13 グランヴィル家からの返書
先方からの返書が届いたのは、その日の午後だった。
昼食を終えて、私は居間でキャサリン姉様と向かい合って座っていた。
姉様は刺繍枠を手にしていたけれど、針を動かすより私の顔を見ている時間のほうが長かったと思う。
私のほうも、本を開いてはいたものの、同じ行を何度も目で追っているばかりだった。
執事が入ってきた時、その表情を見ただけで分かった。
「お父様からですか」
「はい、お嬢様。皆様、書斎へお集まりくださいとのことです」
姉様と私は目を合わせた。どちらからともなく立ち上がる。
廊下を歩きながら、私は妙に落ち着いていた。
返事が来ることは分かっていたし、その中身が素直な詫びだけで済まないことも、もう何となく分かっていたからだ。
書斎へ入ると、お父様は机の向こうではなく、窓際の長椅子の近くに立っていた。
お母様もいらして、ハロルド兄様とジョン兄様もすでに揃っている。皆の顔を見る限り、まだ手紙は読まれていないらしかった。
「来たよ」
お父様がそう言って、封筒を軽く持ち上げる。
上質な紙に、整った筆跡。
いかにも、失礼のない文面であろうことが見て取れた。
「読んでしまいましょう、お父様」
キャサリン姉様が言うと、お父様は頷き、封を切った。
紙のこすれる音だけが、やけにはっきり聞こえた。
お父様はまず一度、黙って目を通した。
そのあと、口元だけがわずかに固くなる。
「読んでくださいます?」
お母様が静かに促すと、お父様は便箋を持ち直した。
「『先日は、若い者どうしの行き違いが思わぬかたちでご心痛をおかけしたこと、残念に存じます』」
私はそこで、早くも気持ちが冷えた。
――ご心痛。
なるほど、そう来るのかと思う。約束を何度も違えた事実ではなく、こちらが心を痛めたことのほうへ話をずらしている。
お父様はそのまま読む。
「『リチャードより、令嬢がいたく気を悪くなさっているとうかがいました。もっとも、あの子もまだ若く、病身の従妹に心を砕くあまり、配慮の足りぬところがあったのでしょう』」
ジョン兄様が、鼻で笑うような息を漏らした。
――まだ若い。
その言葉が便利なのは、どこの家でも同じらしい。
私も黙ってはいたけれど、内心では呆れていた。リチャードはもう子どもではない。婚約者に対する振る舞いの重さくらい、分かっていて当然の年齢だ。
「続けるぞ」
お父様の声が少し低くなる。
「“しかしながら、あの子は我が家のただ一人の息子でもあり、幼い頃より情にほだされやすいところがございます。従妹の身の上についても、いささか気の毒な事情がございますゆえ、つい手を貸しすぎるのです”」
私はそこで、視線を上げた。
ただ一人の息子。ああ、と思った。
そういうことも、きっとずっと彼を甘くしてきたのだろう。
たった一人の跡取りで、見栄えもよく、表向きは穏やかで、周囲から咎められにくいまま育ってきた。
その結果が、あの“説明すれば分かってもらえるはず”なのかもしれない。
しかも今の文面では、従妹の事情を匂わせるだけ匂わせて、肝心のことは何も書いていない。
お父様はさらに読み進めた。
「『本件は、決して婚約そのものを揺るがすほどのものではなく、ひととき感情が立っておられるだけのことと存じます。どうか今しばらく時間を置き、若い二人に落ち着いて話し合う機会を賜れますなら幸いにございます』」
キャサリン姉様が、ゆっくりと瞬いた。
「ひととき感情が立っている、ですって」
声音は穏やかなのに、目がまるで笑っていない。
私は何も言わなかった。
言わなくても、その一文がどれだけこちらを見くびっているか、部屋にいる全員が分かっていたからだ。
父は最後まで読んだ。
「『イブリン嬢は理知的で、思慮深いご気性とうかがっております。いずれ今回の件も、広いお心でお考え直しいただけるものと信じております』」
書斎の中がしんとした。
広いお心で。考え直す。
そこにあるのは謝罪ではなかった。もっと上品な顔をした押しつけだ。




