第5話 変幻自在な帰宅の壁
実話を元にしたオリジナル介護日常小説です!感動で涙して頂けたら幸いです。
ここは、個性豊かな大先輩(ご利用者様)たちが暮らす特別養護老人ホーム『なないろ荘』(入所型介護施設)。 私(中堅介護士)30歳、と新人君(介護未経験者)19歳のバディは、今日も今日とて玄関前に立ち塞がる……!ついにやってきた魔の18時!
おや、今日もあちらから(強迫性障害的に)迷えるご利用者様がまた1人……
ウメ 「(小声で)帰らなきゃ帰らなきゃ……(ブツブツ)」
私 「ウメさん、どうしました?」
ウメ 「あぁ!ちょうどいいところに!私今すぐ帰らなくちゃいけないの!でも、家族に連絡しようにも電話も見つからないし、どこのドアも開かなくて……!」
私 「なにか急なご用事でも!?」
ウメ 「そういうわけじゃないんだけど、娘が3人と息子が4人いるからご飯作ってやらないと……。きっとお腹すかせて待ってるわ!(焦)」
新人君 「子供7人!?この小柄な身体から!?シンプルにすげー……」
私 「お子さんが心配なんですね。わかりました!私、長男さんの電話番号なら聞いてますから、すぐかけてみますね!(ウソ)お部屋で待っていてもらえますか?」
ウメ 「あら、そうなの?わかったわ。よろしくね」
ーウメさん、自室に戻るー
新人君 「本当に長男さんに電話するんすか?」
私 「するわけないじゃない!こんなことで電話してたらキリないし、長男さんも心休まらないわ」
新人君 「え。じゃあ、どうするんすか?」
私 「まぁ、見てなさい(ウインク)」
新人君 「(ドキッ)……迂闊にもドキッとしてもうた」
私 「何してるの?新人くん、行くわよ!」
新人君 「……っす!」
ーウメさんの居室のドアをノックするー
コンコンコンッ
私 「ウメさん、今長男さんに電話かけたんですけど、まだお仕事中みたいで(ウソ)……どうします?」
ウメ 「そう。あの子も忙しいものね。じゃあ、私歩いて帰るわ!」
新人君 「歩いて!?何kmある思てんねん!?しかもその足取りじゃ日が暮れるぞ!?もう暮れてるけど!」
私 「歩いてですか……でもこれから大雨らしいんですよ(ウソ)タクシー呼んでみます?」
新人君 「タクシー!?」
ウメ 「あら、いいの?助かるわー!」
私 「タクシー手配できたら、またお声かけますねー」
ー私と新人君、一旦事務所に戻り、眠前薬と目薬を決められたご利用者様へ服薬介助、一通り仕事を終えると再びウメさんの居室へー
コンコンコンッ
私 「ウメさん、大変です!!」
ウメ 「どうしたの!?タクシー来た!?」
私 「それが……手配したタクシーがここに来る途中事故にあったらしくて……(ウソ)」
新人君 「マジ!?」
ウメ 「まぁ、それは大変ね!運転手は大丈夫なの!?」
私 「運転手さんは命に別状はないらしいんですけど……これからちょうど台風6号もやってくるって……(ウソ)私、こんな日にウメさんを自宅に帰らせて何かあったらもう……!(泣)」
ウメ 「あぁ、ごめんね。泣かないで。怖がらせちゃったわね。今夜はもうどこにも行かないわ」
私 「本当ですか……!?良かった……!(本音)」
ウメ 「神様が『今日のところはここにいろ』って言ってるみたいだしね……。大人しくしておくわ!」
私 「長男さんからも『お袋、今日は無理して帰ってくるな。弟や妹達のことは任せろ!』ってついさっき電話があったんです!(ウソ)」
ウメ 「あの子達も、もう良い大人だからね。1日くらい私がいなくても大丈夫よね」
私 「そうですね。ウメさんが手塩にかけて育てたお子さん達ですから……」
新人君 「ええ話や……(泣)」
私 「じゃあ、ウメさん、おやすみなさい……」
ウメ 「ええ。おやすみ」
新人君 「おやすみなさいっす!」
ーゆっくりウメさんの居室のドアを閉めるー
私 「さ、気を取り直して22時の巡回行くわよ!(ケロッ)」
新人君 「え、あれ?今の全部ウソっすか!?(涙引っ込む)」
私 「夜勤の度にこれだから覚えておきなさいよ!(にこっ)」
新人君 「うぇ!?マジっすか!?(女の演技力、こえー……)」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
次回、「第6話 悪魔の差し入れ」は、10/11(日)の18:00に更新予定です!お楽しみに!
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