5
「……いやいやいや、無理でしょ」
案の定、あっさりと否定される。
「だって、私、この歳まで人を好きになったことないんだよ?多分、恋愛感情が欠如してるんだよ」
「分からないよ?この世の人って、好きじゃなくても何となくで付き合ったりするもんだし、付き合ったら変わるかもよ」
「あのねぇ!」
立ち上がり、大きな声を少し出したところで、周囲に人がいないか、慌てて久実は確認をして続けた。
「私、本気で悩んでるの」
「私も、本気で提案してるよ?」
「え、何、晴世って私のこと、そういう目で見てたの?」
「そうだと嬉しい?」
「嬉しいっていうか、なんか、驚きで……」
また席に座ると、険しい顔をして床を見つめだした。
申し訳ないが、私は心の底から久実を愛しているわけではない。もちろん、友だちとしては好きだが。だが、ここで私と恋仲になってもらわなければ、ヤツがやってきてしまう。
「一度、仮でもいいから経験してみたらさ、表現力にも影響出るんだじゃない?」
む、と険しい顔をしている考えているたくみ。
その腕を掴み体を起こす。
「ねぇ、水族館、ゲームセンター、カラオケ、どれがいい?」
「……水族館?」
「よしきた」
教室奥のロッカーから、何着か服を取り出す。メンズものの柄シャツと前髪カチューシャをすると、私はそれなりに男っぽく見える。
「ほら、久実」
「……私まだ、やるって言ってないし」
「分かってる」
「好きになれるかも分からないよ」
「大丈夫」
大丈夫。経験は0なのか1なのかで大分違う。
仮に私に落ちなくとも、ヤツがやってくる前に、とりあえず場数を踏ませて見る。それこそが、私の攻略の手法だ。
「……分かったよ。じゃあ、スタジオまで送って」
「そうこなきゃ!」




