対する印象の悪さですかね? 彼は冷静さを身に付けただけで、芯の部分は激情にも近い熱を持っていますから……。私は、どうなんでしょうね?


 しかし、一人で猛獣を倒す力を持っているのですか。実際に見て確認しなければなりませんね。


 おや? 急に屈んでしまいましたね?


「よーい……」


 よーい? ……ようい? ……用意? 何の用意?


「どん!」


 ……えーと、今、跳んでいきましたか? 私の目にも見えない速度で?


 お、追わないと!?




「それにしても、魔獣にも魔物にも会ってない気がする。猛獣が増えたのか?」


 俺は麓の森までメアリーの弾丸(バレット)の応用で数分でついた。かなり便利で応用の効く技だと改めて思う。改良して脚の動きも取り入れた移動法にすれば近接格闘で敵はいなくなるんじゃ無いか?


「バル!!」


「ん?」




「ん?」


 シルバーバック、ですか。熊の猛獣の老体ですね。稀に現れる力も大きい猛獣を前にして、どう出ますかね?


「ふっ!」


 ……また見えなくなりましたが、シルバーバックの周りの木や地面の表面が何回も何箇所も爆発するのを見るに、超高速で直線に移動しているのを、無理矢理あの人外の膂力と頑強な肉体に任せた前後上下左右の足運びにしている、としか言えません。


 それに先程から鎖がシルバーバックを包囲する形で周囲の木々に引っ掛けられていますね。逃さぬ様に即席の檻のつもりなんでしょう。鎖程度ではどうにもならない、筈なのですが……?


「フン? バルル!」


 シルバーバックが立ち上がり、注意を自分の周りを跳び回る人間から、自身を包囲している鎖に向け片腕を振り下ろしました。彼は何もせずに未だに鎖を出し続け跳びはねています。大丈夫でしょうか?


「バル!?」


 え? 今、何が起きました?




(テツロー……)


(分かってるよ。女の人が透明になってる)


 実は気付いていた。特徴的な匂いが二つ。一つは女性が使う様な香水の匂い。詩さんが付けている香水に似てる。花の甘い匂いだ。だから気にはしなかった。もう一つは、クッキーの匂いだ。三人が作ったクッキーの香りを作業中に土の匂いに混ざりながらも嗅ぎ分けた。そして驚愕した。三人が食べているのだから、三人分の匂いはしてもおかしく無い。だが、四人目の匂いがしてきた時には幽霊!? と内心思って(ビビって)しまった。


(……見逃すのか? 敵かも知れないぞ?)


(今は、目の前のシロクマもどきを倒さないと、夕飯が食えん)


(甘い男だ……)


 ぐ……。透明な女の人が檻の外になる様に鎖を熊の周りに巻き始めた事に対して皮肉りやがった。ま、いいさ。


「フン? バル!」


 あぁ! 馬鹿!


「バル!?」


 だあぁ!? 熊の手が!? 鎖に触れた瞬間に手首の部分から先がミンチになった。美味いんだぞ! 高いんだぞ!? そんな熊の手がこんなにでかい熊の熊の手が! 三人居て一つ余るから街まで降りて転売でもしようと思ったのに!? しかも、女の人に丁度良い具合で血の雨が!? うわ、後で謝らないと……。夜雨も宥めるのは大変だった。プリン一個でアレだから、赤の他人の女の人に血の雨なんて……。


 地獄しか見えない!!


「歯ぁ食い縛れ!!」


「バ、グ……」


 思いっきりぶん殴ってやった。頭から噴水みたいに血が辺り一面真っ赤に染めた。女の人も含む。


 ヤッチマッタ!

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