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病弱な従妹に思いやりがない」? 婚約者様、それが私に何の関係が?  作者: さんけい


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31/41

31 見る人は見ている

「そうなのでしょうね」


 お母様の返事には、ため息に近いものが混じっていた。


「それで何とか回っているうちは、深く考えずにいられたのでしょう。息子には余計なことを知らせず、従妹には居場所を与え、婚約者には理解を求める。それで全部、丸くおさまると思っていたのだと思うわ」


 私はその言葉を聞いて、少しだけ肩を落とした。

 丸くおさまる。

 その丸さのために、どれだけ私が黙る側へ押しやられていたのか、あちらはたぶん本気では数えていない。


「お母様」

「なあに」

「外では……もう、何か言われているのでしょうか。リチャード様と、エミリー様のこと」


 尋ねながら、自分でも答えを知りたくない気持ちが少しあった。

 けれどお母様は、曖昧に濁したりなさらなかった。


「露骨ではないわ」


 そう前置きしてから、続けられる。


「でも、“従妹にたいそうお優しいのね”という言い方は、もう何人かがなさっているそうよ」


 私は、そっと息を吐いた。

 それは悪口ではない。けれど、ただの賞賛でもない。

 社交の場でそういう言い方が出る時、そこにはたいてい、少しの引っかかりが混じっている。


「婚約者のいる方に向かって言うには、微妙な物言いでしょう?」


 お母様は静かに言われた。


「つまり、見る人は見ているのよ」


 私はその言葉を胸の中で繰り返した。

 見る人は見ている。

 ならば、私は何もおかしなことで傷ついていたわけではない。勝手に嫉妬していたわけでも、狭量だったわけでもない。

 そう思うと、少しだけ救われるような、逆にますます冷めていくような、両方の気持ちがあった。


「……お母様は、どうお感じになりましたか」


 その問いに、お母様はしばらく黙っておられた。

 そして、はっきりと言われる。


「こんなものを“仕方のない身内の事情”として家に置き、そのうえ息子の婚約まで巻き込みながら、まともに扱えていない家なのだ、と」


 私は顔を上げた。

 お母様の目は静かだった。けれど、そこに迷いはなかった。


「イブリン。あの方がどれだけ病弱であろうと、どれだけ気分に波があろうと、それは本来、グランヴィル家が自分たちの内側で引き受けるべきことよ」

「ええ」

「それをしないで、外では取り繕い、息子には深く知らせず、婚約者へだけ理解を求める。そういうやり方は、やはり危ういわ」


 私は頷いた。

 危うい。

 その言葉は、もう何度も聞いているのに、そのたびに違う重さで胸へ落ちてくる。

 お母様はそこで少し表情をゆるめられた。


「でも、ひとつ良かったこともあるのよ」

「良かったこと、ですか」

「ええ。わたくしが何か探りを入れた、と露骨に思われるような聞き方をしなくても、向こうから自然に出てくる程度には、皆さま薄く違和感をお持ちだったの」


 私はその言葉に、少しだけ目を見開いた。


「それは……」

「つまり、無理に作った疑いではないということよ」


 お母様はやわらかく言われる。


「あなたが見たことも、キャサリンが見たことも、社交の場で何となく囁かれていることと、どこかでつながっているのだと思うわ」


 その時、胸の内の靄が、また少し晴れた気がした。

 全部がひとつにつながるわけではない。

 けれど、ばらばらだった違和感が、少しずつ同じ形を取り始めている。


「お父様にも、お話しなさいますか」

「ええ、あとで」


 お母様はカップを受け皿へ戻された。


「ハロルドにも、ジョンにもね。あの子たち、今日は妙に張り切りそうだもの」


 その言い方が少しだけおかしくて、私はほんのわずか笑った。

 お母様もそれを見て、やっと表情をやわらげられる。


「ただし、あなたは今夜これ以上考えすぎないこと」

「そうできればよろしいのですけれど」

「できなくても、少しは休みなさい」


 私は素直に頷いた。

 お母様が立ち上がって部屋を出て行かれたあとも、私はしばらくその場に座っていた。

 窓の外はもう夕方の色で、庭の端の木々が少し黒く見える。

 手元の紅茶は少し冷めていたけれど、今度はちゃんと味が分かった。

 外では、もう見えているのだ。

 リチャードが従妹に甘く、グランヴィル夫人がそれを上手に包み、でも何か妙だと感じる人は感じている。

 ならば私は、もう自分の目を疑わなくてよいのかもしれない。

 そう思った時、ひどく静かな安堵が胸の奥へ落ちていった。

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