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13 コクヨとグスちゃん

 食事を終えた後、私はグスちゃんとチャットで軽くコンタクトを取った後、コクヨをつれて彼の工房を訪ねた。


「ん、ヒカリか。さっきのチャットで何か変だったが、一体どうしたのよ?」

「いや、まあ衝撃的なアレコレがありまして、うん。まあ後で説明しようと思うから、ちょっと待って。で、それに関連して、ちょっと紹介したい人と、頼みたいことがあって来たの」

「紹介? 頼みたいこと?」

 私の後ろに隠れていたコクヨを、前に出す。私の知り合いだからか、相手がプレイヤーだからかはわからないが、クールな振る舞いはしないらしい。

 二人を引き合わせた私は、各々を紹介した。


「このドワーフのオッちゃ……おにいさんがグスちゃん。私が潰したことがキッカケで仲良くなったんだ」

「だからそういう中途半端で微妙な同情はいらねえと……まあなんだ、宜しく頼む」

「……つ、潰した?」

「あはははは」

 コクヨが私の言葉を繰り返し、微妙な表情を浮かべる。私は空笑い+目逸らしで誤魔化してから続けた。


「で、こっちの美麗な精霊さんがコクヨ。私がナンパしたんだ!」

「ナンパなんて、そんな」

「ヒカリ、おめえ出会い厨だったのか……」

「出会い厨とは失礼な。真っ当にフレンドになりたかっただけです!」

 コクヨが照れたように苦笑し、グスちゃんにはそんなことを言われた。まあ確かにいきなり話しかけたのはこっちだし、出会い厨っぽいのは否めないが。


 というわけで二人は顔見知りになったわけだけど。何となく、空気が重い。

 まあそりゃあ、友達の友達はお友達! なんて甘いことにはならないとは思っていたけれど。コクヨは私の影に隠れておどおどしているし、グスちゃんはそんなコクヨにどうしたらいいのか判らない、という表情を浮かべている。

 うん、こうなったら。


「グスちゃん、センくんいる?」

「ん、あっちにいるが?」

「センくーん! お茶会の準備してー!」

「おいおい、おま、人の弟子を勝手に……まあいいけどよ」

 そう、仲良くなるにはお茶会だ。

 ほら、貴族だってそうやって親交を深めたりするわけですし。ちょっとこの場合はわけが違うかもしれないが、構うものか。

 私に呼ばれたセンくんが別の部屋から顔を出し、困惑したように眉を潜める。


「あの、師匠、いいんですか?」

「ああ、構わねえよ。出してやれ。四人分な」

 グスちゃんの言葉に、センくんが頷いてぱたぱたと駆けて行った。お茶の準備をしにいったのだろう。


「じゃあ、あっちの部屋に行こっ!」

 昨日グスちゃんとテーブルを囲んでいた部屋の方を指差し、歩き出す。


「あの、そんな勝手に……ヒカリ、いいんですか?」

「ホントだよ、ったく……」

 二人はそんな私に呆れたような言葉をそれぞれ呟き、苦笑を浮かべる。

 どうしたらいいのかと考えあぐねた様子のコクヨに、グスちゃんが笑顔で声をかける。


「まあ構わねえよ。入ってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 ぺこ、と小さく頭を下げてから、コクヨが私の後ろをついてきた。私はそんなコクヨの後ろに回り込んで、彼女の背を優しく押して進ませた。


 □


 お茶会は、静かに始まった。席順は、私・コクヨ・センくん・グスちゃんでぐるっと一回り。テーブルの真ん中には、今日は饅頭が置いてあった。他にどんなお菓子があるのか、後でグスちゃんに聞いてみよう。そう思いながら私は一人、中心に置かれた饅頭に手を伸ばす。

 しかし、いつも通りなのは私だけだった。

 コクヨは借りてきた置物のように固まっているし、グスちゃんはそんなコクヨに困惑したような表情を浮かべているし、センくんはそんな重い空気の中でおどおどと周りを伺っている。


 私以外の心を代弁するならば「気まずい」だろう。間違いない。そして、そんな状況に追い込んだ私が一人のほほんと饅頭まで食べているのだから、たまったものではないはずだ。

 というわけで、私は饅頭をむぐむぐと飲み込んだ後、その場に立ち上がった。


「えー。みなさま、この度はお集まりいただきありがとうございます」

「……何なんだよ、その前口上は」

 グスちゃんの真っ当な突っ込みをスルーして続ける。


「それでですねー、今回お集まりいただいたのは、私に協力してほしいことが出来たからなんです!」

 私の台詞に周りが、しん、と妙に静まり返ってしまった。私は内心、「外したかな」と思いながらら、演じるように続ける。


「ええと、コクヨにはもう伝えたけど、私、なるべく早くにリーンディアに行きたいと思ってます。理由は、通称エルフさん、って人を探しに」

「……ずいぶん有名な奴について聞いてきたから何かあるとは思ってたが、やっぱり探してた奴ってそいつだったのか。なあ、ヒカリとそいつ、どういう関係なんだ?」

 コクヨにも伝えていないことだったので、彼女も同意するようにこちらに視線を向ける。どういう関係なのか聞きたい、と目がありありと語っていた。私は笑みを消し、椅子に座り直して、深刻そうな面持ちを作って言う。


「たぶんなんだけど……その『エルフさん』って私の現実世界での、生き別れの姉で……いやごめん、嘘。だからみんなそんな深刻そうな顔しないで」

 生き別れの姉、の辺りで皆の顔が強張ったので、すぐに慌てて訂正する。流石に冗談にしていいものではなかったですごめんなさい。私は全員からの痛い視線を感じながら、一つ咳払いして続ける。


「まあ、姉なんじゃないか、ってのは本当。ただ生き別れなんてことは全くないし、毎日顔を合わせてる」

「じゃあ何で、探しに行きたい、だなんてことになってんだ?」

 グスちゃんの疑問も最もだったので、私は一つ頷いて答える。


「最近、姉の様子が少し変な気がして、ね。変になったキッカケがこのゲームなんじゃないかって、私は思ってるんだ。でも本人に「最近、お姉ちゃんちょっと変じゃない?」って聞くわけにもいかないし。だから、こっそりと探りたいなって思って」

 幾分濁した答えになったが、間違ったことは言ってない。聞くわけにもいかないというか聞きたくない、の方が正しくはあるが、微妙なニュアンスの違いだしセーフセーフ。


「だから、グスちゃんにも、リーンディアに行くの手伝ってほしいんだ。ダメかな? あ、コクヨにはもう頼んであって、OKを貰ってる」

 コクヨを見ると、うん、と小さく頷いてくれた。

 グスちゃんは、頭を掻き毟って、んー、と喉を鳴らす。


「……俺も隣国に行くくらいのレベルはあるが、さすがに俺一人が前衛じゃ、お前ら二人を守りながら、ってのは難しいぞ? しかも、お前らまだレベル一桁だろ?」

「レベルはコクヨと二人で頑張って上げようと思ってる。それと、もう一人、前衛の子に心当たりがあるんだ。まだ話はしてないけど、たぶん協力してくれるはず」

 めぐ曰く、目指せモハメド・アリばりの格闘家。そう豪語するくらいだから、たぶん前衛役なのだろう、と思っている。妖精で前衛って本当に大丈夫なんだろうか、と私もまだ疑問ではあるのだが、そこまでの話はしないでおく。


「……つまり、今すぐってわけじゃないんだな。なら、まあいいぞ、協力してやっても」

「本当!?」

 グスちゃんの言葉に、私は声を高くする。グスちゃんは頷いた後、センくんに視線をやった。


「セン、今残ってる仕事って、三つだよな?」

「はい、それで合ってますね」

「じゃあそれが終わったら、しばらく休業ってことにするか」

 グスちゃんの言葉に、センくんが目をかっと見開いた。


「え、師匠、刀打たないんですか!? ……ハッ、まさか、僕破門ですか!? 僕もう、ここの敷居跨げませんか!? 荷物纏めなきゃダメですか!?」

「待て待て待て。お前はなんでそういつもいつも……。俺だって刀は打ちたいし、お前を破門にするわけないだろうが。そうじゃなくて、仕事を請けちまったら、それが終わるまでここを離れられないだろ? だから休業って話だよ」

 その言葉に、センくんはホッとしたように息を吐く。それほどに刀を打つことが好きなのだろう。何だかグスちゃんを取ってしまったような気がして、少し申し訳ない気持ちになった。


「あの、ごめんねセンくん。私が無理言っちゃったから」

「いえ、僕が勘違いしてしまっただけです。気になさらないで下さい」

 センくんが照れくさそうに言う。確かにすごい飛躍的な勘違いだったなあ、とは私も思ったが。

 ふと気づくと、グスちゃんとセンくんの会話に、コクヨがくすくすと口元を押さえて笑っていた。よほどツボにハマッたのだろう。白い頬をほんのりと赤くして、肩を震わせている。

 さっきまでの気まずさは、いつの間にか消えていた。

 私はそれが嬉しくて、コクヨと同じように、小さく声を出して笑ってしまうのだった。

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