14 白樹の丘
「へええ、そんな一大プロジェクトがあったんですね」
コクヨが私の隣で感心したように言いながら、饅頭をついばむように口にする。その食べ方がいかにも小動物らしくて、私は思わず可愛いなあ、と内心で思う。
なんせ私なんか二口でばくんばくんだったし。まあ大口あけて食べた方がヒカリらしいけど、お淑やかにしている彼女を見ていると、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
いやいや、これはロールプレイ、ロールプレイ。仕方がない仕方がない。うん。
「リアルで和菓子屋やってる奴に頼んで、熟練の技を見せてもらったりもしてたなー。和菓子の奥深さにハマって、進路を和菓子職人に変えた奴まで出てきたんだよな。まあ元々お菓子作りが好きで、そっちの道に進もうと思ってたらしいが。……何か、話してるだけでも懐かしいわ、これ」
すっかりコクヨとグスちゃんも馴染んだようで、さっきから『お茶と煎餅か饅頭で一服したいぜプロジェクト(勝手に命名)』の話題が尽きない。二人が話すのを、私も楽しく聞かせてもらっていた。
「本当にこのゲームって凄いですよね。ううん、ゲームというより、もう一つの世界ですよね、もう。わたしも、頑張らないとなあ」
コクヨが何か決意したような表情で頷く。
そういえば、コクヨって誰かと話すの苦手そうなのに、なんでクールな仮面までかぶってこのゲームを始めたんだろう。もしかして、その苦手を克服するため、とか? 何となくこの場で聞くのは憚れたので、後でレベル上げの時にでも聞こうと思う。
それからもコクヨとグスちゃんの会話は途切れなかった。どうやら気安い仲になったようで、私も一安心だ。
だが、そろそろこの工房に来て、一時間ほど経ってしまう。
「ね、コクヨ、そろそろレベル上げに戻らない?」
「あ、そうですね。いくら外と時間の流れが違うと言っても、あんまり雑談で過ごしても勿体無いですし」
コクヨが私の提案に頷く。
ちなみに現実での1時間が、ゲーム中での4時間だったりする。そしてこのゲームは健康のために、一日6時間まで、と決められていた。つまりゲーム中では最高で24時間まで過ごせる、ということだ。
また、一回のプレイ時間は3時間まで。それを過ごしたあとには、1時間の休憩を挟まないと再プレイが出来ないようになっている。
確かに、これだけ楽しい世界だ。しっかりと制限を設けないと、寝たきりになってしまう人も多そうだ。
「じゃあグスちゃん、私たちは行くね?」
「グスさん、お茶、ありがとうございました」
「おう、お二人さん、またいつでも遊びに来いよー。あ、仕事中以外な!」
グスちゃんと手を振って別れる。
私はコクヨと共に、フィールドへ繋がる門を目指した。
□
花畑のフィールドで、コクヨとレベル上げを再開する。私が釣りをして、コクヨが魔法でモンスターを倒す。最初は新鮮で難しいと思ったそれも、釣ることに慣れてしまえば、ほぼルーチンワークのようになってしまっていた。RPGの戦闘と言えば、基本的にルーチンワークなのだから仕方がないとは思うが。
ただ、もう少しだけ刺激が欲しい、と思ってしまうのは人の性というものだろう。
と、いうことで。
「ね、コクヨ」
「はい、ヒカリ、何ですか?」
お互いがちょうど一つずつレベルアップしたところで、彼女に提案する。
「あのさ、お金もちょっと溜まってきたし、MP回復薬買って少しだけ遠出してみない? こんな門近くじゃなくて、花畑フィールドの奥の方とかさ」
私の提案に、コクヨはぱっと笑顔になって頷いた。
「あの、じゃあわたし、白樹の丘って呼ばれているところに行ってみたいです!」
「白樹の丘?」
聞いたことのない地名だったので、聞き返す。するとコクヨが簡単に教えてくれた。
『白樹の丘』は、花畑フィールドに隣接した場所で、文字通り、白い葉をつけた大樹が立っている、という丘らしい。モンスターは出ないうえ、特にイベントが起こることもないのだが、その光景を見るためだけに訪れるプレイヤーが後を絶たないのだとか。
「へえ、そんなところがあるんだ。水晶の街もそうだけど、本当この国って幻想的な光景が多いんだね」
「精霊たちの国、っていう設定ですからね。やっぱり製作者も気合を入れたんじゃないでしょうか?」
私たちが今いる国「秋の国・ロムネスカ」は、精霊たちの住む国、という設定だ。
「春の国・リーンディア」は亜人たちの住む国、「夏の国・アグナ」は人間たちの住む国、「冬の国・クランク」は古代文明の遺産である機械たちが住む国、という設定になっている。そのため、それぞれの街やフィールドは、各々の特色に合わせた作りになっているらしい。
「エルフさんのことを調べたいから早くリーンディアに行きたい! とは思ってるんだけど……でも、それと同じくらい他の国を普通に観光してみたいなあ……」
ぽつりと呟くと、コクヨが笑顔で口を開く。
「ヒカリ! ヒカリのお姉さんのことが解決したら、一緒に観光しましょう?」
「……あ、うん! そうしようね!」
二人でそう言って笑い合う。まだまだ初心者な私たちだけど、いつかきっと、二人で色んな光景を見たいな、と思った。




