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26 現実世界、にて……?

 カーテンから陽の光が差し込み、鳥がちちと鳴く爽やかな朝。

 むっくりと起き上がった私は、そんな爽やかさに相反して、あまりの羞恥に顔を両手で押さえた。


 姉を視察した後、私たちはすぐにログアウトした。ログアウト時間が迫っていたこともあるし、何よりあのテンションを見てしまったせいで物凄く疲れたためだ。ログアウトまでコクヨがどことなくぎこちなかったのは、気のせいでは有るまい。

 ああ、ごめんコクヨ。あの場に付き合わせるべきじゃなかった。姉があんなだと知られてしまったのは末代までの恥すぎてどうしようもない。夜の待ち合わせは定例化しているけれど、今日、彼女がちゃんと来てくれるかどうか不安で不安で仕方がない。


「……起きよう」

 今日は日曜日だ。学校に行かないのだから早く起きる必要はないのだけれど、何かしていないと気が紛れなかった。今起きたばかりだし眠気はない。VRゲームも起床後一時間は出来ないようになっているし、そもそもそんな気になれない。

 ならばリビングに行って、とりあえずご飯を食べるか。

 そう思って、だらだらと憂鬱な気分で部屋を出る。

 たぶん、それが良くなかったのだろう。

 私は、階段の一番上で、ずるりと足を滑らせた。


「ッ!?」

 悲鳴を上げる余裕すらない。でもそんな最中、ついVRゲーム中の癖が出て、頭の中で『浮遊!』なんて命じてしまう。ここは現実世界だと言うのに、だ。


(私も姉のこと笑えないくらい、ゲームにはまってたんだなあ)

 今にも落ちていく中で、走馬灯のようにそう思う。階段から落ちた時の痛みを覚悟し、目を瞑った。しかし不思議なことに、その痛みはいつまで経ってもやってこなかった。

 どうしてかはわからないが、どうやら助かったらしい。私は恐る恐るゆっくりと、目を開ける。


 私は、階段の中ほどで、ふわふわと浮いていた。


「……へ? え? あれ?」

 ここは、どこ? そして、私は誰?

 咄嗟に、記憶喪失にありがちな問答を、胸中で自身に向けてしまう。


 ここは、現実世界だ。そして私は、つゆりだ。決して『ヒカリ』ではない。

 だというのに、今、何がどうなっている?


 足に感じなくてはならないはずの、床の感触がない。つまり私は確かに浮遊しているのだ。重力なんて無視するように、まるでゲーム中での『ヒカリ』のように。


 言葉が出てこない。思わず背中を確認してしまうが、薄紅に染まる翅などあるはずがなく。


 私はつゆりだ。それは間違いない。

 そして私がつゆりである以上、ここは現実だ。それも間違いない。


 ……じゃあ、私が今体験している『これ』は、何だ?


 とりあえず、ゲームでやるように、着地する。私はそのまま、どたばたと足音うるさく自分の部屋にUターンした。そして部屋の扉に鍵をかけて、再びVR中でするように、浮遊と命じる。


 浮いた。浮いていた。間違いなく私の身体は、重力に逆らってふわふわと浮かんでいた。


「……なにこれ、夢? 夢の続きなの? え、でも夢なわけないし、あれあれ、でも浮いてるよ!?」

 すっかりパニックに陥ってしまった私は、ふわふわと空中に佇んだまま頭を抱える。何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

 そこでふと、某掲示板を思い出した。


「もしかしたら、何か手掛かりがあるかも……!」

 着地した私は、デスクの上にあるパソコンに急いで向かう。電源ボタンを押してからOSが立ち上がるまでの時間が、やけに長く感じられた。


 □


【VR】クォーターズ・オンライン part43【四季】


201:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:09:32.65 ID: laoifXce

あ、そういや、昨日大鳥出たんだって?



202:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:19:10.81 ID: 2lkxoidu

>>201

大鳥って高山に出る青い鳥のことであってる?

そいつなら確かに昨日いた

つかそいつ引き連れたPTにMPKされかけた件について



203:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:28:57.89 ID: laoifXce

>>202

おおう、ドンマイ

しかし俺も大鳥倒したかった

素材がたりねえんだよおおおお

流通量も微妙だし



204:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:38:43.47 ID: Xmki8oae

確かにあいつの羽根で作る防具は質いいんだけどなー

必要枚数100枚越えとか厳しいだろ



205:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:48:28.64 ID: Ijcoak3x

>>204

かの有名な某オンゲでは18000枚近くアイテムを集めなきゃいけない

武器とかがあってだなry



206:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 06:58:27.74 ID: Xmki8oae

>>205

OH……

このゲームやりこんだくらいじゃまだまだ廃人とは呼べないのか……



207:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:08:04.61 ID: Ijcoak3x

むしろこのゲームはそういう廃人要素は殆どないな

どっちかっていうと一期一会的な、運要素の方が絡む

あと住人とのコミュニケーションとか



208:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:17:35.50 ID: pXolk88x

まあ四季も初VRで廃人とか増やしたくないんだろ

社会問題になりそうだし



209:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:27:09.13 ID: laoifXce

社会問題と言えば、このゲームってマスコミに取り上げたの見たことないな

VRなんて医療とかに超役立ちそうなのに



210:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:36:52.80 ID: Ijcoak3x

なんか全部拒否してるらしいぞ

VR技術の特許も取ってないらしいし、あくまで表には出ないつもりなんだろう

まー、ミコミコ発祥にするくらいだしなー

あ、でもゲーム名の商標は取ってるって

北方みたいに面倒くさいことになりたくないんだろうな


あと、身体に不自由がある人に優先的にゲーム権渡してるとか聞いた

VRゲーム中では不自由とか関係ないしな



211:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:46:29.00 ID: pXolk88x

へー

にしても後続出てこないよな

そんなにVRって、現物があって真似できないくらい技術的に難しいんかな?



212:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 07:56:12.69 ID: Xmki8oae

そりゃあ難しいだろ

凡人にはよくわからん世界だけど



 掲示板では朝という時間帯のせいか、いつもより少しだけ真面目な会話がされていた。これなら私の話も、少しは真面目に聞いてくれるだろう。私はそう思って、意を決して掲示板に書き込む内容を入力していく。


「えっと……名前欄は……ななしはもうしんでいる、って入れればいいのかな? あとメール欄は……みんなsageって入ってるけど、これなんだろう? うーん、よくわからないけど、真似して入れておこう……あとは内容……内容、なんて書けばいいんだろう?」

 そこで指が止まってしまった。まさかゲームで使える魔法が現実でも使えるようになったんです、なんて書いても、真面目に取り合ってくれるはずがないだろう。


「うーん……魔法が使えるようになったらどうする? くらいにして、様子を見てみようかな……」

 意を決して私は書き込む、のボタンを押す。緊張と期待で、締め付けられるように胸が高鳴った。



213:ななすいはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 08:06:09.11 ID: tUri1xi8

あのさ、もし、このゲームの魔法が使えるようになったら、どうする?



 そんな書き込みを残す。少し待ってから「新着レスの取得」というリンクをクリックしたら、こんな書き込みが返ってきていた。



214:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 08:08:53.74 ID: Xmki8oae

透明になるわ、とりあえずw



215:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 08:11:36.17 ID: pXolk88x

>>214

そして老いた女風呂に突撃ですねわかります



216:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 08:12:14.68 ID: Ijcoak3x

>>215

そこで魔法が途切れて熟女軍団に囲まれて

「あらー可愛い息子さんねえ」「おばちゃんが可愛がってあげましょうか」

なんて言われるんですねよーくわかります



217:ななしはもうしんでいる:201x/xx/29(日) 08:14:13.38 ID: Xmki8oae

>>215-216

夢を見せてくれるという選択肢はお前らにはないのか



 その馬鹿らしい書き込みに、思わず肩を落とす。何度か同じように新着レスの取得を押してみたが、同じようなくだらないやり取りばかりで、あとは他の話題に流されてしまっただけだった。


「やっぱり、掲示板で手掛かりを手に入れるなんて無理だよね。……どうしよう」

 はあ、と溜め息を吐く。もしかしてさっきのは寝ぼけていただけなのでは、と思い再び浮かんでみたら、やっぱりふわふわと浮かぶことができた。どうやらやはり、夢ではないらしい。

 もしかして他の魔法も使えるかも、と思ったのだが、攻撃魔法がもし発動したら大変どころの騒ぎじゃないし、テレポートは街などの特定のポイントにしか飛べないようになっている。今、出来ることと言えば、透明になる魔法くらいだ。


「と、とりあえず、状況を把握するためにも透明になってみようかな……いや、さっきの書き込みに誘発されたわけじゃなく、ね?」

 誰に言い訳しているのか、そんなことを呟きながら魔法を使う。部屋にあった全身鏡に向かってみたところ、そこには誰もいなかった。ものすごく奇妙な感覚に陥ったが、魔法は成功らしい。


「やっぱり、ゲーム中での魔法が使えるように、なってる……んだよね。どうしよう、誰に相談すればいいんだろう、こんなの」

 姉は論外だ。コクヨには、ゲームだけの付き合いだし、信じてもらえないだろう。

 じゃあ、めぐ?


「……それも、何か、駄目だ、不安すぎる」

 別に彼女がどうこうじゃなくて、自分が抱えてしまった大きな秘密が知られることが不安だった。そんなことはないと思っていても、彼女の見る目が変わってしまうんじゃないかと、その思考だけが頭を回ってしまう。

 掲示板に書き込んだのだって、知らない誰かにだからこそ相談出来ることだからだ。


「いっそ、私を知らない人なら……」

 それは、誰だろう。考えて、ふと思いつく。


「あ、そうだ」

 四季だ、四季がいた。このゲームの製作者である彼女たちならば、真面目に聞いてくれるかもしれない。どうしよう、メールで聞いてみるか。でもメールじゃ信じてもらえないかも。じゃあ、ゲーム中のGMコール? でも、GMコールって直接彼女たちに繋がるものなの?

 混乱していて、どうにも頭がうまく働かなかったけれど。私はどうにか四季にコンタクトを取ってみようと動き出したのだった。

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