表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/29

14 白樹の丘

「へええ、そんな一大プロジェクトがあったんですね」

 コクヨが私の隣で感心したように言いながら、饅頭をついばむように口にする。その食べ方がいかにも小動物らしくて、私は思わず可愛いなあ、と内心で思う。

 なんせ私なんか二口でばくんばくんだったし。まあ大口あけて食べた方がヒカリらしいけど、お淑やかにしている彼女を見ていると、ちょっとだけ恥ずかしくなる。

 いやいや、これはロールプレイ、ロールプレイ。仕方がない仕方がない。うん。


「リアルで和菓子屋やってる奴に頼んで、熟練の技を見せてもらったりもしてたなー。和菓子の奥深さにハマって、進路を和菓子職人に変えた奴まで出てきたんだよな。まあ元々お菓子作りが好きで、そっちの道に進もうと思ってたらしいが。……何か、話してるだけでも懐かしいわ、これ」

 すっかりコクヨとグスちゃんも馴染んだようで、さっきから『お茶と煎餅か饅頭で一服したいぜプロジェクト(勝手に命名)』の話題が尽きない。二人が話すのを、私も楽しく聞かせてもらっていた。


「本当にこのゲームって凄いですよね。ううん、ゲームというより、もう一つの世界ですよね、もう。わたしも、頑張らないとなあ」

 コクヨが何か決意したような表情で頷く。

 そういえば、コクヨって誰かと話すの苦手そうなのに、なんでクールな仮面までかぶってこのゲームを始めたんだろう。もしかして、その苦手を克服するため、とか? 何となくこの場で聞くのは憚れたので、後でレベル上げの時にでも聞こうと思う。

 それからもコクヨとグスちゃんの会話は途切れなかった。どうやら気安い仲になったようで、私も一安心だ。

 だが、そろそろこの工房に来て、一時間ほど経ってしまう。


「ね、コクヨ、そろそろレベル上げに戻らない?」

「あ、そうですね。いくら外と時間の流れが違うと言っても、あんまり雑談で過ごしても勿体無いですし」

 コクヨが私の提案に頷く。

 ちなみに現実での1時間が、ゲーム中での4時間だったりする。そしてこのゲームは健康のために、一日6時間まで、と決められていた。つまりゲーム中では最高で24時間まで過ごせる、ということだ。

 また、一回のプレイ時間は3時間まで。それを過ごしたあとには、1時間の休憩を挟まないと再プレイが出来ないようになっている。

 確かに、これだけ楽しい世界ゲームだ。しっかりと制限を設けないと、寝たきりになってしまう人も多そうだ。


「じゃあグスちゃん、私たちは行くね?」

「グスさん、お茶、ありがとうございました」

「おう、お二人さん、またいつでも遊びに来いよー。あ、仕事中以外な!」

 グスちゃんと手を振って別れる。

 私はコクヨと共に、フィールドへ繋がる門を目指した。


 □


 花畑のフィールドで、コクヨとレベル上げを再開する。私が釣りをして、コクヨが魔法でモンスターを倒す。最初は新鮮で難しいと思ったそれも、釣ることに慣れてしまえば、ほぼルーチンワークのようになってしまっていた。RPGの戦闘と言えば、基本的にルーチンワークなのだから仕方がないとは思うが。

 ただ、もう少しだけ刺激が欲しい、と思ってしまうのは人の性というものだろう。

 と、いうことで。


「ね、コクヨ」

「はい、ヒカリ、何ですか?」

 お互いがちょうど一つずつレベルアップしたところで、彼女に提案する。


「あのさ、お金もちょっと溜まってきたし、MP回復薬買って少しだけ遠出してみない? こんな門近くじゃなくて、花畑フィールドの奥の方とかさ」

 私の提案に、コクヨはぱっと笑顔になって頷いた。


「あの、じゃあわたし、白樹はくじゅの丘って呼ばれているところに行ってみたいです!」

「白樹の丘?」

 聞いたことのない地名だったので、聞き返す。するとコクヨが簡単に教えてくれた。

 『白樹の丘』は、花畑フィールドに隣接した場所で、文字通り、白い葉をつけた大樹が立っている、という丘らしい。モンスターは出ないうえ、特にイベントが起こることもないのだが、その光景を見るためだけに訪れるプレイヤーが後を絶たないのだとか。


「へえ、そんなところがあるんだ。水晶の街もそうだけど、本当この国って幻想的な光景が多いんだね」

「精霊たちの国、っていう設定ですからね。やっぱり製作者も気合を入れたんじゃないでしょうか?」

 私たちが今いる国「秋の国・ロムネスカ」は、精霊たちの住む国、という設定だ。

 「春の国・リーンディア」は亜人たちの住む国、「夏の国・アグナ」は人間たちの住む国、「冬の国・クランク」は古代文明の遺産である機械たちが住む国、という設定になっている。そのため、それぞれの街やフィールドは、各々の特色に合わせた作りになっているらしい。


「エルフさんのことを調べたいから早くリーンディアに行きたい! とは思ってるんだけど……でも、それと同じくらい他の国を普通に観光してみたいなあ……」

 ぽつりと呟くと、コクヨが笑顔で口を開く。


「ヒカリ! ヒカリのお姉さんのことが解決したら、一緒に観光しましょう?」

「……あ、うん! そうしようね!」

 二人でそう言って笑い合う。まだまだ初心者な私たちだけど、いつかきっと、二人で色んな光景を見たいな、と思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ