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恋愛ゲームは、往々にして好感度0状態からスタートし、それを100だか1000だかにあげるゲームだ。
しかし、ここは私にとっては現実。今好感度がどこにあるかは可視化されていない。
となれば、行動するほかあるまい。
(攻略対象は誰かいるかな〜?お、いた。)
席に座っている『小坂ひより』に話しかける。
「おはよう。小坂さん」
「えっ!?あ、お、おはよう」
明らかに挙動不審。
たしかに、今まで会話を交わしたことはあまりない。
「あ、あのさぁ……今の範囲、分かる?よかったら教えてほしいところあるんだけど」
「ちょっと、難しくて……ごめんなさい」
会話終了のゴングがなった。
記憶を思い返す。
小坂とは挨拶をたまーーーーーーにする程度。
ちくしょう、今までもう少し会話しておけばよかった。
仕方ない。切り替えてけ。
次は他の生徒と話している『加藤灯』に狙いを定める。
……今か?次、笑いが止んだタイミングで行くか?あ、今止んでた。次、次で行くぞ──
いけなかった。
くそ、どうしたらいい。
よし、次行こ次、えっと、ゲームのメインヒロイン『影山美麗』はどこだ?影山さんに話しかけ──って、影山さんいない。そうだ、今ドラマの撮影期間だ彼女。
何も収穫が得られず、撃沈の気持ちのままに机に上半身を伏せる。
「おはよう、晴世」
顔を上げると、富田久実が教室に入ってきた。
「おはよう、たくみ……」
「何?なんか元気ないね。テストヤバそうなの?」
「え?……いや、まあ……」
あなたを含めて同級生の攻略がうまくいかないからです、とは言えない。
「幸子小林小林幸子だよ」
「な、何が?」
「サイン、コサイン、コサイン、サイン」
「突然の加法定理?」
「ちゃんと覚えてんじゃん」そう笑いながら、たくみは隣の席に座った。え、てか、この世界に小林幸子いるの?
いつもならこの後スマホを触りながらおしゃべりになるが、今日からは違う。よく観察しなければならない。
じーっとたくみの方を見る。
「……な、何?」
「いや、ちょっと、よく観察しようかなって」
「ああ、まあ私目の保養に──」
「そういうことじゃないです」
「最後まで言わせろよ!」
明るく抗議するたくみ目の下にうっすらとクマが見える。
「寝不足?」
「え?ああ、まあちょっとね。そんな目立つ?」
「いや、私じゃなきゃ見過ごしてた」
「気持ち悪っ」
「よく見てるでしょ〜?」
「……まあ寝不足かな。寝らんなくてね」
「何で?」
「……まあ……色々」
「色々?」
HRのチャイムが鳴る。
細かいことは聞けず、HRを受けることになった。
お昼休み、それぞれの授業の教室から戻ってきた私たちは、各々の席に座り、お昼ご飯を食べ始める。
「いや、ダメだったわ。起きれんかった」
「結局寝たんだ」
「一度寝たらすーーーって感じだった」
「ちょっとよく分からないけど」
たくみが机に出したお昼ご飯は実に質素なものだった。
鶏胸肉、ブロッコリー、卵、少量の玄米。
……試合前のボディビルダーみたいだな
「……たくみ、体絞ってる?」
「え、あー、そうね。ちょっと」
「何?写真集でも決まった?」
「決まってないですぅ〜」
そう笑うが、返答が一瞬遅れたのを私は見逃さない。
「てか、晴世さ、今日の放課後時間ある?」
「あるけど、どうした?」
「アンケート書いてほしくて。番組用の」
「ああ、友人代表みたいなこと?」
「うん。中身は収録まで見ちゃダメなんだけど、アンケートのリンク送るから」
「分かった」
たくみの所属しているアイドルグループは、週に一回、バラエティ番組に出ている。ゲームの記憶を得る前の私も、何度か見たことがある。
放課後、約束通り、教室に残りアンケートに回答していく。
「うーん、改めて色々聞かれるとむずいなぁ」
「ネタ帳作るのおすすめ」
「いや、そんな頻度でこういうアンケート答えないから……ほら、富田さんの苦手なこと、だって」
「あーあー、ほらそれ私には内緒なんだって!」
「苦手なこと、でも割とあなた何でもできるじゃない?」
「お褒めの言葉だ」
「勉強も私よりできるし、運動も普通にできるし、何だろ……」
「特になしでもいいよ、マジで思いつかなかったら」
ふと、一つの考えがよぎる。
「恋愛かなー」
一種の牽制、私が攻略する以前に、私が知らないだけで相手がいるのかもしれない。
「……」
そんなことないわ!とか、いやまあそうかも。とか、そんな返事を待っていたが、たくみは黙り込んでしまった。




