23 小休止。ていうか姉の独壇場
タイトル通り、某方の独壇場です。
長台詞は殆ど無視してOK(笑)
ふっと目覚めたときには、当然のことながら、自室にいた。ヘッドフォンのような形状のヘッドセットを取り外し、ぐ、とほぐすように強張っていた身体を伸ばす。VRゲーム中は身体を動かす信号が全てそのヘッドセットに吸収されてしまうため、寝返りすらうてない状態になっているらしい。そんな事情もあっての制限時間なのだと思う。
ふと、枕元の携帯がちかちかと点滅していることに気付き、携帯を開く。見ると、めぐからメールが届いていた。
内容は「あれはあくまでロールプレイの一環だから、幻滅しないでね!」という一言。思わずふ、と息を漏らすように笑ってしまう。弁解しなくてもそれくらいわかるのに、律儀なんだから。ぽちぽちと「大丈夫、わかってるから(笑)」と返しておいた。
さて、昼食でも食べるか、と部屋を出たところで、ちょうど姉と出くわした。
「あ、つゆりん、おっはー! 今日は随分お寝坊さんですな?」
「……いや、別に部屋から出なかっただけで、寝てなかったんだけど」
寝てはいない、ゲームをしていただけで。
嘘はついていない、嘘は。
まだ、姉にはゲームをやっていることをバレたくないのだ。バレた次の瞬間から、種族に関わらず姉に振り回されるのは判りきっている。こちらの都合なんてお構いなしに、巻き込んでくるのがこの姉だ。そして巻き込まれるのがこの私だ。
「あ、そーだそだ! つゆりんつゆりん! なんかね、ニュージーランド航空でエルフが安全指南してくれるビデオ流してるらしいんだけど、つゆりんも一緒に見に行かない? 旅費は私が出すからさっ!」
「いや待って待ってお姉ちゃん、ちょっと意味がわからないんだけど」
ちょっとそのあたりまで散歩に行かない? のノリで(たぶん)海外旅行に誘わないでほしいのだが。というかまずパスポートとか、私持ってないんだけど。そんな心情を察したのか、姉は悪びれずとんでもないことを言い出した。
「あ、心配しないで! つゆりんのパスポートは勿論作ってあるから!」
どこからか取り出したパスポートを開いて見せ付けられる。間違いなく私の名前と写真が記載されていた。思わず姉の手から奪い取ってぶん投げて床に叩きつける。肩で息する私に、姉は畳み掛けるように言った。
「こんなこともあろうかと!」
ドヤァ。そんな表情を浮かべる姉に、思いっきり腹パンしてやろうかと思った。が、実力行使は私の負けだ。私は大きく深呼吸して、どうにか自身の気持ちを落ち着けた。
……あー、ほんとイラッとした。
私は叩きつけたパスポートを拾い、ポケットにしっかりしまってから姉をスルーして階段を下りる。私がこれを管理している限り、とりあえず海外に強制連行されることはないはずだ。
後ろから「つゆりん、つ~ゆりん」と姉が纏わりついてくる。とりあえず首に回しているその腕を外してほしい。若干息苦しい上に、階段を降りているので危ない。
「ねー、つゆりん?」
「何」
「つゆりんもさ~、一緒にゲームやろうよ~。一緒にツクヨミさん攻略しようよ~!」
「……え? ……何、誰?」
思わず「嫌」と反応してしまうところだったのをどうにか抑えて、それだけ返す。
最近、私はよく某掲示板を閲覧している。その理由は、何故か定例化している『今日のエルフさん』という書き込みで、姉の動向を探るためだ。
今のところ把握しているのは、未だにこの姉でも「薔薇園さん」だとか「百合さん」だとか呼ばれているエルフを攻略できていない、ということ。惜しいところまでは行っているらしいのだが、最後の一線が越えられないらしい。ちなみに最後の一線=ハーレムの一員化、のようだ。
ちなみに掲示板の反応としては、エルフさんを応援する声と、薔薇園さんのしぶとさに感心する声が半々、と言ったところ。なんで反対意見が出ないのか、全くの謎である。嫉妬とかしないんだろうか。
「えっとね~、ツクヨミさんは超! 超! 美人なエルフなの! もう頬っぺたと耳を嘗め回したいくらい美人でね、露出がない代わりにピッタリとした服装でリアル乳袋が拝めるべっぴんさんなんだよ! 最高のSHITACHICHI☆萌ええええええ! 擬音がたゆんたゆんじゃないの。たっぷんたっぷんなの。もうほんと柔らかけしからん! 顔埋めさせてくださいお願いしますって拝むレベルだね、あの下乳は! ていうか下から支えたい! ツクヨミさんのブラになりたい!」
「お姉ちゃん、超気持ち悪い」
バッサリと一蹴する。そんな言葉でおさまる姉ではないのだが、思わず出てしまった言葉だった。
最近、こういう萌え語りが少なくなっていた影響か、姉への抵抗力が落ちてる気がする。いつもなら無視無言で通せるのに。これは由々しき事態だ。
……ていうか、姉、全然変わってないね。エルフうううって叫ばなくなったと思ったのに、なんかむしろ萌語りが以前よりもねちっこくなってる気がする。悪化と呼んでいいよね、これ。
もうこれ様子見に行かなくてもいいんじゃ? というか、様子見に行ったらSAN値がガリガリと削られるんじゃ? とか、ちょっとどころじゃなく思ってしまったけど、初志貫徹と言うし、カインやグスちゃんにもリーンディアまでの案内を頼んでしまっている。様子を見に行くくらいはしよう。そして余りにも見るに耐えないことをしていたら……その時はどうしよう本当。VRの機械、壊しちゃってもいいかな?
「ああでも私がブラになっちゃったら、下乳拝めない! でも支えたい! ああこの二律背反! 二律パ●パン! おふっ、ツクヨミさんがパイ●ンだったらギャップ萌えだね素晴らしいね! 爆乳むっちりなのに●イパン! なんというギャップ萌え! ねえねえ、お姉ちゃんどうしたらいいと思うつゆりん!? 私がブラになるべきかな!? それとも下乳に両手を合わせて2礼1拍1礼するべきかな!?」
「ゲームやめればいいと思うよ」
「もうツクヨミさん最高だよね! ていうかエルフという存在が完全無欠だよね! エルフ! まずもう、この三文字のバランスが素晴らしいよね! エルフという発音、口の動き、そして、エロフと言い換えることも出来る万能さ! エルフの「エ」で若干舌を突き出しキスをせがむかのごとく! そして「ル」で口を窄めるという、まるでキスを待ち望んでいるような「ル」! そして「フ」だよ「フ」! もう、それ耳に息を吹きかけてる音だよね! 誘ってる、間違いなく誘ってるよ! エルフという単語がもう誘ってるよ! 結論としてツクヨミさんの耳の垢こそぎ落とす勢いで舐めたいよおおおおおおおお!」
「うん人の話聞いてないねこの人」
耳元で「舐めたいよおおお」と叫ばれる身にもなってほしい。ていうかマジで勘弁してください。
姉を引き摺りながら、ようやくリビングについた。私はそこで姉を振り払って、テレビを見ている母の元へ行く。後ろでは、まだ姉がくねくねと悶えていた。
「お母さん、今日の昼食は?」
「あ、冷蔵庫におにぎり入ってるよ。レンジでチンして、お姉ちゃんと一緒に食べなね」
「はいはーい」
母の教えに従い、冷蔵庫を覗く。言う通りおにぎりが並ぶ皿があったので、それを取り出して電子レンジにかけた。その間も、姉は後ろで萌え語りを続けている。最近はおさまっていたのに、一体何があったんだか。
ちなみに姉に対する両親のスタンスは、「全くわけわからないこと言ってるし、別言語にしか聞こえないけど、お姉ちゃんが楽しそうだから別にいっかー」という感じらしい。中途半端に日本語だと理解出来てしまう私の苦労を判ってくれる誰かは、残念ながら今のところいないのだ。
「エルフ! それは至高の存在。気高く、麗しく、美しく、可憐! 彼ら彼女らは森の民であり、その汗の香りですらフローラルな幸せを運ぶ! たとえ垢にまみれた身体に鼻を埋めたとしても、まるで森林浴をしているかのごとく! エルフがまみれた汚濁であってもそれは聖遺物と言って過言ではない! 愛情も激情も肉欲も、何もかもをすべて受け止めてくれる器! それがエルフ!」
いや、姉のそれは絶対に受け止めてはくれないと思うよ。口に出さず内心で思った。
チン、とレンジが鳴く。
私は皿を取り出し、未だ語り続ける姉を放置して一人、昼食を取った。
ちなみに主人公の姉が言っていた「ニュージーランド航空でエルフが安全指南」うんぬんはこれ↓(外部サイトです)
http://rocketnews24.com/2012/11/03/263313/




